2019 年 3 巻 2 号 p. 27-35
グローバリゼーションの進展にともない,日本の産地型集積の縮小・衰退傾向が止まらない中で,従来の地域へのコミットメント重視の視点だけでは対処することが困難となっている。このような状況に対して,「地理的制約を突破する」視点から縮小・衰退期に移行する産業集積地域の持続的発展に着目した研究蓄積がみられるようになった。しかしながら,地理的制約を超える産業集積の持続における主役の実態とそれを中心とする詳細な持続過程を示した研究蓄積は未だに見当たらない。そのために本稿は,産業集積の持続における中核的な役割を担うリンケージ企業に焦点を当て,リンケージ企業に関する代表的研究を概観し,その問題点について検討する。その上で,商業論や最新の社会ネットワーク論の知見を借りて,「商人的コーディネーター」という追い求めるべきリンケージ企業を導出し,地理的制約を超える新しい産業集積の持続のための仮説的プロセスモデルを提示する。
日本の伝統的産業集積の衰退が指摘されてすでに久しい。例えば神戸ケミカルシューズ地域は,都市型産業集積として一昔前まではその名を轟かせていたが,長い期間に亘る産地問屋への依存体質から脱皮できず,間もなく不毛な価格競争に陥り,2000年以降その衰退が加速している(崔,2015;山本,2011)1)。
他の例として鯖江眼鏡産業集積も似たような状況に陥っている。同産業集積の地盤沈下の原因は,自社ブランドではなくOEM製品への依存度が高いことや,アジアからの低価格製品との競争によるものであり,その結果多数の企業が倒産や廃業という憂き目に遭っている。産業集積には製品と同様にライフサイクルがあり,進化経済学で用いられる経路依存性がもたらす地域的ロックインによる衰退がその原因と指摘されている(遠山,2009;遠山・山本,2007)2)。
ローカルな産業集積に押し寄せるグローバル化の波にともない,従来,集積された中小企業を支援するために展開してきた多くの地域産業関連施策はほとんど効果がなく,結果的に日本の産業集積の衰退傾向に歯止めがかかっていないのが実状である。とくに,日本各地に存在する産地型集積・地場産業地域の縮小・衰退傾向は著しく,もはや地域あるいは国内で完結する視点や発想だけで理解,認知,そして対応することは困難となっている(上野・政策科学研究所,2008)。上述の神戸ケミカルシューズ産業と鯖江眼鏡産業は,その典型例に他ならない。
このような厳しい状況に直面する中,産業集積地域が縮小・衰退期を避けるには,従来の地域完結型視点とは異なる新たな持続的発展を視野に入れた研究視点が必要である。その中で,「地理的制約を超える」視点から縮小・衰退期に移行する産業集積地域の持続的発展に着目した研究の蓄積がみられるようになった(中小企業研究センター,2001;渡辺,2002)3)。しかしながら,地理的制約を超える産業集積の持続における主役の実態と役割ならびにそれを中心とする詳細な持続過程を示した研究は決して多くない。
本稿では,以上のことを踏まえ,産業集積の持続における中核的な役割を担うリンケージ企業に焦点を当て,リンケージ企業に関する代表的研究を概観し,その問題点および限界性について検討する。その上で,商業論や最新の社会ネットワーク論の視角を導入して「商人的コーディネーター」という追い求めるべきリンケージ企業を導出し,激化するグローバル競争の下で縮小・衰退期に移行している産業集積の崩壊を食い止めるため,新しい持続の仮説的プロセスモデルを提示したい。
産業集積に関する議論は,Marshall(1890)の「外部経済」から始まり,Piore and Sabel(1984)の「柔軟な専門化」,Krugman(1991)の「空間経済学」へと広がり,さらにPorter(1990, 1998)の「イノベーションの促進」が論じられるなど,幅広い分野で展開されてきた4)。
2.1 リンケージ企業研究の嚆矢欧米に端を発した産業集積に関する諸理論の影響を受けて,日本の研究者は1990年代に産業集積の持続に注目し始めた。産業集積の持続に関する研究は,伊丹他(1998)が嚆矢となる。彼らは,産業集積の発生より継続に注目し,「なぜ中小企業の集積では継続性が生まれるのか」(p. 7)という論点を提示した。その直接的理由は2つある。第1の理由は,外部から,外部市場と直接に接触をもっている企業を通じて需要が流れ込みつづけるからである。このような需要を搬入する企業が外部から持ち込む栄養の流入に応じて集積の大きさと継続性が決まる。彼らは集積内部の情報(「供給される財・サービスの属性に関する情報」と「供給者の行動に関する情報」)と,集積外部のマーケット情報(「需要のある財・サービスの属性に関する情報」と「需要者の行動に関する情報」)とをつなぐ機能をリンケージ機能と見なし,それを遂行する企業をリンケージ企業と呼んでいる。第2の理由は,集積内部の「専門技術企業群」が群として柔軟性を保ち続けられるからである。すなわち,集積の継続が可能となるためには,外部の需要変化に応え続けられる能力を持っている必要がある。
従って,産業集積の持続のメカニズムは,需要を搬入するリンケージ企業を中心とする「集積とマーケットとの連関」と,柔軟性を持つ「集積内分業(専門技術企業群)」という2つのサブシステムから成る取引システムとして把握することができる。そして,産業集積は,2つのサブシステムが機能してはじめて,集積ごとに異なる独自の発生の論理とは別に,種々の集積に共通する持続のメカニズムにより定着,継続していく。また,2つのサブシステムはともに需要と供給を接合させるためのシステムであり,これら2つのサブシステムで成り立つ産業集積の持続の本質も,需給接合にある(伊丹他,1998)。
以上のように,産業集積の持続の主役として最初に登場したのは,2つのサブシステムのそれぞれの中核,つまり専門技術企業群とリンケージ企業である。しかしその後,両者のうち,産業集積の調整者であるリンケージ企業は,集積に需要情報をもたらし,集積内部の専門技術企業群を統制しているため,リンケージ企業の存在は柔軟な専門化が実現できる前提条件となることが指摘された(高橋,2012)。それゆえに,産業集積の持続における主役はリンケージ企業と言えるだろう。次に,こうしたリンケージ企業を中心とする既存研究を概観したい。
2.2 ソーシャル・キャピタルを中心とするリンケージ企業研究リンケージ企業を中心とする既存研究としては,伊丹他(1998)以外に,高橋(2012),高橋・河合(2013)や田中(2018)などがある。これらの2つの研究は,社会学や政治学に端を発し,社会科学の様々な分野で応用されているソーシャル・キャピタル論に基づき,リンケージ企業および産業集積の持続について議論している。
一方の高橋(2012),高橋・河合(2013)の研究ではSaxenian(1994)とGranovetter(1995)が提示した「地域的協働ネットワーク」の議論を踏まえ,産業集積の持続の要諦であるリンケージ企業が機能するか否かは,産業集積内の信頼や規範,ネットワークといったソーシャル・キャピタルの多寡に依存すると主張された。彼らはまずソーシャル・キャピタルの2つの類型,すなわち,Coleman(1988),Putnam(1995, 2000)を中心とする凝集的なネットワーク構造の効果を意味する「結束型」(bonding)と,Burt(1992, 2001),Granovetter(1973)を中心とするオープンなネットワークを結合するブリッジ的紐帯の効果を意味する「橋渡し型」(bridging)に整理した。その上で,彼らは産業集積における「結束型」と「橋渡し型」を,集積内企業の機能的特性によって分類した。つまり,専門技術企業群においては,外部経済効果や柔軟な専門化を実現するために結束的機能がより要求される。リンケージ企業群においては,多様な視点から情報や機会を収集し,集積と市場とを連結するために橋渡し機能がより求められる。これらの視点から,尾州の毛織物産業集積を調査して実証研究を行った。結論として,産業集積は「結束型」と「橋渡し型」の両立によって成り立っているとされた。「結束型」ネットワークは暗黙知やノウハウの移転によるインクリメンタル・イノベーションの,「橋渡し型」ネットワークは新規なアイデアに触れることによってラジカル・イノベーションの源泉になりうることが見出された。
他方,田中(2018)は,産業集積内ネットワークの重要性に注目し,集積内ネットワークの頂点である「商人的リンケージ企業」の内生的発展こそが産業集積の優位性を維持するための要因であると主張した。彼はまずGreenhalgh(1988),沼崎(1996),Skoggard(1996)の研究,すなわち台湾人を中心とする「華人ネットワーク」の議論を踏まえ,血縁・地縁といった関係を中心としたソーシャル・キャピタルの重要性を指摘した。また,Aldrich(1999),大河内(1979),Schumpeter(1961)が提唱した企業家精神に関する理論を踏まえ,集積内部のソーシャル・キャピタルを活用・発展させ,柔軟な専門化,イノベーション,新規事業の創出といった効果を継続的に生み出すための「新結合を生み出した企業家精神」という分析視点を提示した。その上で,産業集積分析の体系的な枠組みを構築し,岡山ジーンズ産業集積,今治タオル産業集積と岐阜婦人アパレル産業集積の3つの事例を通して実証研究を行った。結論として,こうした商人的リンケージ企業の活動によって,産業集積の業種・業態は変化しながら集積内で進化し,持続してきたことが見出された。
2.3 代表的研究の問題点本稿では上述したリンケージ企業を中心とする産業集積の持続のプロセスを「地域性を前提とする従来のアプローチ」と見なした上で,以下において,リンケージ企業に関する代表的研究および従来のアプローチについて批判的検討を行う。
第一に,リンケージ企業の実態に関する研究蓄積はきわめて少ない。リンケージ企業に関する代表的研究は主に理論を中心に展開され,その実態についての説明および分析はPiore and Sabel(1984)によるプラートの事例5)で現れた「インパナトーレ」(impannatore)6)に止まっている。その後,リンケージ企業の実態について本格的に語ったのは田中(2018)くらいである7)。
第二に,リンケージ企業に関する代表的研究および産業集積の持続に関する議論は地域性に拘束される傾向がある。例えば,「橋渡し型」を中心とするリンケージ企業は確かに開放性を持つが,集積内の専門技術企業群に情報を伝えて統制するために,最終的には集積内に戻る傾向が見られる。つまり,リンケージ企業は集積地を前提に行動し,集積外で新しい知識やアイデアを生み出しても,最後にリンケージ機能を果たすのは集積内となる。また,「結束型」が意味する「コミュニティー内」というのは必ずしも「地域コミュニティー内」とは限らないものの,多くの産業集積の持続に関する議論は地域コミュニティーを暗黙の前提として展開されている8)。
第三に,リンケージ企業が有する商人特性に対する認識に不満が残る。Piore and Sabel(1984)がインパナトーレの重要性を強調して以来34年が経過しているが,田中(2018)は再びリンケージ企業の商人特性に注目している。彼はリンケージ企業を「商人的リンケージ企業」と呼び,華人ネットワークの研究視点を導入した。しかし残念ながら,彼は大化の改新以降現れた「産物廻し」(竹中・川上,1965)を行った近江商人のような行商行為(江頭,1965;小倉,1980),および遠距離交際を重んじる温州商人のような華人ネットワークに関しては無頓着である。後述するが,このような商人特性は地理的制約を超える新たな可能性に繋がっている。
以上の3つの問題点を踏まえ,次章において,追い求めるべきリンケージ企業に関する注目すべき研究および地理的制約を超える論理を整理したい。
先述の田中(2018)が指摘したリンケージ企業の商人特性に加え,需給調整を行いながら商品を介して,人々との雑談などから得た情報や諸地域の特産物の仕入れからの情報を集約し,生産から消費までの品揃えを効率化した「情報縮約機能」(田村,1980)という商人の基本役割もリンケージ企業の本質と一致すると考えられる。前述のプラートや岡山ジーンズなどの成功事例から分かるように,インパナトーレや自社ブランド企業のような商人的かつSPA的な存在は,追い求めるべきリンケージ企業の理想的な姿だと思われる。従って,リンケージ企業の議論を補完・修正するために,産業集積論とは少し異なる商業論の視角を導入し,役割と実態の2つの側面から追い求めるべきリンケージ企業に関して,注目すべき研究について整理していく。
まず役割に関しては,石原(2002)を挙げたい。彼は,「衰退してしまう商業集積に対して,産業集積はなぜ健全に機能しえたのか」(p. 44)という論点を提示した。その1つの理由として,商業集積には存在しないオーガナイザーが産業集積内部の補完関係を現実化するオーガナイザー機能を果たしているからであると述べた。彼は,リンケージ企業とほぼ同様のものと思われるオーガナイザーに注目している。そして伊丹他(1998)でまとめられた需給コーディネート機能を重視する一方,オーガナイザーによる産業集積の分業の編成の可変性を強調している。要するに,伝統的な下請系列関係のような固定的な関係にとらわれず,オーガナイザーは最終製品を作り上げるのに必要な技術を特定し,その提供者を選ぶ。このように集積の組織はオーガナイザーによって弾力的に編成されるという点が産業集積の持続に重要な意義をもたらすとされている。
また実態に関して,呉服関連製品を中心とする繊維産業集積は江戸時代まで遡ることができる。京友禅を扱った出石(1972),宗藤・黒松編(1959),加賀友禅を扱った丹野(1976),東京友禅を扱った関(1979),江戸小紋を扱った関(1983)が特記に値する。江戸期において発達し,最も高度な要求に応えてきた生産流通の仕組みは,呉服関連の繊維産業集積の発展・持続の段階で大きな役割を果たした(関,1983)。リンケージ機能を発揮する呉服関連の生産流通の組織は,(1)「問屋」,(2)「製造問屋」,(3)「悉皆制度」というような軌跡で進化してきた(関,2001)。特に小売業者が製造業の分野まで踏み込み,消費者の意向に基づくオリジナル染色製品を開発して販売するという当時の「悉皆制度」の仕組はまさに江戸期の「製造小売(SPA)」と言えるようなものであろう。しかし残念ながら,この「悉皆制度」は高額であることに加え,注文から3~4ヵ月を要する誂え方式の注文になることなどが原因で戦後の高度成長期に壊滅的な打撃を受けてしまった。現代のユニクロや岡山ジーンズを見ると,SPA企業や自社ブランド企業のようなリンケージ企業の活躍は昔の「悉皆制度」の復活を意味すると言えるだろう。
最後に強調しておきたいことは,石原(2002),関(2001)とも今後産業集積は地域性という制限を乗り越えられると主張している点である。彼らによれば,地域の発展の基礎であったはずの産業集積は,物流の革新とインターネットの普及により地理的な制約を取り除き,局地的な集積からやがてグローバルな市場を求める集積に脱皮し,グローバルな競争の中に巻き込まれることになる。
3.2 地理的制約を超える論理遠距離交際と近所づきあいのネットワーク―ひまわりモデル9)
出所:西口(2007,p. 24)より転載
地理的制約を超える論理を理解する鍵として,Milgram(1967)のスモールワールド概念,そしてその概念をさらに発展させながら,中国の温州商人に注目した西口・辻田のコミュニティー・キャピタル理論を挙げることができる。
まず,「スモールワールド」現象は,専門的には「6度の隔たり」(six degrees of separation)として知られている。これは,5人の知り合いを通して6回ほどたどると,全世界のあらゆるターゲット・パーソンに行き着くことが可能という経験則のことである。ハーバード大学の社会学心理学者Milgramは,「手紙を遥か遠方に住む目標人物に向けて知人からその知人へと転送することによってどれくらいでたどり着けるか」(邦訳p. 104)という手紙伝達実験を行い,この「スモールワールド」現象の存在を指摘した。また,コーネル大学の社会学者Wattsはグラフ理論を応用したコンピュータ・シミュレーションに基づく研究によって「スモールワールド」現象を解き明かし,「スモールワールド・ネットワーク」の定義を明確にした(Watts, 2004)。さらに,西口(2007)はWattsの「スモールワールド・ネットワーク」を分かりやすく描き直し,「ひまわりモデル」として図示した(図1を参照)。
次に,西口・辻田(2016,2017)はスモールワールド・ネットワークをさらに発展させ,「コミュニティー・キャピタル」の概念を提起した。彼らは従来のソーシャル・キャピタル理論の多義性に対して批判的な検討を行った10)。この多義性の問題への方法論的対応として,「個人」でも「社会全体」でもなく,その中間領域で,特定のメンバーシップによって明確に境界が定まる「コミュニティー」を分析単位とし,そのメンバー間でのみ,排外的に共有され,利用されうる「コミュニティー・キャピタル」の概念を提起して活用している。
さらに,彼らは従来の「結束型」と「橋渡し型」というコミュニティーの機能特性の伝統的な2類型化に関しても考察した(表1を参照)。彼らによれば,スモールワールド性が発揮されるためには,旧来の2類型的な捉え方は適切ではなく,両者の対照的な属性に着目して議論するべきと主張している。そして,「結束型」と「橋渡し型」のコミュニティー特性を表のように整理している。結論として,(2)はレギュラー・ネットワーク,(3)はランダム・ネットワークであり,スモールワールド・ネットワークは,(2)と(4)の中間帯に,通常は相矛盾する2つの異なる属性を同時に達成する要件を満たす一定の「活動領域」内に生じるのである。そして,近年注目されている中国の温州の企業家のコミュニティーにおけるネットワークの基本型は(2)だが,適度のリワイヤリングによって,相転移が生じる活動領域を(4)との中間帯にまで広げ,同時に結束性と外部探索性を発揮するため,スモールワールド・ネットワークの理念型に近似していると指摘された11)。
「結束型」と「橋渡し型」のコミュニティー特性
出所:西口・辻田(2016,p. 59)より筆者加筆修正
産業集積の持続における主役として,追い求めるべきリンケージ企業の定義について検討したい。ここでは,分析視点と実態という2つの側面から検討する。
まず,分析視点に関して,ソーシャル・キャピタル理論を中心とするリンケージ企業は,集積内部の需給コーディネート,生産コーディネート,取引ガバナンスなどのリンケージ機能を重視する。このようなリンケージ企業を中心とする産業集積の持続は主に集積内を中心に展開されている。これに対して,追い求めるべきリンケージ企業はリンケージ機能を重視する一方,分業の可変的編成の重要性と地域性の制約を乗り越える可能性を強調している。コミュニティー・キャピタルという最新の社会ネットワーク論によって地理的制約を超える論理が明らかになっている今日では,追い求めるべきリンケージ企業を中心とする産業集積の持続は集積外を中心に展開することも可能と考えられる。
また,実態に関して,「インパナトーレ」や「自社ブランド企業」などのリンケージ企業と,「温州商人」や「悉皆制度」の流通の仕組などは追い求めるべきリンケージ企業という点では近似している。つまり,自ら商品の開発に参与して販売する企業・企業家はリンケージ企業の実態となるのである。
以上のように,本稿では,(1)集積地に拘らず,コミュニティー・キャピタルを積極的に活用する,(2)規模を問わず,自ら商品の開発に参与して販売する,(3)常に新しい商機を探し求め,企業家・起業家精神を有するリンケージ企業を「商人的コーディネーター」と呼ぶ。次に,商人的コーディネーターを中心とする新しい産業集積の持続に関する仮説的プロセスモデルを提示する。
4.2 産業集積の持続に関する仮説的プロセスモデル産業集積の持続のプロセスは2つに分けることができる。まず従来の研究におけるプロセスについて,(1)リンケージ企業の活動あるいは歴史的要因によって産業集積が形成・発展・成熟する段階,(2)リンケージ企業が機能することによって,成熟期に入る産業集積が持続していく段階,そして(3)リンケージ企業の活動によって,産業集積の業種・業態が変化しながら集積内で進化する段階という従来のプロセスを整理し要約した。
これに対して,本稿で注目する商人的コーディネーターを中心とする新しいプロセスについて,(1)商人的コーディネーターの活動によって産業集積が形成・発展・成熟する段階,(2)商人的コーディネーターが機能することによって,成熟期に入る産業集積が持続していく段階,そして(3)商人的コーディネーターの活動によって,産業集積が集積外で進化する段階という新しいプロセスを本稿で導出するように試みた(図2を参照)。
産業集積の持続に関する仮説的プロセスモデル
本稿では,産業集積の持続において中核的役割を担うリンケージ企業に関する理論的レビューを試みた。その結果,リンケージ企業に関する代表的研究の3つの問題点,すなわち,(1)リンケージ企業の実態に関する研究蓄積の欠如,(2)地域性に拘束される傾向,(3)商人特性に関する議論の不足を明らかにした。その上で,商業論やコミュニティー・キャピタルという最新の社会ネットワーク理論を導入することによって,追い求めるべきリンケージ企業の役割と実態ならびに地理的制約を超える論理を明示した。最後に,本稿ではこのような追い求めるべきリンケージ企業を「商人的コーディネーター」と改めて定義し,地理的制約を超える新しい産業集積の持続に関する仮説的プロセスモデルを提示した。
ただし,1つ注意しておきたいのは,本稿において岡山ジーンズや今治タオルなどの地域コミュニティーとの関係を重視して成功した従来の産業集積の持続的発展に関する理論を否定するつもりはないという点である。本稿の位置づけは,地域性を前提とする従来のプロセスモデルと異なる地理的制約を超える新しいプロセスモデルを提示することにある。図2に示したように,2つのパターンはともに産業集積の持続に関するプロセスモデルとなりうる。
また,本稿における新しい産業集積の持続に関する仮説的プロセスモデルは,まだ試論的段階を抜け出しておらず,仮説的理論モデルに過ぎない12)。従って,新しい産業集積の持続に関する仮説的プロセスモデルを精緻化するためには,商人的コーディネーターの実証研究が今後求められる。