抄録
発作が頻発するとそれに随伴してそれぞれの症例に特徴的な精神病状態が反復して出現した3症例を基に, てんかん患者にみられる精神病状態の発現に関わる要因および発現機序について考察し見解を述べた.この3症例はいずれも側頭に焦点を有し, 症例1では左右, 症例2では右, 症例3では左の側頭に焦点がみられた.臨床発作はいずれも側頭葉性部分発作および2次性全般化発作であった.認められた精神病状態の基本症状は症例1では幻覚状態, 症例2では躁状態, 症例3では妄想状態で, その持続期間はそれぞれ数日~12週間, 3~12週間, 4~12週間であった.この3症例に共通したものとして特殊なあるいる悲惨な生活史的状況, 側頭焦点, および発作の頻発が注目されたことから筆者は本3症例に認められた精神病状態発現の機序を, (1) 生活史的状況要因, (2) 結実因子としての発作頻発の2要因を基に, 次のように解釈した.特殊なあるいは悲惨な生活史的状況の下で本症例の心理的脆弱性は次第に進行し精神病状態発現への準備段階が形成される.このようにして形成された準備段階の上に発作頻発による意識水準の変動, および過剰な発作発射による一過性の側頭・辺縁系の機能障害が結実因子として関与し, それぞれに特殊な精神病状態が反復出現したと考えた.臨床発作初発から精神病状態発現までに症例1では19年, 症例2では1年4カ月, 症例3では12年を要しているが, この期間はそれぞれの準備段階の形成に要する期間と解釈された.筆者は3症例の検討から, てんかん患者にみられる精神病状態の重要な発現要因として患者の生活史的状況要因に特に注目したが, この観点はてんかん患者にみられる精神病状態の病因論にとってのみならず, 治療学的にも重要な意味を持つものと考えられた.