シラミ,トコジラミ,オオサシガメ、ツェツェバエ、クモバエなど一生を通じて脊椎動物の血液のみを餌とする昆虫類の多くは、体内に共生微生物を保有しており、血液中に不足しているビタミンB群等の供給を受けていると考えられている。トコジラミの腹部体腔内に一対の菌細胞塊があり,その細胞質内に多量の細菌が存在することは1920年代より報告されていた。しかし現在に至るまで90年近くにわたり,共生細菌の微生物学的実体はよくわかっていなかった。我々は日本及び豪州由来のトコジラミ4系統105個体について調査をおこない、菌細胞に局在する共生細菌がボルバキアであること,高度に制御された垂直感染過程を経て次世代へ伝達されること,ボルバキア感染がトコジラミの成長や繁殖に必須であること、ボルバキアの必須機能は宿主へのビタミンB群の供給であることなどを明らかにした。ボルバキアは従来,昆虫類の生殖を利己的に操作する寄生的な共生細菌と捉えられていたが、アブラムシにおける細胞内共生細菌ブフネラのような相利共生ボルバキアの発見はそのような常識を覆し、寄生関係から高度な相利共生関係が進化しうることを実証したものである。