抄録
東北地方は,地球温暖化や開発行為に加え,東日本大震災による環境変化などによって,蚊類の分布状況が今後どのように変化するか注目される地域である. 演者らは,1999年の本大会において,1997年7月29日から8月14日にかけての現地蚊発生源調査と過去の報告をもとに,東北地方の蚊9属43種の採集記録をまとめ,報告した.その後,小林睦生グループによるヒトスジシマカの分布調査,渡辺護らによる津波被災地における蚊発生調査などが行われ,イナトミシオカが蚊相に加えられた. 昨春の津波や放射能汚染を受けて放置された水田跡などの広大な湿原などの出現が,アカイエカ,コガタイエカ,シナハマダラカ,イナトミシオカ,トウゴウヤブカなどの多発をもたらすだろう.アカイエカ,トウゴウヤブカは近々多発しなくなるだろうが,日本脳炎媒介蚊のコガタイエカ,イナトミシオカの多発は当分続くと思われる.セスジヤブカの発生も懸念される.マラリア媒介蚊のオオツルハマダラカがシナハマダラカと混同されている可能性がある. 東北地方の蚊相は,旧北区系のトワダオオカ,チシマヤブカ,ブナノキヤブカ,エゾヤブカ,スジアシイエカなどと,東洋区系のキンパラナガハシカ,アシマダラヌマカ,コガタイエカなどとで構成されているが,東洋区系のヒトスジシマカ,オオクロヤブカ,フタクロホシチビカなどの分布拡大や発生量増大が予想される.