2024 年 Annual62 巻 Abstract 号 p. 132_1
がん細胞は生体内において接着環境の弾性率を上げてしまうことはよく知られている。そのため、がん組織は正常な組織と比較して硬い構造を有しており、乳がんの触診はこの特性を応用した簡便ながん診断法である。正常肺組織のヤング率は1〜5kPaであるのに対し、線維化組織や肺腫瘍組織は30倍程度硬い。しかしながら、肺は微視的には様々な組織から構成されており、腫瘍中のがん細胞は浸潤の際に硬いコラーゲン含有繊維に接触する。
本研究では、ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞A549の集団遊走挙動に及ぼす基材弾性率の影響を調べた。架橋剤の比率を調整することにより弾性率の異なる(1.4、3.4、18.3MPa)ポリジメチルシロキサン(PDMS)基板を作製し、スクラッチアッセイにより、PDMS基板上および7.7 GPaガラス上でのA549細胞の遊走距離と遊走軌跡を調べた。その結果、A549細胞の18.3MPaでの移動範囲は、1.4MPaおよび3.4MPaでの移動範囲よりも有意に高かった。当日は細胞遊走の直進性についても併せて検討する。