昭和医学会雑誌
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噛みしめがヒラメ筋H反射の促通に及ぼす影響
高橋 一衛圓 吉夫佐藤 孝雄久光 正
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1999 年 59 巻 5 号 p. 535-542

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抄録

近年, 「噛みしめ」と様々の競技のパフォーマンス・全身の運動機能の相関が注目を集めている.しかし「噛みしめ」と運動能力の関係について, 効果を認めるもの, 有効でないとするものなど様々で必ずしも一致した結果が得られていない.この原因の一つとして, 咬合挙上装置の問題・プラセボ効果の問題・測定筋や測定筋力の性質などの方法論上の問題が考えられる.そこで, 「噛みしめ」時に生体内ではどのような変化が生じているのか, 運動機能の客観的評価の可能なヒラメ筋H反射を用い, 「噛みしめ」時の脊髄反射回路への影響について調べた.なおその際, 従来の筋電図の積分値から張力を推定する方法ではなく, Occlusal Force-Meterを用い直接的に筋力を測定する方法を用いた.そして被験者 (n=8) に, 10kg, 20kg, 30kgの噛みしめの運動課題を与えた.なお各運動課題の前後に非噛みしめ (Control) をはさみ, 電極間抵抗などの環境条件に変化がないことを確かめた上で実験を行い, 以下の結果を得た.
1) 10kg, 20kg, 30kgの噛みしめ時は, 非噛みしめ (Control) 時にくらべ, いずれの強度においてもH反射に促通が見られた.
2) 促通の効果は10kg噛みしめ時では8名中7名に認められ, 29.7%の増加であった.20kg噛みしめ時では同じく8名中7名に促通が認められ, 39.9%の増加であった.しかし30kg噛みしめ時では8名全員に促通が認められたものの, 促通の増加量は32.0%の増加にとどまった.
1) の結果のように, いずれの噛みしめ強度においてもH反射の捉通が見られたことは噛みしめ強度をコントロールしないマウスピース・テンプレート・スプリントなどの噛みしめによっても, 運動のパフォーマンスが向上する可能性を示唆する.
また2) の結果から考えると, H反射促通の機序として口腔内からの情報と, 中枢からの運動指令が考えられるため, 出力する筋力をコントロールするような運動条件下では, 噛みしめの強さにより促通の増加量は増すものの必ずしも比例するものではないことが示された.
今回, Occlusal Force-Meterを用い直接的に筋力を測定する方法は, 筋電図の積分値から張力を推定するより簡便で, 被験者の身体内外からの様々な影響を減らす上で有効であると考えられた.

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