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査読論文
動画配信サブスクリプションサービスにおけるコンテンツの知覚多様性が消費者のロイヤルティに与える影響
中川 正悦郎
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2021 年 5 巻 2 号 p. 41-50

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Abstract

本稿の目的は,動画配信サブスクリプションサービスを対象に,コンテンツの知覚多様性が同サービスに対する消費者のロイヤルティを高めることに寄与するかを検証することである。検証にあたり日本における主な動画配信サービスの利用者を対象に調査を行った。分析の結果,コンテンツの知覚多様性は,サービスの知覚された有用性および知覚された楽しさを介して,ロイヤルティに正の影響を及ぼすことが確認された。ただし,知覚された有用性および知覚された楽しさがロイヤルティに及ぼす影響は,知覚された使用容易性によって調整されることも確認された。この結果は,知覚された使用容易性の高まりに伴い,ロイヤルティ形成において重要な先行要因が知覚された有用性という功利的ベネフィットから知覚された楽しさという快楽的ベネフィットへとシフトするものと解釈できる。

1  はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大は,人々のライフスタイルを大きく変容させ,例えば人々が家で過ごす時間が増えるという変化を引き起こした。その結果,利用者数を大きく伸ばしたものとして動画配信サブスクリプションサービス(以下では,「動画配信サービス」と表記する)がある。

動画配信サービスでは,顧客から定額のサービス利用料を定期的に徴収するという収益モデルが一般的に採用されている。そのため,いかに顧客に継続的な利用をしてもらうかが重要な課題といえる。

では,消費者はいかなる点を重視して動画配信サービスを選択しているのであろうか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2017年に実施した調査結果によれば,消費者が同サービスを選ぶ際に重視した項目として「見たい作品,ジャンル配信状況」「コンテンツ数」が上位に位置しており,消費者の選択基準としてコンテンツの多様性が重視される傾向にある。そして,この点は消費者が契約後にそのサービスを継続的に利用するか否かという判断にも影響している可能性が考えられる。

そこで,本稿の目的は,動画配信サービスにおけるコンテンツの知覚多様性に注目し,その知覚多様性が同サービスに対するロイヤルティの形成に寄与するかを明らかにすることである。なお,同サービスの登場は,消費者の動画コンテンツの消費のあり方を大きく革新した技術であるため,新技術に基づく製品・サービスの使用行動を説明するうえで,その妥当性が確認されている技術受容モデル(TAM)(Davis, 1986, 1989)も援用して検討する1)

2  先行研究

2.1  サブスクリプションビジネスとロイヤルティ

サブスクリプションビジネスは,顧客が製品・サービスにアクセスするための費用を定期的に繰り返し支払うという特徴をもつビジネスである(McCarthy, Fader, & Hardie, 2017)。このビジネスモデルでは,顧客との継続的関係の重要性が指摘されている。川上(2019)ではサブスクリプションビジネスがリカーリングモデルの一つとして位置づけられており2),ユーザーとの継続する関係性こそが収益の源泉であると指摘されている。また,谷守(2017)では管理会計の視点から,サブスクリプションモデルでは短期ではなく中長期的な採算管理志向となり,その採算管理は「顧客×取引×期間」の3次元で行われることが指摘されている。それゆえ,同モデルでは顧客の利用期間が売上高を決定づける要因といえる。

また,消費者のサブスクリプションサービスの利用行動に注目した研究も報告されている。例えば,Punj(2015)では,デジタルコンテンツの配信サービスを対象に,コンテンツへの課金行動および支払意思額と消費者のデモグラフィック特性の関係性が明らかにされている。Cesareo and Pastore(2014)では,音楽配信のサブスクリプションサービスを対象として,同サービスの利用意図に影響する要因が検討されている。具体的には,消費者の同サービスに対する関与が高いほどその利用意図が高まる一方で,オンライン上でのコンテンツの著作権侵害行為に対する消費者の態度が好ましいほど利用意図が低下することが確認されている。また,サブスクリプションサービスの対象財が拡大する中で,デジタル財以外を対象とする研究も示されている。例えば,Woo and Ramkumar(2018)では,ファッション・化粧品のサブスクリプションサービスを対象に,同サービスの利用者の特性が,非利用者との比較において分析されており,利用者は非利用者と比べてオンライン上での取引相手に対する信頼が高く,ファッションに対する関心の程度も高いことが確認されている。

これらの研究に見られる通り,サブスクリプションサービスの利用傾向が高い消費者の特性やその利用意図に影響する要因はさまざま指摘されている。ただし,同サービスにおいて重要とされる顧客との長期継続的な関係性を構築するうえで,いかなる要因が消費者の継続的な利用行動を促すのかについては十分に明らかにされていない。そこで,本稿では,消費者の継続的な利用行動を導くロイヤルティの機能に注目し,サブスクリプションサービスの中でも動画配信サービスを対象に,同サービスに対するロイヤルティが形成される要因とその関係性を明らかにすることを試みる。

ロイヤルティとはスイッチング行動を引き起こしうる状況的な影響やマーケティング活動の存在にもかかわらず,将来にわたり一貫して好んでいる製品・サービスを再購買あるいは愛顧する深いコミットメントが抱かれ,それにより同一ブランドあるいは同一ブランドの集合の反復的な購買を引き起こすものと定義される(Oliver, 1999)。また,ブランドロイヤルティの機能としては,再購買の理由としての機能,満足の強化,再購買の誘発,継続購買の誘発,関連購買の誘発,推奨行動・参画行動・紹介行動の誘発が指摘されている(新倉,2019)。

サブスクリプションサービスでは,常に消費者に離脱する自由があるため,満足の強化や継続購買の誘発というロイヤルティの機能は特に重要な意味をもつと考えられる。つまり,特定の動画配信サービスに対してロイヤルティが形成されることで,消費者のサービスの継続利用が促され,競合サービスへのスイッチング行動も生じにくくなると考えられる。

なお,本稿では,動画配信サービスに対するロイヤルティが形成される要因として,以下でレビューする知覚多様性ならびに技術受容モデル(TAM)における諸概念に注目する。

2.2  知覚多様性

知覚多様性(perceived variety)とは,実際に店頭で陳列されている選択肢数ではなく,そこから消費者が知覚する品揃えの豊富さを表す概念である(Kahn & Wansink, 2004河股,2019)。

知覚多様性に影響する要因としては,まず実際の品揃えのサイズが大きいほど知覚多様性が高まることが指摘されている(Chernev, 2011)。ただし,この関係性は種々の条件で変化することも確認されている。例えば,選択肢が構造化されている場合には,構造化されていない場合と比べて,選択肢数の増加が知覚多様性を高める効果が大きいことが確認されている(Kahn & Wansink, 2004)。また,消費者が好むブランドのSKU数の削減は,好まれないブランドの場合と比べて,知覚多様性を低下させる効果が大きいことが確認されている(Broniarczyk, Hoyer, & McAlister, 1998)。

さらに,実際の品揃えが一定であっても,さまざまな要因が知覚多様性に影響することも指摘されている。例えば,製品の分類カテゴリー数が多いほど知覚多様性が高まることが確認されている(Chang, 2011Mogilner, Rudnick, & Iyengar, 2008)。また,商品陳列の方法に関しては,水平的な配置の方が,垂直的な配置よりも品揃えの知覚多様性が高まることが確認されている(Deng, Kahn, Unnava, & Lee, 2016)。

次に,知覚多様性の影響に関しては,品揃えの知覚多様性が高い店舗に対して消費者の満足は高まり,その店舗が選択される傾向も高まることが確認されている(Hoch, Bradlow, & Wansink, 1999)。また知覚多様性が高まると消費者の製品の消費量が増えることも確認されている(Kahn & Wansink, 2004)。

本稿でも知覚多様性のポジティブな効果に注目しており,動画配信サービスを対象として,コンテンツの知覚多様性とロイヤルティの関係性について検討する。

2.3  技術受容モデル

技術受容モデル(TAM:Technology Acceptance Model)は組織内での経営情報システムの受容や使用行動を説明する目的で提唱されたモデルであるが,現在では消費者の新技術に基づく製品・サービスの使用行動を説明するうえでも,その妥当性が複数の研究で確認されている(例えば,Bruner II & Kumar, 2005Vijayasarathy, 2004)。

TAMの中核概念は知覚された有用性(perceived usefulness)と知覚された使用容易性(perceived ease of use)である。知覚された有用性(以下では「有用性」と表記する)とは,個人が特定システムの使用が自分の労働成果を促進すると信じる信念の度合いと定義される(Davis, 1989小野,2008)。ただし,本稿では「労働」という文脈での経営情報システムの使用行動が対象ではなく,消費者によるサービスの使用行動が対象であるため,有用性を個人がある特定のシステムを利用することが有益であり,都合がよいものであると信じる程度を表す概念として捉える(Manis & Choi, 2019)。また,知覚された使用容易性(以下では「使用容易性」と表記する)は,個人が特定システムの使用が努力を必要としないと信じる信念の度合いと定義される(Davis, 1989小野,2008)。使用容易性についても有用性と同様に,対象を労働で用いられる経営情報システムに限定せず,広く製品・サービスの使用における操作の容易さ,操作の熟達のしやすさを表す概念として捉える。

なお,TAMでは有用性と使用容易性の関係性について,使用容易性が有用性を高める先行要因として仮定されており(Davis, 1986, 1989),この関係性は複数の研究で妥当性が確認されている(例えば,van der Heijden, 2004Venkatesh & Davis, 2000)。つまり,あるシステムの操作がどの程度容易あるいは困難であるかについての個人の知覚は,そのシステムがどの程度有用であるかという知覚に影響を及ぼすということである(Vijayasarathy, 2004)。

これまでにTAMには数多くの概念が新たに組み込まれ拡張されてきた。その一つに知覚された楽しさ(perceived enjoyment)に注目する研究がある(例えば,Childers, Carr, Peck, & Carson, 2001van der Heijden, 2004)。知覚された楽しさ(以下では「楽しさ」と表記する)とは,コンピュータ(などの新技術)の使用により期待されるパフォーマンス結果からではなく,それを使用する活動それ自体がどの程度楽しいと知覚されるかを表す概念である(Davis, Bagozzi, & Warshaw, 1992)。

van der Heijden(2004)では,TAMにおける有用性が新技術の使用による功利的価値に寄与するのに対して,楽しさは快楽的価値に寄与するものであると指摘されている3)。それゆえ,楽しさの影響を加味することで功利的要因と快楽的要因の両方から新技術の使用行動を説明できる。

3  仮説設定

品揃えの知覚多様性は認知的にも感情的にも期待された消費効用を高めると指摘されている(Kahn & Wansink, 2004)。動画配信サービスにおいても,コンテンツの知覚多様性が認知的にも感情的にも同サービスの評価に影響する可能性が考えられる。

まず,認知的な影響として,コンテンツの知覚多様性がサービスの有用性に与える影響が考えられる。例えばNetflixといった特定の動画配信サービスで利用可能なコンテンツが増加すると,消費者は求めているコンテンツを視聴するにあたり,その動画配信サービスの利用のみで素早くコンテンツにアクセスできる可能性が高まり,他の代替的なサービスを併用する必要性は低下するであろう。その結果として,消費者はコンテンツの視聴に伴う時間や労力の削減を期待すると考えられる。したがって,コンテンツの知覚多様性はサービスの有用性に正の影響を及ぼすと考えられる4)

次に,感情的な影響として,コンテンツの知覚多様性がサービスの楽しさに与える影響が考えられる。多様性は一般的にポジティブに捉えられており(Ratner & Kahn, 2002)。その結果として消費者はポジティブな感情をより強く感じる可能性が指摘されている(Kahn & Wansink, 2004)。また,快楽的購買では,消費者は買い物のプロセスにおいて驚き,冒険心,楽しさ,多様性を追求することが指摘されており(Arnold & Reynolds, 2003Li, Abbasi, Cheema, & Abraham, 2020Novak, Hoffman, & Duhachek, 2003),オンライン上では情報探索それ自体を楽しむ快楽的なブラウジング行動との関連性も指摘されている(Li et al., 2020Park, Kim, Funches, & Foxx, 2012)。動画配信サービスも快楽的な側面が強いといえ,消費者は同サービスでのコンテンツの探索過程に楽しさを感じる可能性が考えられる。そして,コンテンツの知覚多様性が高まるほど,消費者がその探索過程で感じる楽しさの水準も高まる可能性が考えられる。したがって,コンテンツの知覚多様性はサービスの楽しさに正の影響を及ぼすと考えられる。以上の検討から次の2つの仮説を設定する。

H1:動画配信サービスにおけるコンテンツの知覚多様性は,同サービスの有用性に正の影響を及ぼす

H2:動画配信サービスにおけるコンテンツの知覚多様性は,同サービスの楽しさに正の影響を及ぼす

特定の動画配信サービスの有用性が高まると,消費者はその動画配信サービスを利用することで視聴したいコンテンツに素早くアクセスできるなど,動画視聴の効率性が促進されたと知覚するであろう。そして,その結果として競合サービスや代替的な手段を利用する意図は低下すると考えられる。また,サービスの有用性がロイヤルティに対して正の影響を及ぼすことを確認した研究も報告されている(Cyr, Hassanein, Head, & Ivanov, 2007Purani, Kumar, & Sahadev, 2019)。したがって,動画配信サービスの有用性はロイヤルティに正の影響を及ぼすと考えられる。

ポジティブな感情は情報源の一つとして働くために,消費者がポジティブな感情状態にあるときには評価対象をより好ましく知覚することが指摘されている(Kahn & Wansink, 2004Schwarz, 1998Schwarz & Clore, 1983)。また,好ましい感情や気分がロイヤルティの先行要因になりうることが指摘されている(Dick & Basu, 1994)。さらに,楽しさがロイヤルティに対して正の影響を及ぼすことを確認した研究も報告されている(Cyr et al., 2007Cyr, Head, & Ivanov, 2006)。したがって,動画配信サービスの楽しさはロイヤルティに正の影響を及ぼすと考えられる。以上の検討から次の2つの仮説を設定する。

H3:動画配信サービスの有用性は,同サービスに対するロイヤルティに正の影響を及ぼす

H4:動画配信サービスの楽しさは,同サービスに対するロイヤルティに正の影響を及ぼす

以上の検討より動画配信サービスにおけるコンテンツの知覚多様性はサービスの有用性および楽しさを介してロイヤルティに正の影響を与えるという関係性が導かれた。ただし,消費者にとっての功利的価値と快楽的価値の重視度は変化しうることが指摘されており(Chitturi, Raghunathan, & Mahajan, 2007, 2008),それゆえ,同サービスの有用性および楽しさがロイヤルティに対して及ぼす影響の程度も変化する可能性が考えられる。そこで次に,いかなる条件下において,これらの関係性が変化するかを考えるうえで,サービスの使用容易性の影響に注目する。

これまでの研究では,使用容易性は有用性を高める先行要因であるとともに(Davis, 1989Vijayasarathy, 2004),快楽的な情報システムにおける快楽的な経験を促進あるいは阻害することが指摘されている(van der Heijden, 2004)。そのため,使用容易性は消費者による功利的価値および快楽的価値の両方の評価に対して影響を及ぼす要因といえる。さらに以下で述べる通り,その結果として消費者の功利的価値と快楽的価値の重視度を変化させる可能性が考えられる。そこで,使用容易性の水準がH3およびH4で示される関係性に対してどのような影響を及ぼすかについて検討する。

使用容易性は情報システムの操作の容易さ,操作の熟達のしやすさを表す概念であり,製品・サービスの機能性に関わるものといえ,功利的価値に関わる概念と捉えられる。そして,消費者による功利的価値と快楽的価値の相対的な重視度は,それぞれの価値がどの程度,消費者の求める水準に達しているかに依存することが確認されている。Chitturi, Raghunathan, and Mahajan(2007)では,機能的属性と快楽的属性の間でトレードオフが存在する状況において消費者は基本的に快楽的属性よりも機能的属性を優先した製品選択を行うが,機能的属性と快楽的属性のいずれもが消費者が求める水準を超えている場合には,消費者は快楽的属性を優先した選択を行うことが確認されている。このことは,消費者は原則として快楽的価値よりも功利的価値を優先するが,功利的価値が消費者の求める水準を超えている場合には,消費者は快楽的価値に対してより高い優先度を与えることを意味している(Chitturi, Raghunathan, & Mahajan, 2008

本稿では,機能的属性と快楽的属性の間にトレードオフの関係を仮定していないが,消費者による各価値の重視度が上記の通り変化するとすれば,H3,H4の関係性は使用容易性の水準により次の通り変化すると考えられる。

動画配信サービスの使用容易性が低い場合には,高い場合と比較して,功利的価値の評価が消費者の期待水準に達していない可能性が高まるため,功利的価値の重視度が高まると考えられる。それゆえ,この場合においてはサービスの有用性がロイヤルティに与える影響はより大きくなると考えられる。他方で,使用容易性が高い場合には,低い場合と比較して,功利的価値の評価が消費者の期待水準を満たしている可能性が高まる。また,van der Heijden(2004)の指摘にある通り,使用容易性が高い場合には快楽的な経験が促進されることも考えられる。それゆえ,この場合には快楽的価値の重視度が高まり,サービスの楽しさがロイヤルティに与える影響はより大きくなると考えられる。以上の検討から次の2つの仮説を設定する。

H5:動画配信サービスの有用性がロイヤルティに与える正の影響は,同サービスの使用容易性が高い場合よりも,低い場合の方が大きい

H6:動画配信サービスの楽しさがロイヤルティに与える正の影響は,同サービスの使用容易性が低い場合よりも,高い場合の方が大きい

4  実証分析

4.1  調査対象者

設定した仮説の妥当性を検証するためにオンライン調査を実施した5)。調査対象者は動画配信サービスについて一定期間にわたる利用経験があることが望ましいため,主な動画配信サービスを調査時点で契約しており,その契約期間が3か月以上である回答者を抽出した6)。なお,回答者が複数の動画配信サービスを同時に契約していることも想定されるが,その場合には最も利用頻度が高いサービスを念頭に調査への回答を求めている7)。最終的には20代から60代までの男女309名の回答が得られ,同データを分析対象とした。分析に用いたサンプルの性別・年代の内訳は表1で示される通りである。

表1. 分析サンプルの属性
男性 女性 合計
度数 (%) 度数 (%) 度数 (%)
10代 2 (0.6%) 3 (1.0%) 5 (1.6%)
20代 16 (5.2%) 37 (12.0%) 53 (17.2%)
30代 32 (10.4%) 57 (18.4%) 89 (28.8%)
40代 40 (12.9%) 34 (11.0%) 74 (23.9%)
50代 46 (14.9%) 21 (6.8%) 67 (21.7%)
60代 14 (4.5%) 7 (2.3%) 21 (6.8%)
合計 150 (48.5%) 159 (51.5%) 309 (100%)

4.2  測定尺度

調査で用いた測定尺度は表2で示される通り,先行研究を参考に本稿の調査対象に即して作成したものである。各質問項目はいずれも7段階リッカート尺度により測定した。

表2. 測定尺度一覧
構成概念 項目 α係数 CR AVE 平均 標準偏差
知覚多様性(Kahn & Wansink, 2004およびPiris & Guibert, 2019 このサービスでは,豊富な種類の動画コンテンツを視聴できる .901 .904 .759 5.28 1.16
このサービスでは,多岐にわたる動画コンテンツを利用できる 5.25 1.15
このサービスでは,十分な動画コンテンツが提供されている 5.07 1.28
知覚された使用容易性(Davis, Bagozzi, & Warshaw, 1992およびvan der Heijden, 2004 このサービスは,観たいコンテンツを視聴するために,簡単に使うことができる .904 .905 .760 5.42 1.28
このサービスの使い方に慣れることは,私にとって簡単なことだ 5.44 1.20
このサービスの使い方は明瞭で,分かりやすい 5.36 1.24
知覚された有用性(Davis, Bagozzi, & Warshaw, 1992およびvan der Heijden, 2004 このサービスは,興味のある動画コンテンツを視聴するために役に立つ .887 .888 .724 5.48 1.09
このサービスを利用することで,動画コンテンツの視聴はより簡単なものになる 5.38 1.13
このサービスを利用することで,観たいコンテンツを素早く視聴できる 5.38 1.20
知覚された楽しさ(Davis, Bagozzi, & Warshaw, 1992およびManis & Choi, 2019 このサービスを利用することは楽しいことだ .904 .906 .763 5.31 1.11
このサービスを利用することはワクワクすることだ 5.07 1.21
このサービスで,動画コンテンツを観ることは喜びだ 5.12 1.21
ロイヤルティ(Anderson & Srinivasan, 2003 動画コンテンツを観る際には,いつも,このサービスを利用しようと思う .876 .875 .701 4.77 1.30
動画コンテンツを観る際には,このサービスが最善の選択肢だ 4.75 1.29
将来的に,動画コンテンツを観る際には,このサービスの利用が第一候補だ 4.92 1.29

括弧内は測定尺度の作成にあたり参考にした先行研究である。

各尺度の信頼性を確認するためにCronbachのα係数およびCR(Composite Reliability)を算出した。Cronbachのα係数はすべての構成概念で.80以上の値であり基準を満たしていた(Nunnally, 1978)。また,CRもすべての構成概念で.80以上の値であり基準を満たしていた(Bagozzi & Yi, 1988)。したがって,測定尺度の信頼性が十分に高いことが確認された。また,収束妥当性および弁別妥当性に関しては,すべての構成概念でAVE(Average Variance Extracted)が基準とされる.50を上回っており,また構成概念のAVEが構成概念間の相関係数の平方よりも高い値であることから(Fornell & Larcker, 1981),測定尺度の収束妥当性および弁別妥当性が確認された。

4.3  仮説検証

(1) 分析1

分析1では全サンプルを用いて,構造方程式モデリングによりH1からH4までの検証を行った。分析モデルの適合度を示す指標はCFI = .976,GFI = .940,AGFI = .907,RMSEA = .069であり,仮説モデルは良好な適合度であると判断できる(Bagozzi & Yi, 1988Hair, Black, Babin, & Anderson, 2010

そこで,このデータに基づいて仮説検証を行った。まず,知覚多様性の影響については,有用性に及ぼす影響(β = .863,p < .001),楽しさに及ぼす影響(β = .877,p < .001)は,いずれも有意な正の影響でありH1,H2は支持された。また,有用性がロイヤルティに及ぼす影響(β = .198,p < .05),楽しさがロイヤルティに及ぼす影響(β = .642,p < .001)はいずれも有意な正の影響でありH3,H4は支持された。

(2) 分析2

分析2ではH5,H6の検証を行った。検証にあたり分析サンプルを使用容易性の水準が高群のサンプルと低群のサンプルに分割したうえで,多母集団同時分析を行った。なお,サンプルの分割は,使用容易性の各測定項目の合計につき平均値以上のサンプルを高群とし,それ以外のサンプルを低群とした。その結果,使用容易性の低群が150名,高群が159名であった。

まず,使用容易性の低群と高群ごとにモデルの適合度を確認した。低群ではCFI = .960,GFI = .911,AGFI = .861,RMSEA = .076,高群ではCFI = .955,GFI = .901,AGFI = .846,RMSEA = .087であり,いずれも許容可能な適合度であると判断できる。次に多母集団同時分析により分析モデルの配置不変性の確認を行った。分析モデルの適合度を示す指標はCFI = .957,GFI = .906,AGFI = .854,RMSEA = .058であり,良好な適合度であり配置不変性が成立すると判断できる。

そこで,H5およびH6の検証を行うためにパラメータの一対比較を行った。まず,有用性がロイヤルティに及ぼす影響に関しては,使用容易性が低群でのパス係数(β = .491,p < .001)と高群でのパス係数(β = −.010,p = .918)との間の差の検定統計量は2.696であり有意な差が確認された8)。したがってH5は支持された。楽しさがロイヤルティに及ぼす影響に関しては,使用容易性が低群でのパス係数(β = .398,p < .001)と高群でのパス係数(β = .735,p < .001)との間の差の検定統計量は−3.070であり有意な差が確認された。したがってH6は支持された。

図1.

仮説モデルの分析結果

5  考察

分析1の結果,動画配信サービスにおけるコンテンツの知覚多様性は有用性および楽しさを介してロイヤルティに正の影響を及ぼすことが確認された。つまり,コンテンツの知覚多様性は,同サービスの有用性という功利的ベネフィットと楽しさという快楽的ベネフィットの両方に正の影響を与え,これら両面からロイヤルティの形成に寄与することが確認された。

ただし,分析2の結果からは,有用性および楽しさがロイヤルティに与える影響の大きさは,使用容易性の水準によって変化することも確認された。使用容易性が低い場合には,高い場合よりも,有用性がロイヤルティに与える影響は大きいことが確認された。他方で,使用容易性が高い場合には,低い場合よりも,楽しさがロイヤルティに与える影響は大きいことが確認された。

また,使用容易性の低群では,有用性および楽しさのいずれもがロイヤルティに対して正の有意な影響を及ぼしているが,使用容易性の高群では,楽しさのみがロイヤルティに正の有意な影響を及ぼしており,有用性については有意な影響が確認されなかった。これらの結果については,使用容易性が高まることで,ロイヤルティ形成において重要な先行要因が有用性という功利的ベネフィットから楽しさという快楽的ベネフィットへとシフトすると解釈できる。

以上の分析結果に基づけば,動画配信サービスの事業者が消費者との長期的な関係性を構築するために,コンテンツの知覚多様性を高めることは有効な手段といえる。そのためには,先行研究をふまえれば,実際に提供されるコンテンツの多様性(actual variety)を高めることはまず必要であり,いわゆる人気作品の豊富さは特に知覚多様性に重要な影響を与えると考えられる。さらに,提供コンテンツのカテゴリー数の設定や消費者への情報提示の方法に関しても知覚多様性を高めるための仕組みを設けることが求められる。

また,動画配信サービスは定額で豊富なコンテンツを利用可能という特徴があるため,消費者の利用行動は習慣化しやすいと考えられる。この点に関して,過去の繰り返された経験を通じて行動が習慣化する条件下では,認知的な評価よりも,感情の方が行動に対するよりよい予測因であるとの指摘がある(Allen, Machleit, & Kleine, 1992Dick & Basu, 1994)。したがって,消費者が同サービスの利用を繰り返す過程では,有用性という認知的な評価以上に,その利用に伴う楽しさという感情が継続的な利用行動を強く導く可能性が考えられる。そこで,同サービスの使用容易性を高めることが重要であり,その結果としてロイヤルティ形成の源泉を功利的ベネフィットから快楽的ベネフィットへとシフトさせることは消費者の長期継続的な利用を一層促すものと考えられる。

6  おわりに

本稿の学術的貢献としては次の点を指摘できる。これまでの研究において,サブスクリプションサービスでは顧客との継続的関係性が重要になると指摘されているものの,消費者の同サービスの継続的な利用行動を促進させる要因については十分に解明されていなかった。そこで,本稿では,動画配信サービスを対象として,同サービスに対するロイヤルティの形成要因とその関係性について知覚多様性およびTAMに注目することで明らかにすることができた。このことはサブスクリプションサービスを対象とする研究において新たな知見を提供できたと考える。また,先行研究で確認された快楽的価値が功利的価値よりも優位となる現象に関しては,動画配信サービスにおいて同様の関係性を確認できたことも貢献の一つといえるであろう。

その一方で,本稿の限界と残された課題としては次の点があげられる。まず,分析対象が動画配信サービスに限定されている点である。現在ではサブスクリプションサービスの対象製品・サービスは多岐にわたっており,例えば,衣料品,家具,自動車などの非デジタル財を対象とするサブスクリプションサービスも存在する。これらの非デジタル財では,デジタル財と比較して,提供される製品の多様性が大きく異なるため,本稿で注目した知覚多様性によるポジティブな影響が同様に見られるのかは注目するべき点である。また,動画配信サービスは快楽的な側面が強いサービスといえるが,功利的な側面が強い製品・サービスを対象とするサブスクリプションサービスの場合においても,知覚多様性とロイヤルティの間に本稿の分析結果と同様の関係性が見られるかは定かではない。これらの課題についてはさらなる検証が必要である。さらに,本稿では知覚多様性の負の側面については検討できていない。選択肢の多さが,消費者の意思決定の困難さを導くという指摘もある(Iyengar & Lepper, 2000)。動画配信サービスにおいてもコンテンツの知覚多様性により負の影響がもたらされる可能性は考えられることから,負の影響はどのような場合において生じるのかを明らかにすることも今後の課題といえる。

謝辞

本稿の執筆にあたり,編集長の澁谷覚先生ならびに2名のレビュアーの先生方には貴重なご指摘をいただきました。ここに記して御礼申し上げます。なお,本稿は2020年度成城大学特別研究助成(研究課題:サブスクリプションサービスに対する消費者のロイヤルティ形成要因の解明)による研究成果の一部です。

1)  Cyr et al.(2007)ではWebサービスに対する態度やロイヤルティはTAMによって部分的に説明できる可能性が指摘されている。また,太宰(2020)では,新技術受容という観点から,キャッシュレス利用とサブスクリプションサービス,シェアリングサービスの利用の関連が検討されており,この文脈でTAMが紹介されている。

2)  リカーリングとは「リカーリングレベニュー」の略であり,収益が繰り返すことを意味し,リカーリングモデルとはリカーリングレベニューを実現する収益化モデルのことである(川上,2019)。サブスクリプションビジネスは顧客が製品・サービスを利用するための費用を,月額や年額といった形で定期的に繰り返し支払うという特徴があるために,リカーリングモデルの代表的な例である。

3)  功利的価値とは,製品・サービスの機能的,道具的,認知的性質に関連するものである(Batra & Ahtola, 1991Chitturi et al., 2008Dhar & Wertenbroch, 2000)。それに対して,快楽的価値とは,製品・サービスの審美的,経験的,楽しさなどの性質に関連するものである(Babin, Darden, & Griffin, 1994Chitturi et al., 2008Hirschman & Holbrook, 1982)。

4)  同サービスの使用容易性も有用性と同じくサービスの認知的な評価に関わるものと考えられるが,コンテンツの知覚多様性が高まることで,同サービスの操作の容易さや操作の熟達のしやすさが直接的に高められるという関係性は仮定できないことから,コンテンツの知覚多様性による認知的な影響としては有用性に対する関係性のみを仮説として設定している。

5)  調査は株式会社マクロミルのモニターを対象に2020年10月28日から10月29日にかけて実施された。なお,性別,年代および地域でのサンプル割付は行っていない。分析に用いた性別,年代の構成比は表1で示される通りである。

6)  調査対象は日本における主な動画配信サービスであるNetflix,Hulu,dTV,U-NEXT,TSUTAYA TVのいずれかの利用者とした。

7)  最も利用頻度が高い動画配信サービスとして,Netflixを選択した回答者が168名(54.4%),Huluが72名(23.3%),dTVが31名(10.0%),U-NEXTが28名(9.1%),TSUTAYA TVが10名(3.2%)であった。

8)  検定統計量の絶対値が1.96以上であれば集団間のパス係数の差は5%水準で有意な差があると判断され,その絶対値が2.33以上であれば1%水準で有意な差があると判断される。

参考文献
 
© 2021 日本商業学会
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