流通研究
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投稿論文
コンジョイントデザインを用いた消費者のWillingness to Pay測定方法の比較
西本 章宏勝又 壮太郎
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2018 年 21 巻 3 号 p. 15-25

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Abstract

本研究の目的は,コンジョイントデザインを用いた消費者のWillingness to Pay(支払意向額)測定方法を比較し,予測精度が高いWTP測定方法を特定することである。本研究では,分析対象として,コンビニエンスストアでの昼食の購買状況を設定し,調査対象者に対して,コンジョイントデザインを用いた4つのWTP測定方法(自由回答方式,第一価格オークション,ヴィックリー・オークション,BDM方式)を試みている。その後,調査対象者には,実際にコンビニで昼食を購入してもらい,そのレシートデータを提供してもらっている。そして,本研究では,WTP測定方法において想定されるバイアスを考慮したモデルによって,各測定方法におけるWTPを算出し,最も予測精度が高いWTP測定方法は自由回答方式であることが明らかになった。

1  はじめに

Willingness to Pay(以下,WTP)とは,製品やサービスに対して消費者が喜んで支払う最大の金額のことである(Kalish & Nelson, 1991)。WTPを正確に測定することはマーケティング分野に限らず,経済学や医療分野をはじめ,多くの研究分野で新製品やサービスの需要を予測する上で1つの重要な研究テーマとされてきた。それゆえ,さまざまな研究分野の分析対象に対して,多岐にわたる測定方法が考案されている。その結果,どのWTP測定方法を使えばいいのかという問題が出てくるわけだが,簡単にその答えを導き出すことはできない(Völckner, 2006)。なぜならば,WTPは観測することができない価格の概念であるからである(Jedidi & Jagpal, 2010)。

本研究では,マーケティングの文脈において消費者のWTPを把握することが可能な測定方法を提示することを研究目的とする。マーケティングの文脈においても,これまで多くのWTP測定方法が提案されている。しかし,その一方で,先行研究では,いかに正確にWTPを測定するかに研究の焦点があるため,複雑な操作を被験者に課したりする等,その予測精度は高いものの,日常的に測定の実施は困難なものが多い(詳細は2.2節を参照)。

これら先行研究には,それぞれ特筆すべき研究貢献があることはもちろんだが,検討の余地もある。本研究では,WTPの測定における3つのバイアスとこれまで提案されてきたWTP測定方法を概観し,マーケティングの文脈において,どのようなWTP測定方法が高い予測精度を示し,かつ実施も比較的容易であるのかを示していくことを目的とする。

2  先行研究

2.1  WTPの測定における3つのバイアス

これまでマーケティングの文脈においても多岐にわたるWTP測定方法が提案されてきたが,その測定には共通した3つのバイアスが存在する(Völckner, 2005, 2006)。

1つ目のバイアスは,仮想バイアスである(Harrison & Rutström, 2008)。仮想バイアスとは,消費者に経済的なコミットメントを要求しないでWTPを測定することに起因するバイアスである。経済的コミットメントとは,WTPを測定するのと同時に,実際に当該製品を被験者が提示したWTPで購入してもらうことを要求することであり,経済的コミットメントがない場合は,ある場合よりも高くWTPが測定されてしまうことが明らかにされている(Botelho & Pinto, 2002Cummings, Harrison, & Rutström, 1995Johannesson, Liljas, & OConor, 1997Neill, Cummings, Ganderton, Harrison, & McGuckin, 1994)。経済的コミットメントを課さない代表的なWTP測定方法には,仮想評価法(e.g. Mitchell & Carson, 1989Wertenbroch & Skiera, 2002)とコンジョイントデザインを用いた測定方法(e.g. Kohli & Mahajan, 1991)がある。経済的コミットメントを課す代表的なWTP測定方法には,オークション(e.g. Vickrey, 1961)やBDM方式(e.g. Becker, DeGroot, & Marschak, 1964)がある。

経済的コミットメントを課すメリットには,誘因両立性の問題がある。経済的コミットメントがない場合は,WTPを被験者が回答するにあたって何の損得も生じないので,真の選好に基づいてWTPが示されているのかは疑わしい。しかし,経済的コミットメントを課すことによって,回答したWTPは,そのまま被験者にとって当該製品を購入しなければならない金額となり,損得が生じることから,ない場合よりも,真の選好に基づいてWTPが示されているという考え方が誘因両立性である。しかし,常に経済的コミットメントを被験者に課すことは難しい。本研究では,経済的コミットメントを課すことが,より予測精度の高いWTP測定方法であることを理解しつつも,実施容易性の観点から,測定されたWTPには仮想バイアスが加算されていることを考慮し,経済的コミットメントを課さない条件下で,できるだけ予測精度の高いWTP測定方法を提示していきたい。

2つ目のバイアスは,測定バイアスである。WTP測定方法は多岐にわたることを言及してきたが,それゆえに測定方法が異なれば,同じ対象に対しても異なるWTPが測定されてしまうことが,測定バイアスである。このことは自明であるが,測定バイアスは仮想バイアスとは独立したものであることを理解しておくことが重要である。たとえば,経済的コミットメントを課すオークションやBDM方式は,仮想評価法などと比較して仮想バイアスは相対的に少ないが,双方には異なった賭けの行為が要求される。双方は,被験者自身の利得が最大となる条件のもとで,賭けに勝つことが求められるが,オークションは被験者以外にも複数の競争相手がいる一方,BDM方式では,被験者以外には競争相手がいないため,賭けの行為(戦略)が異なってくる。詳しくは,次節にて詳述するが,仮想バイアスが同等である条件下においても,それぞれの測定方法には異なるバイアスが潜んでいることを理解しておかなければならない。

3つ目のバイアスは,需要バイアスである。需要バイアスとは,当該製品に対する被験者個人の選好が異なることで生じるWTPの誤差のことである。先行研究では,被験者の需要レベルが高いとき(お腹がすいているとき)のほうが,当該製品(ドーナツ)に対するWTPも高く測定されることが明らかにされている(Völckner, 2005)。しかし,被験者個人ごとに置かれている状況が異なることは自明であり,バイアスとしてとらえるよりも被験者個人の異質性として理解することの方が自然である。本研究では,被験者個人の異質性を考慮したうえで,より予測精度の高いWTP測定方法を示していきたい。

2.2  WTP測定方法のレビュー

2.2.1  自由回答方式

この方法は,消費者にWTPを直接回答してもらう方法である(Abrams, 1964Mitchell & Carson, 1989)。それゆえ,最も被験者に時間とコストをかけずに簡単に実施することができる(Hofstetter & Miller, 2009)。しかし,仮想バイアスがあり,誘因両立性の問題がある。たとえば,当該製品に対して消費者の選好が高ければ(低ければ),過大(過小)評価されたWTPが測定されてしまうことが指摘されている(Jedidi & Jagpal, 2010)。また,他の測定方法との相関も低く,簡易な測定方法であるがゆえに,測定バイアスも高くなってしまうようである(Jedidi & Zhang, 2002)。また,何かしらの参照点もなしにWTPを提示しなければならないことから認知的負荷も高い(Chernev, 2003)。現実の購買状況であれば,他の選択肢に付与されている価格が手がかりとなっているはずである(Mitchell & Carson, 1989)。また,通常の購買状況であれば,複数の選択肢がある中から当該製品に興味を示すわけだが,この方法では,選択肢は当該製品1つだけと専売的な状況となっている(Hofstetter & Miller, 2009)。この方法は,消費者にかなりの回答の自由度を与えていることが,他の測定方法とは大きく乖離した回答を招く要因となっていることが指摘されている(Boyle et al., 1996)。

2.2.2  仮想評価法

この方法は,二分法による選択課題を回答してもらう方法である。たとえば,ある価格が付与された製品を提示して,その価格で購入したいかどうかを回答してもらう方法である(Cameron & James, 1987)。この方法は,自由回答方式と同様に簡単に実施することができるが,各消費者には一度だけ選択課題を提示するため,WTPを算出するためには,同製品に対して異なる価格帯での選択課題を膨大な消費者から回答を得る必要がある。

そこで,一人の消費者にこの選択課題を何度も繰り返すことで,WTPを測定しようとする方法もある。つまり,ある価格を付与した当該製品に対して購入したいかどうかを聞き,購入したい(購入したくない)と回答したのであれば,それ以上(未満)の価格帯で再び購入したい(購入したくない)かどうかを繰り返し聞いていく方法である。しかし,この方法は,起点バイアスがかかるという問題がある(Hanemann, Loomis, & Kanninen, 1991;Shogren & Herringes, 1996)。ただし,いずれのアプローチであっても,仮想バイアスと誘因両立性の問題は潜んでいる。

2.2.3  コンジョイント測定法

この方法には,コンジョイントデザインを用いた2つのアプローチがある。1つは,提示された製品プロファイルすべてについて自身の選好に基づいて回答する方法(RBC: rating-based conjoint)である(Jedidi, Kohli, & DeSarbo, 1996)。つまり,RBCは,コンジョイントデザインを用いた自由回答方式に相当する。もう1つは,提示された製品プロファイルの中から,自身の選好に基づいて,最も購入したいと思う製品プロファイルを1つ選択するという選択型コンジョイント方式(CBC: choice-based conjoint)である(Elrod, Louviere, & Davey, 1992)。両方法とも,調査者は被験者に回答してもらう製品プロファイルの属性と水準を用意する必要がある。また,CBCの場合は,どの製品プロファイルも購入したくないという無選択肢を設けることも必要となる。

CBCは,自身の選好に基づいて,各製品プロファイルの購買を検討することから,以下2点について,仮想評価法を拡張させた測定方法とされている。1つは,提示される情報量である。仮想評価法では,価格情報のみが付与された製品が1つだけ提示され,購入するかどうかが問われる。一方で,CBCでは,価格情報以外にも製品属性に関する情報が付与された複数の製品が提示され,どの製品を購入するかどうかが問われる。消費者に与えられる情報量として,CBCは仮想評価法を拡張した測定方法であるといえる。

もう1つは,現実の選択課題により近似しているということである。仮想評価法もCBCも消費者に選択課題を提示するわけだが,多様な製品属性が異なる水準で複数提示されるCBCは,より現実の購買状況に近似しているといえる。以上の点から,CBCは仮想評価法よりも優れた測定方法であるとされている(Jedidi & Jagpal, 2010)。ただし,RBCまたはCBCのいずれも,仮想バイアスにはさらされており,誘因両立性の問題は潜んでいる。

消費者に直接WTPを回答させないコンジョイントデザインによる測定方法は,複数の製品プロファイルを用意し,選択肢を与えることができる点で,直接法よりも現実の購買状況に近似している。また,価格以外の属性情報についても提示するため,消費者は他の属性と価格との関連性を考慮しながら,現実的な購買状況に近い文脈で,自身の選好に従って,製品を選択することができる(Louviere & Woodworth, 1983)。以上の点から,直接法よりも間接法であるコンジョイントデザインのほうが,より予測精度の高いWTP測定方法となることが期待される。一方で,属性水準数の効果も考慮しなければならない(Steenkamp & Wittink, 1994Wittink, Krishnamurthi, & Nutter, 1989)。当該製品に対するWTPをどうしても正確に測定したいがために,価格の水準をいくつも設定し過ぎてしまうと,消費者にとっては価格情報が重要であるように知覚されてしまう恐れがある。

2.2.4  オークション方式

ここでは,第一価格オークション,ヴィックリー・オークションについて詳述する。第一価格オークション(FA: first-price auction)は,各入札者が双方の入札金額を知ることなしに一度だけ入札を行い,最高価格を提示した入札者が当該製品を購入できる方式である。この方法は,調査者にとっては市場の需要(潜在的な購入希望者がどの程度の価格でどれくらい存在するのか)を把握することができるが,その情報を入札者は把握することができない。そのため,入札者には自身のWTPよりも低い価格で入札を行おうとするものの,他の入札者よりも高い入札金額を示さなければならないことから,自身の選好に基づいて入札を行おうとする誘因両立性がはたらく。

ヴィックリー・オークション(Vickrey auction)はn番目価格オークション(nth-price auction)の中で最も普及している方式である(VA: Vickrey, 1961)。ヴィックリー・オークションは,各入札者が双方の入札金額を知ることなしに一度だけ入札を行い,最高価格を提示した入札者が2番目に高い金額で入札された価格で当該製品を購入できる方式である。この方式は,第一価格オークションと同様に最高価格を提示した入札者が当該製品を購入することができるわけだが,誘因両立性の観点から優れている点がある。たとえば,第一価格オークションでは,ある入札者は10万円まで支払ってもいいと思っているが,自分以外の最高入札価格は7万円だったと想定していたとする。その際に,その入札者は,10万円まで支払ってもいいと考えているにも関わらず,できるだけ支払金額を抑えたいがために8万円を入札金額とする可能性がある。一方で,ヴィックリー・オークションの場合は,同様の状況であっても,自分以外の入札者の中で提示された入札金額(ここでは7万円と想定)で当該製品を購入することができるため,入札者は自身が入札してもいいと思っている真の選好に基づいた金額(10万円)を入札することができ,調査者にとっては,より確からしい市場の需要を把握することができるのである。

ここまで2つのオークションを概観してきたが,これらは封印入札方式である。これに対して,公開入札方式(入札者が他の入札者の入札金額を把握することができるオークション方式)としてイングリッシュ・オークション(English auction)とダッチ・オークション(Dutch auction)があるが,調査者が市場の需要を正確に把握できるかどうかという観点から,封印入札方式の方に優位性があるといえる。なぜならば,公開入札方式は,入札に参加している全員の入札金額が,回答者にも把握できてしまうため,賭けの行為が助長されてしまうバイアスがはたらいてしまうからである。単に,市場価格を釣り上げたいときには公開入札方式は有効であるといえるが,当該製品の正確な市場の需要を調査者が把握したいのであれば,できるだけ賭けのバイアスがかからない封印入札方式の方が好ましいといえる。

また,そもそもオークション方式によるWTPの測定にはいくつかの問題点がある。1つ目は,オペレーションの難しさである。入札ルールが複雑であることから,すべての被験者にそれぞれのルールを理解してもらうことは困難である(Wertenbroch & Skiera, 2002)。2つ目は,入札という行為そのものが,実際の購買状況とは類似しない(Hoffman, Menkhaus, Chakravarti, Field, & Whipple, 1993)。3つ目は,マーケティングの文脈で扱うような製品に対して,オークションという状況があまり適当ではない。当該製品を購入するために,落札を争う複数の入札者がいるという状況に置かれ,当該製品の真の価値以上に入札を求めることに現実との乖離がある(Kagel, 1995)。そして,4つ目には,オークション方式では,入札に勝つことが求められるため,そもそも当該製品に対して,それほど高い価値を感じていない被験者は,早々にオークションから離脱してしまう誘因がはたらき,かなり低い入札金額しか示さないこともあり,調査者にとっては適切な市場の需要を把握できないことがある(Lusk, 2003)。以上の課題から,オークション方式が,どれほどマーケティングの文脈に適当なWTP測定方法であるかは検討の余地がある。

2.2.5  BDM方式

オークション方式による問題点に対して,Wertenbroch and Skiera(2002)では,Becker et al.(1964)によって提案されたBDM方式を改良し,誘因両立性がはたらく方法を提示している。この方法では,それぞれの参加者が当該製品を購入したい価格を入札する。売り手である調査者は,無作為に市場価格を引き出す。そして,もし買い手である参加者の提示した価格が,売り手である調査者が引き当てた市場価格よりも上回っていれば,参加者は提示した価格で当該製品を購入できるという方式である。反対に,参加者が提示した価格が,ランダムに引き出された市場価格よりも下回っていれば,参加者は当該製品を購入することができない。

オークションに対して,BDMが優れている点は,複数の被験者を一同に召集する必要がないということである。売り手と買い手の一対一の状況なので,実際の購買状況にも近似しており,購買時点におけるWTPを測定するには適当な文脈であるといえる(Lusk, Daniel, Mark, & Lusk, 2001Wertenbroch & Skiera, 2002)。加えて,すべての参加者に当該製品を購入する機会があることから,オークションのように被験者が早期に離脱をしてしまうようなことも少なく,より市場の需要を正確に測定することができる。しかし,BDMはオークションのように複数の入札者がいないことから,参加者にとっては,当該製品に対する市場の反応を観察することはできない。

2.2.6  WTP測定方法の長所と短所

2.2節では,合計5種類のWTP測定方法について,測定手続きを概観し,その長所と短所を整理してきた。ここでは,マーケティングの文脈におけるWTP測定方法を想定した場合,どのようなWTP測定方法が好ましいのかを,2.1節の議論も包含しながら,以下3つの観点から導き出したい。

第1はマーケティング文脈への適合性の問題である。現実の購買状況を考えた場合,当該製品の価格は売り手から与えられ,消費者が当該製品と価格のバランスを判断する。そのような状況に対して,自由回答方式のように,何も情報が与えられない下で,消費者から価格を提示させることは,現実との乖離がある。また,オークション方式のように複数の入札者が想定され,賭けの行為が要求されることは,マーケティングの文脈における購買状況を考えると現実との乖離がある。加えて,仮想評価法とオークションという状況は,売り手から提供される製品が1つだけであり,同一の製品がたくさん陳列されている店頭等での購買状況を考えると,現実との乖離がある。一方で,コンジョイントデザインでは,価格以外の製品属性に関する情報が与えられ,また複数の製品プロファイルが用意されることからも,同じ製品カテゴリー内の異なったブランドを比較する等,現実の購買状況に対応した文脈を用意することができる。また,BDM方式は,単一製品しか消費者には提示しないが,それぞれの消費者に対して市場価格が与えられる状況下で購買したい価格判断を要求する点においては,売り手と買い手が対峙しているという,現実の購買状況に対応した文脈を用意できているといえる。

第2は,誘因両立性の問題である。誘因両立性を成立させる最も強力な方法は,経済的コミットメントを課すことである。経済的コミットメントが課されるのは,オークション方式とBDM方式である。しかし,本研究では,実施容易性を優先することから,経済的コミットメントについては課さない。つまり,算出されるWTPには仮想バイアスが反映されてしまうことを許容するということである。しかし,この点を除いてみても,オークション方式には,優れた誘因両立性がある。オークション方式では,出品されている1つの製品を手に入れるために,他の入札者よりも高い価格で入札をしなければならない状況に置かれる。入札者は,オークションに勝つためには,自身の真の選好に基づいてWTPを示そうとする誘因がはたらく。一方で,自由回答方式と仮想評価法については,そもそも誘因両立性は成立しないため,仮想バイアスが生じることを想定する必要がある。

第3は,回答者の認知的負荷量の問題である。このことは,測定方法の複雑さと関連する。最も複雑な測定手続きは,オークション方式である。先述したように,代表的なオークション方式には異なった測定手続きがあり,1つ1つを消費者に理解してもらうためには,かなりの認知的負荷を課すことになる。また測定手続きを誤解したまま回答してしまう恐れもあるため,操作確認が必要となるであろう。この問題は,測定手続きの複雑さと関連するため,オークション方式を筆頭に,BDM方式,コンジョイントデザイン,仮想評価法,そして自由回答方式の順番で認知的負荷量が小さくなる。

ここまでそれぞれのWTP測定方法の長所と短所を概観してきた。表1からもわかるように,マーケティング文脈との乖離,誘因両立性の問題,そして回答者の認知的負荷量を考えると,どのWTP測定方法にも長所と短所があり,一概に好ましい測定方法を特定することは難しい。しかし,ここで,誘因両立性の問題から生じる仮想バイアスの取り扱いについて検討を加えたい。本研究では,実施容易性の観点から,経済的コミットメントを回答者に課すことは,意図的に行わないことを先述した。つまり,この点で優位性があったオークション方式とBDM方式についても,経済的コミットメントは課さないということである。誘因両立性の問題がすべての測定方法で同等になるということは,唯一マーケティング文脈との乖離,回答者への認知的負荷量の問題について相対的に優位性があるコンジョイントデザインが,最も優れたWTP測定方法と考えられる。そこで次節では,本研究で提示したい新たなWTP測定方法について詳述していく。

表1. WTP測定方法の長所と短所
マーケティング
文脈との乖離
誘因両立性
の問題
回答者の
認知負荷量
自由回答方式 ×
仮想評価法 ×
オークション方式 ×
コンジョイントデザイン × ×
BDM方式 × ×

○:あり,×:なし

3  リサーチデザイン

本節では,本研究で提示したいWTP測定方法について詳述していく。前節までの議論で,実施容易性の観点から,本研究では,WTPの測定にあたって経済的コミットメントを課さない方法を採用することを示した。つまり,経済的コミットメントを課さないことによって誘因両立性の問題はすべての測定方法について想定され,仮想バイアスが潜むことになる。それゆえ,誘因両立性が成立していたオークション方式とBDM方式についても仮想バイアスが発生することになる。以上より,コンジョイントデザインを用いた測定方法が最も優れたアプローチと考えられるが,2.1節で議論したWTP測定方法に潜む3つのバイアスについて再考したい。仮想バイアスについてはすべての測定方法について考えられることになるが,測定バイアスの問題が残る。測定方法が異なるがゆえに,算出されるWTPが異なってくることは自明であることを示したが,このバイアスについてもできる限り同質化を試みたい。そこで,本研究では,オークション方式,BDM方式についても,最も好ましいと考えられるコンジョイントデザインの状況下で実施する。需要バイアスについても自明であるため,消費者個人の異質性としてモデルに反映させることとする。

また,2.2節で先述したように,RBCはコンジョイントデザインを用いた自由回答方式に相当することから,本研究では,コンジョイントデザインを用いない自由回答方式については,比較対象外とする。同様に,CBCは仮想評価法を拡張させたWTP測定方法であることから,本研究では,仮想評価法についても検討の対象外とする。ただし,CBCについては,他のWTP測定方法と異なり直接WTPを消費者に回答させない間接法であることから,他のWTP測定方法と同様に比較することは難しい。本研究では,CBCには一定の測定優位性があることを理解しつつも,今回は直接法によるWTP測定方法の比較・検討に焦点を当てたい。オークション方式についても,公開入札方式よりも封印入札方式に優位性があることから,イングリッシュ・オークションとダッチ・オークションについても,本研究では比較対象外とする。以上より,次節では,本研究で実施したいWTP測定方法のリサーチデザインを詳述する中で,コンジョイントデザインを用いた自由回答方式(RBC),オークション方式(第一価格オークション,ヴィックリー・オークション),BDM方式について詳述する。

3.1  測定対象と被験者

本研究では,消費者の昼食におけるコンビニエンスストアでの購買状況(以下,CVS昼食)を測定対象とし,合計163名(男性:78名,39.59歳,女性:85名,36.46歳)の被験者に参加してもらった。被験者は,全国の15~69歳の男女を母集団とする中から,週に1度はコンビニで昼食を購入し,すべてのWTP測定方法についてルールを理解し,測定後1週間以内に実際にコンビニで昼食を購入し,購買履歴データ(レシート)を提出してくれた参加者を無作為に抽出している。ここで,本研究では,あえてCVS昼食のカテゴリーについては限定していない。事前のインタビュー調査より,お弁当を昼食とする消費者に限らず,おにぎりと缶コーヒーを昼食とする消費者や,カップ麺を昼食とする消費者,サラダのみを昼食とする消費者など,かなりの多様性を確認することができたからである(実際に回収したレシートも,多様な製品カテゴリーが含まれていた)。また,オークション方式とBDM方式についてはルールが複雑であることから,それぞれの測定方法について例題を示し,すべての例題について正解だった消費者のみに参加してもらっている。またレシートの提出については,事前にこのことを依頼してしまうと提示されるWTPに影響を及ぼすことが考えられるため,測定後に依頼を行い,積極的に提示してくれた参加者のみを対象としている。

3.2  コンジョイントデザインを用いたWTP測定方法

本節では,WTP測定方法に用いるCVS昼食に関するコンジョイントデザインについて詳述する。本研究では,消費者がコンビニに昼食を購買しに来店する状況についてインタビューを行い,チェーン名(SEVEN-ELEVEN,FamilyMart,LAWSON),来店手段(徒歩,自転車または原付,自動車),来店所要時間(3分,6分)の3属性による直交配置によって,合計9つのプロファイルを用意した。つまり,RBC,FA,VA,BDMについて,チェーン名,来店手段,来店所要時間が異なる9つの店舗プロファイルが用意され,各店舗プロファイルにおいて,いくらまでなら昼食を購入したいかどうかを回答してもらう。それぞれの測定方法には,2.2節で先述したように異なる条件があるため,以下ではそれぞれの内容について具体的に詳述する。

RBCによる測定の場合,9つの店舗プロファイルに接触してもらう前に,参加者にはコンビニでいくらまでなら昼食に支払うことができるのかどうかを自由回答方式で回答してもらっている。その上で,事前に回答してもらったWTPを上限値として,9つの店舗プロファイルに接触してもらい,それぞれの店舗でいくらまでなら昼食に支払うことができるのかを回答してもらっている。

FAとVAによる測定の場合は,9つの店舗プロファイルに接触してもらう際に,複数の入札者がいることを想定してもらう。そして,お互いの入札金額を知ることはできないが,入札に勝てば昼食代として現金1,000円が提供され,必ずCVS昼食を入札した金額で購入しなければならない。ただし,入札に負けたとしても,提示した入札金額で必ずCVS昼食を購入しなければならないことも理解してもらっている。その上で,自身が最高金額を提示したのであれば,FAでは提示した金額でCVS昼食を購入することになる。VAであれば,2番目に高い金額を提示した他の入札者の金額でCVS昼食を購入することができる。

BDMによる測定の場合は,9つの店舗プロファイルに接触してもらう際に,店員と回答者がレジで対峙している場面を想定してもらう。そして,回答者が提示するWTPが,店員が無作為に提示する価格よりも上回っていれば,必ずCVS昼食を提示した金額で購入しなければならない。ただし,下回ってしまった場合は,CVS昼食を購入することができないことも理解してもらっている。

以上4つのWTP測定方法を実施した後に,参加者には,実際に1週間以内にCVS昼食を購入してもらい,そのレシートを提出してもらっている。

4  モデル

4.1  効用関数

4.1.1  定義

消費者iが店舗gにてCVS昼食を購入するときに得られる効用関数は,その予算をmi,店舗gにて購入するCVS昼食の価格をpg,店舗gのプロファイルをxgとおくと,次のように定義することができる(Jedidi, Jagpal, & Manchanda, 2003Jedidi & Zhang, 2002)。

  
Uixg,mi-pg(1)

上式は,店舗gにてCVS昼食を購入することによって得られる効用と,消費者iの手元にmipgだけの貯蓄が残ることによる効用という2つの要素を含む。ここで,店舗gにてCVS昼食を購入したときの効用が上式で与えられているとき,CVS昼食を購入しなかったときの効用はUi(0, mi)ということになる。ここで,Ui(xg, mipg) > Ui(0, ‍mi)であれば店舗gにてCVS昼食は購入され,Ui(xg, mipg) < Ui(0, mi)であれば消費者iは手元にmiの予算を残すことを選択し,店舗gにてCVS昼食は購入されない。WTPは「消費者iが店舗gにてCVS昼食に支払ってもいい価格の上限」であり,この効用関数から考えると「消費者iが店舗gにてCVS昼食を購入してもしなくても効用として無差別になる価格」であるととらえることができる。すなわち,店舗gにてCVS昼食を支払ってもいい価格の上限となるRi(g)は,以下の関係を満たす値となる。

  
Uixg,mi-Rig-Ui0,mi=0(2)

4.1.2  関数の特定

上記の効用関数について,関数形を特定して議論を続けたい。本研究では,店舗gにてCVS昼食が購入されることによって得られる効用関数を線形結合xg'βiと定義し,貯蓄の効用をαi(mipg)とおく。ここから,店舗gにてCVS昼食を購入することによる効用は以下のようになる。ただし,αi > 0である。

  
Uixg,mi-pg=xg'βi+αimi-pg(3)

この式から店舗gにてCVS昼食に支払ってもいいWTPを算出すると,以下のようになる(Jedidi & Zhang, 2002)。

  
xg'βi+αimi-Rig-αimi=0(4)
Rig=αi-1xg'βi(4)

4.2  直接法によるWTPの測定

ここでは,店舗gのプロファイルxgが提示され,その店舗にてCVS昼食を購入するために「支払ってもいい最大金額」あるいは「入札してもいい最高金額」を直接答えてもらう本研究のWTP測定方法(RBC,FA,VA,BDM)について詳述する。回答者に提示する店舗プロファイルの個数はGssは測定方法)である。店舗gにて測定方法sによって回答者iから提示されるWTPをrsigとする。提示する店舗については,直交計画に基づくプロファイルであるため,係数は店舗プロファイルのダミー変数となる。直接WTPが測定されるため,αiとβiの識別はできないため,以下ではbi=αi-1βiについて議論する。

  
rsig=xg'bsi, i1,,N, g1,,Gs(5)

ここで,測定バイアスがなければ,同じ回答者iについては測定方法sによらずbsiはすべて等しくなるが,先述したように,測定バイアスの存在が想定されるため,測定方法に依存するパラメータと仮定してモデルを定義する。

  
rsig=xg'bsi+εsig, εsigN0,σs2(6)

ここで,εsigは誤差項であり,σs2は誤差項に含まれる分散である。ただし,分散項σs2については,個人間で同質で測定方法にのみ依存すると仮定する。

また,このパラメータbsiの変動を説明する構造を仮定する。測定方法に依存しないパラメータとして,個人特性wiとそれにかかるパラメータΓsの線形結合を仮定し,以下の構造を仮定する。

  
bsi=Γswi+ξsi,ξsiN0,V(7)

分散項Vは対角行列V = diag(ν1, ..., νK)と仮定する。パラメータの推定については,MCMC法を用いる。

また,比較のために,すべての測定方法について同じパラメータbiを仮定したモデル(同質モデル)も推定し,結果を比較する。

  
rsig=xg'bi+εsig, εsigN0,σ2(8)
  
bi=Γwi+ξi,ξiN0,V(9)

式(6-7)で構成されるモデルは,直接法で測定したRBC,FA,VA,BDMそれぞれについてパラメータを推定する。また,式(8-9)で構成される同質モデルについては,4つの測定方法で得られたデータをすべて用いてパラメータを推定する。

5  分析結果

5.1  パラメータの事後中央値

2は,RBC,FA,VA,BDMから得られたパラメータΓsおよび同質モデルで得られたΓの事後中央値である。店舗gにてCVS昼食が購入されることによって得られる効用関数の線形結合xg'bsiにおける回答者個人の反応係数bsiの事前構造に含まれるパラメータである。ΓsおよびΓを考察することは本研究の主眼ではないが,回答者の個人特性は,来店手段や来店所要時間には影響を及ぼさないことがわかる。また,SEVEN-ELEVEN,FamilyMart,LAWSONいずれのコンビニであっても,女性よりも男性の方が,年齢が高い方が,CVS昼食に対する回答者のWTPが高くなる傾向があることも明らかになった。

表2. パラメータΓの事後平均
SEVEN-ELEVEN FamilyMart LAWSON 自転車原付 自動車 来店所要時間(6分)
RBC(γRBC
切片 0.218 0.169 0.163 0.020 0.023 0.032
性別(女性=1) –0.014 –0.024 –0.010 0.002 –0.006 –0.001
年齢(対数) 0.078 0.090* 0.089* –0.006 –0.007 –0.009
午前中(11 a.m.まで) 0.006 0.014 0.027 0.001 0.018 –0.001
午後(1 p.m.以降) 0.033 0.036 0.057 0.002 0.020 –0.004
FA(γFA
切片 0.416* 0.463** 0.400* 0.044 0.049 0.038
性別(女性=1) –0.056 –0.071* –0.067 –0.001 0.002 –0.003
年齢(対数) 0.069 0.053 0.067 –0.013 –0.015 –0.011
午前中(11 a.m.まで) 0.009 0.024 0.042 0.006 0.005 0.009
午後(1 p.m.以降) 0.059 0.060 0.083 0.010 –0.005 0.002
VA(γVA
切片 0.462** 0.532** 0.469** 0.027 0.019 0.025
性別(女性=1) –0.054 –0.075* –0.061 –0.001 –0.005 –0.004
年齢(対数) 0.055 0.032 0.045 –0.008 –0.004 –0.007
午前中(11 a.m.まで) 0.038 0.057 0.071 –0.004 –0.009 0.006
午後(1 p.m.以降) 0.087* 0.097* 0.117** 0.008 0.005 –0.003
BDM(γBDM
切片 0.368 0.436* 0.406* 0.003 0.046 0.019
性別(女性=1) –0.052 –0.063 –0.051 0.004 0.002 –0.013
年齢(対数) 0.081 0.059 0.065 –0.002 –0.012 –0.006
午前中(11 a.m.まで) 0.034 0.050 0.056 0.005 0.001 0.008
午後(1 p.m.以降) 0.085 0.069 0.087 –0.003 –0.008 0.007
同質(γ)
切片 0.377** 0.396*** 0.354** 0.020 0.026 0.025
性別(女性=1) –0.045 –0.060** –0.049 0.002 0.000 –0.007
年齢(対数) 0.067* 0.060 0.068* –0.007 –0.008 –0.008
午前中(11 a.m.まで) 0.019 0.030 0.046 0.006 0.008 0.007
午後(1 p.m.以降) 0.067* 0.062* 0.087** 0.007 0.006 0.000

注):10%,*:5%,**:1%,***:0.1%(最高事後密度区間基準)

5.2  実際の購買金額との比較

本節では,本研究の主眼であるWTP測定方法の予測精度についての結果を考察する。先述したように,本研究では,4種類のWTP測定方法を実施した後,回答者には,1週間以内に実際にコンビニでCVS昼食を購入してもらい,そのレシートデータを提出してもらっている。実際の購買履歴データであるレシートと4種類のWTP測定方法で算出された金額を比較し,最も「予測WTP-購買金額」の差が小さかったWTP測定方法について検討していきたい。本研究では,WTP測定後に実際の購買情報を収集し,あわせて購入したCVSの情報も収集している。この中には職場からCVSの時間距離(分)に関する情報も収集しているが,かなり遠方のCVSで購入した回答者も含まれる。本研究では近所のCVSでの購入を想定しているため,こうした遠方のCVSで購入した情報は除外し,所有する移動手段で職場から10分以内のCVSで購入した126人を検証対象とする。126名の回答者の購入価格の平均値は459.57円,中央値は429円,平均購入点数は2.54個,平均購入時間帯は午前11時29分であった。

ここで本研究の主眼となる4種類のWTP測定方法の予測精度であるが,実際にコンビニで購入された金額「観測値」と「異質モデル」から計算したそれぞれの測定方法によって得られたWTP,4つの測定方法が共通のパラメータを持つと仮定した「同質モデル」によって算出されたWTPの分布の差を図示したものが図1である。本研究では,回答者に実際に購入した金額だけでなく,それが職場からどの移動手段でどれくらいの時間がかかるのか,またどこのチェーンなのかという情報を聞いているので,これらの属性情報と5つのモデルから推定された係数を用いて予測値を計算している。横実線は,観測値の中央値(429円)である。FA,VA,BDM,同質モデルの中央値は,観測値の中央値よりも高い価格が推定されている。予測モデルの中ではRBCの中央値が最も観測値の中央値に近いことがわかる。これは平均値においても同じ傾向が確認されている。観測値の中央値よりも各WTP測定方法の中央値が高めに推定された点については,次節にてさらに考察を深めたい。

図1.

異質モデルと同質モデルによって算出されたWTP‍と‍観‍測‍値‍の‍分‍布

次に,それぞれのWTP測定方法,モデルについて,平均二乗誤差(Mean Squared Error),平均絶対誤差(Mean Absolute Error)をとったものが表3である。表3では,過大予測(観測値よりも高く予測された割合)および過少予測(観測値よりも低く予測された割合)も示している。図1に示すように,実際のCVS昼食の購入金額(観測値)と平均二乗誤差はRBCが最も低い,また,平均絶対誤差についてもRBCが最も低いという結果が得られた。また,過大予測と過少予測の割合についても,比較対象の4つの測定方法と同質モデルの中で最も50%に近く,偏りの少ない予測ができているといえる。得られた分析結果より,本研究では,コンジョイントデザインによる9個の店舗プロファイルに接触する前に,CVS昼食に支払ってもよい金額を無条件下で測定し,その金額を上限の予算とした条件下で,9個の店舗プロファイルにおいて,CVS昼食の購入金額を直接回答してもらうWTP測定方法(RBC)が最も予測精度が高い(観測された購買金額との差が小さい)ことが明らかになった。

表3. WTP測定方法の過大・過小予測
MSE MAE 過大予測 過少予測
RBC 258.7 200.4 76(60.3%) 50(39.7%)
FA 341.0 270.7 99(78.6%) 27(21.4%)
VA 356.2 280.2 102(81.0%) 24(19.0%)
BDM 350.9 279.4 101(80.2%) 25(19.8%)
同質 283.6 238.2 98(77.8%) 28(22.2%)

6  議論

6.1  本研究の貢献

本研究は,CVS昼食の購買状況というマーケティング文脈を分析対象とし,これまでのWTP測定方法を概観し,その長所と短所を明らかにしたうえで,コンジョイントデザインを用いた4つの直接法によるWTP測定方法を試みた。その後,被験者には,実際にCVS昼食を購入してもらい,そのレシートを提供してもらい,それぞれのWTP測定方法の予測精度を確認したところRBCによる測定方法が最も予測精度が高い(観測された実際の購買金額と予測WTPの差が小さい)ことが明らかになった。

本研究の貢献は,マーケティング文脈に適当なWTP測定方法を探索するために,WTP測定方法に潜む3つのバイアスについて再考し,これまで開発されてきたWTP測定方法を比較・検討した上で,新たなWTP測定方法を提示したことにある。

本研究では,各WTP測定方法を比較・検討する中で,それぞれには,長所と短所があることを示してきた。そこで,本研究では,従来のWTP測定方法の中で,実施が困難なもの(実際に回答者に経済的コミットメントを課さなければならない場合)については,経済的コミットメントを意図的に課さないことで,予測精度を維持することよりも実施容易性を高めることを優先する提案を行った。つまり,すべてのWTP測定方法に仮想バイアスを想定することで,ある程度の予測精度は犠牲にしつつも,同条件のもとで,各WTP測定方法の予測精度を比較することを提案した。

加えて,マーケティングの文脈において相対的に最も適当な状況を設定することができる測定デザインは,コンジョイントデザインであることを示し,すべての測定方法にコンジョイントデザインを適用させることによって,同一の測定デザインのもとで各WTP測定方法を比較することを提案した。

以上より,測定と推定の双方において,WTP測定方法に潜む3つのバイアスを考慮しつつ,マーケティングの文脈に適当なコンジョイントデザインをすべてのWTP測定方法に適用させ,より同条件のもとで,WTP測定方法の予測精度を比較・検討したことが,本研究の貢献である。

6.2  今後の研究課題

ここで今後の研究に向けて,下記3点について考えたい。1つ目は,分析対象と測定方法についてである。本研究では,CVS昼食の購買状況というマーケティング文脈を分析対象とし,すべての測定方法にコンジョイントデザインを適用するWTP測定方法によって,どのWTP測定方法の予測精度が高いのかを比較・検討した。先行研究においても多様なWTP測定方法が提案されているように,どんな分析対象にも対応できるWTP測定方法を追及することよりも,基本的な測定手続きについては共通でありながらも,分析対象に応じて,ある程度のチューニングが必要になってくるのが本質なのかもしれない。どのような分析対象にどのようなWTP測定方法をどのように対応させていくべきか,WTP測定方法の一般化に向けては今後も考えていく必要があるであろう。

2つ目は,上記とも関連するが,予測精度を確認するための観測値の測定回数についてである。本研究では,さまざまな制約がある中で実施容易性を意図するあまり,消費者にはレシートの提示を1回しか要求することができなかった。しかし,昼食という購買状況は日常的に繰り返し発生する状況である。そのような分析対象に対して,一時点の観測値を収集するだけでは不十分であろう。しかし一方で,複数時点で観測値を収集できれば,さらに予測精度を改善することは見込まれるが,いくつの観測値を収集することが適切であるのかについては検証が必要となってくるであろう。

3つ目は,WTP測定方法の予測精度の考え方についてである。本研究では,先行研究に従い,観測値との平均二乗誤差,平均絶対誤差が最も小さいWTP測定方法が最も高い予測精度を示していると考えてきた。しかし,本研究も含め先行研究では,WTPは観測することができない価格の概念であることから,観測値そのものがWTPであるという暗黙の前提を置いてしまっている。WTPは「製品やサービスに対して消費者が喜んで支払う最大の金額」なので,観測値が仮に何かしらの参照価格であるのであれば,観測値と最も平均二乗誤差,平均絶対誤差が大きかったVAが真値に近いWTPを測定できているとも考えることができる。WTP測定方法の予測精度という研究の目的をより明確にするためにも,比較対象となる観測値そのものが何を示しているのかについては再考の必要がありそうである。

以上,今後の研究課題を提示したところで,本研究のまとめとしたい。

謝辞

本研究を進めるにあたり,アリアエディターならびに匿名レビューアーの先生方には,大変有益なコメントを頂戴しました。ここに記して,改めて感謝申し上げます。なお,本研究成果の一部は,科学研究費補助金(若手研究(B) 課題番号:16K17202および基盤研究(B) 課題番号:17H02573)の交付を受けたものである。

参考文献
 
© 2018 日本商業学会
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