抄録
ネッタイシマカはデング熱や黄熱といった熱帯性ウイルス感染症の主要な媒介蚊である.また,近年インド洋諸島で大流行したチクングニヤ熱の媒介蚊としても知られる.流行地域では主にピレスロイド系殺虫剤散布による成虫対策が行われているが,一方で抵抗性の発達が世界的に問題になっている.抵抗性機構を解明することで,抵抗性の迅速診断が可能になるとともに,抵抗性個体にも効力を発揮する薬剤のデザインに結びつくことが期待される.今回私たちは,デング熱・チクングニヤ熱対策で徹底した殺虫剤散布が行われているシンガポールで採集されたネッタイシマカ個体群(aegSP系)を材料とし,成虫のピレスロイド剤抵抗性機構の解明に取り組み始めた.aegSP系は採集時にすでに35倍の抵抗性(局所施用法)を示したが,52~85%致死薬量のペルメトリンで淘汰を進めた結果,3世代淘汰後には抵抗性比で200倍以上,半数致死薬量318 ng/♀の抵抗性を示すまでになった.私たちはこの抵抗性系統を用いて代謝・作用点感受性の両側面よりその抵抗性機構解明を進めている.