抄録
1990年台初頭のマイクロマシン,MEMS分野はまだ加速度などセンサー研究が中心で,シリコン半導体技術が一般的であった.筆者のようにバイオ,医療への応用はまれであった.バイオ分野では細胞や液体を扱う必要があるため,シリコンによる平面構造では実現不可能で,立体(3D)構造を持つMEMSが必須となった.そこで光造形法にヒントを得た「積層造形法」によるアプローチを考案した.ただし,サイズが従来より3桁以上も小さいため,単に紫外線のビーム径を小さくするだけでは硬化分解能をミクロンサイズは達成できなかった.さらにスケール効果に起因した困難もあった.最終的には,光硬化樹脂の硬化特性と造形手法の抜本的な最適化により実現された.1992年の紫外線ランプ方式では5ミクロンの3次元分解能を達成し,その後He-Cdレーザによる安定化を図り,チタンサファイアレーザを用いた2光子吸収硬化により100ナノメータ以下のピンポイント硬化を実現した.これは積層を要せず焦点だけが硬化する新しい光造形手法であった.マイクロスケールでは粘性が慣性力より大きくなるスケール効果を利用し,回転軸や関節など可動機構を組み立て不要で製作できるようにした.驚くことに小玉秀男博士は80年台の光造形法発明当時,焦点だけのピンポイント造形を構想していた.先発明主義の米国と違い出願主義のわが国での評価が低いが発明の重さに差はない.