2020 年 Annual58 巻 Abstract 号 p. 199
全ての細胞表面を覆い、そしてほとんどのタンパク質を修飾している糖鎖は、核酸やタンパク質に続く第三の生命鎖として注目され、ポストゲノム研究が勢力的に進められている。CA19-9, CA125およびPSAなど、がんに特異的に発現する腫瘍マーカーの多くは糖タンパク質であり、最近では前立腺がん患者由来のPSAにおいて付加頻度が増加する特異的な糖鎖構造が発見され、糖鎖情報を組み合わせることで診断の精度を飛躍的に高めることが報告された。このような最終産物として発現変動を示す糖鎖は、遺伝子情報と同様に細胞・組織の状態や疾患に伴うバイオマーカーのソースとして有用であるが、複合糖質は糖タンパク質の他に脂質に結合するスフィンゴ糖脂質、グリコサミノグリカンを有するプロテオグリカンそして代謝産物である遊離オリゴ糖など様々なサブクラスが存在するため、複合糖質から網羅的に糖鎖情報を取得することは困難であった。本発表では、これまでに開発してきた様々なサブクラスの複合糖質糖鎖の解析法や主要な複合糖質糖鎖を包括的に捉える総合グライコーム解析について紹介する。また最近進めている糖鎖異性体情報を取得するためのシアル酸結合様式特異的標識法(aminolysis-SALSA法)や本技術を利用したバイオマーカー探索についても併せて紹介したい。