2025 年 27 巻 4 号 p. 5-19
本研究の目的は,企業が環境配慮情報を伝達する手段の1つとして製品パッケージ上の環境ラベルに注目し,それが消費者の態度に与える影響を明らかにすることである。従来の環境ラベルは,第三者機関による認証マーク型および企業による独自マーク型が主流であり,これらの有効性について学術的な知見が蓄積されてきた。これに対して昨今,主に低関与製品のパッケージにおいては,新たにQRコードが環境ラベルに利用されている。しかしながら,QRコード型環境ラベルの有効性については十分な検討が行われていない。そこで本研究は,従来の環境ラベルとの有効性を比較するべく,消費者が知覚する「情報の透明性」の概念に着目して,理論仮説の構築と,オンライン実験による分析を行った。分析結果から,QRコード型の環境ラベルは,認証マーク型や独自マーク型よりも消費者の環境配慮情報の透明性の知覚が高まり,その結果として購買意向やブランド態度が向上する可能性が示唆された。
This study examines the impact of environmental labels on product packaging as a means of communicating environmental information and their influence on consumer attitudes. Specifically, it empirically analyzes the effectiveness of traditional third-party certification labels, corporate proprietary labels, and emerging QR code-based labels. Prior research has shown that certification labels positively influence consumer attitudes more than proprietary labels, highlighting the importance of information transparency. QR code-based labels, the focus of this study, allow rapid and easy access to detailed information compared to traditional labels. Experimental results reveal that QR code labels, depending on the product category, are perceived as more transparent information sources than certification labels, leading to higher purchase intentions and more favorable brand attitudes.
本研究は,企業による地球環境に配慮した取り組みに関する情報(以下,環境配慮情報)のコミュニケーション手段の1つとして,「製品パッケージ上の環境ラベル」に焦点を当て,環境ラベルが消費者の購買意向ならびにブランド態度に及ぼす影響を理論的・実証的に検討する。具体的には,環境ラベルの種類として,第三者認証のシンボルマークが付与されたラベル(以下,認証マーク型),企業が独自に作成したシンボルマークが付与されたラベル(以下,独自マーク型),QRコードが付与されたラベル(以下,QRコード型)の3種を取り上げる。とりわけ,本研究の主たる目的は,最近の新たな環境ラベルとして導入が増えているQRコードの有効性を,従来の他の2種の環境ラベルとの比較を通じて明らかにすることにある。以下でははじめに,本研究のモチベーションとして,企業による環境配慮情報のコミュニケーションの課題について概観する。
今日,企業経営ならびに消費行動において,持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた行動変容が求められている。実際に多くの企業は,パッケージ素材の軽量化,製品生産過程で排出されるCO2の削減など,製品・サービスの生産から廃棄に至る過程で,環境負荷の低減ないしは環境保全の推進に資する取り組みを行っている。その活動内容や成果は,多様なタッチポイントを通じて積極的に発信されている(Genç, 2017;Park & Lin, 2020;Testa et al., 2015)。たとえば,製品のパッケージやタグなどに,環境ラベルを付与することで環境配慮製品であることを周知したり,企業のウェブサイトには,環境配慮も含めたSDGs達成への企業の取り組みを紹介する特設ページなどが設けられている。こうした環境に関するコミュニケーション活動は,企業・ブランドに対するイメージや経営成果の向上に寄与するだけでなく,環境に配慮した製品・サービスの購買・利用(いわゆるエシカル消費)を消費者に促すという点で,持続可能な社会の実現に向けた「生産と消費の循環」を作り出すための重要な役割を果たしている(Davis, 1993;Lee et al., 2020)。
他方で消費者に目を向けると,現状では必ずしも,企業が発信する環境配慮情報が消費行動に寄与しているとはいえない。消費者庁は「令和6年度第3回消費生活意識調査」において,エシカル消費(人・社会・地域・環境に配慮した消費行動)について調査を行った1)。それによれば,全体の64%が「エシカル消費につながる行動を実践していない」と回答しており,その最も多い理由として「特に理由はない」(40.7%),その次に「どれがエシカル消費につながる商品やサービスかわからない」(22.1%)が挙げられた。一方で,54.5%の人が,「エシカル消費やSDGsに取り組んでいることが分かる広告を見て,その企業が提供する商品・サービスを購入したいと思う」とも回答している。つまりこれらの調査から,エシカル消費に対する潜在的な意識はあるものの,環境配慮情報の認知の低さが実践に至らない一因であることがうかがえる。
以上の企業と消費者の現状から理解できることは,企業はSDGsに向けた取り組みとその情報発信に努めているにもかかわらず,それが消費者に十分に認知されていないという現実的なギャップが存在するということである。消費者はSDGsに対してある程度の関心があるとはいうものの,実際に製品・サービスを選択する場面で,企業が発信する環境配慮情報に対する意識やその情報を取得するモチベーションは決して高くない。したがって,企業は,できるだけ消費者が目にしやすい形で環境配慮情報を伝達する必要がある。
そこで本研究は,環境負荷低減に資する製品であることを一目で周知する有用な手段として「製品パッケージ上の環境ラベル」に着目する。環境ラベルに関する研究はこれまでにも行われてきたが,その多くは,認証マーク型および独自マーク型の2種類しか扱っていない(e.g., Atkinson & Rosenthal, 2014;Brach et al., 2018;Kikuchi-Uehara et al., 2016)。これに対して本研究は,新たな環境ラベルとして注目されるQRコード型の有効性を解明するべく,消費者が知覚する「情報の透明性」の概念に基づく仮説の提示と,オンライン実験による実証分析を行う。
本研究の構成は次のとおりである。まず次節において,本研究が注目する環境ラベルの類型と研究課題を整理する。そして第3節では,環境ラベルおよび情報の透明性に関する既存研究をレビューし,本研究の仮説を提示する。第4節では,仮説を検証するための2つのオンライン実験の概要と分析結果を示し,第5節において分析結果の考察を述べる。最後に第6節では,本研究の貢献と課題についてまとめる。
環境ラベル(eco-label)とは,製品やサービスがどのように環境負荷低減に資するかという環境パフォーマンスを消費者に伝達するために,パッケージや広告物などに書かれた文言や図形のことを指す2)。パッケージにおける環境ラベルの利点は,シンボリックに情報を提示できる点にあり,小売店頭などの購買場面において,環境配慮情報の視認性を高め,消費者に当該製品の環境配慮の側面を一目で認知させることができる(西尾,2009,p. 191)。
ISO(国際標準化機構)では,環境ラベルを3つのタイプに分類している。すなわち,第三者認証による環境ラベル,事業者の自己宣言による環境主張,製品の環境負荷の定量的データの表示,である。本研究が取り上げる製品パッケージの3種の環境ラベルのうち,「認証マーク型」が第三者認証に,「独自マーク型」が自己宣言による環境主張に,それぞれ相当する。前者は,政府やその他の独立した専門機関によって,当該製品の環境パフォーマンスについて評価および監視が行われているものを指す(Castka & Corbett, 2016;Darnall et al., 2010)。後者は,企業が,自ら設けた基準をもとに環境パフォーマンスを評価し,情報提示しているものを指す(Atkinson & Rosenthal, 2014;Rex & Baumann, 2007)。
これらの環境ラベルの有効性に関して,学術的にも高い関心が寄せられてきた(Atkinson & Rosenthal, 2014;Loureiro et al., 2002;Montoro Rios et al., 2006;Riskos et al., 2021;Sigurdsson et al., 2023;Taufique et al., 2017;Thøgersen, 2000)。そのなかでも主たる研究課題の1つとして注目されてきたのが,認証マーク型と独自マーク型の環境ラベルが,消費者の態度や購買行動にいかなる影響を及ぼすのか,また2種の環境ラベルによってこの影響が異なるのかという点である。既存研究の知見をまとめると,独自マーク型よりも,認証マーク型の方が消費者の態度や購買意図を高めること(Majer et al., 2022),特に,低関与な製品カテゴリーにおいて認証マーク型が有効であること(Atkinson & Rosenthal, 2014)が見出されている。
2.2 問題の所在さて,前項で概説したとおり,従来の製品パッケージ上の環境ラベルには,認証マーク型あるいは独自マーク型のいずれかが主に利用され,既存研究ではこれらの有効性について論じられてきた。これに加えて最近,特に低関与製品のパッケージ(e.g.,湖池屋の「スコーン」,ユーラクの「ブラックサンダー」)において,新たな環境ラベルとして活用されているのがQRコードである(Bashir, 2022;Hay et al., 2024)。これは,独自マーク型と同様に,企業の自己宣言による環境ラベルの一形態として捉えることができる。
従来の独自マーク型のラベルは,企業が環境パフォーマンスを自己宣言によって効果的に訴求するために,その象徴として独自に作成したシンボルマークを表記するものだが,それに代わってQRコードを用いることにより,シンボルマークのみのラベルとは異なるコミュニケーションが可能となる。すなわち,環境配慮製品であることを一目で簡潔に訴求できるという従来の環境ラベルの役割のみならず,消費者がQRコードをスマートフォンなどで読み込めば,パッケージ上の限定的な情報から詳細なウェブ情報へ即座に誘導できる。換言すればQRコード型は,環境配慮情報を積極的に検索しない消費者に対して,当該情報へのより簡便なアクセスを提供することによって,従来のシンボルマークのみの独自マーク型よりも効果的に環境的側面の周知と理解を促すことが期待できるのである。
このようにQRコードは,従来のシンボルマークとは異なる特徴をもったコミュニケーション手段であり,ゆえに,消費者に対して独自マーク型および認証マーク型とは異なる影響を及ぼすと予想される。しかしながら,QRコード型の環境ラベルは,実務的には利用が進んでいるものの,その有効性に関して学術的な検討は未だ十分に行われていない。
かくして本研究は,環境ラベルの種類として,認証マーク型,独自マーク型,QRコード型の3種を取り上げて,その有効性を明らかにする。特に,本研究の主眼は,他の2種の環境ラベルと比較したQRコード型の特長を解明する点にある。そこで,この問題意識にフィットする概念として,「情報の透明性」に着目する。予め本研究の仮説を簡潔に述べると,QRコード型が,他の2種の環境ラベルよりも消費者のブランド態度ならびに購買意向を高めるならば,それは,消費者が知覚する情報の透明性の向上に起因していることを,本研究の主たる主張として提示する。次節において,環境ラベルならびに情報の透明性に関する既存研究を概観し,本研究の仮説を示す。
企業は,消費者が当該企業や製品の環境パフォーマンスを適切に評価できるよう,環境配慮情報の積極的な発信に努めている(Genç, 2017;Park & Lin, 2020;Testa et al., 2015)。この背景にあるのは,一般的に消費者は,企業の環境配慮活動に関する情報を十分に持っていないという,情報の非対称性の問題である(Sun et al., 2021;Tobler et al., 2011)。消費者は,企業が実践する環境配慮活動やそのパフォーマンスを直接観察できないため,十分に情報が提供されなければ,購買局面において企業あるいは個別製品の環境パフォーマンスを評価したり,それをもとに製品やサービスを選択したりすることが困難となる。
このような環境配慮情報における情報の非対称性に対して,既存研究ではシグナリング理論に基づき,企業が環境メッセージを消費者に訴求する重要性が主張されてきた(Spence, 1973;Davis, 1993;Atkinson & Rosenthal, 2014;Gold et al., 2017;Lee et al., 2020;Sun et al., 2021;Sigurdsson et al., 2022)。環境ラベルは,その代表的な手段の1つであり,消費者が環境パフォーマンスを評価するためのシグナルとしての役割を果たしている(Majer et al., 2022;Meis-Harris et al., 2021;Nikolaou & Kazantzidis, 2016)。
3.2 環境ラベルに関する既存研究の知見環境ラベル(eco-label)とは,ある製品やサービスの生産から廃棄に至る過程で,どのような環境負荷低減ないしは環境保全に資する活動がなされているかを消費者に伝達するための手段の1つである(Atkinson & Rosenthal, 2014;Borin et al., 2011;Bougherara & Combris, 2009;Thøgersen, 2000)。消費者は環境ラベルを手がかりとすることで,多くの認知的努力を費やさずとも,各製品やサービスの環境的側面を評価することが可能となる(Meis-Harris et al., 2021;Sigurdsson et al., 2023)。
環境ラベルの提示が消費者の態度および行動に及ぼす影響については数多くの研究が蓄積されている(Atkinson & Rosenthal, 2014;Loureiro et al., 2002;Montoro Rios et al., 2006;Riskos et al., 2021;Sigurdsson et al., 2023;Taufique et al., 2017;Thøgersen, 2000)。具体的には,環境ラベルの提示方法(e.g., Brunner et al., 2018;Donato & Adıgüzel, 2022;Tang et al., 2004)や内容(e.g., Atkinson & Rosenthal, 2014;Chang et al., 2019;Lee et al., 2020),第三者認証か企業による自己宣言かという情報源のタイプ(e.g., Atkinson & Rosenthal, 2014;Brach et al., 2018;Kikuchi-Uehara et al., 2016)などが,消費者の態度や行動に及ぼす影響の違いについて検討が重ねられてきた。
このなかでも本研究と密接に関連しているのは,第三者認証か企業による自己宣言かという情報源のタイプに関する議論である(e.g., Atkinson & Rosenthal, 2014;Brach et al., 2018;Kikuchi-Uehara et al., 2016)。これらは,本研究の認証マーク型と独自マーク型にそれぞれ対応している。既存研究では,一貫して,独自マーク型よりも,認証マーク型の方が,消費者の態度や購買意向を高めることが示されている(Atkinson & Rosenthal, 2014;Brach et al., 2018;Montoro Rios et al., 2006)。そして,この2種の環境ラベルの影響の相違は,環境ラベルの主張に対する信頼性の程度に起因していることが明らかにされてきた(Montoro Rios et al., 2006;O’Rourke, 2005;Taufique et al., 2017;Thøgersen, 2000)。すなわち,企業自らが環境パフォーマンスを評価・主張するよりも,企業とは独立した第三者の専門機関によって客観的な評価を得ているという認証マーク型を,消費者はより高く信頼するのである。たとえば,Montoro Rios et al.(2006)によると,第三者機関が認証した環境ラベルであることを提示すると,消費者からの信頼が高まり,消費者の好意的な態度および購買意向が形成されると示唆されている。
3.3 環境ラベルと情報の透明性に関する本研究の仮説以上で概観したように,既存研究は,独自マーク型と認証マーク型の有効性について検討してきたものの,QRコード型の環境ラベルについては未だ十分に議論されていない。そこで本研究は,これにQRコード型の環境ラベルを加えて,既存研究の議論を拡張するべく,消費者が知覚する情報の透明性に着目する。以下で議論するように,情報の透明性の概念を援用することにより,従来の認証マーク型および独自マーク型に対するQRコード型のコミュニケーション手段としての特徴と,それが消費者の反応に及ぼす影響を対比的に捉えることが可能になる。
情報の透明性とは,企業が行う環境配慮活動に関する情報開示の程度や,その正確性,情報へのアクセスの容易さに対する消費者の知覚を表す概念である(Kim & Lee, 2018;Rawlins, 2008)。言い換えるとこれは,企業の環境配慮活動の実践やその成果を積極的に発信したり,誰もがその情報に容易にアクセスできるよう努めているといったように,「企業によるコミュニケーション努力を消費者がどの程度認識しているか」を捉えるものである。
情報の透明性に関する既存研究では,環境配慮情報だけではなく,CSR活動(e.g., Kim & Lee, 2018)や雇用・労働環境(e.g., Kang & Hustvedt, 2014)など,様々な文脈における情報の透明性の効果が検討されており,消費者による情報の透明性の知覚がポジティブな態度形成に寄与することが明らかにされている。
これらの既存研究には,環境ラベルに関する情報の透明性を検討した研究もいくつか存在する(Castka & Corbett, 2016;Dickson & Eckman, 2008;Dranove & Jin, 2010;Van Amstel et al., 2008)。それによれば,第三者機関による認証マーク型の環境ラベルは,情報の透明性の知覚を高めることが示されている。これは,第三者機関の認証は基準が明確であることに起因する。すなわち,第三者機関による認証は,当該製品の環境パフォーマンスが客観的な基準によって保証されているという点で,正確性の高い情報として消費者に知覚されやすい(Castka & Corbett, 2016;O’Rourke, 2005)。既述のとおり,正確性の高さは,情報の透明性の知覚を形成する要素の1つであり,ゆえに,認証基準が明確であるとは限らない独自マーク型よりも認証マーク型の環境ラベルの方が,消費者の情報の透明性への知覚が高まり,その結果として好ましい態度や行動が形成されると主張されてきたのである(Atkinson & Rosenthal, 2014;Taufique et al., 2017)。
一方で既存研究では,環境ラベルが,製品やサービスの環境パフォーマンスに関する企業と消費者間の情報の非対称性解消に有益であるものの,従来の認証マーク型および独自マーク型の環境ラベルに対しては,シンボルマークを媒体とするコミュニケーションであるがゆえの課題もしばしば指摘されてきた。それというのは,(1)環境ラベル上では提示できる情報量が非常に限定されるため,当該環境ラベルの認証基準や.当該製品やサービスが環境に与える影響の程度についての情報を十分に提供できないうえに,(2)情報の受け手である消費者がこれらの環境ラベルに付随する詳細な情報へのアクセスが困難であることによって,むしろ情報の透明性が低い印象を与えてしまう可能性がある,という課題である(Castka & Corbett, 2016;Van Amstel et al., 2008)。この問題は,単に第三者機関の認証であるか否かといった情報の正確性についてだけではなく,認証に関連する環境配慮情報の開示や,その情報へのアクセスの容易さが,消費者の情報の透明性の知覚を左右する重要な要素であることを意味している(Dranove & Jin, 2010)。
以上の議論を踏まえ,本研究が注目する3種類の環境ラベルの特徴に照らして,消費者の情報の透明性の知覚を比較すると,次のように整理できる。まず,情報の正確性という観点では,既存研究が主張するように,第三者認証による客観的な基準を満たしている認証マーク型は,企業の自己宣言に基づく独自マーク型ないしはQRコード型よりも,情報の透明性の知覚を高めると考えられる。一方で,環境配慮情報へのアクセス性および情報開示の程度という観点では,従来の認証マーク型や独自マーク型よりも,QRコード型の環境ラベルの方が秀でていると考えられる。なぜなら,シンボルマークを主体とするコミュニケーションとは異なり,QRコード型の環境ラベルは,当該製品を手に取った消費者に対して,製品のパッケージからシームレスかつ容易な環境配慮情報へのアクセスを提供できるコミュニケーションだからである(Bashir, 2022;Hay et al., 2024)。
なお,消費者がQRコードを通じて情報を取得するためにはスマートフォンなどのデバイスを使用してQRコードを読み込む手間が生じる。2010年代前半以前のQRコードに関する研究では,対応するデバイスが限られている点や適切なソフトウェアを使用しなければ読み取れない点が消費者のQRコード利用を阻害する要因として指摘されていた(Shin et al., 2012)。しかし,近年においては,QRコードを読み込むための主要なデバイスであるスマートフォンの普及率は97%を超えており3),なおかつ消費者は,企業のWebサイトへの誘導だけではなくクーポンの取得,キャッシュレス決済,飲食店での注文といった日常のさまざまなシーンでQRコードを利用する機会が増えている。これらの状況を踏まえると,現代においては,多くの消費者はQRコードを読み込む動作に慣れ親しんでおり,以前よりもQRコードを利用することが身近かつ容易であると考えられる。
したがって,QRコードが持つコミュニケーション手段としての特徴とそれを利用する消費者側の意識や利用環境の変化を照らし合わせれば,認証マーク型や独自マーク型よりもQRコード型の環境ラベルの方が,「企業は環境配慮情報の積極的なコミュニケーションに努めている」という消費者の知覚に寄与しやすいものと予想される。既述のとおり,消費者が知覚する情報の透明性とは,情報の正確性のみならず,情報開示の程度や情報へのアクセスの容易さも含めた企業のコミュニケーション努力に対する包括的な評価である(Kim & Lee, 2018;Rawlins, 2008)。企業が外部に開示する環境配慮情報の入口としてQRコード型の環境ラベルを製品パッケージに付与することによって,当該製品を手に取る消費者へ,積極的な情報開示の姿勢を明示し,情報探索コストを大幅に軽減するアクセスの簡便さを提供することが可能になるため,消費者の情報の透明性の知覚が高まると考えられる。
以上で議論してきたように,製品パッケージに付与されたQRコード型の環境ラベルは,他の2種に比べて,知覚される情報の透明性が高まるため,当該製品へのブランド態度および購買意向を向上させる,というのが本研究の主張である。よって,以下のとおり仮説を設定した。
仮説1:環境ラベルに対する消費者の情報の透明性の知覚は,認証マーク型および独自マーク型よりもQRコード型の方が高い。
仮説2a:製品パッケージ上の環境ラベルに対する消費者の情報の透明性の知覚は,当該製品に対するブランド態度を高める。
仮説2b:製品パッケージ上の環境ラベルに対する消費者の情報の透明性の知覚は,当該製品に対する購買意向を高める。
仮説3a:環境ラベルが情報の透明性の知覚を媒介してブランド態度に及ぼす正の影響は,認証マーク型および独自マーク型よりもQRコード型の方が強い。
仮説3b:環境ラベルが情報の透明性を媒介して購買意向に及ぼす正の影響は,認証マーク型および独自マーク型よりもQRコード型の方が強い。
本節では,仮説の妥当性を経験的に検証するべく,オンライン実験を実施する。
実験には,QRコード型も含めた環境ラベルの利用が進んでいる低関与製品のパッケージを題材として選定した。低関与製品のなかでも,製品カテゴリーごとに異なる効果が観察される可能性を考慮して,洗濯洗剤とチョコレート菓子の2種を題材に,それぞれ架空の製品パッケージと環境ラベルの画像を作成した(Appendix参照)。環境ラベルは,認証マーク型,独自マーク型,QRコード型,の3パターンのラベルを作成し,いずれか1つを製品パッケージに付与した。
インターネット調査にはクラウドソーシング・サービス(クラウドワークス)を利用した。洗濯洗剤を題材とする実験Iは,2024年11月に実施され,一般消費者304名が参加した。チョコレート菓子を題材とする実験IIは,2024年11月に実施され,一般消費者357名が参加した4)。なお調査では,回答者の注意力をチェックする質問項目などを設定し,説明文や質問項目を読んでいないと判断される参加者の回答を除外した。最終的な有効回答数は,実験I・227名(男性114名,女性113名,平均年齢41.78歳),実験II・249名(男性112名,女性137名,平均年齢42.61歳)であった。
各実験では,まず参加者は,3つのグループにランダムに振り分けられ,それぞれのグループに応じた製品パッケージと環境ラベル(認証マーク,独自マーク,QRコード)の画像および環境ラベルに関する説明文が提示された。その後,表1に示す各質問項目に回答してもらった。
質問項目 | 実験I | 実験II | ||
---|---|---|---|---|
平均値 | 標準偏差 | 平均値 | 標準偏差 | |
購入意向(Atkinson & Rosenthal, 2014) | ||||
この商品を購入したいと思いますか。 | 4.21 | 1.18 | 4.56 | 1.06 |
ブランド態度(Mitchell & Olson, 1981) (実験I:α = 0.93,CR = 0.90,AVE = 0.69) (実験II:α = 0.93,CR = 0.91,AVE = 0.71) |
||||
嫌い-好き | 4.93 | 1.04 | 5.22 | 1.00 |
悪い-良い | 4.62 | 0.97 | 4.98 | 0.98 |
望ましくない-望ましい | 5.01 | 1.13 | 5.34 | 1.08 |
否定的-肯定的 | 4.96 | 1.18 | 5.22 | 1.04 |
透明性(Rawlins(2008)を参考に作成) (実験I:α = 0.91,CR = 0.88,AVE = 0.55) (実験II:α = 0.89,CR = 0.86,AVE = 0.52) |
||||
この企業は,人々が当該商品の環境配慮の側面を十分理解したうえで購入するのに役立つ情報を提供している。 | 4.88 | 1.30 | 5.16 | 1.21 |
この企業は,環境配慮の取り組みについての説明責任を果たすことを望んでいる。 | 5.10 | 1.27 | 5.23 | 1.18 |
この企業は,どのような環境配慮の取り組みを行っているのかを人々が知ることを望んでいる。 | 5.13 | 1.39 | 5.41 | 1.29 |
この企業は,環境配慮の取り組みに関する詳細な情報を提供している。 | 4.48 | 1.55 | 4.80 | 1.47 |
この企業の環境配慮の取り組みに関する情報を簡単に見つけることができる。 | 4.44 | 1.53 | 4.65 | 1.42 |
この企業は,環境配慮の取り組みに関する正確な情報を提供している。 | 4.51 | 1.30 | 4.57 | 1.19 |
測定に用いた尺度と記述統計は,表1に示したとおりである。
従属変数として,製品の購買意向およびブランド態度(4項目)をそれぞれ7点尺度で測定した。独立変数である環境ラベルのパターンについては,認証マークをベースラインとして,独自マークおよびQRコードのダミー変数をそれぞれ作成した。
媒介変数である透明性の測定尺度として,Rawlins(2008)で用いられた尺度のうち,本研究が対象とする環境配慮の文脈に関連する6つの質問項目を翻訳・修正したうえで5),それぞれ7点尺度で測定した。情報の透明性に着目した既存研究は数多くあるものの,それぞれの研究の文脈に応じた概念的な定義や測定尺度が用いられており,必ずしも一貫した定義付けがなされていないのが現状である。透明性の尺度開発を行った代表的な研究の1つであるRawlins(2008)は,「情報の受け手が,透明性を持たせるための企業側(送り手側)のコミュニケーション努力をどの程度認識しているか」という観点から透明性を捉え,受け手に知覚された透明性を測るための尺度を開発している。本研究においても,製品パッケージに付与された環境ラベルの種類に応じて,消費者が知覚する情報の透明性が変化するという点に着目しており,Rawlins(2008)の定義と一致する。よって,Rawlins(2008)の尺度を採用することとし,本研究の環境配慮情報の文脈を加味して一部修正を施している。
以上の構成概念の測定の妥当性を確認するため,ブランド態度4項目および透明性6項目について確認的因子分析を行った。実験I(χ2/d.f. = 118.12,RMR = 0.09,GFI = 0.89,AGFI = 0.83,NFI = 0.93,CFI = 0.95,RMSEA = 0.10)と実験II(χ2/d.f. = 125.99,RMR = 0.07,GFI = 0.90,AGFI = 0.85,NFI = 0.93,CFI = 0.95,RMSEA = 0.10)の適合度指標の結果から,両方のモデル適合度には大きな問題がないと判断した。さらに,尺度の合成信頼性および収束妥当性については,クロンバックのα係数およびCR(Composite Reliability)が推奨基準の0.7以上を満たしていること,AVE(Average Variance Extracted)についても推奨基準の0.5 以上を満たしていることが,それぞれ確認された(Bagozzi & Yi, 1988;Fornell & Larcker, 1981)。
4.3 分析結果 4.3.1 多重比較はじめに,環境ラベルの種類が情報の透明性の知覚に与える影響(仮説1)を確認するため,Bonferroni法による多重比較を行った。Bonferroni法は,3群以上の平均値の比較において問題視される検定の多重性に対処するための有意水準の調整方法の1種である。この方法では各群間のt検定の有意水準は,通常の有意水準α(0.05)をt検定の実施回数Nで割った値α/Nに設定するというものであり,本分析では有意水準を0.017(=0.05/3)に設定して,3種の環境ラベルにおける情報の透明性の平均値の差を検定している。なお分析に際し,上記の透明性6項目の平均値から合成変数を作成した。
実験Iおよび実験IIそれぞれの分析結果は表2および図1のとおりである。いずれの実験においても,知覚される透明性は,QRコード型,認証マーク型,独自マーク型の順に高い傾向にあった。ただし,実験IではQRコード vs. 認証マーク型の差は有意ではなかった。つまり,QRコード型の環境ラベルは,認証マーク型および独自マーク型よりも,環境配慮情報の透明性を高めうるが,その効果は製品カテゴリーによって異なることが示唆された。よって,仮説1は部分的に支持された。
実験I | 実験II | |||||
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平均値の差 | 標準誤差 | p値 | 平均値の差 | 標準誤差 | p値 | |
認証マーク型vs. QRコード型 | −0.263 | 0.171 | .124 | −0.433 | 0.138 | .002 |
認証マーク型vs.独自マーク型 | 0.963 | 0.176 | .000 | 0.725 | 0.155 | .000 |
QRコード型vs.独自マーク型 | 1.226 | 0.165 | .000 | 1.158 | 0.148 | .000 |
続いて,共分散構造分析により,購買意向とブランド態度を従属変数として,知覚された情報の透明性の影響(仮説2a・2b)と,透明性を媒介変数とする環境ラベルの間接効果(仮説3a・3b)を検証する。本分析では2つの実験データを扱うため,多母集団同時分析を実施した。主要な変数に加えて統制変数として,回答者の年齢および性別(女性=1,男性=0)を加えている。本研究で検証を行う仮説モデルは,図2のとおりである。
まず,2つの実験データにおける配置不変性および測定不変性をモデルの適合度に基づき検討した。その結果は,表3に示すとおりである。配置不変モデルの適合度は良好であったため,配置不変性に問題はないと判断された。続いて,測定不変モデルに関しては,モデル全体でのグループ間の差を検討するために,因子負荷量が等しいという等値制約を置いた弱測定不変モデルと,因子負荷量と切片が等しいという制約を置いた強測定不変モデルの適合度を比較した。表3に示した結果によると,弱測定不変モデルおよび強測定不変モデルはいずれもΔCFI <0.01の基準を満たしている。そのうえで,強測定不変モデルが最も適合度の値が良好であったため,これを採用した。
χ2 | df | CFI | NFI | RMSEA | AIC | |
---|---|---|---|---|---|---|
配置不変モデル | 392.408 | 148 | 0.941 | 0.909 | 0.059 | 636.408 |
弱測定不変モデル | 400.575 | 156 | 0.941 | 0.908 | 0.058 | 628.575 |
強測定不変モデル | 419.125 | 167 | 0.939 | 0.903 | 0.056 | 625.125 |
強測定不変モデルにより多母集団同時分析を行った結果は,表4に示すとおりである。
独立変数 | 従属変数 | 実験I | 実験II | 係数の差の 検定統計量(z) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
β | se | z | β | se | z | |||
企業独自ダミー | → 透明性 | −0.400*** | 0.166 | −5.437 | −0.341*** | 0.150 | −4.945 | −0.745 |
QRコードダミー | → 透明性 | 0.105 | 0.159 | 1.441 | 0.226*** | 0.133 | 3.285 | −1.014 |
性別 | → 透明性 | 0.102* | 0.129 | 1.669 | −0.012 | 0.114 | −0.204 | 1.428 |
年齢 | → 透明性 | 0.053 | 0.005 | 1.181 | 0.097** | 0.005 | 1.965 | −0.866 |
透明性 | → ブランド態度 | 0.704*** | 0.062 | 9.936 | 0.620*** | 0.067 | 8.606 | 0.435 |
企業独自ダミー | → ブランド態度 | −0.045 | 0.133 | −0.654 | −0.129* | 0.134 | −1.940 | 0.922 |
QRコードダミー | → ブランド態度 | −0.296*** | 0.121 | −4.648 | −0.314*** | 0.116 | −4.844 | −0.017 |
性別 | → ブランド態度 | 0.024 | 0.098 | 0.442 | 0.075 | 0.096 | 1.383 | −0.672 |
年齢 | → ブランド態度 | −0.022 | 0.004 | −0.532 | 0.025 | 0.004 | 0.579 | −1.422 |
企業独自ダミー | → 購買意向 | −0.009 | 0.181 | −0.118 | −0.026 | 0.169 | −0.366 | 0.165 |
QRコードダミー | → 購買意向 | −0.266*** | 0.164 | −3.942 | −0.277*** | 0.146 | −4.061 | −0.254 |
透明性 | → 購買意向 | 0.541*** | 0.080 | 7.530 | 0.457*** | 0.081 | 6.273 | 0.836 |
性別 | → 購買意向 | 0.046 | 0.134 | 0.806 | 0.106* | 0.122 | 1.834 | −0.661 |
年齢 | → 購買意向 | 0.023 | 0.005 | 0.539 | 0.076 | 0.005 | 1.596 | −1.268 |
間接効果(媒介変数:透明性) | β(95%信頼区間) | β(95%信頼区間) | ||||||
企業独自ダミー | → ブランド態度 | −0.214***(−0.323 to −0.113) | −0.211***(−0.315 to −0.109) | |||||
企業独自ダミー | → 購買意向 | −0.164***(−0.255 to −0.087) | −0.156***(−0.249 to −0.081) | |||||
QRコードダミー | → ブランド態度 | 0.152***(0.071 to 0.245) | 0.140***(0.064 to 0.230) | |||||
QRコードダミー | → 購買意向 | 0.116***(0.055 to 0.186) | 0.103***(0.048 to 0.174) |
注1)βは標準化係数を示す。*** p < .01,** p < .05,* p < .10
仮説の検討に先立ち,環境ラベルのブランド態度および購買意向に対する直接効果を確認する。独自マークダミーについては,実験IIのみで,ブランド態度に対して有意な負の影響を及ぼすことが確認された。既存研究では,独自マーク型の環境ラベルよりも,認証マーク型の方が,消費者はポジティブな反応を示すことが主張されてきたが,本研究では,実験IIのブランド態度への負の影響を除いて,両者の間に有意な差は見出されなかった。一方で,QRコードダミーについては,実験I・実験IIいずれも,ブランド態度および購買意向に対して有意な負の影響を及ぼしており,さらに,この影響は独自マーク型よりも大きいことが示された。これらの結果は,QRコードを付与した環境ラベルは,認証マーク型および独自マーク型(シンボルマークの付与)よりも,消費者のネガティブな反応を引き起こすことを意味している。
続いて仮説2および仮説3について順に検討する。仮説2に関しては,2つの実験ともに,透明性の知覚がブランド態度および購買意向に有意な正の影響を及ぼしていた。この結果は,情報の透明性の知覚が消費者態度の先行要因であるという既存研究の知見とも一致する。したがって仮説2a・2bは支持された。
仮説3に関しては,情報の透明性を媒介変数とする環境ラベルの間接効果を評価する必要があるため,ブートストラップ法(標本数2000)を用いて95%信頼区間を計算した。その結果,独自マークダミーの間接効果については,実験I・実験IIともに,ブランド態度および購買意向に対して有意な負の間接効果が示された。すなわち,独自マーク型の環境ラベルは,認証マーク型よりも,知覚される環境配慮情報の透明性が低いため,ブランド態度および購買意向が低下することが見出された。これは,既存研究の知見と整合的な結果である(Atkinson & Rosenthal, 2014;Castka & Corbett, 2016;Montoro Rios et al., 2006;O’Rourke, 2005)。他方で,QRコードダミーの間接効果については,実験Iでは有意な効果が確認されなかったが,実験IIでは,ブランド態度および購買意向に対して,有意な正の影響が示された。これは,製品カテゴリー(実験I:洗濯洗剤,実験II:チョコレート菓子)によって相違があるものの,QRコード型の環境ラベルは,認証マーク型および独自マーク型に比べて,環境配慮情報の透明性の知覚が高まり,その結果としてブランド態度・購買意向が向上する可能性を示唆している。したがって仮説3a・3bは部分的に支持された。
最後に,2つの製品カテゴリー間で各変数の直接効果(係数)に有意差があるかを検定した結果,すべてのパスにおいて有意な差は認められなかった。
本研究の分析結果から,主に2つの発見事項が得られた。
第一に,QRコード型および認証マーク型の環境ラベルは,独自マーク型よりも,環境配慮情報の透明性の知覚を高め,それによって消費者の態度を向上させる可能性が示唆された。既存研究では,認証マーク型と独自マーク型を比較し,前者の方が環境配慮情報の透明性の知覚を通じて,消費者の態度に正の影響を与えることが指摘されてきた(Castka & Corbett, 2016;Montoro Rios et al., 2006;O’Rourke, 2005)。これに対して本研究では,QRコード型の環境ラベルを含めて検証した結果,実験IIにおいて,認証マーク型よりもQRコード型の方が,環境配慮情報の透明性がより高く知覚され,その結果として消費者の態度および購買意向を高めることが見出された。この結果は,QRコード型の環境ラベルの方がシンボルマークよりも詳細な情報提供とアクセス性に長けたコミュニケーション手段であることが理由として考えられる(Bashir, 2022;Hay et al., 2024)。そのため,消費者は企業が環境配慮活動に関して積極的に情報を発信していると知覚しやすく,その結果として消費者の態度向上を促す可能性が示唆された。
なお,本研究の実験では,QRコード型の環境ラベルに対する消費者の情報の透明性の知覚が,製品カテゴリーによって異なるかという点については,明確な差は見出されなかった。実験Iでは洗濯洗剤,実験IIではチョコレート菓子をそれぞれ実験刺激として用いたが,既述のとおり共分散構造分析の結果,実験IではQRコード型と認証マーク型の間で情報の透明性の知覚に有意な差は見られず,実験IIのみで有意差が確認された。ただし,これら2つの製品間で,QRコード型のラベルが透明性の知覚に及ぼす影響力(vs.認証マーク型)に差があるかを検定した結果では有意差はみられなかった。したがって,本研究の結果は,洗濯洗剤よりもチョコレート菓子の方が,QRコード型の環境ラベルの有効性が高いという可能性を含んではいるものの,この点の経験的妥当性のさらなる検証と,その理論的メカニズムの検討が今後の課題といえるであろう6)。
第二に,上述のようにQRコードは情報の透明性を通じて消費者の態度を高めうる一方で,QRコード型の直接効果はネガティブであり,認証マーク型および独自マーク型よりも消費者の態度を低下させる可能性も見出された。これは,QRコードを付与した環境ラベルは,消費者の正と負両方の反応を引き起こすことを意味している。すなわち,QRコードの付与によって,「企業は環境配慮情報の積極的な発信に努めている」と消費者に好意的に受け取られる側面もあるものの,反対に,認証マーク型や独自マーク型といったシンボルマークでは生じないQRコード固有の何らかのネガティブな印象を与える可能性がある。
その一因として,QRコードの読み込みに対する不便さないしは抵抗感が考えられる。シンボルマークであれば,製品パッケージのマークを認知するだけで情報伝達が完結するが,QRコードは,それをスマートフォンなどで読み取るといった消費者側の行動を必要とする。実際には,QRコードを読み取るかどうかは任意であり,環境配慮製品であることを周知するという点では,シンボルマークを付与した環境ラベルと変わりはない。これに加えてQRコード型の場合には,パッケージ上の環境ラベルでは伝達可能な情報量が非常に限定されるため,追加的な情報を求める消費者に対して,より簡便な情報の取得という便益を提供できる。このQRコード特有の便益は,1点目の発見事項で示した情報の透明性の知覚にも表れているといえる。しかしながら,こうした便益とは裏腹に,QRコードが提示されることで,消費者はそれを読み込まなければならないという義務感を抱き,ネガティブな反応を示す可能性が,本研究の結果から示唆される。
本研究は,低関与な製品のパッケージ上に付与される環境ラベルが消費者の態度に与える影響を明らかにした。本研究の理論的貢献は,以下の2つである。
第一に,環境ラベルとしてのQRコードが消費者の態度に与える影響を,従来の環境ラベルとの比較によって明らかにしたことである。従来は,認証マーク型と独自マーク型が比較され,一貫して認証マーク型の有用性が高いと主張されてきた(Atkinson & Rosenthal, 2014;Brach et al., 2018;Montoro Rios et al., 2006)。これに対して本研究は,最近のマーケティング・コミュニケーション・ツールとして活用が盛んなQRコードに着目し,既存研究の拡張を試みたものである。その結果,環境ラベルとしてQRコードを付与することは,当該製品ないしはサービスの環境パフォーマンスを表すシグナルとして機能する側面がある一方で,従来のシンボルマークよりもネガティブな反応を招きうることが示唆された。
第二に,QRコードの活用が消費者の態度を向上させるメカニズムとして,情報の透明性の知覚が作用していることを示した。既存研究では,環境パフォーマンスに関する情報の透明性の知覚が消費者の態度に影響を与えることが示唆されてきた(Castka & Corbett, 2016;Montoro Rios et al., 2006;O’Rourke, 2005 )。本研究では,3種の環境ラベルの特徴に応じて,各環境ラベルに対する情報の透明性の知覚が異なる点に注目し,QRコードが有するコミュニケーション特性が情報の透明性を高める可能性を示した。これは,環境ラベルないしは環境配慮情報の伝達という文脈だけでなく,マーケティング・コミュニケーション・ツールとしてのQRコードの有用性を説明する視点を提供するものといえよう。
上記2つの発見事項を総合すると,(1)QRコード型の環境ラベルは,企業が自ら主張しているといった点では独自マーク型と同様であるが,消費者の環境配慮情報に対する透明性の知覚に寄与しうる点で,より有効なコミュニケーション手段となりうること,(2)ただし,QRコードがネガティブな印象をもたらす可能性にも留意する必要があることが示された。これらの知見は,今後のさらなるQRコードの有用性の探求に貢献するものといえるであろう。
6.2 実務的示唆本研究の知見から得られる実務的示唆として,次の2点が挙げられる。
第一に,環境配慮製品であることを訴求し,消費者の購買意向および態度を高めるには,情報の透明性の向上に努める必要がある。特に,認証マーク型およびQRコード型に比べて,独自マーク型の環境ラベルは,情報の透明性が低いと知覚される恐れがある。したがって,独自マーク型のラベルを活用する場合には,それに添えられるメッセージに,透明性を高める情報を盛り込むといった工夫が有効であろう。
第二に,環境ラベルにおけるQRコードの利用は,情報の透明性を高めるという点では,消費者の好意的な態度を形成する可能性があるものの,ネガティブな印象を与えうる点も考慮する必要があることが示唆された。今回の実験では,「詳しい内容についてはQRコードからアクセス」という旨の文言を付した環境ラベルを提示したが,このように単にウェブ情報へと誘導するだけでは,QRコードの読み取りを面倒に感じるなどのネガティブな感情を生じさせる可能性がある。したがって,QRコードを利用し,環境配慮情報の周知と好意的な態度形成を図るためには,このネガティブな反応を避けるための工夫が必要である。本研究では,このような負の影響が何に起因し,それをどのように抑制できるのかについては検討できていないが,たとえば既存研究では,QRコードによってアクセスできる情報が,実用的なものよりも快楽的なもののほうが,消費者から好ましい反応を引き出せることが見出されている(Acuti et al., 2020)。これを踏まえると,QRコードと好相性である快楽的な要素を環境ラベルのデザインやメッセージに付与することが有効な手段の1つになるかもしれない7)。
6.3 今後の課題最後に,本研究にはいくつかの課題も残されている。
第一に,本研究では,QRコード型の環境ラベルが,消費者のブランド態度および購買意向に負の影響を及ぼす理由について明らかにできていない。本研究の仮説は,QRコード型の環境ラベルは,他の2種よりも消費者の情報の透明性の知覚が高まるため,態度形成に正の影響を及ぼすと想定していた。共分散構造分析の結果はこの仮説を概ね支持するものであったが,同時に,QRコードの提示はネガティブな反応を招く側面を持ち合わせていることが示された。この結果は,環境ラベルでQRコードを活用するうえで,このネガティブな反応を抑制できるか否かが明暗を分けることを示唆するものであり,本研究で見出された負の影響が何に起因しているのかを明らかにすることが,今後の重要な研究課題として提示される。
第二に,本研究が取り上げたのは,QRコードの提示(パッケージ上のQRコードの認知)段階のみであり,その次のステップとして,消費者はQRコードをスマートフォンで読み込み詳細な情報にアクセスしようとするのか,いかなる要因がQRコードの読み込み(環境配慮情報の取得)を促すのか,という問題を検討できていない。本研究は,QRコードに期待される役割の1つとして,QRコードを読み込むか否かに関わらず,パッケージを見た消費者に対して,当該企業が環境配慮情報の積極的な発信に努めていることをより明示的に訴求できるがゆえに,知覚される透明性が高まる点に着目した。ただし,環境ラベルは環境配慮情報の伝達プロセスの入り口であることを踏まえると,そこから先のより詳しい情報へのアクセスをいかに促すかという問題も,企業のコミュニケーション活動における重要な課題といえる。QRコードの有効性をより包括的に論じるためには,QRコードの読み込みも含めた分析を行う必要があるであろう。
第三に,本研究では,各環境ラベルを併記した場合の効果について検証を行っていない。本研究は,認証マーク型,独自マーク型,QRコード型の環境ラベルがいずれも,それぞれ単独で製品パッケージに使用されることを想定し,実験を行った。一方で,各環境ラベルを組み合わせてパッケージ上に記載する場合も考えられる。こうした複数の要素が盛り込まれた環境ラベルに対する消費者の反応は,それぞれを単独で使用する場合よりもポジティブな反応を引き出せるかもしれない。あるいは逆に,複数の環境ラベルを提示することで,消費者は企業が製品やサービスにおける環境配慮情報を伝達する行為に対して説得意図を感じ,購買を促すための方便なのではないかとネガティブな反応を示す可能性も考えられるであろう。したがって,今後の重要な研究課題として複数の環境ラベルの提示による影響について検証をする必要がある。
本稿の執筆にあたり,研究過程において貴重な助言をいただいた先生方,本稿の審査において多数の重要な指摘をいただいた編集者および匿名の2名の査読者の方々には,この場をお借りして心からお礼申し上げます。