2024 年 Annual62 巻 Abstract 号 p. 285_2
小腸の消化,免疫,内分泌等の機能低下などに関する研究では,従来,半透膜上に小腸上皮の構成細胞となるヒト結腸癌由来細胞(Caco-2)や腸管オルガノイドを培養した生体外小腸モデルが利用されてきた.半透膜には小腸上皮に存在する絨毛・陰窩の三次元構造や基底膜成分がなく,陰窩に存在する幹細胞が分化をしながら絨毛の頂点へ移動するといった本来の小腸で見られる細胞挙動を再現できていない.そこで,細胞挙動を適切に制御するために, 本来の小腸の三次元構造と基底膜成分を有する新たな生体外小腸モデルの開発が求められる.これまでに絨毛・陰窩の構造を模倣した細胞足場の開発は報告されているが,このような三次元構造を保有した足場における基底膜成分の有無が細胞挙動に与える影響は明らかになっていない.そこで本研究は,絨毛・陰窩の構造を保有した三次元的な培養環境において,基底膜成分がCaco-2の分化に与える影響を明らかにすることを目的とした.我々は界面活性剤を用いて,基底膜成分で構成されるナノ構造の残存性が異なる種々のラット上皮細胞除去小腸を作製した.これらの上皮細胞除去小腸上でCaco-2を過密培養した.走査型電子顕微鏡で観察した結果,ナノ構造が密な上皮細胞除去小腸上で培養した場合, Caco-2が分化したことを示す微絨毛がより多く確認された.本研究結果は,三次元的な培養環境において小腸の基底膜成分がCaco-2の分化を促進させる可能性を示唆する.