抄録
本論文では経仙骨的アプローチによる下部直腸癌に対する局所切除の手術手技を紹介する.一般的に, 下部直腸の比較的小さな病変は, ポリペクトミー等の内視鏡的手段により, 切除される.切除された標本の組織学的な検索で, sm癌と診断された場合, その後の治療には幾つかの選択肢があり, 症例に応じて治療法が決定される.断端あるいはその近傍にいたるmassive invasion, 脈管侵襲陽性, 低分化腺癌といった所見が無ければリンパ節郭清必要とせず, 病変部の局所切除で治療が完了する.局所切除を行うための病変部へのアプローチには経肛門的切除, 経括約筋的切除, 経仙骨的切除などの方法がある.従来では経肛門的切除, 経括約筋的切除を行うべき病変に対しても, われわれは経仙骨的局所切除術を採用している.これは良好な視野を得られることの他に, 術中のD1のリンパ節郭清を付加しなければならない時, 術式の変更が容易であることといった理由にもとずく.またわれわれは腫瘍の局在を正確に同定する方法として, 手術にあたって病変の局在を正確に同定するために, 術前, 内視鏡を使って病変部を囲んで点墨およびクリップを打ち込んでおく方法を工夫した.