抄録
騒音を抑制する手法の一つとして,アクティブノイズコントロール(ANC)がある.これは,騒音とは逆位相を持った制御音を発生させることで,その騒音を低減しようとするものである.その手法は,大別すると,フィードフォワード(FF)制御とフィードバック(FB)制御に分けられる.FF制御のANCは,周期・非周期にかかわらずその騒音を低減させる制御音を発生させることは可能である.しかし,FB制御の場合,非周期音を低減させる制御音を発生させることは可能ではあるが困難を要する.周期音の低減に関しては可能である.著者らは,FF制御とFB制御を併用したANCにLMSアルゴリズムを採用し,評価点が移動する1次元音場内の能動的音響制御をおこなっている.その手法の一つとしてIMC (Internal Model Control)-FB適応制御を採用し,音響的参照信号を用いたFF制御で問題となるハウリングの発生を抑制している. IMC-FB適応制御とは, IMC構成のFB制御に適応アルゴリズムを採用したもので,そのブロック図を図1に示す.この制御では,二次音源からエラーマイク間の音響特性(G)を制御器内にフィルターなどで模擬(G')することで,エラー信号をもとにエラーマイクにおける騒音に近い信号を再現することができる.そこで,その信号を適応制御の参照信号として利用するものである.そうすることで,FB制御に適応アルゴリズムの概念を用いることができる.しかしながら,図1のブロック図で表される一般的なIMC-FB適応制御をそのまま実機へ適応すると,消音可能な周波数上限がサンプリング周波数(f_s[Hz])のおよそ1/4となってしまう.そこで,FF適応制御の消音可能な周波数上限がサンプリング定理に従うf_s/2なのに対して,なぜIMC-FB適応制御はf_s/4となるのか,改善はできないのか,を本報では考察する.また,このIMC-FB適応制御では,図1のようにGの特性を模擬したG'を制御器に内挿する必要がある.その制御器の実現にはDSPが使用されることが多い.そこで,このG'をLMSアルゴリズムを用いて同定する場合, DSPの出力から入力間を同定することであろう.これはGの音響経路の特性のみならず,スピーカ,アンプやマイクなどの電気的特性をも含める必要があるからである.しかし,この同定結果だけを用いて制御をおこなうと,消音可能な周波数上限が減少する場合がある。その要因についても,本報では考察する.なお,本報では,適応アルゴリズムとしてFIRフィルタを用いたLMSアルゴリズムを採用する.また,ハウリングの抑制を目的にIMC-FB適応制御を使用しているため,本報では対象とする入力を正弦波とする.