抄録
吸血性節足動物の唾液腺には、宿主動物の血液や血管、皮下組織に特異的に作用する多種多様な生理活性物質が含まれている。ハマダラカAnopheles stephensi唾液腺蛋白遺伝子の網羅的解析により生理活性分子の探索を行い、血液凝固第XII因子および高分子キニノーゲンに対して特異的に結合し、これら血漿蛋白の異物表面への結合を阻害する分子量約 16 kDa の新規活性蛋白質を同定した。このタンパク質は異物表面に接触することにより誘発される血液凝固反応·炎症反応·補体系活性化等に関わる重要な生体防御機構の活性化を強く阻害することを明らかにした。またこの結果として、炎症反応の原因物質であるブラジキニンの産生を強く抑制する。本蛋白質は蚊刺による急性炎症や痛みの発生を抑制し血液凝固を抑えて、効果的継続的な吸血を助ける機能をもつ物質と考えられる。