2006 年 66 巻 5 号 p. 340-348
健康食品を含む食品の中には医薬品と併用すると臨床上重要な薬物動態の変化を招くものの存在が知られている.これらの食物一薬物における相互作用の多くは薬物代謝酵素の一つであるチトクロームP450 (CYP) が関与し, 中でもCYP3A4を介する相互作用は臨床上重要である.CYP3A4は肝臓のみならず小腸粘膜にも存在し, 経口投与された薬物の吸収過程における腸管粘膜内での代謝に影響を与える事も報告されている.我々はこれまでにハープティーが薬物代謝に及ぼす影響をヒト肝ミクロゾームを用いたin vitro実験系において検討し, その中で甜茶がCYP3A4を強く阻害することを報告した.そこでCYP3A4の基質であるHMG-CoA還元酵素阻害薬シンバスタチンを用いて, シンバスタチンの経口投与時の薬物動態 (pharmacokinetics: PK) に対する甜茶の影響を検討し, 甜茶によるCYP3A4を介した食物一薬物相互作用の可能性を検討した.健康成人男子志願者8名に対し, シンバスタチン10mgを甜茶あるいは水200mLにて経口投与し, PKパラメータの比較検討を行った.甜茶および水は試験薬投与前日に3回飲用し, 試験薬投与時および試験薬投与1時間後にも飲用した.試験はランダム化two-way crossover法によって行い休薬期間を一週間とした.シンバスタチンのAUC0-24の甜茶/水比は0.94, Cmaxの甜茶/水比は1.29であった.t1 2の甜茶一水差は0.83h, CL/Fの甜茶一水差は37.5mL/hであった.両群間で, いずれのPKパラメータの有意な差は認められず, また最大の変化をした被験者でもCmax, AUCの2倍程度の上昇に留まった.これにより今回の検討条件では甜茶の経ロシンバスタチン投与に及ぼす影響は軽度であり, 甜茶との併用では食物一薬物相互作用による副作用出現の可能性は少ないと言える.しかし, 食品や健康食品は自らが購入し, 使用するため飲用条件は各個人により幅広い違いがあると考えられる.また甜茶併用により臨床上問題となる影響が生じる医薬品の存在は否定できない.医薬品と甜茶の併用時相互作用に関する検討は, 単回・長期反復飲用の飲用条件, また併用される医薬品をかえてさらに進めていく必要があると考える.