抄録
末梢膵管を閉塞する目的で液状寒天をモルモットの膵管に注入し惹起される膵障害について3日から6カ月まで経時的に光顕的, 電顕的及び免疫組織学的に検索した.実験早期には閉塞部位より上流の膵管及び腺房の内腔の拡張, 腺房細胞の変性, 壊死, 脱落がみられ, 又間質には未分化な間葉組織の増殖がみられた.電顕的には腺房細胞は粗面小胞体の腫張, 嚢胞化が最も著しい所見であった.更に時間が経つと小葉の一部には増殖再生性小膵管様構造の集簇がみられ, それらは電顕的には始め脱分化腺房細胞や増殖性腺房中心細胞からなり, 次第に膵管上皮に置換されていく傾向がみられた.実験後1カ月では外分泌細胞の萎縮, 脱落が著しく, 又間質には繊維化及び脂肪化の両者がみられた.実験後6ヵ月では小葉の荒廃が進行し, 又間質には広範な脂肪化がみられた.又膵管内石灰化が実験後3日で出現し以後高頻度にみられた.PCNA抗体を用いた免疫組織染色で外分泌細胞のPCNA陽性率 (LI) 及び同時に行った核分裂細胞の陽性率 (MI) は実験後3日: LI20.1±4.0, MI1.2±0.2, 実験後1週間: LI34.0±4.5, MI0.5±0.1, 実験後2週間LI26.1±8.2, MI0.4±0.1, 実験後1カ月: LI6.2±4.9, MI0.5±0.3であり, この結果実験後3日で外分泌細胞に明らかな増殖・再生能が発現し, それは実験後1週間でピークに達し, 又実験後1カ月で比較的急激に低下することが判明した.以上, 末稍膵管閉塞後の病理組織変化は外分泌細胞の変性・萎縮・壊死・脱落, 間質の繊維化及び脂肪化を示し, 又比較的早期より膵管内石灰化が出現し経過と共に高頻度に出現し, 更に実験早期には腺房細胞を含めた外分泌細胞は比較的高い増殖・再生能を示すことが理解された.これらの結果から本実験は慢性膵炎の経過を考える上で有用なモデルであると考えられ, 又臨床的には慢性膵炎と可及的早期に診断し可逆的病変の時期に治療をすることが重要であると考えられた.