抄録
野外採集ハマダラカの種同定を行うための形質が破損や脱落によって利用困難な場合,これまで種の鑑別に利用されていない形態の長さの違いにより判別が可能となるかどうか,翅脈暗斑・白斑に関しAnopheles hyrcanus群4種,engarensis(遠軽),sinensis(浦和、鹿屋、韓国Yungjyu),lesteri(八雲),sineroides(遠軽、長瀞)について調べた.いずれも1970年代に採集され乾燥標本となっていたものである.成長に関するアロメトリーを考慮し,翅脈斑は,翅脈5.2(Cu2)に対する長さ比を求めて比較した.検討した斑は前縁脈(C),亜前縁脈(Sc),第1翅脈(R),第5翅脈(Cu),第6翅脈(A)の,計13の暗・白斑である.その結果,前縁脈上のScp/5.2値が最もよく種間差異を表していたが,engarensisとsinensisではかなりのオーバラップが認められ,sineroidesはengarensisの高い値の部分でオーバラップが見られた.2009年8月に釧路市で採集された雌蚊11個体は、Scp/5.2値によってsineroidesとそれ以外のsinensis/engarensis-likeな蚊に分けられた.後者は沢辺ら(2009)によるITS1領域の解析でbelenraeと判明したが,Scp/5.2値の範囲はsinensisおよびengarensisにほぼオーバラップしていた.翅脈斑の長さの計測値により,より確からしい種の鑑別がなされると期待された.