今回麻酔導入時にベクロニウムを0.07から0, 45mg・kg
-1まで増量投与し, 作用発現時間, 気管内挿管状態および作用持続時間について検討した.対象は, ASA1-2度の予定手術患者163例を9群に分けてベクロニウム0.07~0.45mg・kg
-1をそれぞれ投与した.麻酔前投薬は手術室入室30分前に硫酸アトロピン0.5mgとヒドロキシジン50mgを筋注した.麻酔の導入はチオペンタール3mg・kg
-1を静注し, 患者の入眠後直ちにDatex社製のRelaxographを前腕の尺骨神経部に装着した.コントロール値を求めた後, 各投与量のベクロニウムを単回静注し, 50%笑気一酸素による用手人工呼吸を行った.20秒おきの4連刺激による誘発筋電図を記録し, ベクロニウム投与よりEMG振幅の最小値 (最大筋弛緩) までを作用発現時間とした.最大筋弛緩となった時点でチオペンタール4mg・kg
-1を追加投与し気管内挿管を行い, その状態をFaheyらの4段階の挿管スコアにて評価した.その後, 50%笑気―酸素―1.3MAC程度のイソフルレンにて麻酔を維持し, 15%回復まで追跡し得た76例について作用持続時間を測定した.それぞれの投与量において年齢, 身長, 体重, 麻酔導入時の動脈血ガス分析結果に差はみられなかった.結果, 単回静注法では0.15mg・kg
-1以上のベクロニウム投与で満足のいく気管内挿管状態が得られた.最大筋弛緩効果までの作用発現時間に関しては, 0.07mg・kg
-1の288秒から0.2mg・kg
-1の141秒まで用量依存性に短縮したが, 0.2~0.45mg・kg
-1の問ではそれ以上の短縮が認められなかった.作用持続時間については0.07mg・kg
-1の36.0分から0.3mg・kg
-1の134.4分と用量依存性に延長する傾向がみられたが, それ以上では個体差が多く一定の傾向を示さなかった.以上, ベクロニウムを麻酔導入時に0.07から0.45mg・kg
-1まで増量投与し, 作用発現時間, 気管内挿管状態, 作用持続時間について検討したところ, 気管内挿管には0.15~0.2mg・kg
-1が適切であり, 0.3mg・kg
-1以上のベクロニウムの投与は臨床的に効果的でないと思われた.ベクロニウムは安全性が高く, 臨床的に非常に有用であるが, 大量投与では個体差が大きくなるため, 筋弛緩モニターを装着した上での使用が望ましいと考える.
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