2020 年 Annual58 巻 Abstract 号 p. 309
【目的】鍼治療で特異的に発生する強い深部感覚は「鍼感」と呼ばれ、臨床において重要視されてきたが、鍼感の機序や治療効果は不明確なことが多い。そこで、本研究は鍼感の有無が循環器系及び自律神経系に与える影響を調査した。【方法】被験者は健常成人男性8名(20-25歳)とし、測定項目は、心電図および心拍出量とした。鍼はステンレス鍼(長さ40mm,太さ0.20mm,セイリン社製)を用い、経穴は足三里(ST36)とした。鍼を一定速度で刺入し、被験者には鍼感時に申告してもらい、その深さで鍼を留めた。なお、鍼感の申告がない場合は刺入深度を3cmで留めた。仰臥位で20分間の安静後、無刺激で5分間計測を行った。その後に鍼を刺入し、申告確認後、再度5分間計測を行った。解析は鍼刺激前後の5分間とし、鍼感の有無によって群を分けて対応のあるt検定を行った。【結果】鍼感がある日では、心拍数及び心拍出量が有意に低下した(p<0.05)。しかし、鍼感がない日では心拍数は有意に低下したが(p<0.05)、心拍出量に有意な変化は見られなかった。また、両日において心拍変動解析を行った結果LF、LF/HFに有意な変化は見られなかった。鍼感があった際に心拍出量が有意に減少したのは心拍数減少と同時に血圧の低下が考えられ、自律神経系に関しては呼吸も併せて調査する必要がある。【結語】鍼感は単調な鍼刺激とは異なる生体反応を引き起こす。しかし、機序が不明確であり、今後とも調査していく。