2025 年 28 巻 2 号 p. 5-24
self-extension(Belk, 1988)とself-expansion(Aron & Aron, 1986)という,自己の拡大にかかわる2つの概念について対比的に検討を行った。先行研究のレビューに基づき議論を行うことで,self-extensionとself-expansionには動機づけ的な側面に根本的な違いがあり,これが機能や特徴の違いを生み出していることが明らかになった。また先行研究で用いられている測定尺度には,こうした違いが十分反映されていないことも明らかになった。
This study presents a comparative analysis of two concepts concerning the enlargement of the self: self-extension (Belk, 1988) and self-expansion (Aron & Aron, 1986). Based on an extensive review of prior research, this study demonstrates that these concepts differ fundamentally in their motivational aspects, which in turn lead to distinct functions and characteristics. Furthermore, the study reveals that existing measurement scales fail to adequately reflect these conceptual distinctions, pointing to a need for more differentiated and theoretically grounded instruments.
消費者は製品,サービス,ブランドとの間に心理的な結びつきを形成し,それによって自己を拡大することがある。マーケティングや消費者行動では,この心理的現象を論じるために,Belk(1988)によって提唱されたself-extensionと,Aron and Aron(1986)によって提唱されたself-expansionという2つの概念が主として用いられてきた1)。
self-extensionやself-expansionという概念には,すでに40年近い歴史があり,いずれも一定の評価を得ている。またself-extensionの提唱者であるBelk(2014)自身が指摘するように,これらは単なる言葉の言い換えでなく,異なるインプリケーションを持っている。したがって両概念を弁別し,それぞれを正確に理解することは,マーケティングや消費者行動の研究にとって大きな価値がある。
しかし先行研究を振り返ると,2つの概念の違いが明確に理解されていなかったり,ときにはそれぞれの論理が混同して用いられていることがある。また測定尺度においても,両者の違いが十分に反映されていない傾向にある。そこで本研究ではself-extensionやself-expansionを対比的に検討することで,両者の共通点と相違点を明確にしていく。またこれに基づいて,既存の測定尺度が抱える問題点についても明らかにする。
アプローチ 本研究のアプローチについて説明する。冒頭でも述べたように,self-extensionとself-expansionは類似した現象を扱う概念であり,少なくとも2つの共通点がみられる(Aron & Aron, 1986;Belk, 1988, 2014)。1つは,いずれにおいても対象との間に心理的な結びつき(connection)が生じることである。これは対象との間に「同一化」や「一体感」が生じ,対象を自己の一部のように感じることである。もう1つは,どちらも自己の拡大(augmenting)が生じることである。これは「私の範囲」が大きくなり,「自分自身が広がる」感覚が得られることである。
その一方で,self-extensionとself-expansionは,いずれも心理的プロセスである(Aron & Aron, 1986;Belk, 1988)。したがって両者は,「自己と対象が結びつくことで,自己が拡大する」という共通の現象面だけでなく,なぜ自己を拡大しようとするのか(動機づけ),その結果どのような効果がもたらされるのか(機能),そしてそこではどのような性質が見られるのか(特徴)という側面からも論じることができる。
しかし,マーケティングや消費者行動領域の研究では,上述した共通の現象面に焦点が合わせられることが多く,動機づけ,機能,特徴といった側面について論じられることは少なかった。すなわち図1における斜線部分の違いについて,十分な議論が行われてこなかった。この結果上述したように,self-extensionとself-expansionの違いが明確に認識されず,ときに混同されてきた。また測定尺度の開発も適切に行われてこなかった。

self-extensionとself-expansionの共通点と相違点
こうした問題意識に基づき,本研究ではself-extensionとself-expansionの動機づけ,機能,特徴について対比的に検討を行っていく(図2)。またそれに基づいて,先行研究に見られる測定尺度の問題点と課題も洗い出していく。

本研究における議論の対象
なおWhetten(1989)によれば,理論的貢献のある研究だとされるには,焦点となる要素について包括的かつ簡潔に説明されていること,それと関連する要素(要因や結果など)が的確に示されていること,そして焦点となる要素と関連する要素の間の論理的な関係が説明されていることが求められる。この考えをself-extensionならびにself-expansionという心理的プロセスにあてはめると,「自己と対象が結びつくことで,自己が拡大する」(結合と拡大)という中心的な側面の特徴について明らかにするとともに,その要因となる動機づけ,そして結果として生じる機能について論理的に説明することは,本研究の理論的貢献を高めるという点でも,妥当性の高いことといえる。
構成 本研究は1つの大きな考えに基づいている。それは,self-extensionとself-expansionには動機づけ的な側面に根本的な違いがあり,これが機能や特徴の違いを生み出しているというものである。この考えに基づき,本研究では以下のように議論を進めていく。
まず第2節においてself-extensionとself-expansionを概観するとともに,研究動向を整理する。そして,これまで両者の相違点について十分に論じられてこなかったことを指摘する。つづいて第3節ではself-extensionとself-expansionの動機づけ的側面と機能について,第4節では両者の特徴について違いを明らかにする。そして第5節においてこれらを簡潔に整理し,self-extensionとself-expansionの共通点と相違点を明確にする。さらに第6節において先行研究における測定尺度について検討し,その問題点と課題を指摘する。最後に第7節で論文全体のまとめと展望を示す。
なお本研究ではBelk(1988)およびAron and Aron(1986)の再検討を中心に議論を進め,必要に応じてその後の研究を参照していくことにする2)。またself-extensionとself-expansionはさまざまな範囲に適用できる概念だが,マーケティング交換の対象を念頭に置いて議論を進めていく3)。
self-extensionは,個人が物や所有物に意味を持たせ,自分のアイデンティティを対象へと拡張していくことを説明するために,消費者行動の研究者であるBelk(1988)によって提唱された概念である4)。彼は政治学・哲学・心理学・文化人類学などを学際的な視点で統合することで,消費者が所有物を通じてどのように自己を拡張していくか(つまり所有物をどのようなプロセスを経て自分の一部と見なすようになるのか)と,所有物が個人の自己概念にどのように寄与するかについて幅広く考察した5)。
Belkは論文冒頭で,所有物と自己意識の関係性に着目することで,消費者が所有物に付与する意味を明らかにすることが研究の焦点であると述べている。そして人は所有物を自分の一部とみなすことがあると主張し,そこでは所有物が拡張された自己の一部となり,自己と同一視されるようになると論じている。
2.1.2 self-expansionself-expansionは,愛における感情,認識,行動を説明するために心理学者のAron and Aron(1986)が提唱した概念である6)。彼らはこの議論のなかで,個人が親しい他者の要素の一部を,いかにして自分の要素としていくかについて説明している。その基本的な主張は,愛における感情,認識,行動は自己の拡大(expand the self)という基本的な動機によって理解できること,そして自己の拡大によって対象を同一視したり,ときには一体化(united)したりして感じるというものである7)。
self-expansionは心理学領域において人間関係(特に恋愛関係)を説明するために開発された概念であったため,その対象は人に限定されてきた。しかしReimann and Aron(2009)によって,消費者とブランドの関係に拡張できることが示され,マーケティングや消費者行動領域でも用いられるようになった。
2.2 研究の全体的動向self-extensionおよびself-expansionの概要につづき,これらを用いた研究の動向について概観する。論文データベースを用い,マーケティング領域において,一定の水準を満たしていると考えられる学術雑誌に掲載された査読付き論文を検索したところ,self-extensionについては40本,self-expansionについては9本が見つかった8)(図3)。

self-extensionおよびself-expansionの引用論文数
1988年にBelkが提唱したself-extensionの概念は,主に所有,製品,消費者アイデンティティといった研究文脈で取り上げられてきた。その後この概念は,Belk(2013, 2014, 2016)によって「デジタル」や「非物質化」といった要素を踏まえて再検討され,自己拡大の対象を物からデジタルへと拡張していった。
さらに2010年代以降は,デジタル技術やデバイスの普及といった市場環境の変化と相まって,新しい環境における消費者行動を理解するための概念として注目を集めており,こうした領域での実証的研究が増えている(e.g., Atasoy & Morewedge, 2018)。また近年では,消費者行動研究領域においてself-extensionという概念の意義や可能性を改めて検討する研究があらわれ(Thompson, 2024),理論的な再検討も進んでいる。以上のようにself-extensionは,デジタル環境における自己表現やアイデンティティの理解においてその重要性が再確認され,さらなる理論的深化が進められている。
2.2.2 self-expansionの研究動向self-expansionという概念は1986年にAron and Aronによって提示されて以来,心理学領域において継続的に議論が行われてきたが(Aron et al., 2022),比較的最近になって,マーケティング領域でも注目を集めるようになった。その理由の1つは,前述したようにReimann and Aron(2009)において,self-expansionという概念を用いることでブランド・リレーションシップをとりまく諸現象が説明できることが指摘されたためと考えられる。この論文は,著名なブランド研究者らが編纂した論文集に掲載されたことで,多くのマーケティング研究者の注目を浴びた9)。
self-expansionは,ブランド・リレーションシップ(e.g., Gorlier & Michel, 2020)やメタバース(e.g., Ahn, Jin, & Seo, 2024)などの文脈で研究が蓄積されていることに特徴がある。これはself-expansionがself-extensionとは異なる背景,すなわち親密な対人関係における自己の拡張という文脈で発展した概念であり,ブランドとの擬人的相互作用や仮想空間におけるコミュニティに見られる,対象との関係性を通じた自己成長や新たな自己の獲得などの心理的動態を理解する上で有効な枠組みであることを示唆している。
2.2.3 研究動向のまとめマーケティングや消費者行動の領域において,self-extensionやself-expansionは比較的よく知られている概念である。またそれぞれの引用論文数もself-extensionについては2005年頃から,self-expansionについては2014年頃から増えつつある。
その一方で,一連の研究をみわたすと第1節で述べた問題が存在することが明らかになる。両者の違いを明らかにした研究が乏しいのである。これは「消費者研究者はAronの枠組みを無視する傾向があり,心理学者はBelkの枠組みを無視する傾向がある」(Connell & Schau, 2010, p. 675)と指摘されてきたように,両者が異なる領域で独自に発展してきたためと考えられる10)。
実際,今回抽出した論文を見ても,大半がself-extensionやself-expansionを「自己と対象が結びつくことで,自己が拡大すること」として論じるに留まっており,(両者の相違点と考えられる)動機づけ,機能,特徴について深く検討したものはほとんどない。たとえば,Atasoy and Morewedge(2018)はself-extensionを基盤とした心理的所有感の観点からアナログ財とデジタル財の比較を行っているが,その背後にある動機づけについては十分に言及していない。また,Gorlier and Michel(2020)はブランドとの親密性がself-expansionを促すことを示しているが,その効果や拡大された自己の性質に関する議論は限定的である。
このように先行研究では,なぜ自己を拡大しようとするのか(動機づけ),その結果どのような効果がもたらされるのか(機能),そしてそこではどのような性質が見られるのか(特徴)といった点が十分に検討されていない。そこで,第3節および第4節では,これら3点を軸に議論を展開していく。
本節ではself-extensionとself-expansionの動機づけ的側面ならびに機能における違いを明らかにする。すなわち図2の心理的プロセスにおける,左側および右側部分について論じていく。
Belk(1988)とAron and Aron(1986)の研究は,いずれもWhite(1959)が提示したエフェクタンス動機づけの考え方から影響を受けている。しかしBelk(1988)がWhite(1959)の主張を比較的忠実に援用しているのに対して,Aron and Aron(1986)はこの主張を独自の視点から解釈して用いている。その結果,Belk(1988)とAron and Aron(1986)では自己拡大を生み出す動機づけに関する基本的なロジックが異なっており,それぞれの機能や特徴についても違いが生じている。
そこで本節では,まずエフェクタンス動機づけについて概説したうえで,Belk(1988)とAron and Aron(1986)の主張の基本構造をやや詳細に読み解いていく。そしてこれらに基づいてself-extensionおよびself-expansionの動機づけ的側面ならびに機能の違いを明らかにする。
3.1 エフェクタンス動機づけエフェクタンス動機づけという概念はWhite(1959)によって提案されたものであり,当時正統派とされていた,動因に基づく動機づけ理論(theories of motivation based upon drives)への不満に端を発している。この伝統的理論では,生物は快楽を求め,苦痛を避けるものであり,苦痛は生理的平衡(physiological equilibrium)の乱れによる緊張(tension)によって引き起こされ,快楽はこの緊張の緩和によってもたらされると考えられていた。すなわち,人はホメオスタシスと言われる平衡状態を維持しようとすることによって動機づけられると考えられていた(Aron & Aron, 1986, p. 19)11)。
しかし,こうした考え方には問題があることも指摘されるようになった。生物は平衡を回復するだけでなく,覚醒を高めるために行動する場合もあることが明らかになってきたためである。たとえば好奇心(curiosity),遊び(play),探索(exploration),複雑性を高める傾向(tendency to increase complexity)などは,ホメオスタシスの考え方では説明ができなかった(Aron & Aron, 1986, p. 19–20)。
このような問題を解決するために,White(1959)はコンピテンス(competence)という概念を提唱した。コンピテンスとは,環境と効果的(effective)ないしは有能(competent)なかたちで相互作用を展開する能力(capacity)のことであり(White, 1959, p. 297, 318),「自分の置かれた環境を自分なりに支配したい」(金井・髙橋・服部,2025,p. 65)という心理から生まれるものである。またそれゆえコンピテンスが形成されると「自分の生きている世界を統制しマスターしているという感覚」(金井・髙橋・服部,2025,p. 66)が生じることになる12)。
コンピテンスの動機づけ的な側面とされるのが,エフェクタンス動機づけ(effectance motivation)である。エフェクタンス動機づけとは,環境を自己決定的に操作することを通じて有能であると感じようとする動機づけのことである(Aron & Aron, 1986, p. 21)。White(1959)によれば,人はエフェクタンス動機づけによって,探索,活動(activity),操作(manipulation),あるいは習熟(mastery)といった変化や新奇さを生み出す行動に自ら取り組み,これによって効力感(feeling of efficacy)を経験しようとする13)。
以上のようにWhite(1959)は,「何かをコントロールしたい」という人間の根源的な欲求をエフェクタンス動機づけという概念を用いて説明した。そして,人には環境を操作することで有能であると感じる傾向があることを主張した。
3.2 self-extensionの基本構造White(1959)によるエフェクタンス動機づけ概念に続き,Belk(1988)の主張からself-extensionの基本構造を読み解いていく。まず対象を自己の一部として認識する方法について検討し,次にそれがもたらす効用について検討する。
対象を自己の一部として認識する方法 Belk(1988)は,ある対象が自己の一部と感じられるようになる方法ないしは手段として,コントロール(control),創造(creation),知ること(knowing)の3つをあげている14)。
第1に,ある対象をコントロールできることで,その対象について私のもの(mine)という感覚,あるいは所有している(possess)という感覚が強まり,自己の一部(part of self)とみなすようになる。また利用(appropriating)したり,習得(mastering)したり,克服(overcoming)したり,征服(conquering)したりすることでも,同様の効果が得られる。さらに自分の所有物を他人に与えることも,コントロールの特殊な形態とされている。
第2に,コントロールだけでなく,ある対象を自ら創ったり,手を加えたり,購入したりすることでも,対象を自己の一部と感じる。なぜならこれらの行為は,対象物への労働・金銭・精神的エネルギーなどの投入(invest)を伴うからである。労働・金銭・精神的エネルギーは自己から生じたものであるため,それらが投入された対象物は,自己の一部とみなされることになる15)。
第3に,対象を深く知ることによっても,自己の一部と感じるようになる。Belkはその理由として,対象を知ることは,それを自分のものとしたいという欲望から生じるものだからと説明している。
以上のように,対象を自己の一部として認識する方法や手段はいくつか指摘されているが,いずれも対象を意のままに操作したり,あるいはそれに影響を及ぼすことを可能としたりするものである。したがって,人は対象を支配し,自らの配下に置くことで,それを自己の一部と感じるようになると考えられる。
対象を支配し自己の一部とする効用 それでは対象を支配し,それを自己の一部だと認識することで,どのような効用が得られるのだろうか。Belk(1988)は,所有物によって自己が拡張されることで,「それなしでは不可能なことを可能にする」,「それらなしではあり得なかった別人になれる」,あるいは「個人的な力を強化する感覚」を生み出すことになると述べている。また「所有することは,行動力や存在感につながる」とも述べている(いずれもBelk, 1988, p. 145)。したがって対象を支配し,自らの配下に置くことで,人は効力感ないしは有能感(sense of competence)を獲得できると考えられる。
また対象を支配し,自らの配下に置くことは,アイデンティティの形成にも貢献する。Belk(1988)は「現代生活において,私たちは所有物によって自分が何者であるかを学び,定義し,思い出す」(Belk, 1988, p. 160)と述べるとともに,self-extensionには「アイデンティティの感覚を創造,強化(enhancement),維持(preservation)する」(同,p. 150)機能があると指摘している。彼自身はこうした現象が生じるメカニズムを明示的に説明していないが,その主張を統合的に解釈すると,人は自分が何を(あるいはどのようなものを)コントロールや支配しているか(あるいはコントロールや支配できているか)によって自己を定義する,という論理構造を読み取ることができる16)。
3.3 self-expansionの基本構造続いて,self-expansionの基本構造について読み解いていく。Aron and Aron(1986)はself-expansionが,自己拡大の動機づけと他者の組み込みという2つの部分から構成されていると説明している。自己拡大の動機づけとは「目標を達成する能力(ability)を高めるために,資源,視点,アイデンティティを増大させる動機づけ」のことであり,他者の組み込みとは「他者の資源,視点,アイデンティティを自分のもののように扱うこと」である(いずれもAron, Lewandowski, Mashek, & Aron, 2013, p. 91)17)。
自己拡大の動機づけ 上述した定義からも分かるように,self-expansionにおける自己拡大の動機づけとは,エフェクタンス動機づけの一種である。ただしAron and Aron(1986)はエフェクタンス動機づけについてやや独自の解釈をしており,現時点において自分はエフェクティブであると感じることではなく,将来において効力を発揮する「真の潜在的エフェクタンス」(real potential effectance:p. 24)を獲得することへの動機づけだと述べている。つまり「有能であった」(has been competent:p. 24)と感じることではなく,「有能になる」(to be competent:p. 24)ことへの欲求だということである。
さらにAron and Aron(1986)は,この真の潜在的エフェクタンスの獲得には,つまり有能になるには,「知識」(knowledge:p. 24)あるいは「知識を適用するための資源」(resources to apply knowledge:p. 28)が必要となると指摘する。エフェクタンス行動の目標は有能感ではなく,知識や資源の獲得だというわけである。そして自己はその「潜在的な効力感」(potential efficacy:p. 24)を拡大するもの,すなわち知識やその知識の活用を可能とする資源によって拡大され,これによって環境との適合性が高まり,予測や説明を正確かつ包括的に行えるようになると主張する18)。
なおAron and Aron(1986)は,この知識や資源の範囲を非常に幅広く考えている。彼らは,自分の中に組み込むことができるものであれば,ほとんどの新しいものが潜在的な効力感を拡大するものとなると指摘し,知識の源泉には教育,旅行,スキル・トレーニングなどだけでなく,「すべての新しい経験」(p. 24)が含まれると述べている。また富,健康,地位のような物質的および社会的資源を得ることも,知識を獲得したり,知識を実際の効果に変える手助けとなるので,エフェクタンス動機づけの達成に貢献する。
他者の組み込み self-expansionを構成するもう1つの要素である,他者の組み込みについて説明する。
既述のようにAron and Aron(1986)の考えるエフェクタンス動機づけとは,自己の外部に存在している知識や資源を自分自身の中に組み込むことで,自己の潜在的な能力を高めようとするものだった。Aron and Aron(1986)は,こうした目標を達成するために効果的なのが,他者を自己の中に組み込むことだと主張している。なぜならそうすることで,その他者の考え(ideas),世界観(world view),能力(abilities),業績(achievements),地位(statuses)などを,自分のもののように利用できるようになるからである。
他者の組み込みは,非常に興味深い性質を伴うことになる。まず,他者を自分自身の中に組み込むことで自己の能力が高まるには,他者が自己と異なる知識や資源を持っていることが必要となる。つまり他者が「自分とは大きく異なり,予想もしていなかった,数多くの考え,スキル,所有物,行動など(あるいはそれらに関する認識)を持っている」(Aron & Aron, 1986, p. 29)ことが,self-expansionの前提となる。そして異なる知識や資源を持っている他者を自己に組み込むということは,自分自身を変化させることになる。
このように「self-expansionモデルは,親密な関係において,自己が他者を組み込むことで,自己の構造そのものが変化することを明確に示唆して」(Reimann & Aron 2009, p. 70)いる。そして自己と他者の相違点が多いほど,self-expansionによって自己を「再構築」(restructure:Aron & Aron, 1986, p. 30)する必要に迫られることになる。そこでは新たに獲得した知識が既存の認知構造に組み込まれることで,自分自身が広がった感覚を得られるとともに,それまで以上の自分になることができる。
なお,これら他者から組み込まれる知識や資源は,その後Aron, Aron, Tudor, and Nelson(1991)によって「資源,パースペクティブ,アイデンティティ」に修正されている。またself-expansionの対象についても,他者だけでなく,「ブランドから神まで」(Aron et al., 2013, p. 103)あらゆるものに適用可能とされている19)。
したがってself-expansionでは,ある対象の資源を自分の中に組み込むことで,その資源を自己の一部としてみなすようになり,パースペクティブを組み込むことで,対象の視点から世界を見たり行動したりするようになり,アイデンティティを組み込むことで,その対象の特性や記憶から自己を認識することになる(Reimann & Aron, 2009;久保田,2024)20)。その結果,より多くの能力を得たり,本来以上の自分を感じることで(Hoffman & Novak, 2018),「自己の発見」(finding of the self:Aron & Aron, 1986, p. 89)に至ることになる21)。
3.4 self-extensionとself-expansionの動機づけ的側面と機能ここまでself-extensionとself-expansion基本構造を読み解いてきた。以下ではこれらに基づきself-extensionとself-expansionの動機づけ的側面と機能を明らかにする。
3.4.1 動機づけ的側面White(1959)は,人には「何かをコントロールしたい」という人間の根源的な欲求があり,環境を操作することで有能であると感じる傾向があることを主張した(環境を操作する→効力感を経験する)。
これに対してBelk(1988)は,White(1959)の考え方を比較的忠実に援用し,人には「現時点において有能でありたい」という欲求(有能であることへの欲求)があることを前提として議論を展開している。そしてこの前提に基づき,人は対象をコントロールや支配することで,現時点における有能感(=効力感)を得ようとすると考え,これが対象を心理的に支配しようとする現象,つまりself-extensionを生み出すと論じている22)。したがってself-extensionの動機づけ的側面は以下のように整理できる。
・人は効力感を得たいという欲求(有能であることへの欲求)によって動機づけられる。
・この動機づけにより,対象をコントロールや支配しようとする。
他方Aron and Aron(1986)は,White(1959)の主張に独自の解釈を加え,人には「将来において有能でありたい」という欲求(有能になることへの欲求)があることを前提に議論を展開している23)。そしてこの前提に基づき,人は知識や資源を得ることで将来における有能感(=潜在的な効力感)を得ようとすると考え,これが対象を自己に組み込もうとする現象,つまりself-expansionを生み出すと論じている。したがってself-expansionの動機づけ的側面は以下のように整理できる。
・人は潜在的な効力感を得たいという欲求(有能になることへの欲求)によって動機づけられる。
・この動機づけにより,対象の資源,パースペクティブ,アイデンティティを獲得し,自己に組み込もうとする。
3.4.2 機能つづいてself-extensionとself-expansionの機能について整理する。self-extensionとself-expansionには,少なくとも,有能感の獲得と自己概念の変化という2つの機能がある。しかしそれぞれの内容は,両者の動機づけ的側面の違いによって異なっている。
有能感の獲得 self-extensionとself-expansionには,いずれも有能感の獲得という機能があるが,その内容は同じでない。self-extensionでは,対象を自分でコントロールや支配することによって,その対象への所有感が高まり,自己の一部と感じるようになる。その結果,自己の操作範囲が広がることで,自分の力の強さを実感する。つまり効力感が得られる。他方self-expansionでは,対象を構成する要素を自己に組み込むことで,自己と環境の適合性が向上する。その結果,潜在的な効力感がもたらされ,自分を本来以上の存在として感じることができる(Hoffman & Novak, 2018)。
以上のように,self-extensionには効力感がもたらされるという機能がある。これは「対象を配下に置く→自己の操作範囲が広がる→効力感がもたらされる(自分の力の強さを実感できる)」という流れによって生じる。またself-expansionには潜在的な効力感がもたらされ,本来の自分以上の存在になれるという機能がある。そしてこれは「対象の一部を自己に組み込む→自己と環境の適合性が向上する→潜在的な効力感がもたらされる(本来の自分以上の存在になれる)」という流れによって生じる。
自己概念の変化 self-extensionとself-expansionには,いずれも自己概念(自分についての認識)を変化させるという機能があるが,その内容は微妙に異なる。まず人は自らの操作対象となったものに対して,自分のものと感じ,自己の一部だと認識するようになる。また人には何を支配しているかによって自分を理解する傾向がある。このためself-extensionでは,自己の一部となった所有物を用いて自分が何者かを理解し,自己の定義が行われる。これに対してself-expansionでは,対象を構成する要素を自己に組み込むことで,新たな自己が形成される。つまり自己の再構築が行われる。
self-extensionがもたらす自己の定義とself-expansionがもたらす自己の再構築は,一見すると似ているが,内容的には異なると考えられる。self-extensionにおける自己の定義とは,すでに確立された自己があり,それを対象に注入するかたちで支配し,配下に置くことで,アイデンティティを確立するプロセスだと解釈できる。こうした解釈を裏づけるように,坂下・木村(2011)はself-extensionについて説明するなかで,「消費者は自身の中に核となる自己を保持しており,それをさまざまな所有によって拡張しようとする」(p. 21)と述べている。またSivadas and Machleit(1994)も,拡張された自己とは所有物などによって定義される自己アイデンティティの一部であり,「人は自己を拡張するために,さまざまなものを『象徴的な乗り物』として利用する」(p. 143)と述べている。さらにHoffman and Novak(2018)は,self-extensionでは対象に意味をカセクト(cathect)し,自分のアイデンティティを自分自身から対象へと拡張することで,自分自身の感覚を拡張することができ,生活により多くの意味がもたらされるようになると述べている24)。
他方self-expansionにおける自己の再構築とは,対象を取り込むことで,新たな自己が形成され,自己が再発見されるプロセスだと解釈できる。それゆえそこでは,新たに獲得した知覚が既存の認知構造に組み込まれることで,自分自身が広がった感覚を得られるとともに,以前とは異なる自分を感じることができる。繰り返しとなるが,Hoffman and Novak(2018)はこうした点について,self-expansionでは対象を構成する要素を自己に組み込み,その対象の資源,パースペクティブ,アイデンティティをあたかも自分のもののように扱うことで,より多くの能力を得たり,それまでよりも優れた存在になれたりすると述べている。
以上のように,self-extensionには,何を支配できているかを感じることで自分を定義するという機能がある。これは「対象を配下に置く→支配の対象として認識する→自分が何者かを理解する(自己の定義)」という流れによって生じる。またself-expansionには,対象を構成する要素を取り込むことで新たな自己が形成されるという機能がある。これは「対象の一部を自己に組み込む→新たな自分が形成される(自己の再構築)」という流れによって生じる。
第3節ではself-extensionとself-expansionを比較することで,両者には動機づけ的側面に根本的な違いがあることを指摘した。この違いは,self-extensionとself-expansionに異なる特徴をもたらしている。つまり図2の中央に示された特徴部分においても違いがある。
4.1 自己拡大の様式の違い第3節の議論に基づくと,self-extensionでは対象を配下に置くことで効力感が得られ,self-expansionでは対象を自らに取り入れることで潜在的な効力感が得られることになる。こうした基本構造の違いにより,self-extensionとself-expansionでは自己拡大の様式(方向性,拡大の方法,移動する要素)が異なってくる。
この点について,Connell and Schau(2010)は以下のように議論を展開している。彼らはまずBelk(1988)が「個人が物に意味をカセクトし,彼らのアイデンティティを彼ら自身から物や他者へと拡張する」(Connell & Schau, 2010, p. 675)ことを主張したのに対し,Aron and Aron(1986)は「個人が親しい他者のアイデンティティの諸側面を,いかにして彼ら自身のアイデンティティに包み込むか(envelope)」(Connell & Schau, 2010, p. 675)について論じていると指摘する。そして両者を対比することで,self-extensionでは,個人が自分のアイデンティティを対象へと拡張する(外側に広げる)のに対して,self-expansionでは,個人が親しい対象のアイデンティティを自分自身のアイデンティティに包み込む(内側に入れる)と指摘している(久保田,2024)25)。
つまり両者はいずれも自己を拡大するものだが,その方向が逆であり,self-extensionでは自己を対象へ拡張(extent)することになり(自己→対象),self-expansionでは対象を自己に内包(include)することになる(自己 ← 対象)。また拡大の方法という点では,self-extensionが自己の要素を対象に投入(invest)したり,カセクトしたりするのに対して,self-expansionでは対象の要素を自己に組み込む/包み込む(incorporate/envelope),あるいは獲得(acquire)することになる。そしてself-extensionではアイデンティティやエネルギーといった要素が移動するのに対して,self-expansionでは資源,パースペクティブ,アイデンティティが移動することになる。
したがってBelkの考えるself-extensionが,自らが外側に広がっていくことによって対象を自分のものとしていく概念であるのに対し,Aron and Aronの考えるself-expansionは,外にあるものを自分の中に取り込んでいくことで自己の一部としていく概念であると解釈できる。比喩的に表現すれば,self-extensionが外部に存在しているものを占領して領土を広げていく(自分を広げる)ようなイメージであるのに対して,self-expansionは外部に存在しているものを消化して自己の体の一部にしていく(自分に取り込む)ようなイメージといえる(久保田,2023,2024)。
4.2 当事者の心理や行動の様式の違いself-extensionの動機づけ的側面からは,自己が対象を支配する構造が浮かびあがり,self-expansionの動機づけ的側面からは,対象が自己に影響を及ぼす様子が浮かびあがる。するとself-extensionとself-expansionでは,当事者の心理や行動の様式が大きく異なることが推察できる。
Hoffman and Novak(2018)はこうした点に着目し,self-extensionとself-expansionが,作動性(agency)と共同性(communion)という点で違いがあることを指摘している26)。
作動性と共同性という概念は,マーケティングではあまり用いられないので,まず簡単に整理する。作動性および共同性はBakan(1966)によって提唱された概念であり,人の行動や心理を記述したり判断したりするための2つの基本的な様式(fundamental modalities)のことである(Abele & Wojciszke, 2007)。
作動性とは,一人の人間として個人の目指すべき特性を表すものであり,自己擁護,自己主張,自己拡張,達成への促進,分離,孤独などと対応している。また共同性とは,大勢の他者の中にいる個人として目指すべき特性を表すものであり,他者と一緒にいるという感覚,接触,結合,契約のない協力などと対応している(土肥,2004,2006;土肥・廣川,2004)。したがって作動性が自己主導的であるのに対して,共同性では他者や社会とのつながりが強調されることになる27)。
Hoffman and Novak(2018)の主張に視点を戻す。彼女らの指摘は,self-extensionは作動性志向(agentic orientation)と一致し,self-expansionは共同性志向(communal orientation)と一致するというものである。そしてself-extensionには,対象を自ら操作しようとするとともに,自己を個性化(individuate)したり差別化(differentiate)しようと努力や,自分自身で行動したり,自分自身を主張したりすることで,主体としての特徴(traits of agency)を表現する傾向が見られるという。またself-expansionには,対象と社会的な結びつきを重視するとともに,対象の価値観,考え方,規範を尊重し,それらに依存する傾向が見られるという。
前節までの内容に基づき self-extensionとself-expansionの共通点ならび相違点をあらためて整理する。
self-extensionとself-expansionには少なくとも2つの共通点がみられる。1つは,対象との間に心理的な結びつき(同一化や一体感)が生じることである。もう1つは自己の拡大が生じ,自分自身の範囲が広がることである。
こうした共通点がある一方で,self-extensionとself-expansionには,自己拡大の動機づけにおいて本質的な相違がある。self-extensionは効力感を得たいという欲求(有能であることへの欲求)によって動機づけられるものであり,この動機づけにより,対象をコントロールや支配しようとする。他方self-expansionは潜在的な効力感を得たいという欲求(有能になることへの欲求)によって動機づけられるものであり,この動機づけにより,対象の資源,パースペクティブ,アイデンティティを獲得し,自己に組み込もうとする。
これら動機づけ的側面の違いによって,self-extensionとself-expansionは異なる機能を持つことになる。self-extensionには効力感がもたらされ,自己の定義が可能となるという機能があり,self-expansionには潜在的な効力感がもたらされ,自己の再構築が可能となるという機能がある。
動機づけ的側面の違いは,両者の特徴にも影響を及ぼしている。まずself-extensionとself-expansionは自己拡大の様式(拡大の方向性,拡大の方法,移動する要素)において異なっている。また当事者の心理や行動の基本様式という点でも相違しており,self-extensionは作動的であり,self-expansionは共同的である。
以上を整理したのが表1である。この表に示されたように,self-extensionとself-expansionはいずれも自己の拡大を説明する概念であるが,動機づけ,機能,特徴において大きな違いがある。
| self-extension | self-expansion | |
|---|---|---|
| 共通点 | ||
| 対象との結びつき (connection) |
・対象との同一化や一体感が生じる。 | |
| 自己の拡大 (augmenting) |
・自分自身の範囲が広がる。 | |
| 動機づけ | ||
| ・効力感を得たいという欲求(有能であることへの欲求)によって動機づけられる。 ・この動機づけにより,対象をコントロールや支配しようとする。 |
・潜在的な効力を得たいという欲求(有能になることへの欲求)によって動機づけられる。 ・この動機づけにより,対象の資源,パースペクティブ,アイデンティティを獲得し,自己に組み込もうとする。 |
|
| 機能 | ||
| 有能感の獲得 | ・効力感 ✓対象を自分でコントロールや支配できると,その対象への所有感が高まり,自己の一部と感じるようになる。その結果,自己の操作範囲が広がることで,自分の力の強さを実感できる。 ✓対象を配下に置く→自己の操作範囲が広がる→効力感がもたらされる(自分の力の強さを実感できる) |
・潜在的な効力感 ✓対象を構成する要素(資源,パースペクティブ,アイデンティティ)を自己に組み込むことで,自己と環境の適合性が向上する。その結果,潜在的な効力感がもたらされ,本来の自分以上の存在になれる。 ✓対象の一部を自己に組み込む→自己と環境の適合性が向上する→潜在的な効力感がもたらされる(本来の自分以上の存在になれる) |
| 自己概念の変化 | ・自己の定義 ✓人は自らの操作対象となったものに対して,自分のものと感じ,自己の一部だと認識するようになる。そして人には自分が何を支配しているかによって自分を理解する傾向があるため,この自己の一部となった所有物は自分が何者であるかを理解する手助けとなる。 ✓対象を配下に置く→支配の対象として認識する→自分が何者かを理解する(自己の定義) |
・自己の再構築 ✓対象を構成する要素を自己に組み込むことで,新たな自己が形成される。 ✓対象の一部を自己に組み込む→新たな自分が形成される(自己の再構築) |
| 特徴 | ||
| 自己拡大の様式 (拡大の方向性) |
・拡大の方向性,拡大の方法,移動する要素において相違する。 | |
| ✓自己を対象へ拡張(extent)する(自己→対象) | ✓対象を自己に内包(include)する(自己←対象) | |
| (拡大の方法) | ✓自己の要素を対象に投入する(invest) ✓カセクト(cathect)する |
✓対象の要素を自己に組み込む/包み込む(incorporate/envelope) ✓獲得(acquire)する |
| (移動する要素) | ✓アイデンティティ ✓エネルギー |
✓資源 ✓パースペクティブ ✓アイデンティティ |
| 当事者の心理や 行動の基本様式 |
・作動的(agentic) ✓対象を自ら操作しようとする。 ✓自己を個性化(individuate)したり差別化(differentiate)しようと努力や,自分自身で行動したり,自分自身を主張したりする。 |
・共同的(communal) ✓対象と社会的な結びつきを重視する。 ✓対象の価値観,考え方,規範を尊重し,それらに依存する。 |
self-extensionとself-expansionの対比的理解から明らかになるもっとも重要な知見の1つは,両者を明確に区別しつつ,それぞれを同時に測定できる尺度が見当たらないことである。本節ではこうした観点からself-extensionとself-expansionの既存尺度を検討し,その問題点および課題を明らかにしていく(表2)。
| self-extensionの測定尺度 |
|---|
| Sivadas and Machleit(1994) |
| The things I own help me achieve the identity I would like to have. 私が所有するものは,私が望むアイデンティティを実現するのに役立つ |
| What I buy helps me narrow the gap between what I am and what I would like to be. 私が買うものは,いまの私となりたい私の姿とのギャップを縮めるのに役立つ |
| The things I own do not reflect the real me. 私が所有しているものは,本当の私を反映していない |
| My possessions are part of what I am. 私の所有物は,私という存在の一部だ |
| The things I own are central to my identity. 私の所有物は,私のアイデンティティの中心を成している |
| When something is stolen from me I feel as if my identity has been snatched from me. 何かを盗まれたら,自分のアイデンティティを奪われたように感じる |
| I derive some of my identity from the things I own. 私は自分の所有物からアイデンティティの一部を得ている |
| Sivadas and Venkatesh(1995) |
| My helps me achieve the identity I want to have. 私の は,私が望むアイデンティティを実現するのを助けてくれる |
| My helps me narrow the gap between what I am and what I try to be. 私の は,いまの私と,なろうとしている私のギャップを縮めるのを助けてくれる |
| My is central to my identity. 私の は,私のアイデンティティの中心を成している |
| My is part of who l am. 私の は,私という存在の一部だ |
| If my is stolen from me I will feel as if my identity has been snatched from me. 私の が盗まれたら,自分のアイデンティティが奪われたように感じるだろう |
| I derive some of my identity from my . 私は自分のアイデンティティの一部を私の から得ている |
| Ferraro, Escalas, and Bettman(2011);Roster, Ferrari, and Jurkat(2016) |
| I have a special bond with my favorite possessions. 私は,お気に入りの所有物と特別な絆で結ばれている |
| I consider my favorite possessions to be a part of myself. 私は,お気に入りの所有物を自分自身の一部だと思っている |
| I often feel a personal connection between my special possessions and me. 私は,特別な所有物と自分との間に個人的なつながりを感じることが多い |
| Part of me is defined by the special possessions in my life. 私の一部は,私の人生における特別な所有物によって定義される |
| I feel as if I have a close personal connection with the possessions I most prefer. 私は,自分が最も好んでいる所有物との間に,親密で個人的なつながりがあるように感じる |
| I can identify with important possessions in my life. 私は,自分の人生において重要な持ち物を,自分と同一視することができる |
| There are links between my special possessions and how I view myself. 私の特別な所有物と,私自身の自己認識の間にはつながりがある |
| My favorite possessions are an important indication of who I am. 私のお気に入りの所有物は,私という存在を示す重要なしるしである |
| self-expansionの測定尺度 |
|---|
| Aron, Aron, and Smolan(1990)IOS(inclusion of other in the self scale)a |
![]() |
| Lewandowski and Aron(2002)SEQ(self-expansion questionnaire)b |
| How much does your partner help to expand your sense of the kind of person you are? あなたのパートナーは,自分がどういう人間であるかという感覚を広げてくれるのに,どのくらい役立っていますか |
| How much do you see your partner as a way to expand your own capabilities? あなたはパートナーを,自分の能力を拡張するための手段として,どの程度考えていますか |
| How much has knowing your partner made you a better person? あなたはパートナーを知ったことで,どれくらい良い人間になりましたか |
| How much does your partner provide a source of exciting experiences? あなたのパートナーは,刺激的な体験の源をどれくらい提供してくれますか |
| Mattingly and Lewandowski(2013) |
| Do you feel a greater awareness of things? 物事に対する意識が高まったと感じますか |
| Do you feel an increase in your ability to accomplish new things? 新しいことを成し遂げる能力が高まったと感じますか |
| How much do you feel that you have a larger perspective on things? 物事に対する視野が広がったと,どの程度感じますか |
| How much has doing the previous activity resulted in your learning new things? 以前の活動をすることで,どの程度新しいことを学ぶことができましたか |
| How much has doing the previous activity increased your knowledge? 以前の活動をすることで,どの程度知識が増えましたか |
| de Kerviler and Rodriguez(2019) |
| I feel an increase in my ability to accomplish new things. 新しいことを成し遂げる能力が高まったと感じる |
| I feel that I have a larger perspective on things. 物事に対する視野が広がったと感じる |
| I feel that I have learned new things. 新しいことを学んだと感じる |
| I feel that I have increased my knowledge. 知識が増えたと感じる |
| I feel a greater awareness of things. 物事に対する意識が高まった感じる |
| I feel I have added positive qualities to my sense of self. 自己認識にポジティブな要素が加わったと感じる。 |
| I feel that I have expended my sense of the kind of person I am. 自分がどんな人間なのかについて,認識が広がったと感じる |
| Lee, Bai, and Busser(2019) |
| Being with this person/doing the activity results in having new experiences. この人と一緒にいることで/この活動をすることで,新しい経験をすることができる |
| This person/activity increases my ability to accomplish new things. この人/この活動は,新しいことを成し遂げる私の能力を高めてくれる |
| I often learn new things about this person/activity. 私はこの人/この活動について,よく新しいことを学ぶ |
| This person/activity provides a source of exciting experiences. この人/この活動は,刺激的な経験の源を提供してくれる |
| Knowing this person/doing the activity has made me a better person. この人と知り合うことで/この活動をすることで,私はより良い人間になった |
| This person/activity increases my knowledge. この人/この活動は,私の知識を増やしてくれる |
| When I am with this person, I feel a greater awareness of things. この人と一緒にいると,物事に対する意識が高まる |
| Gorlier and Michel(2020) |
| This bank would allow to expand my vision of things. この銀行は,私の視野を広げてくれるだろう |
| I have the feeling this bank would teach me new things. この銀行は,私に新しいことを学ばせてくれるような気がする |
| This bank would make me live new experiences. この銀行は,私に新しい経験をさせてくれるだろう |
| This bank would increase my ability to accomplish new things. この銀行は,新しいことを成し遂げる能力を高めてくれるだろう |
| With this bank I would accomplish things different from my habits. この銀行のおかげで,普段の習慣とは異なることを達成できるだろう |
| With this bank I would have the impression to reveal new aspects of my person. この銀行のおかげで,私は自分の新たな一面を発見できるような気がする |
| With this bank I would have the feeling to extend my possibilities. この銀行のおかげで,自分の可能性を広げられる気がする |
| With this bank I would have the impression that new perspectives are opening up to me. この銀行を利用することで,新たな視野が開けるような気がする |
| This bank would allow me to show the best of myself. この銀行なら,自分の良さを最大限に発揮できそうだ |
| I have a feeling that this bank would bring me something new. この銀行なら,何か新しいことをもたらしてくれそうな予感がする |
| Liu, Peng, Lewandowski(2023) |
| How much does being with your partner result in your having new experiences? パートナーと一緒にいることで,新しい経験をどの程度していますか |
| How much do you see your partner as a way to expand your own capabilities? パートナーを自分の能力を広げる手段と,どの程度みなしていますか |
| How much do you feel that you have a larger perspective on things because of your partner? パートナーのおかげで物事に対する視野が広がったと,どの程度感じますか |
| Niu et al.(2023) |
| (acquisition of new experiences and perspectives 新しい経験やパースペクティブの獲得) |
| Internet provides a source of new and exciting experiences インターネットは,新しくエキサイティングな体験の源を提供してくれる |
| I get a clearer and deeper understanding of things because of using Internet インターネットを利用することで,物事をより明確かつ深く理解できるようになった |
| Internet provides me with a larger perspective on things インターネットは,物事に対するより広い視野を与えてくれる |
| Internet expands my understanding of external things インターネットは,外部の物事に対する理解を深めてくれる |
| Internet provides me with many novel and challenging experiences インターネットは,多くの斬新で挑戦的な体験を与えてくれる |
| (sense of personal growth and new identities 個人的な成長と新しいアイデンティティの感覚) |
| Internet helps me to expand my sense of the kind of person I am インターネットは,私がどのような人間であるかという感覚を広げるのに役立つ |
| Internet helps me to find my potential インターネットは,私の可能性を見つけるのに役立つ |
| Internet increases my focus on myself インターネットは,自分自身への集中力を高める |
| To some extent, Internet makes me rediscover myself インターネットは,ある程度,自分自身を再発見させてくれる |
| I have different identities and roles online, which are different from those in real life 私は現実の生活とは異なるさまざまなアイデンティティや役割をオンラインで持っている |
| I find different aspects of myself online 私はオンラインで,自分のさまざまな側面を発見する |
| (raising competence and resources コンピテンスと資源の向上) |
| Internet increases my ability to accomplish new things インターネットは,新しいことを達成する能力を高めてくれる |
| I have learned new things through using Internet 私はインターネットを使うことで,新しいことを学んでいる |
| Internet increases my knowledge インターネットは,私の知識を増やしてくれる |
| I have more resources online 私はオンラインにより多くの資源を持っている |
| Internet increases my competitiveness in life インターネットは,人生における競争力を高めてくれる |
| self-extensionと self-expansionの測定尺度 |
|---|
| Liu, Yang, and Yao(2022) |
| (self-extension) |
| I have felt a personal connection between the smartwatch and me そのスマートウォッチと自分の間に個人的なつながりを感じている |
| I have considered the smartwatch to be a part of myself そのスマートウォッチを自分自身の一部と考えてきた |
| The smartwatch have been an important indication of who I am そのスマートウォッチは,私が誰かを表す重要なしるしとなっている |
| (self-expansion) |
| The smartwatch has enhanced my ability to accomplish things そのスマートウォッチは物事を達成する能力を高めてくれた |
| The smartwatch has increased my knowledge そのスマートウォッチは私の知識を増やしてくれた |
| The smartwatch has made me a better person そのスマートウォッチは私をより良い人にしてくれた |
a Aron, Aron, and Smolan(1990)は学会報告資料のため入手が困難であるため,本表ではその論文版であるAron, Aron, and Smolan(1992)より引用をしている。
b Lewandowski and Aron(2002)は学会報告資料のため入手が困難である。このため本表ではLewandowski et al.(2006)およびLewandowski and Bizzoco(2007)が例示した項目を参考に,その一部を記述している。なおLewandowski et al.(2006)によると,オリジナルの尺度は14項目から構成されている。
self-extension系尺度の概要 Sivadas and Machleit(1994)およびSivadas and Venkatesh(1995)の尺度は,「ある個人が特定の所有物をどの程度拡張された自己の中に取り込んでいるか(has incorporated)」(Sivadas & Machleit, 1994, p. 143, 下線筆者)を測定するものである。彼らの尺度の特徴として,拡張された自己を「自己のアイデンティティを形成するもの」と捉えていることがあげられる。つまりself-extensionの機能的な側面(の一部)にのみ着目しており,それ以外の側面や要素については測定の対象としていない。
Ferraro, Escalas, and Bettman(2011)の尺度はself-extensionでなくself-extension傾向(self-extension tendency)を測定するものである。self-extension傾向とは,自己を定義するために所有物を使用する程度のことであり,特定の所有物に限定されない一般的な傾向を反映するものである。
彼女らはこのself-extension傾向について「ブランドを彼・彼女らの自己概念の一部として内包する(include)こと」(p. 170,下線筆者)と説明している。そして,消費者が重要なブランドを自己概念に内包する傾向を測定するためにSprott, Czellar, and Spangenberg(2009)によって開発された「自己概念におけるブランド・エンゲージメント尺度」(brand engagement in self-concept scale)を修正して,self-extension傾向を測定するための新たな尺度を作成している。ただしこの新たに作成された尺度の項目内容を見ると,自己と対象との結びつき(結合)やアイデンティティの確立(機能)に限定されており,それ以外の側面は考慮されていない。
なおFerraro, Escalas, and Bettman(2011)のself-extension傾向尺度はRoster, Ferrari, and Jurkat(2016)によっても用いられている。
self-extension系尺度の問題点 本研究の議論と照らし合わせると,self-extension系の尺度には,いくつかの問題点があることがわかる。
まずSivadas and Machleit(1994)もFerraro, Escalas, and Bettman(2011)も,定義や理論的背景に基づく限り,対象を自己に内包する程度を測定しようとしており,self-extensionというよりもself-expansionを測定するものと解釈できる。
次に測定項目に目を向けると,Sivadas and Machleit(1994)やSivadas and Venkatesh(1995)の尺度は,アイデンティティの形成という機能的な側面にのみ着目しており,それ以外の側面や要素については測定の対象としていない。self-extensionとself-expansionはいずれもアイデンティティの形成という機能を持っていることを考えると,彼らの尺度ではself-extensionとself-expansionを弁別して測定することが困難だと考えられる。同様にFerraro, Escalas, and Bettman(2011)のself-extension傾向尺度も,対象との結びつきおよびアイデンティティの形成という測定項目によって構成されているため,self-extensionとself-expansionの双方にあてはまる。このため両者を弁別して測定することが困難だと考えられる。
今後こうした問題を解決するには,対象のコントロールや支配といった動機づけ的側面,効力感の獲得といった機能的側面,対象へのカセクトや投入といった方向性,作動的側面のような当事者の基本様式も組み込んだ尺度の開発が望まれる。
6.2 self-expansion系の測定尺度self-expansion系尺度の概要 self-expansionの測定尺度には,Aron, Aron, and Smolan(1990)が開発したIOS(inclusion of other in the self scale)とLewandowski and Aron(2002)が開発したSEQ(self-expansion questionnaire)がある28)。Aron et al.(2013)によると,IOSは他者の組み込みの程度を測定する尺度であり,SEQは自己拡大の動機づけを測定する尺度である。両者についてもう少し詳しく説明する。
IOSは他者との親密さを1次元的に測定するものであり,他者を自己の中に包含する程度を明らかにすることができる。それは表2に示されたような図形を用いた測定尺度であり,異なる重なり具合の複数のベン図から,自分たちの関係を最もよく表すものを選択することになる29)。
SEQは親密な関係においてある個人がself-expansionをどの程度経験するかを測定するものであり,14項目から構成される。また内容的には,ある人が知識の向上(increased knowledge),スキルの向上(increased skill),能力の向上(increased abilities),仲間としての価値の向上(increased mate value),人生経験の強化(enhanced life experiences),パートナーが新しい経験の源泉となっている程度(extent to which the partner is a source of new experiences)を経験した程度から構成されている。
こうした情報と表2に例示された項目を見る限り,SEQは主として,対象の要素を自己に内包している程度,対象が自己の拡大に貢献している程度と,拡大によって有能になった程度を測定していると考えられる。
なおSEQはself-expansionの測定尺度として浸透しており,Mattingly and Lewandowski(2013),de Kerviler and Rodriguez(2019),Lee, Bai, and Busser(2019),Gorlier and Michel(2020),Liu, Peng, and Lewandowski(2023)など,既存の質問文型尺度のほとんどがこれをベースにしている。ただし表2に示した尺度のうちNiu et al.(2023)だけはSEQを参考にせず,独自の半構造化インタビューによって項目を作成している。
self-expansion系尺度の問題点 self-extension系の尺度と同様に,self-expansion系尺度にもいくつかの問題点がある。
Aron, Aron, and Smolan(1990)によれば,IOSはLevinger and Snoek(1972)の親密さ(closeness)を測定する尺度を源流としており,2つの円の一致度と重なり具合は,愛情や友情の尺度評価と強く関連している。このためIOSは(self-expansionの程度を測定する優れた尺度である一方で)self-expansion以外の心理現象についても反応してしまう可能性がある。
他方SEQに目を向けると,対象を自己に取り込むことで自己が再構築され,潜在的な能力が高まった程度を測定している。こうした尺度構成の傾向は,動機づけ的側面,機能的側面,方向性をある程度まで測定しているものといえ,self-extensionとの弁別可能性という点で好ましいものと考えられる。ただし,共同的側面のような基本様式についてはあまり触れていない。
6.3 self-extensionとself-expansionの双方を測定する尺度self-extensionとself-expansionの双方を同時に測定する尺度として,Liu, Yang, and Yao(2022)が開発したものがある。彼女らの尺度は既存の項目を組み合わせたものであり,self-extensionの項目はFerraro, Escalas, and Bettman(2011)のself-extension傾向尺度に,self-expansionの項目はSEQに基づいている30)。
この尺度の最大の問題点は,self-extensionの測定が,対象との結びつきおよびアイデンティティの形成という測定項目だけで構成されていることである。すでに述べたように,これらはself-extensionとself-expansionの双方にあてはまる内容であるため,彼女らの尺度によって両者を十分に弁別して測定することは理論的に困難だと考えられる。
6.4 尺度開発における課題本節におけるここまでの議論から,今後の尺度開発における課題が明らかになる。
self-extensionとself-expansionは必ずしも相互に排他的ではないし(Belk, 2014),同時に生じることもある(Connell & Schau, 2010)。たとえば自動車であれば,購入して運転することで,コントロール感や占有感を得ることができる。同時にそのステータス,パワー,あるいは洗練性などを,あたかも自分のもののように感じることで,自己の潜在的能力が高まった感覚を得ることができる(Hoffman & Novak, 2018)。またオンライン・コミュニティであれば,積極的に書き込みを行うことで,「ここは私のコミュニティだ」といった所有感や支配感を得られる。同時に,他者の書き込みから新しい知識を得ることで,自己の潜在的能力が高まった感覚が得られる(Wichmann, Wiegand, & Reinartz, 2022)。論理的に考えても,ある人が,現時点における有能感と将来における有能感の双方を求めることは矛盾するものでなく,両立しうるものである。
このようにself-extensionとself-expansionは同時に生じる可能性があるにもかかわらず,現時点ではそれぞれを明確に区別したうえで,並列的に測定できる尺度が見当たらない。したがってself-extensionとself-expansionを適切に弁別し,測定できる尺度を開発することは,今後の大切な課題である。
本研究を簡単に振り返るとともに,今後の展望について言及する。本研究ではself-extensionとself-expansionという類似した概念について対比的な検討を行った。両者はいずれも,対象との間に心理的な結びつきが形成されることで自己が拡大するという心理的現象を論じたものであり,これまで混同されることも少なくなかった。これに対して本研究では,self-extensionとself-expansionには動機づけ的側面に根本的な違いがあり,その結果,機能や特徴も異なることを明らかにした。またさらに先行研究にみられる測定尺度の問題点も明確にした。したがって本研究は,self-extensionとself-expansionという概念を明確に弁別することを可能とし,それぞれの違いに着目した研究の発展に寄与することになるだろう。また新たな尺度開発に対しても有益な示唆を与えることになるだろう。
本研究が明らかにした動機づけ的側面,機能,特徴の違いは,マーケティングや消費者行動に対してさまざまな貢献をすることになる。
たとえばBelk(2013)はself-extensionについて「ブランドではなく所有物に焦点をあわせる」(p. 477)ものだと述べており,Reimann and Aron(2009)はself-expansionが消費者とブランドの関係に適用可能だと述べている。つまりマーケティングや消費者行動を念頭においた場合,self-extensionとself-expansionには,主たる適応対象が所有物かブランドかという違いがあるが,こうした違いがなぜ生じるかも,本研究の議論を用いることで容易に理解できる。
まず第3節で述べたようにself-extensionでは,すでに確立された自己があり,それを対象に注入するかたちで支配することで,アイデンティティを確立するというプロセスが想定されている。このためself-extensionの対象には,独自の意味やアイデンティティを持った存在である「ブランド」よりも,そうした意味合いが希薄な「物」の方が適していると考えられる。逆にself-expansionでは,対象を取り込むことで新たな自己が形成され,自己が再発見されるというプロセスが想定されているため,単なる「物」よりも,豊かな意味合いを持った「ブランド」の方が,その対象として適していると考えられる。
さらに第2節で述べた,self-extensionは心理的所有感の研究で援用されることが多く,self-expansionはブランド・リレーションシップの研究で援用されることが多いということも,本研究の議論によって理解ができる。なぜなら心理的所有感とは,エフェクタンス動機づけに基づくものであり,対象をコントロールしたり,対象を熟知したり,あるいは対象に自己を投資することによって生じるものであるため(Jussila, Tarkiainen, Sarstedt, & Hair, 2015),self-extensionと非常に親和性が高い。他方,ある種のブランド・リレーションシップは,魅力を感じるブランドの資源,パースペクティブ,アイデンティティを自己に組み込むことで生じるため(Reimann & Aron, 2009),self-expansionと極めて親和性が高い。
このほか本研究の議論をさらに発展させることで,支配欲求に基づくブランド・ロイヤルティと成長欲求に基づくブランド・ロイヤルティといった,これまでにない新しい概念を提示することも可能であろう。
たとえばAggarwal and McGill(2012)は,ブランドへの選好が支配(dominate)への欲求によって生じる可能性を示唆している。彼らは消費者とブランドとの関係には,パートナーとしてのブランド(親友のようなブランド)と,サーバントとしてのブランド(召使いのようなブランド)があるとしたうえで,ブランドが擬人化されている場合,物質主義者はサーバント・ブランドを支配したいという欲求が生じるために,パートナー型ブランドよりもサーバント型ブランドを好む傾向があることを明らかにしている(see also, Kim & Kramer, 2015)。こうした現象は,対象を配下に置きコントロールすることで,それを自己の一部と感じること(つまりself-extension)を背後に想定することで,理解が容易になる。
またde Kerviler and Rodriguez(2019)は,若者がラグジュアリー・ブランドに惹かれる理由が,自己の成長にあること示唆している。彼女らは若者を対象としてラグジュアリー・ブランド経験について検討した。そして若者にとってラグジュアリー・ブランドは未知の領域であるため自己の感覚を広げること(つまり self-expansion)につながり,これがブランドとの同一化や関係性の強化を促すことを明らかにした。彼女らはこうした観点から,ラグジュアリー・ブランドは若者に対して,単なる目立ちたいという欲求や快楽的便益以上のものを提供していると指摘している。
2つの研究を対比すると,前者には支配欲求に基づくブランド・ロイヤルティ,後者には成長欲求に基づくブランド・ロイヤルテという概念を当てはめることが可能であろう。
以上のように本研究の内容は,今後のマーケティングや消費者行動の発展に多様な側面から貢献する可能性を持っている。今後は本研究の議論に基づき,self-extensionとself-expansionに関する研究がさらに発展することを期待したい。
つづいて,上記に加えself-extensionでは「Scimargoマーケティング分野・Q1のジャーナル(52誌)/Article(原著)/査読あり/English(言語)/1988年~2024年」を,self-expansionでは「Scimargoマーケティング分野・Q1のジャーナル(52誌)/Article(原著)/査読あり/English(言語)/1986年~2024年」を絞り込み条件として指定した。この結果,self-extensionは86本,self-expansionは11本の論文が検出された。
こうして得られた検索結果に対して,それぞれ2段階のスクリーニングを行った。self-extensionに対しては,検出された86本の論文に対して,Belkの研究を引用していない,またはself-extension関連の単語が入っていない,といった条件で1次スクリーニングを行った。その結果,56本の論文に絞られた。さらに本文を確認しながら2次スクリーニングを行った。具体的には,self-extensionが仮説に含まれていない,調査などにおいて測定されていない,導入や貢献のみで部分的に取り上げているなどself-extensionが主な研究の焦点でない,あるいは特集号の巻頭論文である,といった条件によって除外を行った。その結果,40本の論文が残った。self-expansionに対しては,検出された11本の論文に対して,Aron and Aronの研究を引用していない,またはself-expansion関連の単語が入っていないといった条件で1次スクリーニングを行った。その結果,9本の論文に絞られた。さらに本文を確認しながら2次スクリーニングを行ったところ,除外対象論文はなかった。
なお本文中で引用しているReimann and Aron(2009)はスクリーニングの対象とした学会誌ではなく,書籍に掲載された論文であるため,図3のグラフには含まれていない。