流通研究
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マーケティングにおけるデザインの罠
栗木 契
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2006 年 9 巻 1 号 p. 17-39

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抄録

マーケティングには、やさしいようで、難しいことが多い。当たり前のように思える理論や構想であっても、いざ現場で実践に移そうとすると、空回りしてしまうことがある。マーケティングにおいて難しいのは、理論や構想を、抽象的な次元で理解することではない。難しく、かつ重要なのは、これらの理論や構想を、実践しようとするときに、何が起こるかを見抜くことである。
マーケティングの実践は、デザインの連続となる。マーケティングの担当者 (マーケター) は、さまざまなステップを踏みながら、抽象的な理論や構想に次々と具体的なかたちを与え、かつ理論や構想を修正していく。マーケターが、抽象的な理論や構想を実践へと結びつけようとすれば、それらに何らかのかたちを与えなければならない。しかし同時に、このかたちの付与には、マーケターの思考を空転させてしまうはたらきがある。マーケターは、特定のデザインを無自覚に採択し続けているうちに、当のデザインが可視化する関係のなかでしか、自社の市場や経営資源を考えられなくなっていく。このような思考の罠とでもいうべき可能性のなかで、あり得たはずの機会を見失わないためにも、マーケターは、デザインという行為に携わっていることを自覚し続けることが必要である。
本稿では、デザインによる可視化のはたらきをめぐって、消費財と産業材の2つのマーケティング事例を検討する。そして、そのなかで、デザインによる可視化が、意図せざるかたちで、マーケターにとっての現実を構成してしまうという問題を指摘する。

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