2017 年 55Annual 巻 4AM-Abstract 号 p. 258
変形性股関節症などに対する治療として,人工股関節置換術が実施されているが,術後の脱臼が大きな問題となっている.従来の人工股関節は半球殻状カップが寛骨臼に埋め込まれ,これに大腿骨と連結した球状骨頭が嵌めこまれるが,カップが半球殻か,それより浅いため,カップと骨頭の機械的な勘合力はなく,筋組織のサポートが弱ければ骨頭は比較的容易に脱臼を引き起こすことが課題となっている.近年,ヒトを対象とした医学領域だけでなく,獣医学領域でも人工股関節が実際に使用されているが,動物用人工股関節においては術後の行動制限が困難なため,脱臼発生が深刻な課題となっている.本研究では,イヌ用として開発中の脱臼防止機構を有する人工股関節の臨床応用を最終目標に定めて,その構造の最適化に関する指針を得る初期段階として,人工股関節カップ部に対する骨頭の引抜き力,すなわち脱臼防止力を有限要素解析によって評価した.解析技術のポイントはカップと骨頭の接触挙動であり,当該人工股関節の3次元モデルを対象として,接触解析機能が大幅に向上した有限要素法ソフトウェア(ANSYS 17.2)による弾性接触解析を行った.その結果,骨頭の引抜き過程におけるカップ側の変形挙動を示すアニメーションが得られるとともに,脱臼防止力とカップ構造パラメータとの関係が明らかになり,適切な脱臼防止力となる人工股関節の構造についての最適設計指針に関するデータを取得した.