昭和医学会雑誌
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ラットセルトリ細胞におけるIRS-1, PI 3-キナーゼを介したインスリンシグナル伝達機構に関する研究
小橋川 啓渡辺 政信吉田 英機本郷 茂樹竹田 稔
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1997 年 57 巻 3 号 p. 280-286

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抄録

ラットのセルトリ細胞におけるインスリン受容体基質 (Insulin receptor substrate-1: 以下IRS-1とする) およびPhosphatidyl inositol 3-kinase (以下PI3-キナーゼとする) を介したインスリンの細胞内シグナル伝達機構について検討した.まず, ラットセルトリ細胞にインスリン受容体が存在しているのか検証を行なうべく, 生後20日齢のWistarラットの精巣より分離調整した初代培養セルトリ細胞を用い, その培養液中に糖とインスリンを添加後インキュベーションを行ない, 抗リン酸化チロシン抗体を用いたウェスタンブロッティング法でチロシンリン酸化を受ける細胞内タンパク質を検討した.この結果170kDa, 97kDa部に集積像を認め分子量からIRS-1およびインスリン受容体β-subunitと考えられた.次にインスリン受容体後の細胞内シグナル伝達系において, IRS-1と結合する細胞内タンパク質, すなわちPI3-キナーゼの作用が重要であると仮定し, PI3-キナーゼの阻害作用を有するwortmanninを用いてインスリン効果による細胞内への糖の取り込み制御反応およびDNA合成抑制反応について検討した.この実験では, 生後13日齢ラットの初代培養セルトリ細胞を用いた.また細胞内への糖の取り込み量は14Cで標識した3-O- [methyl14C] -D-glucoseを用い, DNA合成は3Hで標識した [methyl-3H] thymidineを用いてそれぞれの放射活性を測定した.結果はインスリン効果により, セルトリ細胞内への取り込まれる糖およびチミジンの量は増加するのに対して, wortmannin添加処理後の細胞では, このインスリン効果は抑制され, 糖およびチミジンの有意な取り込み抑制を認めた.以上から, われわれはラットの初代培養セルトリ細胞においてインスリン受容体後にIRS-1, PI3-キナーゼを介する細胞内シグナル伝達機構が存在していると推察した.

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