ラット新生仔に低酸素負荷 (5% O
2, 30分間) を行い, 低酸素性虚血が脳synaptosomal membraneのCa
2+, Mg
2+-ATPase活性とATP dependent Ca
2+ uptakeに及ぼす影響について調べ, 以下の結果を得た.低酸素負荷により脳synaptosomal membraneのCa, Mg AT Pase活性は, 対照群23.03±7.21 (mean±SD) (nmol Pi/mg Protein/min) に対し, 負荷後15分で6.35±6.17, 30分では5.51±2.60と対照群に比べ著しい低下 (それぞれp<0.001, p<0.001) を示し, 脳神経細胞のCa維持機構の障害を認めた.また, 低酸素負荷によりラットsynaptosomal membraneのATP dependent Ca
2+ uptakeは, 対照群10.31±4.90 (pmol/mg Protein/min) に対し, 負荷後15分で2.73±0.50に低下し, 30分では5.61±3.50と回復傾向が見られたが, いづれも有意に低値を示していた (それぞれp<0.01, p<0.05) .障害は負荷中よりも負荷後の回復期に強くみられたため, 再灌流によるO
2 radicalの関与が考えられた.次に, NOラジカル (・NO) 合成阻害剤であるNw-Nitro-L-Arginine-Methyl-esterを低酸素負荷前90分に腹腔内投与し, これらの障害に・NOが関与するか否かについて検討を行い, 以下の結果を得た.Ca
2+, Mg
2+-ATPase活性は, L-NAME投与により低酸素負荷でみられた障害は軽減し, 負荷後5分, 15分ならびに30分ではそれぞれ26.50±10.86, 19.64±4.68, 21.75±2.59 (nmol Pi/mg Protein/min) と, いづれの活性値も低酸素群より有意に上昇を示した (p<0.001, p<0.001, p<0.001) .また, Ca
2+ uptakeは, 負荷後15分ならびに30分では, 8.42±4.99, 7.63±0.50 (pmol/mg Protein/min) と低下を認めたが, 低酸素群より増加を示し (p<0.001, p<0.001) , 対照群との間に有意の差は認めなかった.以上の結果から考察すると, 低酸素負荷によりラット脳synaptosomal membraneにおけるCa
2+, Mg
2+-ATPase活性の障害はL-NAMEにより軽減され, その結果, 細胞質ゾルからendoplasmic reticulumへのCaイオン流出はほぼ正常近くになり, Caイオンの細胞膜での維持機構は保持されると推察される.そして, 低酸素性虚血に起因する脳障害を軽減させる薬剤としてL-NAMEは有用と考えられた.
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