昭和医学会雑誌
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ステム挿入による大腿骨骨幹部の血行の変化に関する実験的研究
東郷 泰久
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1996 年 56 巻 1 号 p. 87-97

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抄録
人工股関節置換術における大腿骨骨幹部のリーミングおよびステム挿入により引き起こされる大腿骨骨幹部の血行障害と修復血行の状態を研究するために, 成熟家兎の大腿骨骨幹部にリーミングおよびステンレス鋼線の挿入を行い, その血行の変化をmicroangiographyを用いて観察した.更に髄内血行の障害が, 鋼線周囲の骨組織に及ぼす影響を検討するために, 経時的に病理組織を作成し観察を行った.また, 髄腔占拠率の違いが血行障害と修復血行の進入過程に及ぼす影響を検討する目的で, 各症例の大腿骨骨幹部の峡部で髄腔占拠率を計測し, 髄腔占拠率低値群 (以下A群) , 高値群 (以下B群) の2群に分類し, 両群を比較観察した.
大腿骨骨幹部に対するリーミングおよび鋼線挿入により大腿骨骨幹部の栄養血管は損傷され, 鋼線周囲の骨髄および皮質骨に壊死域が観察された.その後, 修復反応として鋼線周囲に貫通動脈進入部および末梢からの新生血管が進入した.A群では術後6週において, 鋼線全体を覆うように修復血管がネットワークを形成していたが, B群ではネットワーク形成には16週を要しており, A群に比べ修復血行の進入に長期間を要した.病理組織学的には, 骨髄組織は8週でほぼ正常な状態に修復されたが, 皮質骨では32週においても依然壊死域が残存していた.このことにより, リーミングおよびステム挿入によって引き起こされる組織障害の修復には, 長期間を要することが示唆された.
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