抄録
はじめに
重症心身障害児(以下、重症児)は自ら姿勢変換することが困難なため、背臥位を中心とした臥位姿勢に限られやすく、重力や日々の姿勢に影響を受けやすい。また生来の姿勢筋緊張異常に成長が加わり、脊柱側彎や胸郭変形が生じ加齢とともに悪化する。胸郭扁平と姿勢の関係について検討を加えた。
対象・方法
当センター重症心身障害児施設に入所中の重症児32名(男18名、女14名)、平均年齢14.4歳、全例GMFCSにてレベル5。剣状突起の位置で胸郭の厚さと幅を4回計測した平均値から胸郭の厚さ/幅比率(以下、胸郭扁平率)を算出し、年齢、運動機能、日常姿勢、脊柱側彎の有無とあわせて検討した。
結果
胸郭扁平率は、10歳以下0.67、11〜20歳0.65、21歳以上0.59と年齢が高くなるにつれて低下し、胸郭が扁平化していた。脊柱側彎が30°未満では比率が0.70であったのに対し、30°以上では0.59となった。股関節脱臼による股関節屈曲制限で車椅子上での座位姿勢がとれない、あるいは気管切開などで背臥位や腹臥位姿勢が多い場合は年齢を問わず比率が低く、唾液の気管内流入のため、側臥位での姿勢が多い場合は逆に比率が高い傾向にあった。
考察
今川らが提唱してきた胸郭扁平率は、健常成人で0.69、健常小児では0.7〜0.79とされている。重症児は自ら動くことが少ない上に、背臥位を中心とした臥位姿勢となりやすく、さらに加齢とともに変形・拘縮の悪化により姿勢の制限が増えてくる。脊柱側彎を含めた胸郭の扁平化は、とりうる姿勢をさらに限定し、呼吸機能にも影響を及ぼす。胸郭の扁平化を防ぐためには、幼少時より様々な姿勢に適応し維持していくことが重要であり、胸郭の扁平化を定量化し、脊柱側彎とあわせて経年的に変化を追うことで、個々に応じたポジショニングが提案できると考えられた。