抄録
ヒトスジシマカは世界中に分布を広げているが侵入した各地ではヒトスジシマカと近縁種との間で様々な相互作用が生じていると考えられる.種間交尾に代表される繁殖干渉もその一つである.最近様々な昆虫や植物において,繁殖干渉が種の置換を起こすメカニズムとしてこれまで考えられてきた以上に重要であることが認識されてきた.しかし蚊の種間関係における繁殖干渉の役割についてはほとんどわかっていない.我々は ヒトスジシマカが繁殖干渉によって近縁種にどんな影響をおよぼすかを明らかにするための研究を行うことにした.過去の研究からヒトスジシマカの雄は近縁種のAedes aegyptiやAe. polinesiensisの雌に対しても積極的に交尾を試みて成功させ,相手の雌に瞬化しない卵を産ませることが知られている.このような場合雌は少なくとも1回に産み落とされる卵とgonotrophic cycle1回分の時間を無駄にすることになるので,繁殖成功度に与える影響は非常に大きい.一方でヒトスジシマカの供給源である日本ではもともと近縁のヤマダシマカがヒトスジシマカと共存している.我々はまず,このような長期にわたって共存する2種の間にも種間交尾による繁殖干渉が存在するか否かを実験によって明らかにすることを試みている.ケージ内で種間交尾が自発的に行われるか,ヤマダシマカ雌が種間交尾によって受ける負の影響はその後同種の雄と交尾することによって緩和されるかを検討した結果について報告する.