2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 191
科学技術は人間にさまざまな恩恵をもたらしてきた。例えば医療技術の発達により、従来治癒が困難だった疾病の治癒が可能になった。またAIを利用した自動運転技術などにより、利便性が向上している。ムーンショット型研究開発事業ミレニア・プログラムにおいては、科学技術を用いた2050年の社会像が検討されてきた。例えばAI を使った感情の他者との共有、科学技術を利用した理想的な心理状態の実現、誰もが子どもを生み育てられる技術などについて議論されている。その一方で、こうした議論にはさまざまな法や倫理観に関する論点が存在する。例えばAIによる感情の他者との共有は、技術の使い方によりプライバシーの問題、科学技術を利用した理想的な心理状態の実現は、思想の自由の問題といった法的課題を抱える可能性がある。また誰もが子供を産み育てられる技術には、生命倫理的課題を指摘する声もあるであろう。こうした法的・倫理的問題に向き合うために本報告は、法や倫理観の基盤を問い直す必要性を主張する。その上で、人間が地球環境に多大な影響を与えるアントロポセンの時代に、人間活動の生態系や環境への影響を検討しつつ、社会問題を解決するための法や倫理観を構築する必要性があると述べる。