抄録
海外学術調査の際にインドネシアのスラウェシ島で採集されたオビキンバエの新種C. greenbergi Wells et Kurahashi, 1996は衛生害虫として世界の熱帯·亜熱帯地域に分布の拡大をしている、オビキンバエC. megacephala (Fabricius)の害虫化(小進化)とその種を含むオビキンバエ種群全体の系統進化を考える上で貴重な発見となった。スラウェシ島の標高1000m以上の山地森林で生息が確認されたC. greenbergiは形態学的にマレーオビキンバエ亜群とオビキンバエ亜群の中間的特徴をもっている。これまで両亜群は地史的にはそれぞれスンダランドとパプアランドに固有のものと考えられてきた(Kurahashi, 1984)が、その中間的特徴をもつ本種が地誌的に異なる両大陸の狭間に位置するスラウェシ島の森林に生息していることはオビキンバエ種群の系統進化がスンダランドからパプアランドへの南下によってもたらされたとの仮説を支持するものである。分子生物学的解析では本種がパプアランドのオビキンバエ亜群により近いことがわかったので、南下したオビキンバエ亜群の中で再び北上しワラセアに入り込んで種分化を起こした種である可能性も考えられる。