2024 年 Annual62 巻 Abstract 号 p. 201_1
経頭蓋磁気刺激(TMS)は精神疾患患者に対して、電磁誘導を用いて脳を繰り返し刺激し、症状を改善する治療法である。コイルが脳内に誘導する電場の計算には、有限要素法(FEM)などの数値計算が用いられてきた。しかしこれらの手法では、コイルの位置を変更するとすべてのシステム行列を再構成する必要があり、その都度1-2時間の計算時間を要する。本研究の目的は、任意のTMSコイル形状に対して、誘導電場をリアルタイムで算出するアルゴリズムを開発することである。相反定理を用いて、脳内の電場計算の代わりに、脳内の双極子に由来する脳の外側の磁場を計算した。これにより、コイルの位置が変化してもシステム行列を再構成する必要がなくなった。さらに、2次電流についても、FEMではコイルの位置を変化される毎に計算していたが、脳内の双極子の場所はコイルに依存しない性質を利用し、コイルの位置を変更しても、計算し直す必要のない方法論を考案した。こうした効率的な計算手法により、コイル位置が変化しても、行列の乗法のみによって脳の外側の磁場分布を得られるようになった。提案手法で円形コイルが誘導する電場分布を数値計算した結果、誤差はFEMより2.69%小さい2.17%であった。さらに、数値計算の時間はFEMよりも2時間以上短縮した4.3秒で脳内の誘導電場を計算し終えた。本研究により、患者に応じた最適なコイル位置を迅速に決定できる。