昭和医学会雑誌
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成長期ラット篩骨破壊が頭蓋顎顔面骨の成長に及ぼす影饗
徳重 広幸
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1994 年 54 巻 1 号 p. 19-26

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抄録

頭蓋顎顔面に存在するいくつかのgrowth siteは, 相互に関連性を有し, ある一つのgrowth siteでの成長変化は, 解剖学的に離れた他の部位の成長様相に影響を及ぼすと言われているが, 特に篩骨は頭蓋顎顔面の正中に存在し多方向へ影響を与えるgrowth siteと考えられている.臨床的には, 眼窩隔離症では, ethmoid cellの増殖がみられ, 眼窩近接症では, cribriform plateの低成長または, hypoethmoidismが見られる.また, 頭蓋底の成長発育障害をおこすachondroplasiaや鎖骨頭蓋異骨症などの疾患で, 中顔面部の劣成長を生じる事が分かっている.近年発展しているcraniofacial surgeryにより, 頭蓋顎顔面のさまざまな形態と機能の改善が可能となったが, 手術侵襲がその後の頭蓋顎顔面骨の成長に及ぼす影響に関しては, いまだ十分に解明されていない.本研究では, 成長期ラットの篩骨破壊が頭蓋顎顔面骨の成長に及ぼす影響を調べた.生後4週のWistar系ラットを90匹用い, ラボナール腹腔内投与下に前頭骨を5×5mm切除, 開頭し, バイポーラで5秒間, 篩骨篩板 (cribriform plate) 前方部を破壊した.篩骨篩板両側破壊群 (30匹) , 片側破壊群 (30匹) , 未破壊群 (コントロール群30匹) に分け, それぞれ10匹ずつ, 4週, 8週, 16週後に断頭し, 乾燥頭蓋骨を作成した. (1) 実験を行ったラットへの全身影響を把握するために篩骨篩板両側破壊群とコントロール群における体重増加の変化を調べたところ両群ともにほぼ同じ体重増加傾向を示し有意差は認められなかった. (2) 篩骨の破壊程度とその回復状態を調べるために術後30分後と術後16週後の篩骨をH.E.染色を行い組織学的検討を加えたところ, 術後30分後では篩骨篩板上層部の骨破壊像が認められ, 術後16週後では, 篩骨篩板の骨構造の乱れと, 菲薄化が認められ, 破壊の影響が残っているのを確認した. (3) 作成した乾燥頭蓋骨に基準点を決めノギスを用いて計測し, その平均値と標準偏差を求めt-検定を行った.その結果, 両側破壊群では鼻骨上顎骨複合体の前方向への成長抑制がみられ, 片側破壊群では鼻骨上顎骨複合体の破壊側への偏位が認められた.そのほかの骨には影響を認めなかった.これより, 篩骨が鼻骨上顎骨複合体の前方向への成長に影響を及ぼし, その破壊により, 中顔面部の成長障害を起こすことが示唆された.

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