International Journal of Marketing & Distribution
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Prediction of Consumers’ Purchase Behavior by Conjoint Analysis Considering Context Effects
Makito TakeuchiRyosuke Igari
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2022 Volume 24 Issue 2 Pages 17-32

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Abstract

文脈効果は実験や調査の選択でしばしば確認されるが,最近の研究から実際の購買環境ではほぼ観測されない可能性がある。こうした状況下で,選択型コンジョイントなどのマーケティングリサーチを行う場合,その回答には文脈効果に起因するバイアスが生じることを意味する。本研究では,魅力効果,妥協効果,類似性効果を考慮した選択型コンジョイントの分析手法と既存手法を比較するが,3属性以上のコンジョイントデザインでの対処方法の提案,画像あり/なし条件による文脈効果の生起の変化と実購買予測への影響を議論する。結果から,画像あり/なし条件のいずれでも魅力効果が特に生じることを把握した。画像なし条件で,魅力効果がより強く生じること,文脈効果を考慮した手法を用いるほうが実購買の予測力が高いことを例証した。

1  はじめに

マーケティングリサーチでは,選択型コンジョイント(Choice Based Conjoint)を含む,多肢選択に基づき消費者のニーズや効用を捉える方法が提案されている(e.g., Louviere & Woodworth, 1983McFadden, 1986Raghavarao, Wiley, & Chitturi, 2010Chapman & Feit, 2015)。選択法は,評定法と比較して,実際の商品購入における選択行動と類似するため,その意思決定行動を捉えやすいというメリットがある。一方で,選択型コンジョイントを含む選択型モデルは一般的にロジットモデルを用いているため,その背景に確率的効用最大化モデルを仮定し,無関係な選択肢からの独立(Independence from Irrelevant Alternatives;IIA特性)を有することになる。すなわち,ある2つの選択肢の選択確率の比は,他の選択肢からの影響を受けずに独立であることを仮定している。

しかし,消費者の選択行動は,こうした仮定に反した意思決定がされることがしばしば起きる。例えば,文脈効果は,選択肢セットの配置によって消費者の選好する選択肢が容易に変化することを説明し,マーケティング・消費者行動研究分野を中心に幅広く研究されるとともに一般書(e.g., Ariely, 2008)でも取り上げられ実務への有用性も高い。実際,選択型コンジョイントでも文脈効果を考慮したモデルの開発が進んでいる(e.g., Haaijer, Wedel, Vriens, & Wansbeek, 1998Kivetz, Netzer, & Srinivasan, 2004Rooderkerk, van Heerde, & Bijomolt, 2011)。しかし,こうした研究は新しい分析手法の提案がなされているものの,それが従来の選択型コンジョイントの分析手法(以後,従来の分析手法・モデルをCBCと呼称)と比較してどの程度実購買の予測精度を高めているか把握されていない。また,文脈効果の実験や調査研究は一般的に2属性(例えば,価格と品質)で検証されるが,実際の商品は3属性以上であり,コンジョイント分析もより多くの属性を用いて実施されるため,こうした多属性でも文脈効果を考慮する必要があるかははっきりしない。

また,文脈効果の1つである魅力効果は実際の市場ではほとんど観測されない可能性が示唆されている(e.g., Frederick, Lee, & Baskin, 2014Yang & Lynn, 2014Huber, Payne, & Puto, 2014)。もし,魅力効果が実際の市場での商品選択行動に生じず,調査や実験のみで生じる場合,こうした効果は回答を誘導するバイアスを意味するため,適切に文脈効果を考慮することが必要となる。

本研究は,こうした課題に対処するために,3属性以上のコンジョイントデザインにおいて2属性に縮約する方法の提案,及び文脈効果を考慮した手法と従来の部分効用を個人レベルで測定するCBCを実購買予測まで含めて比較し,選択型コンジョイントの精度向上に寄与することを意図している。

2  関連研究と本研究の検証意図

2.1  文脈効果の概要と効果の頑健性に対する近年の話題

ここでは,本研究と関連する魅力効果,妥協効果,類似性効果を図1に基づき説明する。魅力効果とは,2つの属性(例えば,品質と価格)でトレードオフの生じる2つの選択肢(a,b)に,aに両属性とも敵わないデコイ範囲にa'を置いた場合(aはa'を支配する関係),aの選択割合がa'を置かなかった場合と比較して上昇する現象を指す(Huber, Payne, & Puto, 1982)。妥協効果とは,bとはaを挟んで対照的な位置にcを追加した場合,割合が均等に3分割されず中間選択肢となったaの選択割合(もしくはbに対するaの相対的割合)が上昇することである(Simonson, 1989)。類似性効果とは,aとbに加えてbに類似するdを設定すると,bとdで選択が割れ,2択時と比較してaはbよりも相対的に選択割合が高くなる現象である(Tversky, 1972Müller & Diels, 2016)。こうした文脈効果は頑健に生じると言われてきた(e.g., Heath & Chatterjee, 1995Neumann, Böckenholt, & Sinha, 2016)。更に魅力効果は,提唱者であるHuber et al.(2014)がマーケティング研究から他の社会科学分野に最も波及したものの1つではないかと述べるなど,マーケティング研究及び実務への応用可能性から重要な話題である。

図1.

魅力効果,妥協効果,類似性効果の各選択肢セットの関係

Huber et al.(1982)Figure A/B,Simonson(1989)Figure C,Müller and Diels(2016)Figure 1B,星野・竹内(2019)図1を参考に筆者ら作成)

しかし,数十年に渡り広く研究されてきたにも関わらず,Frederick et al.(2014)は魅力効果が数値的に示された選択肢セット(例:テレビの場合,価格:○○ドル,画質:××点)を用いた場合に生じるものの,知覚情報(画像等)や定性情報を用いた選択肢セットではほとんど生じないことを見出した(Yang & Lynn(2014)でも複製)。すなわち,これらの先行研究は実際の市場での選択行動で魅力効果は観測されないのではないかと疑問を呈するものと言える。これに対して,Huber et al.(2014)は,Frederick et al.(2014)の実験デザインを批判している。しかし,Huber et al.(2014)は同時に,実際の商品の属性数は2つよりも多く複雑であること,デコイとなりえる商品は市場から通常すぐに撤退されてしまうことから魅力効果が市場で観測されることはめったにないのではないかとも述べている。現実場面に近づける工夫をした実験も行われ,購入の可能性がある場合に魅力効果が生じることを把握している研究もあるが(e.g., Lichters, Bengart, Sarstedt, & Vogt, 2017),やはり実験環境下での結果であるため実際の市場で魅力効果が生じるかは判然としない。

実際の市場データでの分析例として,星野・竹内(2019)は,食品スーパーのID-POSデータを用いてデコイとみなせる新商品の発売前後における対象の既存商品のシェアの変化を確認した。その結果,25の商品カテゴリ中で様々な要因を考慮したうえでも有意にシェアが上昇したのはいくつかの商品に留まり,これらのシェアの上昇幅も5%ほどであった。また最近,Wu and Cosguner(2020)は魅力効果を実際のオンラインダイヤモンド市場で見出し,利益の増加にも貢献しているという。しかし,この知見もダイヤモンドという一般的な消費者では購買経験が乏しく,知覚価値の判断も難しいはずで,日常で利用される商品カテゴリに一般化を図るには不十分である1)

なお,類似性効果も,選択した商品を購入しなければならない可能性があるといった,仮想性を排すことを意図した実験でほぼ有意な差が生じなくなることが示されている(Diels & Müller, 2013)。妥協効果も実際に購入する可能性がある場合に減じることが見出されており(Müller, Kroll, & Vogt, 2012),魅力効果以外の文脈効果も購買時の商品選択ではほとんど生じないか,限定的な可能性がある。

2.2  選択型コンジョイント分析と文脈効果に関するモデル

CBCに用いる調査データは,複数の選択肢を提示し,その中から最も好ましいものを1つ選択してもらうといった選択試行を複数回繰り返すことで取得し,そのデータから消費者の部分効用を推定する(Haaijer & Wedel, 2001Louviere & Woodworth, 1983Raghavarao et al., 2010Chapman & Feit, 2015)。また,選択肢の中に消費者が購入したいものがない場合があるため,「買いたい商品はない」というNo選択オプションを設けることもある(Haaijer, Kamakura, & Wedel, 2001Vermeulen, Goos, & Vandebroek, 2008)。従来のCBCでは,複数の選択肢から1つを選択することからロジットモデルやプロビットモデルを用いた多項選択モデルが用いられてきた(e.g., Lilien & Rangaswamy, 2004Raghavarao et al., 2010Chapman & Feit, 2015)。また,ブランド選択モデルでは階層ベイズモデルを用いて個人レベルの係数を推定する方法も提案されており(e.g., Rossi, McCulloch, & Allenby, 1996Rossi & Allenby, 2003照井,2008),CBC等においても,同様に階層ベイズモデルによって個人の部分効用を測定する方法が提案されている(e.g., Lenk, DeSarbo, Green, & Young, 1996Igari & Takeuchi, 2020)。

次に,文脈効果を考慮した多項選択モデルに焦点を当てる。多項選択モデルとしてまず多項ロジットモデルが考えられるが,文脈効果が生じる場合,IIAの仮定に反してしまうことが指摘されている(Tversky, 1972Haaijer et al., 1998)。そのため,IIAの仮定を緩和したモデルとして,誤差項の相関を考慮した多項プロビットモデルによる方法が提案されている(Haaijer et al., 1998Haaijer, Kamakura, & Wedel, 2000)。Haaijer et al.(1998, 2000)は多項プロビットモデルの誤差項の分散共分散を観測誤差成分と,文脈効果によって生じる各選択肢の属性水準の分散共分散行列に分解することで,文脈効果を誤差項の相関構造によって考慮するモデルを提案している。また,Dotson et al.(2018)は,多項プロビットモデルの誤差項の分散共分散行列を,属性水準変数から計算した距離で説明することで,類似性効果を表現するCBCの分析モデルを提案している。

一方で,誤差項の相関構造によって文脈効果を表現するのではなく,モデルの係数(部分効用)によって明示的に文脈効果を表現した研究も存在する。例えば,Kivetz et al.(2004)は,係数から,各選択肢セットの属性内で最も小さい水準の係数を引いた関数で妥協効果を表現している。また,Sharpe, Staelin, and Huber(2008)は,CBCの潜在効用の式に,最大の属性と最小の属性の関数を組み込むことで妥協効果を表現したモデルを提案している。Boldt and Arora(2017)では,Kivetz et al.(2004)Sharpe et al.(2008)のモデルを拡張し,複数の個人が選択を行う設定での妥協効果をモデル化している。

更に,Rooderkerk et al.(2011)はより直接的に文脈効果を考慮した方法を提案している。彼らは,属性水準変数の他に,魅力効果,妥協効果,類似性効果の3つを説明変数としてCBCの効用関数に盛り込んだモデルを提案し,文脈効果を考慮したモデルでより推定精度が高くなることを示した。なお,彼らは選択型コンジョイントを捉えるものとして多項プロビットモデルを採用しているが,誤差項に無相関を仮定している。本研究ではRooderkerk et al.(2011)と同様に,魅力効果・妥協効果・類似性効果の3つの文脈効果を効用関数に直接盛り込む方法を採用する。

2.3  先行研究の課題と本研究の検証意図

既存研究から,文脈効果及びコンジョイント測定法の課題をいくつか挙げることが出来る。まず,選択型コンジョイントの一連の質問における選択には文脈効果を反映した行動が含まれるが,実際の購買での選択には文脈効果が生じない場面が少なからずあり得ることである。この場合,分析から得られる部分効用には,実購買と比較して,文脈効果に起因する回答バイアスが生じている恐れがある。

上記の課題に対し,購買を迫る,商品を実際に提示するといったより現実感を持たせた調査が有効かもしれない。しかし,コンジョイント測定法は,仮想のプロファイルが多数作成されるため実物の提示や商品購入を迫ることは非現実的である。また,画像提示もサービスやコンセプト商品など,具現化が難しい場合も多い。

一方,文脈効果を考慮した選択型コンジョイントが提案されているものの,やはり解決すべき課題がある。まず,魅力効果,妥協効果,類似性効果を考慮するRooderkerk et al.(2011)のコンジョイント分析手法は3属性以上に一般化可能なモデルとして提案されているが,彼らの検証は2属性での実施に留まる。コンジョイント分析は商品コンセプトや仕様に関わる意思決定を支援するため多数の属性を用いて実施される。しかし,文脈効果は2属性での選択肢セットで検証されることが一般的であることから,3属性以上のコンジョイント分析でも文脈効果が検出されるかははっきりしない。

より重要な課題として,既存研究では文脈効果を用いた手法と従来手法であるCBCで購買予測精度の比較が行われていない。文脈効果が回答バイアスとして生じ,現実場面では生じにくいならば,文脈効果変数を追加したコンジョイント分析では,文脈効果による影響を統制することで,より正確な部分効用を推定できるために購買予測精度が向上するはずである。しかし,既存研究は実際の購買行動での予測精度を検証しておらず不十分である。

最後に,調査時における画像の提示による文脈効果の影響の変化についてである。コンジョイント測定法でも各プロファイルに基づくイメージ画像を提示することがあるが,Frederick et al.(2014)の知見から鑑みると,視覚情報の有無によって文脈効果の生起具合が変化し,予測精度にも影響を与える可能性がある。

こうした課題に対処するため,本研究では以下に挙げるリサーチクエスチョン(RQ)に答えることを意図した検証及び分析手法の設定を行う。具体的には,

RQ1:3属性以上のコンジョイント分析で文脈効果が生じるのか

RQ2:文脈効果を考慮した分析手法が,階層ベイズを用いたCBCと比較して,より高い実購買予測精度となるのか

RQ3:商品画像の提示有無の違いによって,RQ1やRQ2の観点に違いが生じるか

の3点に特に焦点を当てる。

しかし,一般的に文脈効果は2属性で検証されてきたため,RQ1において3属性以上のコンジョイント測定を実施する場合,どのように多属性を2属性にあわせた文脈効果変数として作成するかが課題となりえる。Rooderkerk et al.(2011)の方法自体は3属性以上にも対応可能である。しかし,属性数が増えるにつれて,ある選択肢が他の選択肢よりも全属性で優っている(劣っている)といった支配関係は限定されていくことが予想される。実際,後述する本研究の実験調査の全選択肢セットにおいても,数値化可能な全属性においての支配関係は生じていなかった。多数の属性があるなかで,ある1つの属性によって支配関係が見いだせない場合でも,例えば5属性中4属性が優れているものを選択するといった補償型の意思決定を回答者がするかもしれない。こうした場合,補償型にいくつかの属性を集約した観点で魅力効果が仮に生じていたとしてもその効果を吸収する変数を設定することは難しい。もしくは,多属性のうち2属性ずつ全組み合わせの魅力効果変数を作成することも考えられるが,属性数に比例して変数が膨大になってしまう。試行数が限られるコンジョイント測定法では,多数の文脈効果変数を含めると推定が不安定になる問題が生じる。

そのため,Rooderkerk et al.(2011)の文脈効果変数の設定方法のみでは3属性以上で支配関係を見出すことができない選択肢間においても,数値で表現できる属性を補償型に縮約して評価することで,厳密な意味での支配関係が認められない場合でも魅力効果が発生する可能性がある点に考慮した検証をおこなう。また,本研究では3属性以上での使用や実務での利用可能性も考慮し,なるべく容易に多属性を2属性へ縮約して文脈効果変数を設定する方法を考える。

3  実験調査・追跡調査の概要

3.1  実験調査および追跡調査の概要

2.3節で説明した意図から,iPhoneを対象商品2)とした実験調査と購買商品を把握する追跡調査を実施した。なお,実験調査・追跡調査は市場調査会社の調査パネルに対して実施し,回答を完了した者は実験調査と追跡調査のそれぞれで換金等可能なポイントを取得した。1段階目の実験調査では,スクリーニング調査で6か月以内にiPhone 11シリーズを購入することを予定していると確認された対象者に,被験者間要因デザイン(画像あり条件vs画像なし条件)で2019年12月10日~13日にかけて実施した(有効回答=825人,画像あり条件=415,画像なし条件=410)。2段階目の追跡調査は実験調査参加者に2020年7月10日~27日にかけて実施した(実際にiPhoneを購入した被験者=258人,画像あり条件=122,画像なし条件=136)。

次に実験調査と追跡調査の手続きを説明する。実験調査で,被験者はまずコンジョイント測定法の質問場面における「画像あり条件」と「画像なし条件」のいずれかにランダムで割り付けられた。いずれかの条件に割り付けられた被験者は,各プロファイルに基づく商品画像の有無以外に違いのないコンジョイント測定法の一連の質問に回答した3)。その後,本研究とは直接関係のない質問にいくつか回答して実験調査は終了した。

次に追跡調査では,被験者は実験調査~追跡調査までの期間中にスマートフォンを購入したかを尋ねられた。そのうち,iPhone 11シリーズの購入者は,購入方法(キャリア及び機種変更,新規購入,MNP,SIMフリー等),購入時期,購入機種の特定に必要な情報(iPhone 11/iPhone 11 Pro/iPhone 11 Pro MAXのいずれか,保存容量,カラー)を尋ねられた。その後,被験者は携帯電話に関する事柄や本研究と直接関係しない質問に回答して終了した。

3.2  コンジョイント測定法における質問の設定と詳細

コンジョイント測定法のプロファイルを作成するために,当時販売されていたiPhone 11シリーズの商品情報や主要キャリア及びApple社のオンラインショップの価格情報4)を参考に表1の属性と水準を作成した。属性と水準をもとに,L16直交表に割り付けて16プロファイルを作成し5),その中からランダムに3つのプロファイルを抽出して1試行(1問)分を作成した。6試行分で全プロファイルを使い切るが,最後の1試行分で不足する2プロファイルは全プロファイルのうち当該質問に存在する1プロファイル以外からランダムに抽出した。この手順を4回繰り返し計24試行分の選択肢セットを作成した。

表1. 属性と水準
属性 水準1 水準2 水準3 水準4
画面サイズ 5.8インチ* 6.1インチ 6.5インチ
保存容量 64 GB* 128 GB 256 GB 512 GB
背面カメラ デュアルカメラ1200万画素* トリプルカメラ1200万画素
ビデオ/音楽再生時間 17時間/65時間* 18時間/65時間 20時間/80時間
カラーバリエーション ブラック/グリーン/イエロー/
レッド/ホワイト/パープル*
ゴールド/スペースグレイ/
シルバー/ミッドナイトグリーン
端末価格 89,280円 108,000円 142,560円 187,680円*

※本体重量:画面サイズに連動して変化する。5.8インチが188 g,6.1インチが194 g,6.5インチが226 g

※各水準における*は,分析時における基準カテゴリ(係数を0と固定する)を表す。

被験者はコンジョイント測定法について,ランダムな順序で提示された24試行に回答している(選択肢セットの一例は図2)。1試行につき被験者は3つのプロファイルから購入したいと思う順に選択することができ,購入したいと思えるものが無くなった場合には「買いたい商品はない」というNo選択オプションを選ぶこともできた。ただし,今回の分析では1位の回答のみを分析に使用している。

図2.

コンジョイント質問での提示例

(左は「画像あり条件」,右は「画像なし条件」。イメージは筆者らにてイラストを作成)

4  分析手法

本研究では,多項選択データの解析として一般的な条件付ロジットモデルを基本として用いる。また,いずれも選択しないことに対応するため,No選択オプションを条件付ロジットモデルの選択肢に含める。さらに,消費者の異質性を考慮し,階層ベイズモデルによって部分効用を消費者レベルで推定する。

4.1  分析モデル

個人i(i = 1, 2, ..., n)のt(t = 1, 2, ..., T)回目の試行におけるプロファイルj(j = 1, 2, ..., J)の潜在効用Uitjを考える。各プロファイルにおいて,属性k(k = 1, 2, ..., K)における水準lk(lk = 1, 2, ..., Lk)を持つとする6)

  
Uitj=Vitj+εitj=k=1Klk=1Lkxtjklkβiklk+m=1Mwtjmγim+εitj.(式1)

ここで,Vitjおよびεitjは潜在効用の確定項と誤差項である。また,xtjklkは個人共通のプロファイルjの属性kの水準lkを表すダミー変数であり,βiklkはその個人別の係数である7)。また,wtjmは文脈効果mの変数であり,γimはその個人別の係数である。なお,文脈効果変数としては,魅力効果・妥協効果・類似性効果の3種類を用いる(M = 3)。なお,魅力効果・妥協効果・類似性効果の係数はいずれも正になることが期待される(Rooderkerk et al., 2011)。

また,No選択オプション(J + 1)の効用では,属性および水準の変数xtjklkと文脈効果変数wtjmを全て0とおき,特有の定数項を用いる(Haaijer et al., 2001Vermeulen et al., 2008Rooderkerk et al., 2011)。

  
UitJ+1=VitJ+1+εitJ+1=αi(J+1)+εit(J+1).(式2)

ここで,式(1)・(2)の誤差項が独立で同一な第1種極値分布に従うと仮定すると,個人it回目の提示におけるプロファイルjの選択確率は,以下となる。

  
p(yit=jθi=expVitjg=1J+1expVitg.(式3)

また,個人別の係数をθi=αiJ+1,βi11,,βiKLK,γi1,,γiMTとしてベクトルで表現し,さらに個人別の係数ベクトルθiが平均θ-と分散共分散行列Vθを持つ多変量正規分布に従う階層ベイズモデルθi~MVNθ-,Vθによって表現する。これにより,消費者の異質性を表現する。モデルはベイズ統計学の枠組みで表現し,母数の推定はマルコフ連鎖モンテカルロ(Markov chain Monte Carlo;MCMC)法を利用する8)

4.2  文脈効果変数の作成

本研究では,Rooderkerk et al.(2011)の方法に基づいて魅力効果・妥協効果・類似性効果の3種類の文脈効果変数を作成する。文脈効果変数の作成に関する数理的な説明は付録を参照されたい。今回の分析では,3次元(3属性)以上の属性を持つコンジョイントデザインを採用しているが,2.3節で指摘した課題があることから本研究では多属性を2属性に縮約したうえで文脈効果変数を作成することを考える。

コンジョイント分析は価格決定技法,商品コンセプトの決定技法といった2つの側面を持っている。そして価格と商品コンセプトに関わる性能・機能は,実現可能性と望ましさといった点で異なることが先行研究で指摘されている(e.g., Liberman & Trope, 1998Thompson, Hamilton, & Petrova, 2009Yan & Sengupta, 2011)。すなわち,消費者からすると,商品価格は購入や使用において実現に影響を与える属性,商品の性能や機能は商品の魅力に影響を与える属性といえる。そこで各プロファイルを「価格」と「価格以外の数値化可能な属性(画面サイズ,保存容量,背面カメラ,ビデオ/音楽再生時間)の平均値」の2次元に落とし込むことを想定する9)。なお,(式1)では各水準は離散値としてxtjkはダミー変数を用いているが,文脈効果変数を作成する際にはRooderkerk et al.(2011)の検証と同様に属性を連続値とみなす。

ただし,「価格以外の数値化可能な属性の平均値」を作成する際,各属性で数値の単位が異なる。そのため,属性ごとに数値を平均0,分散1に標準化(背面カメラはカメラレンズ数(2,3),ビデオ/音楽再生時間は両再生時間の合計(82,83,100)を使用)した10)。なお,標準化したものの平均をとる際には,①単純平均,②文脈効果を含まない解析結果から,価格以外の数値化可能な属性のみで計算した相対的重要度に基づき加重平均,の2通りが考えられる。②では,文脈効果を含まないCBCの事後平均から価格以外の数値化可能な4属性での相対的重要度を計算して加重平均をとった。

次に,「端末価格」は安価(数値が小さい)ほど望ましいため,価格を標準化後に-1の積をとった。以上の方法により2次元に縮約したうえで,Rooderkerk et al.(2011)の方法で魅力効果,妥協効果,類似性効果の3つの変数に関する距離計算をしている(詳細は付録を参照)。ただし,Rooderkerk et al.(2011)は,正則化11)した文脈効果変数を用いて推定を行っている。本研究では,正則化の影響も検証するために,数値化可能な属性の単純平均/加重平均と正則/非正則の組み合わせで4通りの文脈効果変数を作成する。なお,魅力効果変数の作成に関連して今回の検証における24試行のうち,魅力効果の支配関係にある選択肢セットが単純平均12試行・加重平均9試行,ある選択肢が他の2肢から支配される選択肢セットが単純平均7試行・加重平均10試行,ある選択肢が他の2肢を支配する選択肢セットが単純平均10試行・加重平均12試行あった(これらの距離計算は付録式A.4.参照)。

5  分析結果

以下の各小節では検証目的に基づいて結果を提示するが,共通事項として分析データをランダムに推定用サンプル(in-sample)と予測用サンプル(holdout-sample)の2つに分割し,推定用サンプルのみを用いて母数の推定を行い,予測用サンプルによる予測力の検証を行う12)。画像あり条件では推定用サンプル=295,予測用サンプル=120である。画像なし条件では推定用サンプル=289,予測用サンプル=121とした。また,推定用サンプルのうち,実際にiPhoneを購入した追跡サンプルは画像あり条件=87サンプル,画像なし条件=101サンプルであった。

5.1  実験調査データによる部分効用

まず,実験調査の推定用サンプルで画像あり/なし条件ごとにコンジョイント測定によって得られたデータを分析する。分析は,(1)CBC,(2)文脈効果1(単純平均・非正則),(3)文脈効果2(単純平均・正則),(4)文脈効果3(加重平均・非正則),(5)文脈効果4(加重平均・正則)の計5個のモデルを使用する。(1)CBCは,潜在効用(式1)において,文脈効果変数の項であるm=1Mwtjmγimを除いた一般的な条件付きロジットモデルを階層ベイズモデルで表現したモデルで,(2)~(5)は文脈効果変数を用いたモデルである。

5.1.1  モデルの比較,各モデルにおける重要度の変化と文脈効果の生起

母数の推定はMCMC法を用いた。なお,MCMC法は収束後の20,000回のサンプルを利用し13),MCMCの収束判定にはGeweke(1992)の方法を用いた。また,Newton and Raftery(1994)による周辺尤度およびSpiegelhalter, Best, Carlin, and Van Der Linde(2002)による偏差情報量基準(Deviance Information Criterion;DIC),ロジットモデルの的中率(推定用サンプル,予測用サンプル)といったモデル評価14)と相対的重要度を参考情報として表2に示す。相対的重要度は,各属性・水準の部分効用の平均θ-の事後平均を用い,各属性における最大値から最小値を引いたレンジを計算し,各属性のレンジをレンジの合計値で割ることで計算する(Malhotra, 2009照井・佐藤,2012Igari & Takeuchi, 2020)。

表2. モデル評価と相対的重要度
画像あり条件 画像なし条件
CBC 文脈効果1 文脈効果2 文脈効果3 文脈効果4 CBC 文脈効果1 文脈効果2 文脈効果3 文脈効果4
単純平均 加重平均 単純平均 加重平均
非正則 正則 非正則 正則 非正則 正則 非正則 正則
モデル評価
 推定用サンプル
  対数周辺尤度 −4,286.0 −4,394.6 −4,566.7 −4,320.9 −4,295.8 −4,133.6 −4,240.5 −4,104.9 −4,140.9 −4,254.1
  DIC 9,595.8 9,929.3 10,314.6 9,773.3 9,870.0 9,284.2 9,577.5 9,314.4 9,312.0 9,607.3
  的中率 79.6% 79.0% 78.0% 79.2% 79.5% 79.8% 79.3% 80.7% 80.0% 79.0%
 予測用サンプル
  的中率 80.1% 79.4% 78.8% 80.7% 81.2% 79.3% 79.3% 78.2% 79.7% 78.3%
相対的重要度
  画面サイズ 8.7% 4.4% 3.1% 12.9% 8.2% 4.6% 7.9% 4.2% 4.8% 11.2%
  保存容量 27.0% 29.2% 22.2% 17.5% 17.3% 27.4% 22.0% 22.9% 20.3% 19.7%
  背面カメラ 7.4% 1.2% 5.9% 2.3% 4.3% 4.4% 6.9% 5.5% 3.1% 6.3%
  ビデオ/音楽再生時間 1.7% 2.5% 8.1% 7.5% 6.6% 5.5% 9.6% 12.6% 4.5% 7.4%
  カラーバリエーション 0.7% 4.0% 3.4% 2.7% 2.3% 3.5% 2.0% 0.4% 4.4% 4.9%
  端末価格 54.6% 58.6% 57.3% 57.1% 61.3% 54.6% 51.7% 54.2% 62.8% 50.6%

モデル評価では画像あり/画像なし条件いずれも各モデル間で大幅に異なることはなく,各指標で最も良いものは異なっていた。相対的重要度では,全般的に価格が大半を占め,続いて保存容量が17~29%程度を占めていた。画像あり条件の,「ビデオ/音楽再生時間」「カラーバリエーション」「端末価格」ではCBCよりも文脈効果1~4でやや重視度が増加し,「背面カメラ」ではやや低くなる傾向がみられた。一方,画像なし条件で「保存容量」はCBCと比較して,文脈効果1~4ではやや低い結果が得られた。また「画面サイズ」「ビデオ/音楽再生時間」はCBCと同等~若干重視度が上がる傾向が文脈効果1~4でみられた。

次に,コンジョイント分析の分析結果(各属性水準の部分効用の平均θ-)を示すが(表3),部分効用は相対的重要度と類似するため割愛し,ここでは文脈効果変数の結果に焦点を当てる。まず,魅力効果は,画像あり/なし条件のいずれでも全て5%水準でプラス有意な結果が得られた15)。妥協効果は,画像あり/なし条件のいずれも単純平均で数値化可能な属性をまとめた文脈効果1・2が5%水準で有意にプラスとなった。しかし,加重平均で1次元にまとめた文脈効果3・4の画像あり条件と画像なし条件の文脈効果4が有意にマイナスであった。類似性効果も妥協効果と類似した結果であった。

表3. 各属性・水準の部分効用の平均θ-(事後平均・95%信用区間)
CBC 文脈効果1 文脈効果2 文脈効果3 文脈効果4
単純平均 加重平均
非正則 正則 非正則 正則
事後平均 95%信用区間 事後平均 95%信用区間 事後平均 95%信用区間 事後平均 95%信用区間 事後平均 95%信用区間
画像あり条件
 定数項(No選択オプションの部分効用) 0.164 (−0.627,0.955) −0.730 (−1.179,−0.279) * −0.524 (−0.895,−0.155) * −0.507 (−0.996,−0.020) * 1.286 (1.031,1.545) *
 画面サイズ 6.1インチ 0.689 (0.454,0.942) * −0.018 (−0.203,0.169) −0.007 (−0.159,0.135) −0.155 (−0.331,−0.005) * 0.125 (−0.084,0.333)
6.5インチ 0.701 (0.383,1.031) * −0.257 (−0.53,0.013) 0.178 (−0.014,0.364) −0.676 (−0.966,−0.401) * −0.333 (−0.625,−0.044) *
 保存容量 128 GB 1.054 (0.878,1.228) * 0.763 (0.654,0.866) * 0.001 (−0.118,0.113) 0.556 (0.399,0.734) * 0.865 (0.703,1.028) *
256 GB 1.752 (1.493,2.012) * 1.066 (0.910,1.224) * 0.865 (0.737,0.990) * 0.917 (0.731,1.103) * 0.939 (0.788,1.103) *
512 GB 2.180 (1.852,2.502) * 1.691 (1.456,1.933) * 1.316 (1.041,1.588) * 0.542 (0.307,0.776) * 0.968 (0.771,1.161) *
 背面カメラ トリプルカメラ1200万画素 0.598 (0.448,0.747) * 0.071 (−0.059,0.195) −0.347 (−0.494,−0.214) * −0.119 (−0.247,0.003) 0.240 (0.082,0.390) *
 ビデオ/音楽再生時間 18時間/65時間 0.137 (0.037,0.235) * 0.077 (−0.008,0.160) 0.370 (0.300,0.437) * 0.079 (−0.025,0.179) 0.237 (0.102,0.359) *
20時間/80時間 0.103 (−0.016,0.218) −0.070 (−0.245,0.092) −0.109 (−0.227,0.007) 0.391 (0.266,0.504) * 0.369 (0.248,0.484) *
 カラーバリエーション ゴールド/スペース…… −0.054 (−0.156,0.036) 0.234 (0.128,0.349) * −0.200 (−0.319,−0.080) * 0.141 (0.021,0.258) * 0.129 (0.024,0.247) *
 端末価格 89,280円 4.407 (3.851,5.006) * 3.356 (2.944,3.786) * 3.396 (2.912,3.906) * 2.986 (2.551,3.449) * 3.432 (2.910,3.954) *
108,000円 2.967 (2.589,3.368) * 2.162 (1.863,2.469) * 2.611 (2.284,2.947) * 2.396 (2.053,2.765) * 2.682 (2.371,2.990) *
142,560円 0.442 (0.309,0.572) * −0.043 (−0.200,0.111) 0.821 (0.609,1.020) * 0.636 (0.470,0.807) * 0.896 (0.728,1.081) *
 文脈効果 魅力効果 0.435 (0.354,0.519) * 0.429 (0.355,0.504) * 0.513 (0.435,0.592) * 0.675 (0.558,0.795) *
妥協効果 1.199 (0.933,1.462) * 0.422 (0.143,0.698) * −0.198 (−0.324,−0.076) * −0.744 (−1.023,−0.458) *
類似性効果 0.858 (0.750,0.971) * 0.307 (0.206,0.407) * 0.113 (0.006,0.214) * −0.269 (−0.389,−0.150) *
画像なし条件
 定数項(No選択オプションの部分効用) 3.327 (2.699,3.961) * −1.813 (−2.079,−1.572) * −1.657 (−2.157,−1.185) * −0.684 (−1.099,−0.296) * 0.652 (0.310,1.003) *
 画面サイズ 6.1インチ 0.386 (0.236,0.536) * −0.044 (−0.191,0.098) 0.209 (−0.012,0.426) 0.191 (0.045,0.337) * 0.487 (0.330,0.647) *
6.5インチ 0.502 (0.180,0.827) * −0.517 (−0.829,−0.210) * 0.293 (−0.073,0.655) −0.079 (−0.398,0.233) 0.575 (0.291,0.861) *
 保存容量 128 GB 1.700 (1.462,1.949) * 0.538 (0.378,0.702) * 0.632 (0.422,0.856) * 0.585 (0.467,0.710) * 0.420 (0.247,0.590) *
256 GB 2.675 (2.318,3.040) * 1.449 (1.220,1.679) * 1.580 (1.374,1.788) * 1.133 (0.983,1.285) * 0.631 (0.460,0.795) *
512 GB 2.992 (2.601,3.394) * 1.270 (1.028,1.510) * 1.516 (1.176,1.847) * 0.357 (0.159,0.544) * −0.382 (−0.718,−0.051) *
 背面カメラ トリプルカメラ1200万画素 0.478 (0.325,0.619) * −0.456 (−0.608,−0.308) * −0.381 (−0.596,−0.203) * 0.173 (0.016,0.318) * 0.323 (0.170,0.474) *
 ビデオ/音楽再生時間 18時間/65時間 0.598 (0.489,0.711) * 0.214 (0.156,0.268) * 0.088 (0.007,0.175) * 0.252 (0.137,0.370) * 0.329 (0.237,0.422) *
20時間/80時間 0.582 (0.443,0.740) * −0.417 (−0.590,−0.258) * −0.784 (−0.960,−0.608) * 0.096 (−0.061,0.243) −0.052 (−0.174,0.071)
 カラーバリエーション ゴールド/スペース…… 0.385 (0.292,0.493) * 0.129 (0.057,0.197) * 0.030 (−0.065,0.120) 0.247 (0.177,0.319) * 0.251 (0.161,0.355) *
 端末価格 89,280円 5.962 (5.234,6.700) * 3.170 (2.791,3.565) * 3.737 (3.270,4.222) * 3.498 (3.037,3.969) * 2.600 (2.251,2.952) *
108,000円 4.224 (3.708,4.739) * 1.712 (1.465,1.965) * 2.402 (2.127,2.695) * 2.346 (2.035,2.675) * 1.624 (1.418,1.837) *
142,560円 1.849 (1.567,2.139) * −0.238 (−0.474,−0.002) * 0.327 (0.156,0.508) * 0.341 (0.104,0.586) * 0.272 (0.115,0.430) *
 文脈効果 魅力効果 0.717 (0.601,0.835) * 0.739 (0.594,0.890) * 0.543 (0.460,0.628) * 1.010 (0.860,1.166) *
妥協効果 0.974 (0.789,1.161) * 1.172 (0.955,1.397) * −0.005 (−0.183,0.170) −1.124 (−1.327,−0.925) *
類似性効果 0.284 (0.204,0.360) * 0.119 (0.030,0.222) * −0.404 (−0.529,−0.289) * −0.484 (−0.565,−0.395) *

※“*”は,95%ベイズ信用区間より5%有意なものを表している。 カラーバリエーションの水準は文字が多いため10字以降を省略している。

すなわち,文脈効果1・2ではいずれの文脈効果変数もRooderkerk et al.(2011)で想定していた符号と同様の結果が3属性以上でも得られたといえる。一方で,文脈効果3・4では魅力効果は想定された符号と同様だったが,妥協効果と類似性効果では多くが逆の符号となった。符号の変化が生じた理由に属性を1次元にまとめる際の単純平均か,加重平均かで選択肢セット間の距離の関係が異なってしまったことが影響したためと考えられるが,これに関しては最終節の今後の課題で議論する。しかし,本研究は文脈効果の係数をバイアスとして捉え,それを除去することに関心がある。実際,文脈効果を組み込んだ手法は,相対的重要度がCBCと比較して一部の属性で類似する傾向も示しているため,選択肢セット間の関係によって生じる選好変化を文脈効果変数が吸収することで,部分効用を変化させている可能性がある。

以上の内容をまとめると,RQ1に対して,3属性以上の選択型コンジョイントの質問における選択行動では特に魅力効果を中心に,選択肢セットの関係によって選択行動に影響を与えるといった文脈依存的な効果が生じ,それにより相対的重要度や部分効用に変化が生じることを示唆するものであった。しかし,文脈効果を組み込んだ手法を中心に,性能やスペックが上昇するにつれて部分効用が増加するといった選好の単調性を満たさない箇所がいくつか生じていた。選好の単調性は(Rooderkerk et al.(2011)でも一部満たしていないものの)文脈効果の前提となることから注意が必要である16)

5.1.2  画像の有無による文脈効果の生起具合の変化

次に,文脈効果変数の結果について,画像あり/なし条件間の比較を行う(表3)。魅力効果の文脈効果1,2,4の係数について,画像なし条件の事後平均が画像あり条件のそれよりも大きく,信用区間も重ならなかった。文脈効果3では信用区間は重なるものの事後平均自体は画像なし条件のほうがやや大きかった。

一方で,妥協効果では,加重平均と単純平均によって符号が異なることもあり,明確な傾向を見出すことはできなかった。類似性効果は,画像あり条件の事後平均の方が画像なし条件よりも高い傾向にあったが,こちらも5.1.1節で説明しているように加重平均と単純平均では符号が主に異なることから明確な結果とまでは言い難い。

以上より,(RQ3の一部にあたる)画像有無による文脈効果の生起具合の変化に関して,先行研究(e.g., Frederick et al., 2014Yang & Lynn, 2014)と同様に魅力効果で異なることを,コンジョイント分析の係数からも例証した。

5.2  追跡サンプルによる実購買予測

最後に,被験者が実際に購入した商品とコンジョイント測定で得られた個人別の部分効用から得られた予測購入商品との一致率(実購買予測精度)をモデル別で比較する。なお,文脈効果が回答バイアスとして生じる場合,文脈効果変数で統制することがより正確な部分効用を得ることにつながる。そのため,購買の予測に関しては文脈効果変数の項m=1Mwtjmγimを用いず,被験者ごとのiPhone 11シリーズの各機種(計9機種)の全体効用を設定した水準の部分効用から計算し17),最も高い全体効用となった1機種を予測購買商品とした。

追跡サンプルによる予測購買と実購買の一致率を表4に示す18)。なお,実際の選択肢は9機種あるため,チャンスレベルは11.1%となる。まず,画像あり条件で文脈効果1~4の一致率は,CBCの20.7%と比較して一部でやや高くなる傾向もみられたものの有意差は見られなかった。一方で画像なし条件では,CBCの一致率19.8%に対して,文脈効果1・4で32.7%,33.7%と5%水準で有意に高かった。文脈効果2・3も両方29.7%(p = .052)で,ほぼ5%に届く水準でCBCからの予測精度の改善がみられた。

表4. 追跡サンプルによる予測購買商品と実購買商品の一致率
画像あり条件 画像なし条件
一致率 p 一致率 p
CBC 20.7% 19.8%
文脈効果1 19.5% 0.575 32.7% 0.019*
文脈効果2 27.6% 0.144 29.7% 0.052
文脈効果3 23.0% 0.357 29.7% 0.052
文脈効果4 24.1% 0.293 33.7% 0.013*
(参考)チャンスレベル 11.1% 11.1%

p < 0.10,*:p < 0.05(片側検定)。それぞれCBCを基準とした母比率の差の検定。

本小節の結果から,RQ2及びRQ3の一部の検証意図に対して,文脈効果を考慮することで選択型コンジョイントの調査精度の改善につながることが画像なし条件で例証された。そして,一連の分析結果に基づくと,実購買における選択行動では文脈効果は生じにくいものの,選択型コンジョイントを含む選択法を用いた調査では特に商品画像を提示しない場合に魅力効果が強く生じるなどの文脈効果の影響を受けやすくなる可能性があるため,実購買とコンジョイント測定の結果には乖離が生じることを示唆している。そのため,選択型コンジョイントでより精度の高い部分効用を得るためには,文脈効果を考慮した解析を行う必要がある。

6  まとめ

選択型コンジョイントで得られる部分効用には,文脈効果に起因する回答バイアスが含まれている可能性が既存研究の知見(e.g., Frederick et al., 2014 Huber et al., 2014Diels & Müller, 2013)から推測される。また,文脈効果を考慮したコンジョイントモデルが提案されているものの(e.g., Rooderkerk et al., 2011),3属性以上のコンジョイントデザインでの支配関係の特定に関する課題,実購買との比較がなされていないといった課題もある。本研究では,文脈効果変数を作成するために,3属性以上の場合に文脈効果の想定する2次元へと縮約する方法を提案した。更に,3属性以上のコンジョイント分析で文脈効果が生じるか,文脈効果を考慮した分析手法が階層ベイズを用いた従来手法よりも高い実購買予測精度となるのかを検証した。また,知覚情報が魅力効果の生起に影響するため(Frederick et al., 2014Yang & Lynn, 2014),商品画像の有無で文脈効果の生起や予測精度が変化するかも検証した。

分析結果より,3属性以上でも魅力効果が頑健に観測された。更に,商品画像を提示しない場合,提示する場合よりも,強く魅力効果が生じることも把握された。妥協効果や類似性効果は2次元への縮約の仕方によって係数の符号が変化したが,いずれにしても回答時の選択行動に影響を与えることをうかがわせた。更に,商品画像を提示しない場合,文脈効果変数を加えた全ての手法で,予測した購買商品は,従来手法のそれと比較して,実購買商品とより高い一致をみた。一方,商品画像を提示した場合での予測精度の向上は認められなかった。

これらの結果は,選択型コンジョイントの調査回答でも文脈効果が生じやすく,一方で実際の商品選択では文脈効果が生じにくいといった既存研究の知見から推測されたものと整合する。加えて,本研究は,調査で文脈効果が生じる恐れのある場合に,回答バイアスとしてのこうした効果の影響を軽減することで,予測精度が高まることを例証している。

研究知見の実務へのインプリケーションとして,選択型コンジョイントは商品開発実務でも使用されるが,特に仮想商品やサービスで画像を使用しない(使用できない)といった状況下では,文脈効果を考慮した手法を使用して文脈効果にかかわる回答バイアスを制御すべきである。3属性以上で文脈効果変数を作成するために価格と性能機能の2属性に縮約する方法を提案したが,特に性能機能に関する属性の連続値を標準化後に単純平均する方法は実務での利用も容易なはずである。

本研究に残された課題を議論する。まず,文脈効果を組み込んだコンジョイント分析の将来研究を述べる。本研究は魅力効果,妥協効果,類似性効果を扱ったが,その他に背景対比効果(Simonson & Tversky, 1992)や幻効果(Platkanis & Farquhar, 1992)などがあり,これらも今後考慮することが必要であろう。また今後は別商品での検証を行うなかで一般化を図り,文脈効果が回答バイアスとなりやすいカテゴリを把握していく必要もある。

次に,今回の検証において妥協効果や類似性効果は単純平均(文脈効果1・2)で正,加重平均(文脈効果3・4)で主に負の符号となった理由と課題を考察する。加重平均は,単純平均と比較して,保存容量が強く考慮され他の性能機能の属性はさほど影響しない枠組みで各文脈効果変数が設定された。そのため,価格と保存容量の2属性により注目したものとなった。文脈効果と二重過程理論の関連において,妥協効果はシステム2でより促進されることが指摘されている(e.g., Pocheptsova, Amir, Dhar, & Baumeister, 2009Dhar & Gorlin, 2013Lichters, Brunnlieb, Nave, Sarstedt, & Vogt, 201619)。この場合,価格と保存容量といった少数の属性のみに注意を向けるといったシステム1の処理による志向を妥協効果変数が特に捉えたため,負の係数になった可能性がある。一方で,単純平均はすべての属性を等しく考慮しているため,システム2による処理に基づく志向を妥協効果変数がより捉えることで正の係数になった可能性がある。この場合,類似性効果もシステム2と関連している可能性がある。それ以外に,妥協効果や類似性効果は様々な実験条件や選択環境の変化によって生じにくくなる,変化することも指摘されてきた(e.g., Chang & Liu, 2008Müller et al., 2012Diels & Müller, 2013Cataldo & Cohen, 2018)。そうした場合,特に保存容量の水準の設定によって文脈効果の生起具合が変化した可能性や,3属性以上における文脈効果の生起と関連している可能性もある。今後,こうした点について明らかにしていくことが求められる。

謝辞

本研究を実施するにあたり,文脈効果変数の作成に関する数学的な計算について,株式会社Synspective・高畑圭佑氏,立命館大学経済学部・須佐大樹先生にご助言をいただきました。また,本論文の改稿にあたり,アリア・エディター及び2名の匿名の査読者の先生方より大変有益なご指摘を多数いただきました。この場を借りて深く御礼申し上げます。

なお,本研究は科学研究費(19K13826/19K20890/ 20K13624)による助成を受けております。

1)  Wu and Cosguner(2020)もダイヤモンドを対象とした理由に,リピート購入がなく,商品属性数が少ないなどを挙げており,恣意的に商品カテゴリを選択していると言わざるをえない。それ以外にもGu, Kannan, and Ma(2018)が電子書籍と紙の書籍を組み合わせた書籍販売のフリーミアム戦略に関するフィールド実験で魅力効果や妥協効果が生じることを見出しているが,やはり一般的な商品とは大きく異なる特殊なオンラインでの販売環境や戦略下で得られた結果でしかない。

2)  既存研究でもスマートフォンもしくはタブレット端末といった関連するカテゴリでコンジョイント分析や類似した分析が行われた例がある(竹内・星野,20152017Schlereth & Skiera, 2017Bechler, Steinhardt, Mackert, & Klein, 2021)。また,今回対象とするiPhoneはNTTドコモ,au,Softbankといったキャリアを中心として販売され,各社のオンラインショップで端末価格が明示されていた。SIMフリー端末も著者らが把握する限り,Apple社(https://www.apple.com/jp/)のオンラインストアで端末価格が提示されていた。また,消費者が普段から使用するとともに,文脈効果の検証にも類似の商品カテゴリが利用されていることからも妥当な検証対象と判断した(e.g., Chernev, 2005Goukens, Dewitte, & Warlop, 2009)。

3)  選択型コンジョイントに回答する前に,被験者は前提条件として,記載以外のスペックなどは共通であること,選択した商品のカラーバリエーションから1つ選べると考えること,端末価格はキャリア独自の割引が実施される前の税込み価格で,機種変更等の事務手数料が含まれないことなどの説明を文章で示された。

4)  調査開始前の2019年12月9日時点の各キャリアやApple社のオンラインショップでの価格情報を確認し,調査に使用した価格と大差ないことを確認している。なお,筆者らは,その後各オンラインショップの価格を2週間に1回程度の頻度で調査したが,iPhone 11シリーズの端末価格はキャンペーンによる実質負担金の変更等はあったものの,ほぼ変化していない。

5)  今回の属性と水準では4水準2つ,3水準が2つ,2水準が1つであることから,L16直交表上では4水準を4つ,2水準を1つとした組み合わせの直交表を使用した。そして,4水準と2水準の属性はそのまま直交表に割り付けた。3水準のものは4水準パターンを使用して,一部の水準(例えば画面サイズの6.1インチ)を2水準分に割り当てることで4水準のものに3水準を割り付けている。

6)  (式1)では属性数はKとしているが,付録の文脈効果変数の作成では,属性数は(式1)と区別してK*と表記している。価格と数値化可能なそれ以外の属性(画面サイズ,保存容量,背面カメラ,ビデオ/音楽再生時間)の2属性に縮約されているためK* = 2となる。

7)  βiklkについては,価格以外の属性は最も低い水準を,価格に関しては最も高い水準を基準カテゴリとして0と固定し,基準カテゴリに対応するβiklkについては推定対象としない。

8)  母数θ-およびVθについては,実質的に無情報事前分布となるようにフラットな事前分布を設定する。今回のモデルでは,θ-およびVθの事後分布は良く知られた形をしているため,Gibbs Samplingを利用する。一方で,θiの事後分布は良く知られた形をしていないため,Metropolis-Hastings Algorithmに置き換えたメトロポリスを伴うギブス法(Metropolis-within-Gibbs;Geweke, Koop, & Van Dijk, 2011)を利用する。ベイズ推定およびMCMC法については,Gelman et al.(2013)Rossi, Allenby, and McCulloch(2005)照井(2008)などを参照されたい。

9)  実際,部分効用から得られた相対的重要度は価格がおよそ5割,性能・機能関係が5割であったことからも(表2),価格と性能・機能で2次元に落とし込むことが適当と判断できる。

10)  Rooderkerk et al.(2011)では属性の縮約は行われないため,標準化は行われていない。

11)  正則化はRooderkerk et al.(2011)でnormalizationと述べているものを指している。正則化では,各選択肢セットのなかで各文脈効果変数の距離の最大を1と揃えることによって,異なる選択肢セット間のスケールをあわせている(詳細は付録を参照)。

12)  本研究では,同じ対象者の中で選択試行の前後半で推定用・予測用に分割するのではなく,推定用サンプルと予測用サンプルのどちらかに対象者をランダムに割り振る形で検証を行った。このような形を採用した理由としては,選択肢セットによって文脈効果が生じやすいものと,生じにくいものが混在しているため,どの選択肢セットを予測用に設定するかによって,結果が大きく異なることが推察されるためである。

なお,in-sampleでは,個人別の係数ベクトルθiの事後平均θ^imeanを用いて選択確率pyi=jθ^imeanを計算し,選択確率が最大の選択肢を予測値として実測値と比較して的中率を計算した。一方で,holdout-sampleにおける予測確率は

pyiθ-,Vθ=pyiθipθiyi,θ-,Vθdθi

により計算した。ここで,yiは対象者iの選択データベクトルを指す。実際には積分はMetropolis-Hastings Algorithmを用いてシミュレーションで計算する。具体的には,構造パラメータθ-,Vθyiを所与として個人別の係数ベクトルθiを発生し,そのθiを用いてyiの予測確率を計算した。全てのモデルで平等に,この方法を用いてholdout-sampleの選択確率を計算した。また,選択確率が最大のものを予測値として,実測値と比較して的中率を計算した。

13)  MCMCの回数は,基本は全体で6万回,うち最初の4万回をburn-in期間として設定している。しかし,6万回で収束していなかったモデルについては,MCMCの回数を増やして対応した。

14)  対数周辺尤度および的中率は値が大きい方がモデルの当てはまりが良く,DICでは値が小さい方がモデルの当てはまりが良い。

15)  サンプリングしたMCMC標本の順位統計量を用いてベイズ信用区間を計算し,信用区間に0を含んでいない場合に有意とする(e.g.,伊庭他,2005)。

16)  文脈効果変数を作成する際には,属性内でより好ましいと想定される水準ほど部分効用の値が大きくなるといった選好の単調性を満たすことが求められる(Rooderkerk et al., 2011)。本研究の検証では,既存の文脈効果研究と同様に,性能的,品質的に優れるほど消費者が選好するという前提のもとで文脈効果変数を作成したものの,価格の部分効用において選好の単調性を一部満たさない結果となった。加えて,価格以外の属性についても,合成変数(付録のxj2*)と,それに該当する部分効用の合計値について全16プロファイルで単調性の確認を実施したが,合計8モデル中,6モデルでは正の関係が見られたが,有意な結果は1モデルしか得られなかった。そのため,価格以外の属性についても単調性を厳密に満たしているとまでは言いづらい。しかし,選好の単調性を明示的にモデルに盛り込んだSharpe et al.(2008)の方法も実施したが,推定エラーにより適切な推定結果が得られなかった。Rooderkerk et al.(2011)でも厳密には選好の単調性は満たしていないことからも,実際にコンジョイント分析への適用で選好の単調性を厳密に満たすことは難しいことがうかがえる。こうした課題はあるものの,本検証で実購買予測精度が向上していることから文脈効果を考慮することの実際的な意義は損なわれるものではない。

17)  各機種の全体効用の計算方法は竹内・星野(20152017)に基づく(価格は,竹内・星野(2017)と同様に,3次関数を用いて内挿・外挿している。すなわち,価格の部分効用が仮に89,280円:4.407,108,000円:2.967,142,560円:0.442,187680円:0(基準)として3次関数(y = a + bx + cx2 + dx3)に当てはめた場合,例えば85,000円で4.702,120,000円で2.010と推定できる)。また,今回の検証では直交表の制約から,カラーはカラーバリエーションとしてしか聴取していない。そのため,カラーは「ブラック/グリーン/イエロー/レッド/ホワイト/パープル」と「ゴールド/スペースグレイ/シルバー/ミッドナイトグリーン」というカラーバリエーションレベルで機種を統合した(例えば,性能・機能が同一でブラックとイエローの違いしかないiPhoneは同一機種とみなす)。そのため,本研究でのiPhone 11シリーズの区別は全9機種であった。

18)  文脈効果を考慮した手法は,従来のCBCよりも精度を高めることを目的に検討,検証されている。そのため,ここでの母比率の差の検定は,帰無仮説をCBCの一致率と文脈効果1・2・3・4の一致率が等しいと置き,対立仮説を文脈効果1・2・3・4の一致率がCBCの一致率よりも高いと置いた片側検定を用いる(実購買との予測精度を検証した竹内・星野(2015)でも同様に片側検定を用いている)。

19)  二重過程理論では個人の情報処理過程としてシステム1とシステム2を想定している。システム1は主に直観的な認知,連想的,相対的に高速な処理,システム2は主に分析的な認知,ルールに基づく,相対的に低速な処理を指す(e.g., Stanovich, 1999Hammond, 1996)。

A1)  VprefStに直交するベクトルは無数に存在するため,VposStは一意に定まらない。しかし選択肢間のベクトルをVposStに射影したベクトルの大きさの計算が目的であるため,実際にはVposStは計算せず,(式A8)のようにベクトルの交わる角度を利用して計算する。

A2)  (式A5)および(式A6)では,ベクトルjj'を選好ベクトルに射影した大きさ(djj'(pref)St)の計算が前提であるため,内積Vjj'StVprefStは絶対値をつけて計算する。

付録 文脈効果変数の作成

A.1.  選好ベクトルとポジショニングベクトル

文脈効果変数の作成を紹介する。本稿の文脈効果変数の作成方法は,Rooderkerk et al.(2011)に準拠している。t回目の提示における選択セットをSt,選択肢をjStとする。各プロファイルにおいて,価格と数値化可能なその他の2つの属性k(k = 1, ..., K*)における水準lk(lk = 1, 2, ..., Lk)を持つと考える。以後は,K* = 2で式を展開する。

初めに選択セットStの選好ベクトルVprefStを考える。選好ベクトルの各水準は,0から離れるほど選好が高いと判断する。選好ベクトルは,選択セットStにおける属性kの水準の最大値xjkmax=maxjStxjk*から最小値xjkmin=minjStxjk*を引いて計算する。

  
VprefSt=xj1max-xj1min,xj2max-xj2min.(式A1)

ここで,xj1*は価格を標準化した後に−1の積を取った値である。一方で,xj2*は価格以外の数値化可能な4属性のそれぞれの標準化変量zjq*を加重平均したものであり,xj2*=q=14ωqzjq*となる。ここで,ωqは属性qにおけるウエイトであり,文脈効果1・2(単純平均)では全てのウエイトを等しくωq = 1/4(q = 1, 2, 3, 4)とし,文脈効果3・4(加重平均)では,ωqは文脈効果を含まないCBCで推定した部分効用の事後平均に基づき,価格以外の数値化可能な4属性での相対的重要度を計算して用いる。

次に,選好ベクトルVprefStに直交するポジショニングベクトルVposStを考えるA1)。ここで,イメージを図A1(a)に示す。

A.2.  妥協効果変数の作成

まず,妥協効果変数Wtj(com)を作成する。はじめに,選択セットStにおける各属性の中間点Mの属性値xMk*を計算する。

  
xMk*=xjkmin+xjkmax2, k=1,,K*.(式A2)

妥協効果では,中間点に近いほどより利益が得られる。そのため,選択肢jの属性の値xjk*と中間点Mの属性値xMk*とのユークリッド距離を計算し,その距離にマイナスをつけて,妥協効果変数Wtj(com)を計算する。

図A1.

文脈効果変数の作成イメージ

  
Wtjcom=-k=1K*xjk*-xMk*2.(式A3)

さらに,正則化した妥協効果変数は(式A3)を各選択肢と中間点Mの間の距離の最大値で割ることで計算する。妥協効果の計算イメージを図A(b)に示す。

A.3.  魅力効果変数の作成

次に,魅力効果変数Wtj(att)を作成する。魅力効果変数は,他の選択肢との支配関係を考慮して,選択肢jにおける選択肢j'にとの選好ベクトルの距離を計算する。なお,コンジョイント測定法の実際的な利用場面では各選択肢セットにおいて,ある選択肢が他の複数の選択肢を支配すること,あるいは複数の選択肢から支配されること,また1つの選択肢を支配するが他の1つの選択肢には支配されることもある。複数の選択肢を支配する場合は,支配側の選択肢は被支配側の選択肢との距離に応じてより効用が増加し,逆に複数の選択肢から支配される場合はその選択肢との距離に応じて効用が減少することが想定される。そのため,本研究では支配している選択肢との距離を足し上げ,更に支配されている選択肢との距離は引く形で表現する。

  
Wtjatt=j'j(j'St)Ijj'dominatedjj'(pref)St-Ijj'dominateddjj'(pref)St.(式A4)

ここで,Ijj'dominateは選択肢jが選択肢j'を支配している場合に1を取るダミー変数であり,Ijj'dominatedは選択肢jが選択肢j'に支配されている場合に1を取るダミー変数である。(式A4)はRooderkerk et al.(2011)の魅力効果の定義を包含している。また,いずれの選択肢も支配しておらず,また他のいずれの選択肢にも支配されてない場合,Wtj(att) = 0となる。さらに,正則化した魅力化変数は,(式A4)を各選択肢間の距離の最大値で割ることで計算する。魅力効果変数の作成イメージを図A.1(c)に示す。

ここで,djj'(pref)Stを計算するには,ベクトルjj'を選好ベクトルVprefStに射影した長さを求めればよい。具体的には,ベクトルの内積と正射影の計算により

  
djj'(pref)St=cosϕjj',prefStVjj'St=Vjj'StVprefStVprefSt,(式A5)

と計算できるA2)。ここで,Vjj'St=xj'1*-xj1*,xj'2*-xj2*である。また,·はベクトルの内積,ǁ ǁはベクトルのユークリッド距離を表しており,Vjj'St=k=1K*xj'k*-xjk*2となる。また,ϕjj',prefStはベクトルjj'が選好ベクトルVprefStと交わる角度(ラジアン単位)である。

類似性効果変数の作成にϕjj',prefStを用いるため,(式A5)の第2項と第3項を変形し,コサインの逆関数を取ることで計算する。

  
ϕjj',prefSt=cos-1Vjj'StVprefStVjj'StVprefSt.(式A6)

A.4.  類似性効果変数の作成

続いて,類似性変数Wtj(sim)を作成する。類似性効果では,選択肢が似ているほどより不利益を被る。そのため,選択肢jから見て最も似ている選択肢とポジショニングベクトルの距離を計算する。類似性効果変数の作成イメージを図A.1(d)に示す。

類似性効果変数は,選択肢jと選択肢j'とのポジショニングベクトルの最小の距離を計算する。

  
Wtjsim=minj'St,j'jdjj'(pos)St.(式A7)

ここでdjj'(pos)Stは,ベクトルVjj'StをポジショニングベクトルVposStに射影した長さを計算する。

  
djj'(pos)St=sinϕjj',prefStVjj'St.(式A8)

正則化した類似性効果変数は(式A7)を各選択肢間の距離の最大値で割ることで計算する。

参考文献
 
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