2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S375
骨組織は,作用する力に対して粘弾性的挙動を示す時間依存性の材料である.よって,骨の力学的特性を理解するには、持続的負荷に対する挙動を明らかにする必要がある.また,骨は顕著な異方性を示すが,異方性を考慮した骨のクリープ挙動は明らかになっていない.そこで本研究では,骨の異方性を考慮して作製した試料に,非破壊的なクリープ負荷を作用させた後,圧縮破壊試験を実施し,皮質骨の力学的特性に及ぼすクリープ負荷の影響について検討した.成熟ウシ大腿骨骨幹部より円筒型試験片を作製した.本実験では,試験片の長軸が骨軸方向と一致するものと,骨幹部断面の接線方向と一致するものの2種類の試料を準備した.各試料には,初期弾性係数で正規化した応力が0.025となるクリープ負荷を作用した.次に,このクリープ負荷を取り除いて,試料の変形回復挙動を計測した.その後,クリープ負荷試験を実施した各試料に対して,圧縮破壊試験を行うことで,クリープ負荷後の力学的特性を求めた.実験の結果,クリープ負荷後の試料の力学的パラメータに有意な変化は認められず、クリープ負荷が皮質骨の力学的挙動に及ぼす影響はみられなかった.クリープ負荷作用後には、試料内に微小き裂が発生していることが推察されるが,この微小き裂による応力集中の緩和やき裂伝播阻止の機構が発揮されて,破壊エネルギーが分散し,骨試料が容易に破断するのを防いだものと考えられる.