2026 年 29 巻 1 号 p. 3-15
本研究は,暗黙マインドセットが,貧困問題への寄付行動に与える影響を,知覚された寄付の効力感(PDE)と受益者への非難に着目して検証した。研究1では,個人の安定的傾向である特性としてのマインドセットを対象に調査を行った。その結果,成長マインドセットはPDEを高め,それを通じて寄付意図を促進する認知的プロセスが確認された一方,伝統的な寄付の規定要因とされる非難の媒介効果は支持されなかった。研究2では,文章プライミングを用いた介入によって一時的な状態としてのマインドセットを誘発し,実際の金銭寄付行動への波及効果を検討した。分析の結果,成長マインドセットはPDEと寄付意図を順次高めることで寄付行動を促進したが,非難を経由する経路は再び支持されなかった。以上より,貧困支援における寄付行動を促進する主要な要因は,感情的な非難の抑制ではなく,自分の寄付が変化をもたらすというPDEの形成にあることが示された。本研究は,暗黙マインドセット研究と寄付行動研究を理論的・実務的に拡張するものである。
This study investigates the impact of implicit mindsets on donation behavior toward poverty-related causes, focusing on perceived donation efficacy (PDE) and blame toward beneficiaries. Study 1 examined chronic trait mindsets and found that a growth mindset increased PDE, which in turn promoted donation intention, whereas the traditional blame-mediated pathway was not supported. Study 2 used text-based priming to induce temporary mindset states and examined their effects on actual monetary donation behavior. The results showed that a growth mindset promoted donation participation through a sequential process in which PDE increased donation intention, which in turn increased the likelihood of donating; again, the blame-based pathway was not supported. Taken together, these findings suggest that the primary driver of poverty-related giving is not the suppression of blame but the cognitive formation of PDE, that is, the belief that one’s contribution can make a meaningful difference. The study extends the literature on implicit theories and prosocial behavior by identifying PDE as a key psychological mechanism in donor decision-making.?
本研究の目的は,近年マーケティングや消費者行動の領域において,消費者の判断や意思決定に影響を与えるメカニズムとして注目を集めている暗黙マインドセット理論(Implicit theories / mindsets)に着目し,寄付行動に与える影響を明らかにすることである。
本研究における暗黙マインドセットは「人間の特性の可変性について個人が有している信念」と定義される(Dweck et al., 1995)。暗黙マインドセットは,その内容と捉え方の2軸で整理することができる。第一に内容の側面として,人間の資質は固定的で変化しないと信じる「固定(Fixed)マインドセット」と,努力や時間の経過によって変化・向上しうると信じる「成長(Growth)マインドセット」の2種類が存在する(Dweck, 2006;Dweck & Leggett, 1988)。第二に捉え方の側面として,個人の安定的で日常的な信念である「特性(Trait)」としての側面と,介入や状況要因によって一時的に誘発される「状態(State)」としての側面がある(Hsieh & Yucel-Aybat, 2018;Labban et al., 2023;Septianto et al., 2022)。既存研究では,特性としてのマインドセットは個人の慢性的傾向として測定される一方,状態としてのマインドセットは特定の刺激を用いたプライミングによって一時的に活性化されるものとして扱われる。
寄付は「親族以外の人たちに便益をもたらす組織への金銭寄付」と定義される(Bekkers & Wiepking, 2011)。
本研究では,寄付行動を左右する主要な心理的要因として,以下の2つの概念に焦点を当てる。第一に,知覚された寄付の効力感(Perceived Donation Efficacy:PDE)である。これは「寄付者が支援する社会課題(Cause)に自分の寄付が変化をもたらすと認識する度合い」を指す(Bekkers & Wiepking, 2011)。例えば,貧困問題への寄付の文脈では,たとえ少額であっても,自分の寄付が受益者の生活を具体的に改善し,現状を打破する助けになるという確信を抱く状況を意味する(Septianto et al., 2022)。第二に,受益者への非難(Blame)である。これは,受益者が置かれた不幸な状況を自業自得(本人の責任)であると帰属させる感情的な反応を指す(Hsieh & Yucel-Aybat, 2018;Weiner, 1995)。具体的には,寄付者が彼らが困窮しているのは努力不足や怠慢が原因だと判断する状況がこれに該当し,寄付意欲を著しく阻害することが知られている(Zagefka & James, 2015)。
1.2 研究の背景と課題寄付は社会課題解決のための重要な資源である。アメリカでは,2024年に約5,925億ドルの寄付が行われ,日本でも2024年の寄付額は2兆円を超えるなど(Giving USA Foundation et al., 2025;日本ファンドレイジング協会,2025),その規模は拡大を続けている。しかし,これらの寄付は自然に集まるものではないため,多くの非営利組織は寄付者の心理的メカニズムを深く理解し,マーケティング戦略に応用することが不可欠である(Chapman et al., 2025)。
暗黙マインドセットは寄付行動研究の文脈へと拡張されており,PDEと密接に関連することが指摘されている(Aizawa, 2025)。
しかしながら,既存のマインドセット研究には,大きく二つの課題が残されている。第一に,寄付行動を規定するメカニズムに関する課題である。特に貧困問題への寄付の文脈では,伝統的に受益者への非難や自己責任論が寄付を阻害する主因とされてきた(Bullock et al., 2003;Zagefka & James, 2015)。これに対し,暗黙マインドセット理論は,成長マインドセットが変化の可能性への信念を通じてPDEを高め,それが寄付を促進する可能性を示唆する(Septianto et al., 2022)。寄付を規定する真のメカニズムが,従来の非難の抑制モデルにあるのか,それとも本研究が提起する効力感(PDE)の向上モデルにあるのかは十分に検証されていない(Labban et al., 2023)。
第二に,マインドセットの頑健性の検証である。これまでの研究は,マインドセットを個人の安定的特性として扱うか,一時的な操作による状態として扱うかのいずれかに偏重しており,双方の側面から一貫した影響プロセスを検証した研究は乏しい(Hsieh & Yucel-Aybat, 2018;Labban et al., 2023;Septianto et al., 2022)。マインドセットの効果が理論的に頑健であるならば,それは個人の特性としても,一時的な介入としても同様のメカニズムで機能するはずである。
1.3 本研究の構成と意義そこで本研究は,貧困問題への寄付という非難が生じやすい文脈を対象に,二つの競合するメカニズム(非難モデルvs. PDEモデル)の優位性を比較検証する。まず研究1では,個人の安定的傾向である特性マインドセットが,PDEまたは非難をいかに媒介して寄付意図を形成するかを検証する。続く研究2では,実験的な介入によって状態としてのマインドセットを誘発し,それが実際の寄付行動に及ぼす因果プロセスを明らかにすることで,介入可能性を検討する。
本研究の意義は,既存理論を整理し,貧困問題への寄付において,非難の抑制ではなく,PDEの向上が重要であることを実証的に示す点にある。これにより,本研究は暗黙マインドセット研究と寄付行動研究の双方に対し,理論的かつ実務的な貢献を目指すものである。
暗黙マインドセット理論は,人間の能力や資質といった基本的な特性の可変性について個人が抱く素朴な信念(Lay beliefs)を体系化したものである(Dweck, 2006)。既存研究では,これらマインドセットは単なる信念の列挙ではなく,個人が自己や他者の行動を解釈し,予測するために用いる意味づけシステムの中核をなすとされている(Dweck & Yeager, 2019;Molden & Dweck, 2006)。
具体的には,人間の資質は不変であると信じる固定マインドセットを持つ個人は,他者の行動をその人物の固定的な内的特性やパーソナリティに帰属させて解釈する傾向が強い(Chiu et al., 1997)。そのため,貧困や肥満などのネガティブな状況に直面した他者に対し,本人の性格や能力が原因であるという性格推論を行いやすく,その結果として他者への非難を強め,支援意欲を低下させるという心理プロセスを辿る(Hsieh & Yucel-Aybat, 2018;Wirtz et al., 2016)。これに対し,成長マインドセットを持つ個人は,他者を動的で変化しうる存在として認識し,行動の原因を個人の特性よりも状況や努力のプロセスに帰属させる(Plaks et al., 2005)。この意味づけシステムは,寄付行動において重要な役割を果たすPDEの形成に直結する。成長マインドセットを有する個人は,困難な状況であっても努力や介入(寄付)によって改善・成長が可能であると信じているため,自分の寄付が具体的かつ実質的な変化を生むという確信を抱きやすい(Septianto et al., 2022)。すなわち,成長マインドセットが寄付を促進するのは,単に人を責めないからだけではなく,寄付を状況を変革するための有効な手段として認知するためである。
また,これらのマインドセットは個人特性として測定されるだけでなく,外部からのメッセージ等を通じて一時的に特定の状態を誘発することが可能である(Mathur et al., 2012)。例えば,変化の可能性を強調する科学記事などの外部刺激を提示することで,参加者の潜在的な成長マインドセットの意味づけシステムが活性化され,それが一時的な心理状態となって,その後のPDE判断や寄付意思決定に波及するという因果プロセスが想定される(Labban et al., 2023;Yorkston et al., 2010)。本研究では,この意味づけシステムの活性化が,非難の抑制よりもPDEの向上という認知的経路を通じて寄付行動を促進することを実証的に明らかにする。
2.2 貧困問題の特徴と寄付行動本研究が対象とする貧困問題は,寄付行動研究において重要な理論的課題を含んでいる。貧困は個人の努力不足や選択の結果と捉えられやすく,受益者への責任帰属が強く生じる傾向がある。従来の貧困問題への寄付に関する研究では,この個人責任観に基づく受益者への非難が,支援に値するかという評価を低下させ,寄付を阻害する主要な要因であるとされてきた(Bullock et al., 2003;Zagefka & James, 2015)。すなわち,これまでの議論は,いかにして受益者への非難を抑制するかに焦点が当てられてきたといえる。
しかし,暗黙マインドセットの観点からは,全く異なるメカニズムが予測される。成長マインドセットは,人間の特性や状況は可変的であるという信念に基づき,困難な状況であっても改善可能であるという認知を形成する。この変化への信念は,自身の寄付が実際に問題解決に寄与できるというPDEを高め,それが寄付行動を促進する可能性を示唆している。一方で,固定マインドセットは状況の不変性を信じるため,貧困のような解決困難に見える課題に対しては,何をやっても変わらないという無力感からPDEを低く見積もりやすいと考えられる。
したがって,貧困問題における寄付行動を理解する上での重要な課題は,寄付を規定する要因が,伝統的に重視されてきた非難にあるのか,PDEにあるのか,という点にある。もし,暗黙マインドセットがPDEを通じて寄付を促進することが示されれば,貧困支援においては受益者を責めないこと以上に,変化を起こせると信じることが重要であるという,新たな知見を提供することになる。本研究は,貧困という非難が生じやすい文脈において,二つのメカニズムを比較し,PDEの媒介効果の優位性を検証することで,寄付行動研究の理論的発展に貢献するものである。
2.3 PDEと寄付行動先行研究では,PDEが寄付意図および実際の寄付行動における決定要因であることが確認されている(Bekkers & Wiepking, 2011;Carroll & Kachersky, 2019;Cryder et al., 2013;Septianto et al., 2022)。寄付者は,自分の寄付が変化をもたらさないと認識すると,寄付をする可能性が低くなることが示されている(Diamond & Kashyap, 1997;Duncan, 2004;Smith & McSweeney, 2007)。逆に,PDEが高いほど,寄付者は自身の寄付が問題解決に本質的な変化をもたらすと確信し,寄付を行う主要な動機づけとなる(Cryder et al., 2013)。
この文脈において,暗黙マインドセットは,PDEの先行要因である(Hsieh & Yucel-Aybat, 2018;Labban et al., 2023;Septianto et al., 2022)。成長マインドセットと固定マインドセットの違いは,寄付がもたらす成果への期待値を左右する(Jain & Weiten, 2020)。成長マインドセットを持つ個人は,困難な状況や脅威に直面しても,努力や介入によって状況は改善可能であると信じる傾向がある。この変化への信念は,寄付行動においても自分の寄付が状況を好転させるのに有効であるという高いPDEへと変換される。実際,自然災害のような脅威的な状況下において,成長マインドセットを持つ個人は,状況を克服可能な課題と捉え,自身の寄付の有効性を高く見積もることが実証されている(Septianto et al., 2022)。彼らにとって,寄付は単なる消費ではなく,変化を起こすための有効な手段として認識されるため,高いPDEが維持されると考えられる。
対照的に,固定マインドセットを持つ個人は,状況の不変性を信じるため,介入による変化の可能性に対して懐疑的である。彼らは,貧困やホームレス状態のような社会問題に対しても状況は制御不能であり,変わらないという認識を持ちやすく,その結果,自身の寄付が問題解決に役立つという感覚を持ちにくい。つまり,固定マインドセットを持つ個人が寄付を控える主要なメカニズムの一つは,どうせ変わらないという信念に起因する低いPDEにあると言える(Labban et al., 2023)。
2.4 非難と寄付行動暗黙マインドセットが寄付行動に影響を与えるもう一つの重要な経路として,受益者への非難が挙げられる。人間の資質を不変と見なす固定マインドセットは,他者の行動や状況をその人物の固定的な内的特性に帰属させる性格推論を誘発しやすい傾向がある。そのため,貧困やホームレス状態などのネガティブな状況に直面した他者に対し,固定マインドセットを持つ個人はその原因を当事者の変えられない欠陥や個人的な責任(自業自得)として捉えやすく,結果として受益者に対する非難の感情を強めることが示されている。従来の貧困問題への寄付研究では,こうした個人責任観に基づく非難が支援に値するかという評価を低下させ,寄付を阻害する主要因とされてきたため,いかにして非難を抑制するかが議論の中心であった。
一方で,寄付の意思決定プロセスにおいては,感情的な非難よりも自分の寄付が状況改善に寄与し得るという認知的なPDE判断の方が,より支配的な要因となる可能性も指摘されている(Labban et al., 2023)。本研究では,成長マインドセットによって状況は改善可能であるという信念が十分に形成される状況下では,たとえ受益者への責任帰属が生じたとしても,認知的な効力感判断が感情的な非難を後景化させるという可能性を想定する。すなわち,非難はPDEが弱いあるいは不確実な状況においてより強く機能する条件付きの補助的経路である可能性が推察される。本研究は,貧困支援という非難が生じやすい文脈を対象に,従来の非難の抑制モデルに対する,この認知優位モデルの妥当性を実証的に比較検証する。
2.5 本研究の仮説以上の議論から,暗黙マインドセットは認知的なPDEと感情的な非難の双方の経路を通じて寄付行動に影響を与えうると考えられる。しかし,Labban et al.(2023)が示唆するように,寄付の意思決定においては,感情的な非難よりも,認知的なPDEがより支配的な要因となる可能性が高い。
したがって本研究では,暗黙マインドセットはPDEと非難の両方を媒介するものの,PDEを経由する間接効果の方がより支配的であると予測し,以下の仮説を設定する。
H1:成長マインドセットが強いほど,PDEが高まる。
H2:固定マインドセットが強いほど,受益者への非難が高まる。
H3:PDEが高いほど,寄付意図が高まる。
H4:受益者への非難が高いほど,寄付意図が低くなる。
次に,暗黙マインドセットが寄付行動に影響を与える経路について,PDEを経由する認知的経路と,非難を経由する感情的経路の優位性を比較検証するため,以下の仮説を設定する。
H5a:マインドセットは,PDEを媒介して寄付意図に影響を与える。
H5b:マインドセットは,受益者への非難を媒介して寄付意図に影響を与える。
計画行動理論(Ajzen, 1985)が示す通り,寄付に関する信念や認識は寄付意図に影響を与え,その意図が実際の寄付行動の最も直接的な決定要因となることが広く支持されている(Bekkers & Wiepking, 2011;Carroll & Kachersky, 2019)。多くの寄付研究は,寄付意図が実際の行動の有効な代理指標であるという前提に基づいているが,この意図と行動の正の関連性は実証的にも確認されている(Carroll & Kachersky, 2019;Sharma & Morwitz, 2016;Smith & McSweeney, 2007)。したがって,本研究においても,高められた寄付意図は実際の寄付行動を促進すると予想される。
H6:寄付意図は寄付行動に正の影響を与える。
以上の理論的背景を統合すると,操作された成長マインドセットがPDEを高め,高まったPDEが寄付意図を形成し,その意図が最終的な寄付行動につながるという一連の因果連鎖が成立すると考えられる。すなわち,PDEは成長マインドセットの効果を行動へと橋渡しする中心的な認知メカニズムとして機能する(Labban et al., 2023)。そこで研究2では,実験的介入によって一時的に誘発された状態としての暗黙マインドセットが寄付行動に結びつくプロセスにおいて,PDEモデルと非難モデルのどちらが優位であるかを検証するため,以下の仮説を設定する。
H7a:暗黙マインドセットが寄付行動に与える影響は,PDEと寄付意図によって連続媒介される。
H7b:暗黙マインドセットが寄付行動に与える影響は,受益者への非難と寄付意図によって連続媒介される。
本研究では,暗黙マインドセットが寄付行動に与える影響の頑健性を検証するために,特性と状態の両側面から段階的に実証を行う。そのため研究1では,個人が安定的に保持している特性マインドセットに着目する。具体的には,特性としてのマインドセットが,PDEおよび受益者への非難という異なる経路を経て,いかにして貧困問題への寄付意図を形成するかを検証する。ここでは,これら2つを媒介変数とする並列媒介モデルを構築し,特性マインドセットが寄付意図に与える影響プロセスを実証的に検討する。
3.2 方法調査の参加者は日本在住者339名であった(女性132名,平均年齢=51.09,SD = 12.58)。寄付経験については,167名(49.3%)が過去に寄付経験があると回答した。
本研究では,以下の尺度を用いて主要変数を測定し,すべて7段階リッカート尺度で回答を求めた(表1)。
| 要因 | 質問項目 | 研究1 | 研究2 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| λ | α | AVE | CR | α | |||
| 特性マインドセット(固定マインドセット+成長マインドセット) | .847 | ||||||
| 特性マインドセット(固定マインドセット) | .800 | .510 | .806 | ||||
| ※ | 人はあるタイプの人間であり,その根本的性質はほとんど変わらない。 | .732 | |||||
| ※ | 人は自分の特徴を大きく変えることはできない。 | .721 | |||||
| ※ | たとえ行動を変えることができても,人の本質的な部分は変わらない。 | .804 | |||||
| ※ | 人格や能力の大部分は努力では変わらない。 | .584 | |||||
| 特性マインドセット(成長マインドセット) | .838 | .564 | .838 | ||||
| 人はどれだけでも自分を成長させることができる。 | .752 | ||||||
| 人は新しい経験を通じて性質が大きく変わることがある。 | .727 | ||||||
| 人は環境や学習によって重要な特徴を改善できる。 | .758 | ||||||
| 人はどんなときも成長し,変化する可能性がある。 | .767 | ||||||
| 状態マインドセット | .911 | ||||||
| 今この瞬間は,人の性質は,状況や経験によって変化し得ると思う。 | |||||||
| ※ | 今この瞬間は,人の基本的特徴は,どれだけ努力しても大きくは変わらないと思う。 | ||||||
| 今この瞬間は,人の行動パターンや性質は,時間とともに変わる可能性があると思う。 | |||||||
| ※ | 今この瞬間は,人間の本質的性質は,生涯を通じてほとんど変わらないと思う。 | ||||||
| 知覚された寄付の効力感(PDE) | .918 | .737 | .918 | .884 | |||
| (団体名)に寄付をすることは,貧困状態にある人々を支援するうえで効果的な方法である。 | .830 | ||||||
| (団体名)への寄付は,貧困問題に直面している人々を支援するうえで望ましい手段である。 | .867 | ||||||
| (団体名)に寄付をすることで,貧困問題の改善に具体的な変化をもたらすことができる。 | .882 | ||||||
| (団体名)に寄付をすることで,貧困状態にある人々の状況を実際に良くする手助けができる。 | .855 | ||||||
| 非難(Blame) | .833 | .624 | .833 | .899 | |||
| 貧困状態にあるのは,本人の行動や選択によるところが大きい。 | .839 | ||||||
| 貧困状態に陥ることは,本人が避けようと思えば避けられた可能性が高い。 | .774 | ||||||
| 貧困状態にあることは,主に本人自身の責任である。 | .758 | ||||||
| 寄付意図 | .938 | .835 | .939 | .942 | |||
| (団体名)にお金を寄付したいと思う | .942 | ||||||
| 将来的に(団体名)を支援したいと思う | .869 | ||||||
| (団体名)に寄付するつもりである | .931 | ||||||
※は逆転項目
まず,特性マインドセットはKind of Person Implicit Theories Scale(Dweck, 1999)を用いて測定した。この尺度は,人の特性や能力が変化可能であると信じる程度を評価する尺度であり,得点が高いほど成長マインドセット傾向が強いことを示す。
次に,PDEは,4項目(Cao & Jia, 2017;Lindsey, 2005)を用いて測定した。
続いて,貧困状態にある受益者への非難は,3項目(Bullock et al., 2003;Zagefka & James, 2015)を用いて測定した。
さらに,寄付意図は,3項目(Hsieh & Yucel-Aybat, 2018)を用いて測定した。
参加者はオンライン上で調査に参加した。冒頭で特性マインドセット尺度に回答した後,貧困問題に取り組む架空の団体(ファミリー・スマイル・ジャパン)の寄付募集文章を読んでもらい(図1),その内容を踏まえてPDEと非難について回答した。続いて,寄付意図,性別,年齢,および過去の寄付経験の有無について回答した。最後にデブリーフィングを行った。すべての回答は任意かつ匿名で行われた。

分析に先立ち,各尺度の測定モデルの妥当性を確認するために確認的因子分析を実施した。具体的には,固定マインドセット,成長マインドセット,PDE,非難,寄付意図の5因子モデルを想定し,推定にはML法を使用し,欠測値の処理は全情報最尤推定を行った。その結果,モデル適合度はχ2(125) = 227.76,CFI = .97,TLI = .96,IFI = .97,RMSEA = .05,SRMR = .05となり,いずれの指標も一般的な基準を満たしていた。各項目の因子負荷量は固定マインドセットの1項目のみ因子負荷量が.58と基準値(.707)を下回ったものの,実用的な許容水準である.50を超えており,かつその他の項目は全て基準値を満たしていたため,測定モデルとして許容範囲であると判断した。また,いずれも統計的に有意であった。
あわせて,Cronbach’s α,構成概念信頼性(CR),および平均分散抽出量(AVE)を算出した(表1)。αは,いずれの尺度も.70を上回り,AVEも.51~.84の範囲であった。CRおよびAVEがすべての因子において基準値を満たしたため(Bagozzi & Yi, 1988;Fornell & Larcker, 1981),収束的妥当性が支持された。
さらに,HTMT(Henseler et al., 2015)を算出したところ,すべての組み合わせにおけるHTMT値は最大でも.60程度であり,0.85の閾値を下回っていた。このことから,本研究で用いた5つの潜在構成概念の間には十分な弁別妥当性が認められた。
コモンメソッドバイアスの可能性を検討するために,Harmanの単一因子検定を実施した。その結果,1因子による説明分散は約24.6%にとどまった。よって,本データにおいてコモンメソッドバイアスは深刻ではないと判断した。
3.4 結果以上の妥当性検証を踏まえ,主要分析として,PROCESS macroのModel 4を用いた並列媒介分析を行い,仮説の検証を行った。分析では,理論的整合性を重視し,両因子の得点を統合した一次元的なマインドセット指標(高得点=成長志向,低得点=固定志向)を独立変数として採用した。また,PDEと非難を媒介変数,寄付意図を従属変数とし,性別・年齢・寄付経験を共変量として投入した。間接効果の有意性は5,000回のブートストラップ法による95%信頼区間で判定した。
最初に,マインドセットと各変数の直接的な関連性を確認した(図2)。分析の結果,特性マインドセットはPDEを有意に正に予測したため,H1は支持された。一方で,特性マインドセットは受益者への非難には有意な影響を与えなかったため,H2は支持されなかった。

出所:著者作成 **p < .01,*p < .05,n.s. p > .05
次に,媒介変数から従属変数へのパスを確認した(図2)。その結果,PDEは寄付意図を有意に正に予測したため,H3は支持された。しかし,非難は寄付意図に対して有意な予測力を持たなかったため,H4は支持されなかった。なお,特性マインドセットから寄付意図への直接効果は有意ではなかった。
最後に,間接効果の検定を行った結果,PDEを介した間接効果は有意であることを確認した(Effect = 0.157,95% CI [0.038, 0.279])。よって,H5aは支持された。一方で,非難を介した間接効果については,有意ではなかった(Effect = −0.001,95% CI [−0.023, 0.019])。よって,H5bは支持されなかった。
3.5 考察研究1の目的は,個人の特性マインドセットが,PDEおよび受益者への非難という二つの異なる経路を通じて,寄付意図にどのような影響を及ぼすかを検証することであった。
第一に,特性マインドセットがPDEを有意に高めたという結果は,成長マインドセットを有する個人ほど,状況や他者の特性は努力や介入によって改善可能であるという信念を強く保持していると解釈できる(Dunn et al., 2008;Dweck et al., 1995)。先行研究において,成長マインドセット傾向の高い個人は,困難な状況を克服可能な課題として捉え,変化の可能性に対する期待値が高いため,自身の寄付が望ましい結果につながると評価しやすいことが示唆されている(Septianto et al., 2022;Sharma & Morwitz, 2016;Smith & McSweeney, 2007)。本研究の結果もこれらの知見と整合し,成長志向の強い個人は,PDEを強く抱くことにより,寄付意図が高まることを示した。
第二に,特性マインドセットが受益者への非難を予測せず,また非難が寄付意図にも有意な影響を与えなかった点は,固定マインドセットがステレオタイプ形成や他者へのネガティブな判断を強めるとする一部の先行研究(Levy et al., 1998)とは異なる結果となった。この理由として,マインドセットが単なる個別の信念ではなく,状況解釈の枠組みとなる意味づけシステムとして機能している点が挙げられる(Hollenbeck & Klein, 1987;Hollenbeck & Williams, 1987)。先行研究では,固定マインドセットは他者の行動を安定的特性に帰属させやすく,ネガティブな行動に対してより厳しい道徳的判断を下す傾向があることが示されている(Cao & Jia, 2017;Carroll & Kachersky, 2019;Chiu et al., 1997)。しかし,本研究のような貧困支援の文脈においては,受益者の過去の行動や責任を問う道徳的・感情的な評価よりも,現在の状況を介入によって変えられるかという認知的な判断の方が,マインドセットの影響をより強く受けたと考えられる。これは,マインドセットが必ずしも一律に他者への非難に直結するわけではなく,直面している課題(ここでは寄付による問題解決)に応じて,注意や認知プロセスを柔軟に調整するという議論と整合する(Mathur, 1996;Miller et al., 2007;Molden et al., 2006)。すなわち,本研究においては,マインドセットが非難という感情的経路よりも,PDEという認知的経路を通じて寄付行動を規定する主要因として機能したと解釈できる。
第三に,寄付意図の主要な決定要因が非難ではなくPDEであったという点は,近年の寄付行動研究が示す寄付の効力感の重要性を裏付けるものである。特に,支援対象が多数である場合や状況が深刻である場合,単なる同情や非難といった感情的反応よりも,寄付が実際に効果を持つかどうかというインパクトの認知が,寄付行動のより強力な規定因となることが報告されている(Cryder et al., 2013;Diamond & Kashyap, 1997;Duncan, 2004)。また,ホームレス支援の文脈でマインドセットと寄付行動の関連を検証したLabban et al.(2023)も,感情的経路よりも,認知的経路の方が,寄付意図に対してより強力な説明力を持つことを実証しており,本研究の結果はこの認知優位モデルを支持するものである。
以上のことから,研究1は,特性としての成長マインドセットが寄付意図を高める主要なメカニズムが,非難ではなくPDEにあることを明らかにした。すなわち,成長マインドセットの高い個人は,社会問題に対して変化は可能であるという信念を持つため,寄付という具体的な介入手段の有効性を高く見積もりやすい。その結果,PDEの向上を通じて寄付意図が促進されるという心理的プロセスが確認された。
研究1の結果を受け,研究2では2つの点において知見の拡張を試みる。第一に,研究1は暗黙マインドセットを実験的に操作せず,個人の特性として扱ったため,暗黙マインドセットの変化が寄付行動に及ぼす因果関係を検証できていない。第二に,従属変数が寄付意図に限定されており,実際の寄付行動への波及効果は未検討であった。そこで研究2の目的は,実験的介入によって一時的に誘発された状態としての暗黙マインドセットが,PDEおよび寄付意図を介して,実際の寄付行動に与える一連の因果プロセスを実証的に検討することである。加えて,研究1で棄却された非難を経由するプロセスについても,操作による因果的変動が生じるかを念のため再検証し,PDEモデルとの比較を行うことで,寄付行動を規定するメカニズムの特定を試みる。分析では,寄付意図が行動を促進することを確認した上で(H6),①操作によって誘発された状態としての暗黙マインドセットがPDEと寄付意図を連続媒介して寄付行動に至るプロセス(H7a),および②操作された暗黙マインドセットが受益者への非難と寄付意図を連続媒介して寄付行動に至るプロセス(H7b)を検証する。
4.2 方法調査の参加者はクラウドワークスで募集された日本在住者461名であった(女性245名,平均年齢=41.26,SD = 10.82)。寄付経験については,76名(16.5%)が過去に寄付経験があると回答した。
実験はオンライン上で実施され,参加者はまず特性マインドセット尺度に回答した後,ランダムに固定マインドセット条件(N = 234)と成長マインドセット条件(N = 227)のいずれかに割り当てられた。各条件では,先行研究に基づく模擬的な科学記事を提示し,その内容を熟読させた(図3)。記事の読解後,プライミング効果を強化するために自己関連づけ課題を行った。

その後,操作チェックとして,短縮版の4項目のマインドセット尺度(Prime Mindset Check)に回答させた(表1)。これらの項目は,プライミング操作直後のマインドセットの状態を測定することを目的とした。
続いて,貧困家庭の支援を行う実在の非営利組織(NPO法人キッズドア)に関する寄付募集メッセージを提示し(図1),研究1と同様の項目を用いて,PDE,非難,および寄付意図を測定した(表1)。
最後に,寄付行動を測定した。本研究では,参加者が謝礼を受け取る状況において,自己利益を保持する選択肢を有しつつ,その一部を他者のために配分するかどうかを回答する誘因両立性寄付行動(Incentive-Compatible Donation)を扱う。具体的には,調査完了後に10%の確率で100円のボーナスが当たるチャンスがあることを説明し,仮にボーナスに当選した場合,その100円のうち幾らを当該団体に寄付するか(または寄付しないか)を回答させた。この手続きにより得られた回答に基づき,寄付の有無(Incentivized Donation: 0/1)および寄付金額(Amount: 0~100円)を行動指標とした。実験の最後に,性別,年齢,および過去の寄付経験の有無について回答を求めた。最後にデブリーフィングを行った。すべての回答は任意かつ匿名で行われた。
分析にあたり,まず各尺度のCronbach’s αを算出し,内的一貫性を確認した。次に,マインドセット操作の有効性を検証するため,割り当てられた条件(0=固定,1=成長)を独立変数,操作直後のマインドセット状態を従属変数とする対応のないt検定を実施した。さらに,特性マインドセットの影響を排除してもなお操作の効果が有意であるかを確認するため,特性マインドセットを共変量とした共分散分析(ANCOVA)を行った。
仮説検証においては,PROCESS macroのModel 6を用いた連続媒介分析を実施した。分析モデルは,マインドセット操作(X)が,PDE/非難(M1)および寄付意図(M2)を順次媒介して寄付行動(Y)に影響を与えるという因果プロセスを想定したものである。共変量には,性別,年齢,寄付経験,および特性マインドセットを投入した。従属変数(Y)に関しては,①実際の寄付の有無(二値変数),および②寄付者における寄付金額(連続変数)の2つの指標に対し,それぞれ分析を行った。間接効果の有意性の判定には,5,000回のブートストラップ標本に基づく95%信頼区間を用いた。
4.3 妥当性の確認分析に先立ち,各尺度の信頼性および操作の有効性を確認した。まず,各尺度のαを算出した結果,いずれの尺度も.70を上回り,十分な内的一貫性が確認された(表1)。したがって,以降の分析では各項目の平均得点を合成得点として用いた。
次に,マインドセット操作の有効性を検証するため,操作直後に測定したPrime Mindset Checkについて,操作されたマインドセット条件(0=固定,1=成長)間で比較した。t検定の結果,成長マインドセット条件(M = 5.23)では,固定マインドセット条件(M = 3.46)よりも有意に得点が高く,操作が意図通りに機能していることを確認した(t(446.34) = −17.86,p < .001)。条件差(成長-固定)は1.77点であり,95%信頼区間は[1.57,1.96]であった。Cohen’s dも大きく(d = 1.66),操作の強度は十分であると判断できる。さらに,特性マインドセットの合成得点を共変量として統制した回帰分析においても,実験条件の効果は有意であった(b = 1.73,SE = 0.08,t = 21.71,p < .001)。以上より,本研究の文章プライミングは参加者のマインドセット状態を適切に操作し得ることを示しており,固定/成長マインドセットが状況要因によって一時的に活性化・変化し得る可能性を補足的に支持する。
4.4 結果続いて,マインドセット操作が実際の寄付行動に波及するメカニズムについて,PDEモデルと非難モデルのどちらが妥当であるかを比較検証するため,PROCESS macroのModel 6を用いた連続媒介分析を行った(図4)。

出所:著者作成 **p < .01,*p < .05,n.s. p > .05
まず,寄付行動の有無(0=なし,1=あり)を従属変数としたモデルの解析を行った。PDEモデルの検証結果から,実験条件からPDEへのパス(b = 0.18,p = .040),PDEから寄付意図へのパス(b = 0.78,p < .001),そして寄付意図から実際の寄付行動へのパス(b = 0.66,p < .001)はいずれも有意であった。これにより,寄付意図が実際の行動を促進するというH6は支持された。
さらに,ブートストラップ法による間接効果の検定の結果,予測された「操作→ PDE →寄付意図→寄付行動」という連続媒介効果は,統計的に有意であることを確認した(Effect = 0.094,95% CI [0.003, 0.204])。一方で,PDEのみを経由する経路(95% CI [−0.049, 0.072])や,寄付意図のみを経由する経路(95% CI [−0.204, 0.066])は有意ではなかった。この結果は,マインドセットの介入効果が実際の行動に結びつくためにはPDEと寄付意図の両方の認知プロセスを経由する必要があることを示唆しており,PDEモデルに基づくH7aは支持された。
対照的に,非難モデルの検証結果においては,マインドセット操作は受益者への非難に対して有意な影響を与えなかった。また,間接効果の検定においても,非難と寄付意図を経由する連続媒介効果「操作→非難→意図→行動」は有意ではなかった(Effect = 0.001,95% CI [−0.019, 0.064])。したがって,非難モデルに基づくH7bは支持されなかった。
最後に,PDEモデルのみ,寄付金額(0~100円)を従属変数とし,実際に寄付を行った参加者(N = 194)に限定した分析を行った。その結果,モデル全体の適合度は有意ではなく(R^2 = .014,p = .918),いずれの間接効果も有意とはならなかった。
以上の結果から,成長マインドセットへのプライミングは,受益者への非難を低減させるプロセスではなく,PDEと寄付意図を高めることを通じて,寄付を行うという意思決定を促進するものの,その金額の多寡には影響を与えないことが明らかになった。
4.5 考察研究2の結果は,暗黙マインドセットが実際の寄付行動に影響を与える心理的メカニズムについて,以下の知見を示唆するものである。
第一に,実験的介入によって一時的に誘発された状態としての暗黙マインドセットのうち,成長マインドセットはPDEと寄付意図を順次媒介することで,実際の寄付行動(寄付の有無)を促進することを確認した。特筆すべきは,本研究がPDEモデルと非難モデルという二つの競合するメカニズムを比較検証した点である。分析の結果,研究1に続き非難の媒介効果が一貫して有意でなかったことは,受益者への非難が常に寄付行動を規定する中心的要因であるわけではないことを示唆している。具体的には,成長マインドセットによって人間や状況は可変であるという信念が活性化され,PDEが十分に形成される状況下では,非難といった感情的・道徳的判断は,行動決定プロセスにおいて相対的に後景化する可能性がある。すなわち,非難はPDEが弱いあるいは支援の有効性が不確実な状況においてより影響力を持つ条件付きの補助的経路であると考えられ,本研究の結果は,貧困支援という非難が生じやすい文脈においても,認知的判断であるPDEが感情的判断を乗り越えて寄付行動を促進し得るという認知優位モデルの妥当性を提示するものである。
第二に,「マインドセット→PDE→寄付意図→寄付行動」という連続媒介プロセスのみが支持された。この結果は,単に人は変われるという成長マインドセットを持つだけでは寄付行動には直結せず,その信念が自分の寄付によって社会課題の解決に貢献できるという効力感へと変換され,さらにそれが寄付したいという意図を形成して初めて,実際の寄付行動が生じることを示唆している。これは,マインドセットが行動に与える影響におけるPDEの中心的役割を指摘した先行研究(Septianto et al., 2022)の主張を支持するものである。
第三に,成長マインドセットの操作は,寄付を行うかどうかの意思決定には有意な正の影響を与えた一方で,寄付者における金額には有意な影響を与えなかった。この結果の乖離は,寄付行動の二段階決定モデル(Smith & McSweeney, 2007)によって説明可能である。すなわち,寄付を行うか否かの参加の意思決定は,マインドセットやPDEといった心理的要因に強く依存する一方で,具体的な金額の決定は,個人の経済状況や100円という提示額のアンカリング効果,あるいは個人の金銭感覚といった経済的・構造的要因による制約を強く受ける可能性が示唆される。
また,行動経済学における不純な利他主義やウォームグローの観点(Andreoni, 1989, 1990)からも説明が可能である。寄付による心理的満足は,寄付の総額よりも寄付をしたという事実や頻度と強く関連していることが示唆されている(Dunn et al., 2008)。つまり,少額であっても寄付をしたという事実だけで心理的報酬が得られるため,成長マインドセットによる動機づけの向上は,必ずしも金額の増大を伴わずとも,寄付への参加行動そのものを誘発するのに十分であったと考えられる。
以上のことから,本研究は貧困問題への寄付の文脈において,暗黙マインドセットが,受益者への非難を低減させる感情的プロセスではなく,効力感を高める認知的プロセスを通じて,特に寄付への参加のハードルを下げる心理的要因として機能する可能性を示唆するものである。
本研究は,貧困問題に対する寄付行動の形成メカニズムにおいて,個人の暗黙マインドセットが果たす役割を,個人の特性マインドセットとマインドセット状態の両側面から包括的に検証した。
研究1では,特性マインドセットが,PDEおよび受益者への非難を介して寄付意図に与える影響を検討した。その結果,成長マインドセットはPDEを高め,それが寄付意図を強く予測するという認知的プロセスが確認された。一方,固定マインドセットが非難を高める傾向は見られず,非難が寄付意図に与える影響も確認されなかった。
研究2では,暗黙マインドセットを実験的に操作し,PDEおよび非難を経由して誘因両立性寄付行動に至る因果プロセスを比較検証した。結果として,PDEモデル(成長マインドセット→ PDE →意図→行動)は支持された一方で,競合する非難モデルは棄却された。これにより,マインドセットの介入効果が実際の寄付行動に結びつくためには,非難の抑制ではなく,PDEの向上が不可欠であることが示唆された。また,マインドセットの操作は寄付への参加の有無には影響を与えたが,寄付者内での金額には有意な影響を及ぼさなかった。
以上の結果から,暗黙マインドセットは,自分の寄付が変化をもたらすことができるというPDEの形成を通じて,貧困支援という解決困難に見える課題への関与を促進する重要な心理的要因であることが示唆された。
5.2 理論的貢献本研究の核心的な理論的貢献は,貧困問題への寄付の文脈において,既存の競合理論(非難モデルとPDEモデル)を整理し,実証を通じてPDEモデルの優位性と非難モデルの限界を明確にした点にある。具体的には,以下の3点の貢献を行っている。
第一に,貧困問題への寄付メカニズムを再整理し,寄付行動を促進する主要な心理的メカニズムが非難の低減ではなく効力感(PDE)の形成にあることを明らかにした点である。先行研究では,受益者の困窮を本人の責任に帰属させる非難が寄付を阻害する主因とされ,いかに非難を抑制するかが議論の中心であった。これに対し本研究は,マインドセットが寄付行動に影響する主たる経路が,道徳的・感情的判断としての非難の低減ではなく,自分の寄付が状況改善に寄与し得るという実効的・認知的判断であるPDEの向上にあることを示した。この結果は,PDEが優位な状況では非難の影響力が後ろに隠れるという後景化の論理を提示するものであり,非難はPDEが弱いあるいは支援の有効性が不確実な状況においてより影響力を持つ条件付きの補助的経路であるという新たな視点を提供する。これにより,既存の効力感理論を貧困支援という文脈において精緻化・補強したといえる。
第二に,暗黙マインドセットの頑健性の実証である。既存研究は特性か状態のいずれかに偏重する傾向があったが,本研究は双方のアプローチを用い,いずれの場合も一貫して成長マインドセットがPDEを通じて寄付を促進することを示した。これは,マインドセットの効果が個人の性格特性に依存せず,マーケティング実務におけるメッセージ介入によっても再現可能であることを示唆しており,理論モデルの汎用性を支持するものである。
第三に,暗黙マインドセット研究の適用範囲を行動レベルまで拡張し,その限界を精緻化した点である。既存研究の多くは寄付意図までの検証に留まっていたが,本研究は誘因両立性のある寄付行動指標を用いることで,意図と行動の乖離を超えて効果が波及することを実証した。同時に,その効果が寄付への参加の有無には強く作用する一方で,金額の決定には及ばないことを明らかにし,二段階決定モデルに基づく新たな境界条件を提示した。
5.3 実務的示唆本研究の知見は,非営利組織のマーケティング実務に対して以下の示唆を与える。
第一に,寄付募集メッセージにおいて変化の可能性を強調することの重要性である。貧困問題はしばしば構造的で解決困難な問題と捉えられがちであり,これが寄付者の無力感や固定マインドセットを刺激し,寄付を抑制する可能性がある。したがって,ファンドレイザーは,受益者の状況が固定されたものではなく,介入によって成長・改善可能であることを示すメッセージを発信すべきである(Hsieh & Yucel-Aybat, 2018)。
第二に,PDEを高める具体的な情報の提示である(Cryder et al., 2013)。本研究の結果,成長マインドセットが寄付を促進するのは,主にPDEが高まることによると示された。したがって,単に悲惨な状況を訴えるだけでなく,寄付が具体的にどのような変化を生み出すのかを可視化し,寄付者に自分の寄付は役に立つという効力感を与えることが不可欠である。
5.4 本研究の限界と今後の課題本研究にはいくつかの限界があり,それらは今後の研究課題でもある。
第一に,介入効果の射程と個人特性との関係である。本研究(研究2)の結果からは,操作されたマインドセットがPDEを通じて実際の寄付行動を促進することが示唆されるが,これはあくまでサンプル全体における平均的な効果を検証したものである。個人の安定的・慢性的な特性としてのマインドセットと,実験的な操作条件との交互作用に基づく境界条件,すなわちどのような特性を持つ個人に対して介入が特に有効か(あるいは無効か)という点については射程外である。今後は個人特性と状況的操作の不一致が情報処理に与える影響について,さらなる精緻化が望まれる。
第二に,文化的背景の制約である。本研究のサンプルは日本の居住者に限定されており,自己責任に関する社会的価値観が結果に影響を与えている可能性がある。文化的差異によって,PDEと非難の相対的重要性や,マインドセットの説得効果の大きさが変動する可能性を考慮し,今後は複数文化間での比較研究が求められる。
第三に,貧困以外のテーマへの一般化可能性である。本研究では個人の努力による変化が想定されやすい貧困問題を扱ったが,自然災害や環境保護,芸術支援など,個人の努力以外の要因が強く関わるテーマにおいても,同様のメカニズムが機能するかはさらなる検討が必要である。
本研究は,公益財団法人日本フィランソロピック財団 第6回「じりつチャレンジ基金」の顕彰の賞金を活用して実施されました。また,本稿の執筆にあたっては,編集委員の先生方および2名の匿名査読者から,建設的かつ的確なコメントを賜りました。ここに記して,感謝申し上げます。