生体医工学
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モデル生物線虫を用いた宇宙フライト実験から見えてきた生物の微小重力影響
東谷 篤志
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2020 年 Annual58 巻 Abstract 号 p. 215

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抄録

線虫の宇宙実験ならびに3D クリノスタットを用いた疑似微小重力実験において、再現良くドーパミンの代謝酵素遺伝子の発現が、1G 区と比較して低下することを見出してきた。本遺伝子はドーパミンを添加すると発現上昇することから、内生ドーパミン量に対して負の発現制御を受けることが強く示唆された。そこで、「宇宙微小重力環境下においてはドーパミンが低下する」という作業仮説を立案し、2018 年12 月に英国の研究チームとの共同研究Molecular Muscle Experiment において、宇宙フライト線虫の内生ドーパミン量の測定を行った。その結果、地上3D クリノスタット培養と同様に宇宙フライト群では、内生ドーパミン量の顕著な低下を認めることができた。すなわち宇宙の微小重力環境ならびに地上の疑似微小重力環境は、線虫の内生ドーパミン量を低下させることがわかった。ロシアのバイオサテライトBION-M1 による1 ヵ月のマウス宇宙飛行でも、骨や筋量の低下に加えて、大脳基底核の黒質線条体において、ドーパミン分解酵素遺伝子や生合成の律速酵素遺伝子チロシンヒドロキシラーゼ、ドーパミンD1 受容体遺伝子の発現の有意な低下が報告されており、微小重力環境は、生物の種を越えて神経伝達物質ドーパミンの代謝に影響を及ぼす可能性が強く示唆された。本発表では、その作用機序についても議論したい。

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© 2020 社団法人日本生体医工学会
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