抄録
1970年代に,北海道におけるsinensisに近縁なハマダラカの存在が明らかとなりAn. engarensisと記載された.本種がsinensisと区別される主なポイントは,(1) 唾腺染色体の逆位,(2) 強制交尾時の雄把握器運動回数,および,(3) 翅のhumeral pale spotの存在である.成虫雌の形質がsinensisとオーバラップしていることは,(3)を欠く多数の個体の存在で認められるほか,Kanda and Oguma (1978)も指摘している.今回,聖マリアンナ医大・免疫学・病害動物学教室所蔵の,engarensisおよび日本・韓国のsinensis成虫標本を精査したところ,雌前脚第2肘節白帯,同じく中脚第3肘節白帯,いずれも対節比において,sinensisとの違いが見いだせた.形態分類形質の発見は,特に野外集団における分布動態の把握上重要である.今後engarensisの成虫形態の判別が容易となるような形態形質の組合せを検討したい.