抄録
我々は1989年以降, WHOの癌疼痛除痛ラダーにのっとり当院における癌疼痛対策マニュアルを作成し, 癌疼痛患者の症状コントロールを行ってきた.患者のQOL改善のために1992年以降新たに工夫した3点について, 今回検討したので報告する.改良点は以下の3点である.1.ブプレノルフィン水の経口投与のかわりに, ブプレノルフィンの舌下錠を調製し使用した.2.モルヒネの持続注入法が大量となった患者に対し, 高濃度 (4%, 400mg/10ml) のモルヒネ注射液を調製し使用した.3.ブプレノルフィン, モルヒネに対する嘔気, 混乱などの副作用のコントロールが困難な患者に対し, エプタゾシンを使用した.対象は, 1992年4月~1993年12月までに麻酔科に依頼のあった癌疼痛患者167例である.ブプレノルフィン舌下錠を使用した患者は44例であった.最初に疼痛コントロールのついた時点での投与量は0.1~1.2mg/日で, 効果は, 著効19例, 有効25例, 無効0例であった.44例中15例に嘔気, 混乱等の副作用が出現したが, 内11例はコントロール可能で, 4例が他剤に変更した.44例中19例は, 外来での疼痛管理が可能であった.4%モルヒネ注射液を使用した患者は34例であった.全例で, 4%に切り替えたあとに疼痛の増強は認めなかったが, 14例に眠気, 混乱等の副作用を認めた.エプタゾシンを使用した患者は36例であった.前投与薬は, ブプレノルフィン14例, モルヒネ5例, なし (病状により, もともと嘔気, 混乱等が認められたもの) 17例であった.エプタゾシンに切り替えた症例では, 全例に副作用の消失をみた.効果は, 著効4例, 有効24例, 無効6例, 不明2例であった.ブプレノルフィン舌下錠は, 肝臓でのfirst pass effectを回避できるため効果が確実であり, 経口投与不可能な患者にも使用でき, また簡便な投与法であるので外来患者にも使用しやすく, 副作用さえ十分にコントロールすれば, 非常に有用であった.4%モルヒネ注射液は, 従来の10mg/1mlのアンプルと比較し, シリンジ装填は容易でアンプル管理の繁雑さもなく, 大量モルヒネが必要な患者に容易に対応でき, 有用であった.エプタゾシンは, μ-アンタゴニスト, κ-アゴニストに分類される拮抗性鎮痛薬であり, 又σ-レセプターには作用しないため副作用が非常に少なく, 比較的軽度の疼痛には鎮痛効果も確実で, 有用であった.以上3点の新たな工夫により, 当院の癌疼痛対策マニュアルは, 患者のΩOL改善にさらに貢献できたものと思われた.