抄録
はじめに
今回、嚥下障害の進行による栄養障害から肺アスペルギルス症を発症した重症心身障害者在宅例の入所を経験した。本例を通して重症化の社会的背景を問題提起したい。
症例
36歳女性、26kg。幼少時より知的障害を認め、知的養護学校に在籍。運動障害は認めず、単語レベルでの会話可能でバス通学していた。22歳ころより失調性歩行、さらなる知的退行が明らかとなるも、画像上脳萎縮以外は原因不明であった。母親との二人住まいで、29歳より車椅子生活となり、頚部の背屈、四肢痙直、両眼白内障など徐々に進行していった。てんかんの合併を認めず、定期的な医療機関の受診は無かった。頚部の背屈・過緊張から嚥下障害が進行し、半年間に10kg以上の体重減少、閉塞性呼吸障害、仙骨部褥瘡を認める状態となり、生命の危険があるため準緊急的入所となった。
入院時に微熱あり、CRP 5.0 mg/dl、IgG 2896 mg/dlと慢性炎症所見を認め、胸部X線にて多発性のコイン像、胸部CTでは多発性の球形陰影とともに一部空洞病変も確認された。結核を強く疑ったが、喀痰および胃液の抗酸菌培養、PCRともに陰性で、結核QFTも異常なく結核感染は否定され、血中アスペルギルス抗原が 3.5(<0.5)と高値であり、肺アスペルギルス症と診断。経管栄養にて栄養面の改善を図るとともに、経静脈的に抗真菌剤ミカファンギンNaを3週間、経口にてイトラコナゾール9か月間投与を継続し、胸部CTでの陰影消失、さらに14か月後に血中アスペルギルス抗原の陰性化を確認した。
考察
重症心身障害者が栄養不良に陥った場合、免疫不全や沈下性肺障害の要素も加味することでアスペルギルス感染症も鑑別すべき疾患となる。さらに本症においては、てんかんなどの疾患を合併しなかったことから、養護学校卒業後に医療的セーフティーネットをすり抜けてしまい、在宅療養中に重症化してしまったものであり、医療福祉行政に問題を提起するケースと考えられた。