2024 年 Annual62 巻 Abstract 号 p. 121_1
心臓エネルギーの概念(収縮期圧容積面積,pressure-volume area : PVA)と収縮性の指標であるEmax(最大容積弾性率,Maximal Elastance)の概念は,この研究分野において一石を投じ,現在もそれに変わり得るものはない。半世紀以上前に菅らによって提唱されたEmaxは,他の収縮性の指標に比べ,前負荷や後負荷などに影響されず,その心筋本来の収縮性が評価できる。菅の共同研究者であった高木は,当時実験動物として主に用いられていた大動物(イヌ)から小動物(ラット)に置き換えることで,実験の簡便化と遺伝子組換え技術等の応用が可能となると考え,ラット摘出心臓の血液交叉灌流実験系を確立した。そこでEmaxの直線から曲線へのパラダイムシフトを提唱した。我々は本実験系とEmax-VO2-PVAフレームワークを用いて,遺伝子組み換えラットの心臓や新規ミオシンアクチベーターを用いるなど、多くの研究成果を報告してきた。一方、心筋細胞の ATP産生は脂質や糖質を代謝基質としているが、心臓の必要とするエネルギーは何によって規定されているか,理解されていない。現在,病態モデルラットの心臓におけるメタボローム解析により,エネルギー効率に関与する代謝経路について検討中であり、新たな発展が期待される。