2024 年 Annual62 巻 Abstract 号 p. 193_2
【背景】肺気腫(COPD)などの閉塞性換気障害に用いられる吸入気管支拡張剤の沈着部位を知る方法として吸入エアロゾルシンチグラフィがある。肺気腫では両側肺門部に異常集積(ホットスポット)するが、肺門部の気道に明らかな形態異常はなく、COPDの末梢気道閉塞仮説と矛盾することから、そのメカニズムは未解明のまま今日に至っている。
【関連文献】気道の癌では吸気時に腫瘤に粒子が衝突して沈着する(Itoh, 1976)が、肺気腫では呼気時に狭窄部の下流(口側)に沈着することが示された(Smaldone, 1979)。しかし、その根拠となる物理実験は層流による粒子輸送実験で、ヒトの肺門部の呼気流が乱流であることが無視されている。
【動態イメージング】1960年代のシネブロンコグラフィと2000年以降のダイナミックCT画像は肺気腫の縦隔内気道(胸郭内気管、主気管支、右中間幹)の膜様部が呼気時に内側に陥入することを示している。呼気中の胸腔内圧上昇と乱流による気道内圧低下に過膨張肺による外的圧迫が加わることによって生じる物理現象である。肺門部のホットスポットは肺内に吸入された浮遊粒子が呼気流に乗って排出される際に陥入した膜様部表面に衝突して沈着すると推定される。
【結論】吸入気管支拡張剤は末梢気道に作用するのではなく、肺門部の気道に沈着して繊毛運動により中枢に運ばれ、当該部の気道を拡張することで縦隔内気道の膜様部の陥入を抑制すると考えられる。