抄録
近年、生息北限が北上しているヒトスジシマカについて、岩手県内における生息分布状況を明らかにするとともに、年平均気温等との関連を検討することにより、今後の節足動物媒介性ウイルス疾患の予防対策に資することを目的として調査を行った。2009年8~10月、岩手県盛岡市、花巻市、奥州市、一関市、大船渡市、釜石市、宮古市、住田町、大槌町及び山田町の計99地点で、古タイヤなどのたまり水に生息している蚊の幼虫を太口ピペットで採取した。蚊類の同定は、室内で羽化させた成虫をエーテルで麻酔後、実体顕微鏡で観察し、形態学的に鑑別を行った。年平均気温は、1kmメッシュ気温データの日平均値について2006~2009年の4年間の平均値とし、10.0℃から0.2℃きざみで11.6℃までの地域について検討した。解析にはGISWAY-light Ver.2.2.3を用いた。
ヒトスジシマカの生息が確認された地点は盛岡市、花巻市、奥州市、一関市、大船渡市、釜石市、住田町及び大槌町の6市2町の計26地点であった。同蚊生息地点の年平均気温は10.8℃以上であった。今回の調査ではヒトスジシマカの生息北限は盛岡市仙北町(N38.6879 E141.1526 )であったが、2010年に再度生息を確認する必要がある。同蚊の飛翔距離は100-150m程度であることから、他の生息地から輸送されてきていることも考えられ、気温の上昇など生息条件が整えば、盛岡市に定着する可能性は高い。一方、花巻市では、2007年から3年間連続して同じ地点から、また、市街地の複数の地点で生息が確認されていることなどから、花巻市ではすでに同蚊が定着していると考えられる。また、今回の調査では年平均気温が10.8℃以上の地域で同蚊の生息が可能であることが示唆されており、今後、地球温暖化などによる気温の上昇に伴い、同蚊の分布域が拡大することが予想される。