2022 年 Annual60 巻 Abstract 号 p. 199_2
炎症等で亢進する赤血球沈降速度(Erythrocyte sedimentation rate: ESR)は,参照法であるWestergren法の測定時間が1時間と長く,測定の短時間化が課題であった.近年では,赤血球凝集によって生じる経時的な光学密度変化波形(Syllectogram)を用いて,20秒程でESRを推定する手法も用いられているが,この手法で導出したESRは Westergren法との乖離が大きく,特にヘマトクリットの値によってその乖離が顕著になるとの報告がある.そこで本研究では,Syllectogramの解析パラメータに対するヘマトクリットの影響を調査し,その補正を行うことにより,迅速かつ正確なESRの推定を試みた.抗凝固剤(EDTA)入り採血管にて健常成人男性2名より採血した血液に対し,ウシフィブリノゲンを血漿濃度にて0.4, 0.8, 1.25 g/dL増加させるようそれぞれ添加した後,血球と混合してヘマトクリットを25, 30, 35, 40%にて調整した血液試料を作製した.それらを全自動血球計数・赤血球沈降速度測定器(MEK-1305, 日本光電工業)にて測定し,Syllectogramを得た後,5秒間のSyllectogram解析パラメータ(Aggregation index: AI)に対して,ヘマトクリットの影響を補正したAI(HAI)を算出した.その結果,沈降速度からヘマトクリットによる影響を除して計算した単一赤血球の沈降速度は,HAIの指数関数によく一致していた.この結果を用いて,修正されたStokes式をもとに計算されたESRは,Westergren法で求めた値と非常に高い相関(r=0.966)を示し,ヘマトクリット補正を行った赤血球凝集パラメータによる迅速かつ正確なESR推定法を構築する事に成功した.