西洋中世研究
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メディアとしての「聖顔」
13世紀イギリスの写本挿絵を中心に
木俣 元一
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2010 年 2 巻 p. 21-35

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抄録
 本稿では,西洋中世における聖顔,とくに13世紀イギリス写本に描かれたウェロニカを対象として,媒介物としてのメディアを考察する。聖顔は,「アケイロポイエトス」であると同時に「接触の聖遺物」であり,奇跡的イコンと聖遺物を橋渡しする。また,個々の信徒が属する現在を,キリストの受難という過去,さらに最後に審判という未来へと媒介し,地上と天上という異質な空間を結ぶ。
 これら13世紀イギリスのウェロニカ・イメージは,詩篇を中心に個人的祈念で使用された写本に挿入され,インノケンティウス3世の起草と伝わる祈祷文が添えられた。こうしたウェロニカは,サン・ピエトロというラテン教会の中心をなすパブリックな空間で実践される聖顔の礼拝と,イギリスという周縁的地域における個人的祈念とを媒介する。祈祷文は画像とともにこうした祈念を構造化し,神の顔を激しく希求するコンテクストを形成する。ウェロニカは,こうした願望に応えつつも,祈祷文は,これ「鏡におぼろに映ったもの」にほかならず,神との「顔と顔を合わせての対面」が,時の終わりでのみ許されることを確認し,新たな乗り越えがたい距離を設定する。
 13世紀後半にイギリスで制作された『グルベンキアン黙示録』(リスボン,グルベンキアン美術館所蔵)には,ウェロニカをナラティヴな状況で描写する挿絵が見られる。これは「メタ形象的」イメージとして,当時聖顔がどのように受容されたのか考える上で重要な資料を提供する。このウェロニカでは,キリストの顔は半透明の布地の向こうに透けて見えており,こうした描写は,聖顔があくまでも物質的な外観にほかならず,神との直接的な対面は終末においてこそ可能であることを喚起する。画面左上で神が手にする巨大な金色の印章は,黙示録本文やウェロニカの祈祷文に含まれる刻印の主題と結びつき,神の僕である信徒の魂と神との関係を印章と刻印という生きたメタファーにより呼び起こす。
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© 2010 西洋中世学会
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