抄録
アカバネウイルスは,反芻動物の流産,早産,死産および先天異常(いわゆる異常産)の原因ウイルスのひとつであり,Culicoides属ヌカカによって媒介される.日本においては,野外で採集されたウシヌカカCulicoides oxystomaから最も高い頻度でアカバネウイルスが分離されることから,本種が主要な媒介種であると考えられている.しかし,ウシヌカカの分布が確認されない北日本においても,アカバネウイルスによる異常産(アカバネ病)の流行がしばしば認められることから,本種以外のCulicoides属が伝播に関与していることが示唆されている.本研究では,媒介能を精査する一環として,11種類のCulicoides属ヌカカにアカバネウイルス野外分離株を含む牛脱繊維血を吸血させ,10~11日間飼育後,ウイルス分離を試み,ウイルスに対する感受性の有無を調べた.その結果,ウシヌカカ,ミヤマヌカカC.maculatus,ホシヌカカC.punctatusを含む,6種のCulicoides属ヌカカからアカバネウイルスが分離され,感受性を有することが明らかになった.ミヤマヌカカおよびホシヌカカは2010年にアカバネ病の流行がみられた東北地方に広く分布し,牛舎に飛来する優占種になっていたことが知られている.これらの結果から,両種がアカバネウイルスを媒介していたことが推察される.今後,更に日本産Culicoides属の持つ媒介能を精査し,その生態や分布域に基づき,国内におけるアカバネ病の発生リスクの解析を行う必要があると考えられる.