2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 507
近年,開胸や体外循環を伴う外科的大動脈弁置換術が高リスクまたは試行困難と判断された重度の大動脈弁狭窄症患者に対して,経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)が施行され良好な成績を収めている.しかしながら,TAVI後に留置した人工弁周囲で発生する逆流(PVL,ParaValvular Leakage)によって,大動脈弁周囲流れ場での溶血や血栓の原因になると報告されているが,その形成機構の詳細については解明されていない.そこで,本研究では,人工弁周囲に隙間を持つPVLモデルを用いた流路断面における血栓形成の可視化実験により,隙間のサイズの違いが血栓の形成位置や形成までに要する時間,形成速度に及ぼす影響を検討し,可視化実験で得られた結果とCFD結果の比較により血栓形成機構に及ぼす流れ場の影響についての評価も行う.結果として,可視化実験により,隙間が大きい方が初期血栓形成までにかかる時間が短く,かつ血栓形成速度も速い事が確認された.また,CFDによる解析結果から,PVLモデルの隙間部分ではせん断応力や流速が他の流れ場よりも大きくなっており,モデルの後方では渦流による再循環域が形成され,かつその領域内では流速が非常に小さいため,血栓が成長を始める事が予測された.結論として,PVLにおける隙間のサイズに関しては,隙間が大きいほど血栓形成反応が促進される傾向にあり,PVLの発生に伴う流れ場の影響に関しては,人工弁後方での血栓形成が推測された.