日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
36 巻, 2 号
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前付け
特別講演
  • 中島 欽一
    2011 年36 巻2 号 p. 239
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    遺伝子発現はクロマチンを構成するヒストンのアセチル化や脱アセチル化によってそれぞれ正、負に精妙に制御されている。われわれは以前に、長らく抗てんかん薬として利用され最近ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としての活性が明らかにされたバルプロ酸が、神経幹細胞のニューロン分化を劇的に促進できることを報告した。また、神経幹細胞の分化をグリア細胞(アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト)へと向かわせる培養条件下においてもバルプロ酸はグリア細胞分化を阻害しつつニューロン分化を促進できることも明らかにしている。ところで、損傷脊髄などでは神経幹細胞からアストロサイトへの分化を誘導するIL-6を含めた炎症性サイトカインの高発現が誘導される。そのため内在性および移植神経幹細胞のほとんどがアストロサイトへと分化してしまい、結果としてグリア性瘢痕を形成することで、ニューロン新生や軸索伸長が妨げられてしまうという問題点が明らかとなっている。そこでわれわれは「アストロサイト分化を抑制し、ニューロン分化を促進できる」というバルプロ酸の作用に着目した。損傷マウス脊髄に神経幹細胞を移植し、バルプロ酸を投与したところ、通常はほとんど見られないニューロンへの分化が観察され、また非移植対照に比して顕著な下枝機能回復が見られた。さらに2種類のトレーサーを用いた実験では、移植細胞由来ニューロンが損傷した神経回路をリレーするように再建している様子が観察された。また、移植細胞特異的除去により改善した運動機能が再度悪化することから、移植細胞が直接的に損傷脊髄機能回復に貢献していることも明らかになった。細胞移植は行うものの遺伝子導入を必要としないこの治療法(Hdac Inhibitor and Neural stem cell Transplantation、HINT法)は安全性が高く、神経系疾患の新規治療法開発などの応用面においても重要な意義を持つと考えられる。ところで、齧歯類やヒトにおいて、てんかんにより海馬歯状回の異所的ニューロン新生が促進されることおよび長期認識障害が引き起こされることが知られている。そこで本講演では、前述のバルプロ酸がこの異所的ニューロン新生を阻害し、認識障害を回復させることも合わせて紹介したい。 略歴 平成7年九州大学大学院理学研究科化学専攻博士後期課程修了(理学博士取得)。その後、日本学術振興会特別研究員(大阪大学細胞生体工学センター、東京医科歯科大学難治疾患研究所)、助手(東京医科歯科大学難治疾患研究所)、助教授(熊本大学発生医学研究センター)、日本学術振興会海外特別研究員(米国ソーク研究所)を経て、平成16年より現職(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科・教授)。
会長講演
  • 脳の機能と形態
    橋本 俊顕
    2011 年36 巻2 号 p. 240-241
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    自閉症スペクトラム障害はLona Wingにより提唱された定型発達に連続する広い概念であるが、最近はアメリカ精神医学会によるDSM-IV-TRによる広汎性発達障害のうち、自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害の3つを指して使用されることが多い。 自閉症スペクトラム障害は社会性の障害、コミュニケーションの障害、こだわり行動を主な徴候とする症候群であり、脳の機能的異常があり生ずると考えられている。その背景には、双生児の研究、家族集積性、遺伝子異常による特殊症候群に合併すること等から、遺伝性の素因があると想定されている。本症候群の診断はICD-10またはDSM-IV-TRの診断基準に準拠して行われる。近年そのバイオマーカーについての研究が進み、遺伝子異常、オキシトシン、事象関連電位、セロトニン等の異常が報告されている。脳の形態的変化については、近年のコンピュータ関連技術の目覚ましい進歩により、生体での脳のより精密な形態、機能の検査が様々な画像診断的検査を用いて可能となってきた。形態学的には、自閉症の脳体積の増大が報告されており約25~30%に見られ、生後数年で急速に大きくなる。その他小脳、脳幹の低形成、線条体、基底核、辺縁系、前頭葉皮質などの体積の変化も述べられている。機能的には「心の理論」の障害、中枢統合機能の障害、実行機能の障害等が想定され、前頭葉、辺縁系と各脳部位のネットワークなどについての研究が進んでいる。対人関係・コミュニケーションの障害についての脳の障害部位としては前頭葉前部、側頭葉上外側および内側、辺縁系を含む回路(社会性脳)の機能異常が最も考えられているが、今後、mirror neuron systemの関係、他の症状と責任脳部位との関係も研究が進むことが期待される。しかしながら、診断の客観的指標となるバイオマーカーについては未だ確定的なものは見られない。 脳病理所見としては、帯状回、辺縁系(海馬、扁桃体、乳頭体等)、小脳、下部脳幹(オリーブ核)の異常、その他、小脳プルキンエ細胞の減少、脳梁の小細化、脳幹顔面神経核/上オリーブ核の細胞数減少、下オリーブ核と台形体との距離の短縮(妊娠5週以前の要因で生じる)、前頭葉の皮質形成異常、下部脳幹の形成異常が報告されている。大脳や小脳皮質の病理学的研究においては、大脳皮質細胞円柱構造異常、小脳プルキンエ細胞の小細胞化のような器質的なシステム構造だけでなく、ムスカリン性およびニコチン性受容体、GABA受容体、神経細胞死のキーレギュレーターであるBcl-2の減少、P53の増加、神経細胞の移動や層構造に関与しているreelinの減少などの機能や構造異常の原因と考えられる蛋白質の変化が明らかになってきた。さらに、興奮性アミノ酸トランスポーター1、グルタミン酸受容体AMPA 1の増加と小脳でのAMPA型グルタミン酸受容体の減少も見られ、これらが脳の発生過程での細胞構築、シナプス形成に影響をおよぼす可能性が示唆されている。また、分子遺伝学的研究からは自閉症スペクトラムにおいてシナプス形成に関与する遺伝子の異常も報告されており、脳病理や画像所見の報告と合わせて考えると自閉症スペクトラムでは脳内の情報伝達の乱れが関係していることが示唆されている。 略歴 昭和44年 3月 徳島大学医学部医学科 卒業 昭和47年10月 鳥取大学医学部脳神経小児科助手 昭和48年12月 徳島大学医学部付属病院小児科助手 昭和53年12月      同        講師 昭和63年 4月 徳島大学医学部小児科助教授 平成 7年 1月 国立精神・神経センター武蔵病院 心理・指導部長 平成10年 8月 鳴門教育大学障害児教育講座教授 平成12年 4月 鳴門教育大学附属養護学校校長併任 (H12.4〜H16.3) 平成18年 4月 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科副研究科長併任 平成19年 4月 鳴門教育大学特別支援教育講座教授 平成20年 4月 徳島赤十字ひのみね総合療育センター 園長 現在に至る
教育講演1
  • −人と人とをつなぐコミュニケーション−
    星山 麻木
    2011 年36 巻2 号 p. 242-243
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    クリエイティブ音楽ムーブメントは、音楽療法とムーブメント療法をベースに、自尊感情を高めることを目的として、重症心身障害児から支援者への適応まで視野に入れて、研究開発してきたコミュニケーションや創造性を重視した方法論である。約30年にわたり、重症心身障害児を中心に、療育センターや病院などで、様々なセッションを試みてきた。特徴としては、セッションに参加する子どものみならず支援者も自尊感情を高める、音楽とともに動きや環境を最大限活用する、発達論を理解する、指導者や保護者の創造性や楽しさも大切にする、などである。近年では、発達障害を中心とする特別支援を必要とする乳幼児や小学生に様々なセッションを試み、新たに発達障害の子どもたちへのプログラムとして開発を試みている。まだ発展途上な方法論であるが、ご一緒に簡単な動きや音楽の効果の体験も含め、ともに学んでいけたら有難い。 対象: 重度から軽度まで障がいのある子どもとおとな 母親、教員など指導者 方法: 病院、施設、学校、研修会、療育キャンプ、親子教室など 目的: 自尊感情を高める、自己表出を高めるなど、心理療法的なもの 運動発達、コミュニケーション促進など、発達療法的なもの 対人関係や社会との関わりを広げるなど、生態学的なもの 特徴: 音楽や動きを大切にしながら、QOLにも寄与する    指導者や保護者が楽しさや笑顔を大切にしていること    それらを引き出すために環境からアプローチすること    創造的で即興的であること    中心にあるのは子ども・家族・指導者の幸せである 今後の課題:継続的な優れた指導者の養成      障がいの特性や年齢、目的に応じたセッションの応用 ワークショップ 1 導入  一対一のコミュニケーション     小グループでのコミュニケーション 2 創造 モチーフを使って創造的な動きを考える 3 発表 お互いの感じ方や創造をシェアーし自分の言葉で理解する ・ Werdnig-Hoffmann患者のための音楽療法 =眼球運動による作曲の試み= 音楽療法学会誌3(1):79-83.2003 ・ 重症心身障害児(者)に対する音楽療法とムーブメント療法の実践 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要18:137-142.2003 略歴 星山麻木(明星大学教育学部教授 保健学博士) 日本音楽療法学会認定音楽療法士。 映画『星の国から孫ふたり』監修。 ユニバーサル音楽ワークショップ研究会代表。 サポーター育星プロジェクト研究協会代表。 クリエイディブ音楽ムーブメント研究会代表。 東京学芸大学音楽科卒業後、養護学校で音楽教師を務め、退職後、横浜国立大学大学院修士課程(障害児教育)修了、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻 (母子保健学)博士課程修了。 メルボルン大学客員研究員(早期療育)、鳴門教育大学障害児教育講座助教授を経て現職。 おかあさんおとうさんの作る育児ファイル 東洋館出版。 NHKテレビすくすく子育てなどにテレビ出演、手遊び歌CDなど。
教育講演2
  • 内藤 悦雄
    2011 年36 巻2 号 p. 244
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))において、障害の発生原因の特定が困難なことは多いですが、その障害を受けた時期による原因別分類では出生前が約30%、出生時・新生児期が約40%、新生児期以降が約30%と報告されています。出生前原因の一部は子宮内感染ですが、その大部分は遺伝子異常、染色体異常、先天奇形症候群などの遺伝性疾患です。これらには多種類の先天代謝異常症が報告されています。 一般的に重症児(者)の先天代謝異常症の病因診断には特殊な検査が必要であり、希少疾患のため詳細には行なわれていないのが現状です。しかし障害の発生原因や遺伝子変異を正しく診断することで、将来起こりうる合併症を予測できます。また確実な診断によって家族の遺伝上の無用な心配を避けることができ、遺伝カウンセリングからも重要です。 ここでは先天性高乳酸血症を取り上げます。本症は血液中および髄液中乳酸・ピルビン酸が増加する疾患であり、種々の病因による症候群です。エネルギーの産生工場であるミトコンドリアの機能障害により生じ、この機能障害による各臓器のエネルギー不足により種々の症状を呈します。たとえば高乳酸血症を呈する糖原病I型の円形顔貌、低身長および肝腫大、またはミトコンドリアDNA変異によるMELASの脳卒中様発作のように特有な症状を呈する疾患は少なく、非特異的な中枢神経症状が多いので、臨床症状からの診断は困難です。 私がこれまでに全国の医療施設から診断を依頼された先天性高乳酸血症例(1111例)の中ではピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)異常症が112例と最も多く、その他の疾患の診断は97例でした。これらのPDHC異常症の中にはビタミンB1の活性型であるチアミンピロリン酸(TPP)との親和性に異常が認められるビタミンB1反応性PDHC異常症があります。このタイプでは、高濃度のTPP(0.4mM)存在下ではPDHC活性が正常値を示すことがあるので、生理的な低濃度のTPP(1x10-4 mM)存在下でのPDHC活性の測定が重要です。 PDHC異常症の病因の中で最も多いE1αサブユニット(E1α)遺伝子はX染色体上にあり、これまで83例の遺伝子診断が可能でした。またE1α異常症の女児例ではX染色体の不活化の著しい偏りによりPDHC活性が正常値を示す症例があります。したがって、血液中・髄液中の乳酸/ピルビン酸比が正常であり、E1α異常症が強く疑われる症例ではE1α遺伝子の解析が必要です。 先天性高乳酸血症には未だ確立された治療法はありませんが、ビタミンB1反応性PDHC異常症ではビタミンB1の大量投与で血液中・髄液中乳酸値の低下および臨床症状の改善が得られ、その中にはほぼ正常に発達している症例もあります。このようなPDHC異常症を中心に解説します。 略歴 内藤悦雄(ないとう えつお) 兵庫県姫路市出身 1979年 徳島大学医学部医学科卒業、同小児科入局 1987年 米国エール大学医学部人類遺伝学科留学 1989年 徳島大学医学部小児科助手 1996年 同講師 2002年 同助教授 2004年 徳島赤十字ひのみね総合療育センター小児科部長 参考文献 内藤悦雄:高乳酸血症 <診断へのアプローチfirst line検査> 先天代謝異常症を見逃さない 小児内科 42:1102-1106. 2010年
シンポジウム1:重症心身障害児者の喘鳴と気管支喘息
  • 宮野前 健, 夛田羅 勝義
    2011 年36 巻2 号 p. 245
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重症心身障がい児(者)は様々な合併症を合わせ持ち、複雑な病態生理を示します。さらに障害の個別性が高く、一人ひとりの障がいの特徴や合併症に伴う症状の把握が日常診療の中では必要です。生命的な予後にも大きな影響のある呼吸障害は、摂食機能や消化器・栄養障害とも関連して日常の健康管理上大切な課題となっています。このような重症児(者)では咳込みや喘鳴・胸部副雑音(ラ音)聴取は日常的に経験しますが、この症状が気管支喘息の症状なのか、気管軟化症など他の原因に因るか鑑別が困難な事例にしばしば遭遇します。摂食・嚥下障害に伴う誤嚥などのため経口摂取が困難な場合、経鼻胃管や胃瘻造設部位からの注入栄養を受けているときにも、唾液の誤嚥や逆流性食道炎に伴う喘鳴が認められることも多くあり、その診断・治療に難渋します。重症児の医療・生活の場では“喘鳴”、“呼吸困難”の症状に対して気管支喘息の急性期治療薬であるβ2刺激剤を含む吸入療法が日常的に実施されています。 このため日本小児アレルギー学会の「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン作成委員会」が中心となり、日本小児呼吸器疾患学会と日本重症心身障害学会が共同で「重症心身障害児(者)気管支喘息診療ガイドライン」作成に向けて議論してきました。その成果を5名の演者の方にこのシンポジウムで発表していただく企画です。 「重症心身障害児(者)」における喘息の実態や喘鳴に対する鑑別診断・治療や課題についてそれぞれの専門家の立場から発表いただきます。(1)全国重症児施設(公法人立と国立病院機構)に対して実施したアンケート結果を岡田先生に「気管支喘息の診断・治療の実態と問題点」として、(2)森川先生からは「アレルギー学的検査からみた特徴」と題して入所利用者のアレルギーの実態を報告していただきます。次に(3)「気道病変と喘鳴」と題して具体的な症状からみた気道の病態と診断について長谷川先生、(4)「気管支喘息の診断」について鑑別診断の手順、重要性について細木先生にお話しいただき、最後に重症心身障害児(者)の特徴に基づいた(5)「気管支喘息の治療」について、佐藤先生より発表していただきます。 この企画が重症心身障害児(者)の呼吸器症状、特に喘鳴に対して的確な診断と治療に役立ち、日々の関わりの中で活かせて行ければと考えています。
  • −重症心身障害児(者)施設へのアンケート調査より−
    岡田 邦之, 宇理須 厚雄
    2011 年36 巻2 号 p. 246-247
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重度の肢体と知的不自由を併せ持つ重症心身障害児(者)数は医療の進歩・発展に伴い増加傾向である。彼らの多くは呼吸障害を抱えているが、障害の発生原因は様々で、基礎疾患の多様性や合併症・続発症などにより個々の障害の特徴はまったく異なっている。気管支喘息は喘鳴の鑑別に重要な疾患であるが、呼吸機能検査が実施できず、長期間施設で療養している重症心身障害児(者)はその発症に及ぼす環境因子が大きく異なり、診断は困難なことが予想される。また、重症心身障害児(者)の気管支喘息の調査は行われたことがなく、その疫学や特徴などは不明であった。今回、日本小児アレルギー学会、日本小児呼吸器疾患学会、日本重症心身障害学会の3学会共同で、1.疫学と診療実態 、2.診断、3.治療の3章より構成される重症心身障害児(者)気管支喘息診療ガイドラインが作成された。本ガイドラインの作成に先立ち行われたアンケート調査より、気管支喘息を有する重症心身障害児(者)の特徴と診断、治療の実態、問題点について述べる。 1.アンケートの概要 疫学と診療実態の調査を目的とし、全国196重症心身障害児(者)施設に対し、20項目の指定回答肢選択+意見の自由記載形式で平成22年8月に行った。 回答は119施設から寄せられ、回収率は61%であった。 2.結果 1)喘鳴・喘息の診断 反復する喘鳴は15歳未満では30%以上と高率に認められるのに対し、15歳以上では12%のみであった。気管支喘息は、5歳未満の28%と年少児の気管支喘息診断の困難性が示されたが、15歳以上では6%と健常人の罹患率とほぼ同等だった。 気管支喘息診断根拠は、喘鳴の有無、β2刺激剤の反応性、前医の診断、アレルギー検査の順で、診断は78%が困難と回答を頂いた。 2)喘息に対する治療実態(投与薬剤) 使用薬剤は、短時間作用型â2刺激薬が82%と最多で、ロイコトリエン受容体拮抗薬75%、貼付薬を含む長時間作用性â2刺激薬57%で、短時間・長時間作用型ともに気管支拡張剤が比較的高率に使用されていた。吸入ステロイド薬は、加圧式定量噴霧吸入器が28%、ネブライザーを用いた吸入が24%に使用されていた。 神経系の症状を有することが多い重症心身障害児(者)であるが、テオフィリン製剤が約3割に使用され、意見の自由記載で使用の肯定・否定の両意見がみられた。 3)喘息のコントロール状態 82%がコントロール良好で、治療に難渋群は3%であった。 3.まとめ 診断の難しい重症心身障害児(者)の気管支喘息を含む呼吸障害を的確に診断し、病態が多様である個々に対応できるガイドラインの作成が必要であると考えられた。 略歴 岡田 邦之 昭和38年9月22日生 平成 4 年 3 月 北里大学医学部医学科卒業 平成 4 年 5 月 獨協医科大学越谷病院 小児外科教室 入局 平成 6 年 5 月 同医局 臨床助手 平成 8 年 1 月 獨協医科大学越谷病院 小児科教室 臨床助手 平成 8 年 6 月 埼玉県立小児医療センター 未熟児新生児科 レジデント 平成 8 年10月 獨協医科大学越谷病院 小児科教室 臨床助手 平成11 年 1 月 アメリカテキサス州 テキサス州立大学 サウスウウェスタン・メディカルセンター 生理学教室 研究員 麻酔科学教室兼任 平成14年 1 月 春日部市立病院 小児科 医長 平成18年 4 月 埼玉医科大学 小児科 助手 平成19年 7 月 埼玉医科大学・大学院 小児科 大学院講師 平成22年10月 おかだこどもの森クリニック開院
  • 森川 昭廣
    2011 年36 巻2 号 p. 248-249
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    背景 重症心身障害児(者)の多くは重症心身障害児(者)の施設に入院(所)しているが、呼吸器感染、整形外科的問題、さらには栄養上問題ならびに消化器疾患が多く見られ検討されているが、アレルギー疾患について必ずしも十分な検討は行われていない。 対象 群馬県内ならびに福岡県内の重症心身障害児(者)が入院する2病院において、入院患者の内、アレルギー疾患の調査研究に御家族より協力することを許可頂いた方102名について以下の検討を行った。 方法 対象者について、年齢、性別、基礎疾患、病歴、大島の分類、家族歴(郵送によるアンケート調査)、入院後の症状調査、気切の有無、気道感染の頻度ならび、アレルギー症状(喘鳴と呼吸困難・咳嗽、水様性鼻汁とくしゃみ、皮膚炎等)について調査を行った。 また、末梢血のIgEやその他の免疫ブログリン、RAST(ダニ、スギ、カンジダ等)各種サイトカイン(TARCを含む)を検査した。 結果 喘鳴のある患者さんは102名中26名で、咳嗽を伴う者は12名であった。またβ2刺激薬には多くの患者が反応した。これらの患児ではIgEは5〜3000IU/mlであり、ダニのRAST(クラス2以上)は陽性者15名(14.7%)、スギに陽性者は12名(11.7%)であった。TARCは500pg/ml以上を陽性とすると12名(11.8%)が陽性であった。 結論 喘鳴のある患者が全体の26名(25.5%)を占めたが、典型的喘息症状を示したものは、非重症心身障害児(者)におけるより少なかった。また、IgEやRASTとの関連、さらには各種サイトカインの検討でもアレルギーの所見を表す者はなかった。 略歴 氏名: 森川 昭廣(もりかわ あきひろ) 役職: 群馬大学 名誉教授 社会福祉法人 希望の家附属 北関東アレルギー研究所 所長 上海交通大学附属児童医院 顧問教授 1969年3月 群馬大学医学部卒業 1979年4月 群馬大学医学部助手 1985年2月    同   講師 1988年6月 スウェーデン王国イエテボリ大学免疫学教室へ留学 1994年5月 群馬大学医学部小児科 教授 2008年3月 定年退職 2008年4月 現在に至る 学会会長 1990年11月 第23回日本小児呼吸器疾患学会会長 1999年 6月 第35回日本小児放射線学会会長 1999年11月 第24回東日本小児科学会会長 2000年11月 第37回日本小児アレルギー学会会長 2002年12月 第47回日本小児耳鼻咽喉科研究会会長 2006年 3月 第16回国際喘息学会日本北アジア部会会長 2006年11月 第56回日本アレルギー学会秋季学術大会会長 2007年 9月 第54回日本小児保健学会会頭 学会役員 日本小児科学会 評議員 日本アレルギー学会 監事、評議員 日本小児アレルギー学会 監事 日本小児呼吸器疾患学会 運営委員 日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会 理事 慢性呼吸器疾患予防管理WHO協力センター 諮問委員会委員 World Allergy Organization(WAO)Allergy Diagnosis Special Committee member(2008−2009年) Asia Pacific Association of Pediatric Allergy Respiratory and Immunology board member(2006−2011年) 環境省疫学調査 外部評価委員 川野小児医学奨学財団 理事 国際喘息学会日本北アジア部会 常任理事 専門分野 小児科学、小児アレルギー病学、小児呼吸器病学 主な著書 小児のアレルギー疾患研究の進歩 ライフサイエンス社 1995年 今日の治療・小児アレルギー疾患 永井書店 1996年 小児の呼吸器疾患 永井書店 1998年 標準小児科学 医学書院 2000年 小児の皮膚疾患 診断と治療社 2000年 Current Advances in Pediatric Asthma and Other Allergic Diseases Jomo Newspaper 2002年 標準小児科学 医学書院 2006年 標準小児科学 医学書院 2009年 標準小児科学 医学書院 2010年
  • 長谷川 久弥
    2011 年36 巻2 号 p. 250-251
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児者は様々な気道病変を合併する。これらの気道病変は症状からすると喘息との鑑別が困難なこともある。薬剤不応性の喘鳴や通年性の喘鳴を認める場合には気道病変の存在を疑い、積極的に検索をすすめる必要がある。 検索のすすめ方 気道病変の存在が疑われた場合には、画像検査を中心とした検索をすすめる。頸部側面X線検査、頸部・胸部CT検査は気道病変の検索として多くの情報を与えてくれる。胸部の造影CT検査は気管腕頭動脈瘻も危険性の予知や血管による気道の圧迫状態の把握に有用である。直接的な診断としては喉頭・気管・気管支鏡検査が最も有用である。診断だけでなく、気道病変に対する治療を行うことも可能である。 代表的な疾患 ・ 舌根沈下 長期臥床を行っている場合、重力の影響を受けて舌根部が後方に移動し、上気道閉塞を来す場合がある。姿勢の工夫などで症状が軽減する場合もあるが、長期にわたって舌根沈下の状態が続くと、扁平喉頭などの喉頭の変形をきたし、呼吸症状だけでなく誤嚥などもおこしやすくなる。 ・ 気管・気管支軟化症 血管の圧迫や胸郭の変形、慢性的な努力呼吸などに伴い、気管・気管支軟化症を合併する場合がある。慢性的な喘鳴を認め、薬剤不応性で、重症例ではdying spellといわれる心肺停止発作を起こす場合がある。CPAPなどによる気道保持が有用である。 ・ 気管・気管支肉芽 長期気管挿管に伴い、挿管チューブや気管吸引の刺激などが原因で起こるのが気管・気管支肉芽である。小さいものでは無症状であるが、大きくなると出血を来したり、気道を閉塞し換気障害の原因となる。長さを規定した制限吸引を行ったり、局所への薬剤投与などで軽減する場合が多いが、重症例ではレーザーによる肉芽焼灼術が必要となる場合もある。 まとめ 気道病変は疑って検索をすすめなければ診断、治療に到達しない。薬剤不応性の喘鳴や通年性の喘鳴を認め、通常の喘息として疑問が持たれる場合には気道病変の存在を疑い、積極的に検索をすすめる必要があるものと思われる。 略歴 長谷川久弥 1958年7月2日生(52歳) 東京女子医科大学東医療センター新生児科部長・臨床教授 1983年 和歌山県立医科大学卒業 同 年 東京女子医大第二病院小児科入局 1985年 松戸市立病院新生児科勤務 1995年 医学博士 2007年 松戸市立病院新生児科副部長 2009年 東京女子医科大学東医療センター周産期新生児診療部部長 2010年 東京女子医科大学臨床教授 現在に至る 専門分野 新生児・小児呼吸器疾患 主な公的役職 日本小児呼吸器疾患学会運営委員 日本周産期新生児学会評議員 日本未熟児新生児学会評議員 日本SIDS学会評議員 ほか
  • 細木 興亜
    2011 年36 巻2 号 p. 252
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    一般に喘息の臨床診断は発作性の呼吸困難、喘鳴、咳嗽の反復、可逆性の気流制限、他の心肺疾患の除外によりなされるが、喘鳴を呈することの多い重症心身障がい児(者)ではこの基準のみでは診断しがたいことがある。その理由として1)基礎にある器質的要因でさまざまな修飾を受けるために、喘鳴が必ずしも典型的な症候をとらない、2)他の喘鳴、咳嗽を来たす疾患の除外が容易でない、3)喘息の診断に用いられる呼吸機能検査を重症心身障がい児(者)に施行することが困難、などが挙げられる。結果として、喘鳴や喘息の管理方法は個々の医師の経験に委ねられ、診療レベルに大きな差が生まれる危険もある。重症心身障がい児(者)に対する医学管理の標準化が必要とされるが、喘鳴の鑑別診断と喘息の治療指針は今、最も求められているものの一つであろう。 診断のポイントは咳嗽、喘鳴といった呼吸器症状から喘息を疑うこと、喘鳴に対して一般的な対症処置を適切に行うこと、その後、重症心身障がい児(者)特有の疾患を考慮しながら慎重に除外診断を行うことと考えられる。重症心身障がい児(者)の喘息は単一のアレルギー疾患というよりは、広く呼吸器疾患として喘息以外の要因も常に考慮した鑑別が必要である。まず、吸気性喘鳴を呈する上気道の狭窄では、舌根沈下、下顎後退、喉頭軟化症、頸部過伸展である。いずれも睡眠時や筋緊張亢進時に出現しやすいが、体位変換や下顎保持、経鼻エアウェイ、リラックスさせることによる筋緊張緩和にて改善する。次に、呼気性喘鳴を生ずる下気道の狭窄では、気管チューブや吸引チューブの物理的刺激、感染、気管切開等による気管軟化症、気管内肉芽、気管狭窄、側湾などの胸郭変形などを考える。これも体位変換、吸痰、緊張緩和などの処置で軽減/消失することが多いので、まずは試みるべきである。胸部レントゲンや胸部CTなどの画像検査、咽頭喉頭ファイバースコピー、気管支ファイバースコピーの有用性も高く、診断困難な喘鳴が持続する場合は施行することが望ましい。除外診断を行った後に、β刺激薬による気道可逆性判定を行うことになるが、可逆性についても、吸入の加湿だけで痰が取れて喘鳴の改善につながった可能性もありえる。逆に、喘息であっても、胸郭の変形、側彎、分泌物、無気肺、胃食道逆流などのために可逆性を示さない例もあると考えられ、可逆性がないといって喘息を否定できない点には留意せねばならず、再現性も必要と考えられる。現状では、鑑別診断をいかに適切に行うかが重要であるが、将来的には気道抵抗を測定するimpulse oscillometryや喘息で上昇する呼気NO測定も診断・治療モニタリングとしての可能性を秘めており、自験例を併せて提示する。 略歴 大阪府堺市 出身 2000年 三重大学医学部卒業 2008年7月〜 独立行政法人国立病院機構三重病院勤務、現在に至る 学会活動 日本小児科学会 専門医 日本アレルギー学会 専門医 日本小児アレルギー学会 日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会 日本重症心身障害学会 受賞 『「初めて発作入院した」乳幼児喘息の臨床経過』 平成22年度日本小児アレルギー学会誌優秀論文賞(臨床部門)
  • 佐藤 一樹, 西牟田 敏之
    2011 年36 巻2 号 p. 253
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障がい児(者)は、基礎となる疾患、病態は様々であるが、障害の重症度があがるほど、喘鳴を伴う呼吸障害を呈することが多い。喘鳴を呈する障がい児(者)において、治療の観点からも鑑別が重要であるが、喘息の鑑別は必ずしも容易ではない。また、気管支喘息に、誤嚥や上気道閉塞などの喘鳴を呈する疾患を合併している場合も少なくないため、注意を要する。重症心身障がい児(者)の喘息治療を考える際には、一般の小児もしくは成人の喘息治療と共通な部分と、重症心身障がい児(者)に特有の部分に分けて考えるとわかりやすい。  急性発作への対応 通常の喘息治療と共通な点は、薬剤の選択である。β2刺激薬内服・吸入を第一選択とし、ステロイド薬内服・静注、輸液、酸素吸入、イソプロテレノール持続吸入を使用する。テオフィリン製剤は、てんかんなどの合併のある際は、けいれん誘発、抗けいれん薬との相互作用に注意する。重症心身障がい児(者)に特有な問題点は、上気道閉塞による呼吸困難や喘鳴の合併が多いこと、慢性的な気管支炎や嚥下障害などによる通常の喘息以上に過剰な気道分泌物、胸郭変形や側湾に伴う呼吸制限により容易に呼吸困難を来すことなどである。発作の薬物療法を行う前に、体位変換や分泌物の吸引、理学療法を十分に行い、効果を評価する。  長期管理 長期管理においても、共通の点は、薬剤の選択である。抗炎症作用のある薬剤を治療の中心とし、ロイコトリエン受容体拮抗薬、吸入ステロイド薬が主な薬剤療法となる。特有の問題としては、吸入療法におけるデバイスの選択がある。年齢にかかわらず、ドライパウダーの吸入は困難であり、MDI製剤+スペーサーまたはブデソニド吸入液が選択となる。慣例的に超音波ネブライザーを用いる施設も少なくないが、ブデソニド吸入液吸入には適さず、β2刺激薬吸入も、一般の喘息患者と同様、超音波式ネブライザーは奨励できない。気管切開や人工呼吸管理中の患者でも、特定のスペーサーを用い、呼吸器回路や挿管チューブに接続すれば、MDI製剤による治療が可能である。また、過剰な分泌物などの合併症の対応は、急性発作の治療と同様に重要で、呼吸理学療法を積極的に導入するとよい。肺内パーカッションベンチレーターや陽陰圧式体外式呼吸器などの呼吸療法機器も有用である。他の問題として、呼吸機能や呼気NOなどの長期管理の指標は用いることができないため、症状のみの評価となる点がある。長期管理を4週間程度行っても、十分な改善が得られない場合は、長期管理薬を増量する前に、基本に立ち返り、喘息以外の喘鳴を来す疾患との鑑別、前述の合併症の評価や対応を十分に行うことが必要である。 略歴 H4年(1992年) 千葉大学医学部卒業 H5年(1993年) 同小児科入局 H11年(1999年)より 独立行政法人国立病院機構下志津病院 小児科勤務 H20年(2008年) 〜 同院 アレルギー科医長   日本アレルギー学会専門医
シンポジウム2:重症児者の看取りを考える
  • 佐々木 征行
    2011 年36 巻2 号 p. 254-
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は、非可逆性中枢神経機能障害を基礎に持っている。簡潔に言えば、治らない脳疾患である。この中には進行性疾患もあれば、非進行性疾患も含まれる。治らない疾患であっても症状はある程度改善し得る。残念ながら、基礎疾患がたとえ非進行性であっても、ある時期を過ぎると合併症が増加する。たとえば、脳性麻痺をもつ重症児が成人になって、それまでできていた移動運動や食物嚥下が不可能になったり、呼吸器感染症を繰り返すようになったりする。 重症児(者)の生命予後が不良であることは古くより知られていた。医療が発達し、多くの入所施設が開設され、生命予後が改善したことは間違いない。それでも同年代の一般人と比較すれば、死亡率は高い。重症児(者)の死亡原因を知るのに国立療養所の入所者調査や公法人立重症児施設の調査がある。在宅重症児(者)については大きな統計はない。 国立療養所系入所者調査は、西別府病院の折口先生が中心となって長期間実施された。1982年から1996年までの15年間におよぶ集計によると、死亡は2088例あり、肺炎・気管支炎42.5%、呼吸不全10.1%、窒息8.6%、心不全8.5%、突然死4.5%、敗血症2.5%、腎不全2.3%、腸閉塞2.2%、悪性新生物1.2%の順になっている。その後を引き継いだSMID調査によると、2000年から2009年までの10年間で1071例の死亡例が集計された。肺炎・気管支炎23.4%、呼吸不全21.8%、心不全14.8%、敗血症12.2%、腎不全5.9%、悪性新生物4.6%の順であった。主たる死亡原因である肺炎・気管支炎、呼吸不全、心不全を合わせると両調査いずれも6割を占め減少していない。減少したのは窒息・突然死であり、敗血症・腎不全・悪性新生物がわずかに増加した。 2000年以降は、以前より人工呼吸器使用台数はずっと多くなり、気管切開施行例も多くなった。しかし、死亡率の明らかな減少はなく、主たる死因にも大きな変化は見られていない。人工呼吸器、カフマシーン、喉頭気管分離術、胃瘻・腸瘻などが当たり前になされ、心拍モニター・酸素飽和度モニターなども常時使用され、重症児(者)病棟のICU化が進んでいるのに、死亡率の減少もなければ、死因の大きな変化もないのである。特に9歳以下の低年齢層での死亡率は高いままで、かつ高年齢層特に60歳以上の死亡率が高くなった。低年齢期を乗り越えれば、かなり長期間過ごせる可能性がある。 重症児(者)の残存する脳機能を発達・維持させるだけでなく、限界ある生を精一杯楽しんでもらうことを目指すことが療育である。命の期間を延ばすことを目標とする医療はある程度達成された。しかしそれでも命には限界があることを医療・福祉に関わる人も重症児(者)の家族も受け入れ、重症児(者)たちを守り続けることが肝要である。 略歴 昭和58年新潟大学医学部卒、同小児科。 昭和63年国立精神・神経センター武蔵病院小児神経科レジデント、平成6年同医師、平成8年同医長(重症児病棟担当)、平成14年同部長、体制変更に伴い独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院小児神経診療部長、現在に至る。 平成17年より6年間、厚生労働省「重症心身障害児(者)の病因・病態解明、治療・療育、および施設のあり方に関する研究班」主任研究者
  • 中野 綾美, 森 恭子
    2011 年36 巻2 号 p. 255
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    学術集会のテーマ『重症心身障害児者の生涯療育−QOLの充実に向けて−』を受けて、本シンポジウムでは『重症児者の看取りを考える』をテーマとしました。 医療技術の進歩に伴い、重症児者を救命できるようになりました。重症児者の長期生存が可能となった今日、重症児者とその家族のQOLについて考え、QOLを向上させていくことは重要です。重症児者とその家族が、最期までよりよく生きるとはどのようなことでしょうか。最期までよりよく生きることを支えるケアとはどのようなケアでしょうか。重症児者の願い、家族の願いに耳を傾け、当事者の方々と専門職者が話し合い、方向性を見出していくことが重要であると考えます。 限りある命を生きる子どもへのケアは、小児緩和ケアの考え方に基づいて重要視されるようになってきました。WHOによると小児緩和ケアは「生命が脅かされている状況にある子ども」や「慢性状態にある子ども」を対象としており、「身体、精神、スピリチュアル(霊的)への積極的かつ全人的なケアであり、家族へのケアの提供も含まれる。それは、疾患が診断されたときからはじまり、根治的な治療の有無に関わらず、継続的に提供される」と定義されています。また、英国小児緩和ケア協会ACT(Association for Children's Palliative Care)では、「苦痛を与える症状の管理、レスパイトケア、終末期のケア、死別後のケアの提供を含むものである」と定義されています。重症児者の看取りについて考えるとき、小児緩和ケアの考え方も参考にすることは有用であると考えます。すなわち、終末期のケアのみならず、診断時、出生時から子どもと家族のQOLの向上を最大限高めていくケアをすることが必要不可欠であり、この連続線上に重症児者と家族が最後までよりよく生きることを支える看取りのケアがあるのではないでしょうか。 本シンポジウムでは、3名のシンポジストの方々をお迎えしました。重症児者の施設で小児看護専門看護師として実践をされている立場から、在宅看護を実践されている立場から、ご家族の立場から、重症児者の看取りについてお話をいただきます。 その後、参加者の方々とともに討議し、重症児者の施設での死、在宅での死等も含めて、重症児者の看取りについての現状の課題や、最期までよりよく生きることを支える看取りについて、ともに考えていきたいと考えています。 略歴  氏名: 中野 綾美 所属/職位: 高知県立大学看護学部長 学歴: 高知女子大学家政学部看護学科卒(1981年) 聖路加看護大学修士課程取得(1990年) 日本赤十字看護大学博士後期課程取得(1999年) 職歴: 兵庫医科大学病院(1981〜1984年) 高知女子大学看護学部助手(1984〜1988年) 高知大学医学部付属病院(1990〜1991年) 高知女子大学看護学部講師(1991〜1992年) 同大学 助教授(1992〜2000年) 同大学 教授(2000〜2011年) 高知県立大学看護学部学部長・教授(2011年〜)
  • −看護の立場から−
    倉田 慶子
    2011 年36 巻2 号 p. 256
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    近年、小児緩和ケアという概念が注目されるようになった。英国小児緩和ケア協会と英国小児科学会による小児緩和ケアの定義は、「生命を脅かす疾患を持つ子どものための緩和ケアとは、身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな要素を含む包括的かつ積極的な取り組みである。それは子どものQOLの向上と家族のサポートに焦点を当て、苦痛を与える症状の管理、レスパイトケア、終末期のケア、死別後のケアの提供を含むものである。」と記されている。この定義にあるように、重症児者は緩和ケアの対象であり、家族やきょうだいにもそのケアは提供されるべきであることがわかる。日常生活援助場面での子どもと家族の意思の尊重をはじめ、どのような生活をしていきたいのか、どのようなケアを提供されたいのか、毎日のひとつひとつの出来事が緩和ケアの内容として、取り組まれていなければならない。看取りのケアのみが小児緩和ケアではないことがわかる。 当院における長期入所者の過去5年間の死亡例は5例であった。4病棟を運営しているため、看取りのケアを数年間提供していない病棟もある。施設の死亡例数は、ケアの質の指標となり得ると言われており、超重症児・準超重症児者が大半を占める当院にとっては、客観的な指標となり得ていると考える。しかしながら、医療者にとって子どもの死は非日常的な出来事である上に、年間死亡例が少ないことは、「看取りのケア」の積み上げがなされず、医療者自身の戸惑いやショックにもつながり、「もっと他にできるケアはなかったのだろうか」「子どもの思いに添ったケアだったのだろうか」など、子どもの「看取り」に対して否定的な感情を持つ状況にもつながる。また、重症児者の症状の悪化に伴い高度医療が提供できる病院へ子どもが転院し、その後に死亡した場合も少なくなく、施設職員は、子どもの看取りのケアに携われない状況が生じており、十分なお別れができないこととなっている。このことは重症児者本人にとっても【住み慣れた施設・家庭での最期のとき】を迎えられないことを意味している。医療者にとって、重症児者の生命を守ることは重要な役割である。しかし、死を避けられない状況になった際に、重症児者がどのような場で誰とともに過ごし、どのように最期を迎えたいと考えているのか、家族は誰にどのようなケアを提供されたいと願っているのかを考えることは、生命を守ることと同じくらい重要なことなのではないだろうか。シンポジウムでは、子どもと家族の思いに添った看取りのケアについて、参加している方々とともに考えていきたい。 概略 1992年に聖路加看護大学卒業後、学生時代から関心を持ち始めた障害児施設に勤務し、病棟・外来・通所・訪問看護に携わり、重症心身障害児(者)のケア・在宅支援・家族ケアに深く関心を持つようになる。2001年に聖路加看護大学大学院に進学し、修了後の2004年に日本看護協会による小児看護専門看護師の認定を受けた。現在は教育担当という立場から、重症児ケア・重症児の在宅支援に必要な人材の育成とCNS活動に取り組んでいる。
  • 梶原 厚子
    2011 年36 巻2 号 p. 257-258
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    当ステーションはH12年3月に開設し、健康課題で困った方に広く看護を届けたいと始めた訪問看護ステーションです。その結果として多くの子どもたちや重い障害を持った方々に関わることになりました。 重症児者とは多様な状態像が入り組んでいます。染色体異常や心臓疾患などの内臓疾患を抱えて、身体の弱さがあるとか、免疫力の弱い子がいます。また、基礎疾患はなく、元気に過ごし成長する子も沢山います。訪問看護を通して11年間で68名の重症児者の在宅支援を行ってきました。 産まれたそのときから、長く生きられないと医療者から説明を受けている子どもや、2次障害等から、気管切開や、人工呼吸器を使用するなど、慢性期でありながら、いつどのような状態になるか予測が付きにくい方たちも在宅で暮らしています。このような、重症児者や重い内臓疾患等で治療が功を奏しない状態や、小児期に発症し40歳までに50%の確率で死に至る疾患や病態の子どもたちについて「小児緩和ケア」という概念があります。「緩和ケア」は「看取り」や「ターミナルケア」と重なるところはありますが、本質的には異なります。「緩和ケア」は子どもたちのあらゆる苦痛を取り除いて、生きる力を最大限に発揮するために存在します。 「看取り」は、今日をよりよく生きた、よりよく暮らした延長線上に自然な形で訪れるものです。日々の暮らしが楽しくないと「看取り」にはなりません。日常に「生と死」が背中合わせにあるような重症児者にとって、高いQOLを実現するには家族とともに過ごすことが大切です。家族との暮らしを支えるために施設サービスと在宅サービスが機能して、その結果として、「在宅緩和ケアと在宅の看取り」「施設入所、病院入院、看取り」「在宅に近い施設(たとえばケアホーム等)、看取り」などを、地域事情に合わせて、選択肢が持てる社会であるべきだと考えます。 「在宅の看取り」については、介護保険法を基本にした在宅ケアシステムを軸に、医療保険法を重なり合わせて作られており、その中で「がん」と「非がん」について議論され、整理されています。重症児者の在宅ケアシステムの軸は、自立支援法と児童福祉法であり、介護保険同様のスピード感や、関心の高まりがみられにくい状況です。「重症児者の看取り」は、「非がん疾患の重要性」に着目して個別支援計画を考えなくてはなりませんが、「がん」と比べると、課題が多く残されたまま現在に至っています。 重症児者が地域での居場所を見つけ、そこに役割があり、暮らし続けられる地域を作りいつか誰にでも訪れる「看取り」が、ごく自然なものであるように、個別ケア重視の在宅支援について考えてみたいと思います。 略歴 1982年 済生会宇都宮病院附属看護専門学校 卒業 1982年 済生会宇都宮病院附属栃木県救命救急センター勤務 1986年 独協医科大学越谷病院勤務 1989年 愛媛大学医学部附属病院勤務 1996年 (株)クロスサービス      福祉事業部ケアサポートまつやま勤務     松山市障害福祉課委託の居宅介護チーフヘルパー 2000年 (株)クロスサービス      訪問看護ステーションほのか 管理責任者(現職)     居宅介護支援事業所ケアサポート松山 管理責任者 2009年 (株)クロス・サービス     児童ディサービスほのかのおひさま 管理責任者(現職)
  • 天国への旅立ち
    岡崎 祥子
    2011 年36 巻2 号 p. 259
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    娘は16歳という若さで生涯を終えました。元気ならお洒落をしたり恋をしたり、一番楽しい年頃です。娘にとって16年が幸せだったのか、何を話したかったのかと考えることもありましたが、あの笑顔がその答えだったようにも思います。娘は音楽が大好きで、おもちゃを叩いて音を出したり、声を出し歌ったりして楽しんでいたのを思い出します。喜怒哀楽もはっきりしていて、「顔見知りの人には笑顔、知らない人は無視」ということもありました。 ある日、私が帰り際にいつものように「帰ってくるね」というと、娘はじっと私の顔を見て一粒の涙を流しました。いつもなら涙など流さないのに、心が痛む思いでした。それ以後、「帰ってくるね」という言葉はやめました。亡くなる一カ月前、面会に行ったとき、監視モニターのアラームが鳴り続けいつもと違う雰囲気を感じました。何度も看護師さんに診てもらいましたが異常はなく、「何故だろう」と思いながら、気分転換に歌を聞かせたり、声をかけたりしました。その日の担当看護師さんは初対面でしたが、「心配しなくてもいいよ。私たちがそばにいるから、苦しくなったら助けるから」と娘に優しく声をかけてくれました。娘を見るとその言葉を聞きながら「ありがとう」といっているような様子でした。私は、それを見てとても感動しました。私は「苦しいときもただ見守るだけ、代わってあげられない、情けない」という気持ちを持ち続けていました。そんな私を支えてくれたのは、家族や他のお母さんたち、医師、看護師さん、学校の先生たちです。皆さんの励ましや助けがあったからこそ頑張ってこられたのだと感謝しています。 私も同じ介護の仕事をしています。だからこそ、家族の気持ちだけでなく職員の気持ちもわかります。私たち家族は、施設から電話がかかるたび「何か悪い知らせだろうか」といつもドキドキしていました。病状説明のときに医師に「何か聞いておきたいことは」と聞かれても、頭が真っ白で何を質問していいのかわからず「ありません」と答えていました。説明後に、看護師さんがいろいろとお話をしてくれても「職員の方は一生懸命してくれている。私には何もできないし仕方がない」と諦めていていたのかもしれません。これは、私だけではなく障害児(者)を持つ親たちの多くが同じ気持ちだと思います。 娘は穏やかな美しい顔で天国に旅立つことができました。「お母さん、もうこれで苦しいこともなくゆっくり眠れるよ」といっているように見えました。最期は在宅で看取りたいという方もいますが、私は親しい職員の方々に見守られながらの看取りを選択しました。それは、在宅での看取りに不安があったからです。娘がこれ以上苦しい思いをしなくてよいように、高度な医療をしなくても医療職がそばにいてくれるだけで安心だったのです。気管切開をしてから一度も抱くことがなかった娘を最期は思い切り抱きしめました。「重たかった」あの感触は忘れられません。最後に娘に「短い命で終わらせてしまってごめんよ」と心の中で何度も語りかけていました。 私たち家族は、今でも娘の死を認識していないような気がします。でも、娘の分まで一生懸命生きていこうと思っています。
ランチョンセミナー1
  • 小西 徹
    2011 年36 巻2 号 p. 260
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児者(以下、重症児者)ではてんかん合併が高頻度で、かつ、全例が脳器質性病変を背景に有する症候性てんかんで、難治な経過をとることが多い。本セミナーでは重症児者てんかんの臨床特徴・経過をまとめ、長期に渡る治療方針、特に、新規抗てんかん薬(GBP,TPM,LTG,LEV)の有効性について自験例を中心に報告する。 重症児者てんかんの臨床特徴(6施設の実態調査): 1) 罹患率は50〜82%(平均66.8%)ときわめて高率である。 2)発作型把握が難しくてんかん症候群診断に苦慮することが多い。症候性全般てんかん(SGE)15.6%、分類不能・混合てんかん(UC)8.1%の比率が高い。 3) 発作難治例が37.3%を占め、特にSGE59.3%、UC66.7%で高率である。そのため、長期多剤併用療法を余儀なくされている。 4) 発作予後やてんかん類型は障害時期や障害重症度にある程度規定されている。 5) ライフステージに伴っててんかんの活動性やてんかん類型が変容することがあり、思春期や青年期は重 要な時期である。 治療方針(新規抗てんかん薬): 重症児者においても、発作型に添って第一選択薬(部分:CBZ, PHT、全般:VPA)を中心に治療することに変わりはない。発作持続例では第二次選択薬の併用・置換を行うことになるが、新規抗てんかん薬は作用機序や副作用の面で期待が高い。以下に当園の使用経験から有効性と留意点について述べる。 ① ガバペンチン:局在関連性てんかん(SLRE)に有効例が限定され、SGEでは発作増悪がある。また、活動性の低下がある。 ② トピラメート:SLREのみでなくSGEやUCでも有効例がある(高用量)。ZNS類似の副作用がある。 ③ ラモトリジン:LGSに適応があり典型例には有効。S-J症候群の予防目的で少量からの投与であり有効性の判定が遅れる。重症児者では異常興奮がしばしば見られる。 ④ レベチラセタム:SLREに有効で、投与早期から効果が見られる。SGEを含めて発作増悪はない。軽度の眠気以外に副作用は少ない。いずれも重症児者では有効率がやや低い傾向があり、発作消失まで至る例は少ないものの、作用機序や特性を考慮して投与・併用することで、重症児者にも充分に臨床応用可能と考える。 演者紹介 1974年 新潟大学卒業 新潟大学医学部小児科学教室 1978年 富山医科薬科大学小児科助手、1987年 同講師、1991年 同助教授 2000年 長岡療育園園長 日本小児神経学会 評議員、日本てんかん学会 理事・評議員、日本重症心身障害学会 理事・評議員、全国重症心身障害児者通園施設協議会 副会長 *1988年 日本小児神経学会優秀論文賞
ランチョンセミナー2:重度痙縮患児(者)の治療意義と治療法選択のポイント
  • 久保田 雅也
    2011 年36 巻2 号 p. 261-262
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    痙縮とは 痙縮は相同性筋伸張反射(反応強度が伸展速度に依存)の病的亢進状態と定義される。臨床的には深部反射亢進に加えて、徒手的筋伸張刺激の進行中にのみ出現、停止で直ちに減弱する抵抗と伸張速度が高いほど強くなる抵抗を確認する。痙縮が高度になるとクローヌスや折りたたみナイフ現象がみられる。これらはBabinski反射とともにいわゆる錐体路徴候として知られるが動物実験では錐体路に限局した病変では筋力低下は起こるが痙縮は起こらない。赤核脊髄路(対側上肢屈筋群を興奮性に制御)、外側前庭脊髄路(対側下肢伸筋群を興奮性に制御)、橋および延髄網様体脊髄路(同側下肢伸筋を興奮,屈筋を抑制および屈筋を興奮)とこれらの皮質支配が障害されて痙縮が起こるとされる。 病態 これら上位運動ニューロンの障害により姿勢異常、病的共同運動、病的同時収縮、屈曲反射の亢進など陽性徴候が出現し、麻痺、巧緻性の低下などの陰性徴候が出現する。その本態は相同性筋伸張反射の亢進による相反性神経支配の障害である。その機序としてはγ運動ニューロン活動の亢進、筋紡錘受容器の感受性亢進、Ia線維の発芽現象やIa線維への抑制の減少が推定される。また二次的な非神経性変化として無動による拘縮、変形、萎縮により関節構造物、筋の粘弾性の増加が起こり機能低下を促進する。実際の臨床例では痙縮に視床・基底核病変由来の固縮とジストニア、アテトーゼなどの要素が多重に加わり病態把握が容易ではないが、安静時姿勢、徒手的筋伸張刺激による抵抗(固縮では速度依存性はない)や表面筋電図から推定する。 中枢神経系の病変以外で痙縮の重症化に相互に影響する因子として睡眠覚醒リズムの異常、てんかん発作とその治療、情動刺激(快不快)、呼吸負荷・胃食道逆流現象、疼痛などがある。これらの精査と治療は痙縮そのものの治療と同様重要である。これらの病像の総体が日常生活の機能に影響を与え、過負荷となるとき治療の対象となる。 治療 重度の痙縮の場合、薬物療法には限界があり、ボツリヌス療法、選択的後根切除術(Functional Posterior Rhizotomy, FPR)、バクロフェン持続髄注(Intrathecal Bacrofen, ITB)療法などが選択されるようになってきた。FPRの適応は痙直型脳性麻痺であるがジストニアを合併していても痙縮による機能障害が強ければ行う。アテトーゼ型では痙縮軽減により不随意運動が強くなり慎重な対応が必要となる。ITBは痙縮、ジストニアともに適応があるが、最重度の痙縮であるpersistent contracted stateは最もよい適応となる。FPR,ITBともに上肢や頸部の残存する痙縮にボツリヌス療法を併用することもある。いずれの療法も治療のゴールを患者ごとに設定し、適切な経口薬物や理学療法、装具療法、整形外科的治療との併用や段階的移行が重要であり、包括的な治療体系確立が期待される。 略歴 1979年 九州大学工学部大学院 応用原子核工学専攻修士課程修了 1986年 佐賀医科大学医学部卒業 1986年 東京大学医学部附属病院小児科 1987年 都立神経病院神経小児科 1989年 都立府中療育センター小児神経科 1991年 都立八王子小児病院小児科 1993年 東京大学医学部附属病院小児科助手 2004年 都立八王子小児病院小児科医長 2007年 国立成育医療研究センター神経内科医長     現在に至る
  • 師田 信人
    2011 年36 巻2 号 p. 263-264
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    痙縮は重症心身障害児(者)の日常生活・介護支援上の重篤な阻害因子になるだけでなく、痙縮に由来する疼痛により更に痙縮が増悪する負の連鎖を形成する。それゆえ、痙縮を軽減することは障害児(者)医療において大きな意義を持つ。 国内では、従来痙縮そのものに対する治療はなく痙縮に由来する2次的運動(器)障害に対して神経リハビリテーション・整形外科手術が施行されてきた。しかし、この10年余りの間に痙縮治療そのものを目的とする脊髄後根切断術、バクロフェン髄注(Intrathecal Baclofen: ITB)療法、ボツリヌス毒素局所注入療法(BTx)が相次いで導入され、海外レベルでの標準的痙縮治療が施行可能となった。このような背景のもとに、どの治療法を選択するか、各治療法をどう組み合わせるかが今後臨床の現場で重要になってくる。 痙縮治療の進め方を図に示す。痙縮治療に当たっては、各治療法の位置づけを明確にする必要がある。第1段階の痙縮治療で痙縮を改善し、第2段階で機能改善を図る。脊髄後根切断術は、1度の手術で長期に渡る痙縮軽減を得ることができる。神経根を切断するため手術にはそれなりの経験が必要であるが、痙直型脳性麻痺由来の痙縮に対しては極めて有効な治療手段である。ITBはポンプ及びカテーテル埋込が必要になるものの、バクロフェン投与量の調節が可能であり、治療適応範囲が広い。非典型的痙直型脳性麻痺、あるいはジストニアの要素も併せ持つ痙縮(脳炎、低酸素血症後脳症、頭部外傷後など)では第1選択の治療法となる。重症心身障害児(者)の原疾患を考慮すると最も適応が高い治療法と思われる。 重度痙縮に対しては、脊髄後根切断術、ITBにより痙縮の軽減を図り、局所的な痙縮に対して必要に応じてBTx治療を追加することが望ましいと思われる。ただし、手術適応となる2歳後半から3歳過ぎまではBTxを用いて痙縮に由来する2次的関節脱臼・変形・拘縮を予防する必要がある。 中枢神経系由来の痙縮は、原疾患由来のため従来は積極的な治療対象と捉えられていなかった面がある。しかし、痙縮をコントロールできると合併症・介護負担・疼痛の軽減につながり多方面に恩恵がもたらされる。一方で、痙縮の治療は単一の治療法で完結するものでなく、状況に応じて各治療法を組み合わせることもかかせない。そのためにも痙縮に対する包括的治療体制の確立が望まれる。 国内における痙縮治療は端緒についたばかりであるが、重症心身障害児(者)、とりわけ小児領域で適応の高いITB療法の普及は極めて不十分であり、今後はこの方面での関係者の認知と理解が必要と思われる。今回の講演が、重症心身障害児(者)における痙縮治療の重要性を喚起する機会となることを願っている。 略歴 1981 信州大学医学部卒業 山梨勤労者医療協会初期研修 信州大学脳神経外科及び関連病院 この間1986-1987 兵庫県立こども病院にて小児神経外科研修 1991-1995 New York University Medical Center (Division of Pediatric Neurosurgery) 1995-1996 亀田総合病院脳神経外科医長  1996-1999 愛知医科大学脳神経外科講師  1999- 2002 国立療養所西新潟中央病院脳神経外科医長 2002-現在 国立成育医療研究センター脳神経外科医長  専門分野 小児神経外科 脊髄外科 機能神経外科(てんかん、痙縮、術中神経生理学的手技)
ランチョンセミナー3
  • −カルニチンを中心として−
    小沢 浩
    2011 年36 巻2 号 p. 265
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児者は、摂食障害のために経口摂取ができず、経腸栄養剤だけで栄養を摂取している例が多くみられる。そのため、銅、亜鉛などの微量元素欠乏、ビタミン欠乏、セレン欠乏などの報告がなされていたが、近年はビタミンや微量元素の添加が可能となり、医薬品・医療用食品として病態や摂取方法に合わせてさまざま種類の栄養剤が開発されている。しかし、第35回重症心身障害学会において、ヨウ素欠乏、経管栄養群のバルプロ酸投与群のFanconi症候群の報告があり、経腸栄養剤の検討はまだ十分ではない。われわれは、その中でもカルニチンに注目し、検討を重ねてきた。 カルニチンの役割 カルニチンは、脂肪酸の酸化過程に必須であり、おもに長鎖脂肪酸と結合してミトコンドリア内へ搬送する働きを持っている。長鎖脂肪酸は、ミトコンドリア内においてβ酸化を受け、最終的にAcetyl-CoAとなり、TCA cycleでのエネルギー産生に利用されたり、脂肪酸酸化を経てケトン体産生にも用いられている。 重症心身障害児者にとってのカルニチン 驚いたことに、カルニチンは、日本の経腸栄養剤にはほとんど含有されていない。そのため、経腸栄養剤単独摂取の重症心身障害児者は低カルニチンの状態になりやすい。大瀧潮らは、21名の重症心身障害児者について検討した。その結果21名中18名が血中カルニチン低値であった。また正常であった3名中2名はミルクを併用していた。バルプロ酸内服群は、非内服群よりカルニチン低値であった。アンモニアは基準値内であった。また、低カルニチン血症をきたした15例に対し、カルニチンを30mg/kg投与したところ、一カ月後には正常範囲内に上昇していた。しかし、6カ月後には、投与前の値に戻っていた。 最後に カルニチンについては、まだ未解明のことが多いため、今後さらなる検討を行い、重症心身障害児者にとって、生活の質の向上を目指していきたい。 略歴 平成 2 年 高知医科大学(現高知大学)医学部卒業、浜松医科大学小児科入局 平成 3 年 都立八王子小児病院新生児科・小児科非常勤医師 平成 5 年 北友会勝田病院小児科 平成 6 年 国立精神・神経センター武蔵病院小児神経科レジデント 平成 9 年 都立八王子小児病院小児科 平成15年 島田療育センター小児科 平成23年 島田療育センターはちおうじ神経小児科 活動 多摩療育ネットワークコーディネーター、都立八王子東特別支援学校・花の郷指導医、多摩藤倉学園・八王子児童相談所・八王子教育センター嘱託医、日野市発達支援センター医療スーパーバイザー、コラボ稲城医療相談医、こあらくらぶ運営委員、メンケス病の会世話人、日本医科大学非常勤講師、蔵王セミナー幹事
重症心身障害児(者)のファッションショー
  • 山田 美智子, 斎藤 真由美, 坂本 由紀子, 吉岡 美幸子
    2011 年36 巻2 号 p. 266
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    今年のテーマは毎日の生活の中で元気が出るカジュアルな服装、楽しく装う普段着(2)である。 モデルは「徳島赤十字ひのみね総合療育センター」の男性2人と女性4人である(内5人は長期入所中、1人は在宅で生活している方である)。 施設から送られてきたモデルの写真、年齢とサイズから何が似合うかを個別にイメージしながら既製服の中から洋服、帽子、靴下までトータルコーディネートを考えて選んでみた。 ちょっとしたお出かけ、コンサート、美術館、ショッピングへ、外には楽しいことがたくさんある。お出かけがたとえいつもと同じ場所でも、いつもと雰囲気の異なる素敵な洋服で外出することを提案したい。 おしゃれに装うことで普段と異なる自分を発見し、ワクワク、ドキドキする感情が芽生える。さらに注目され、褒められる喜びによって表情に変化が生じる。短時間の外出であっても装い一つで楽しい時間に変わることが期待される。 非日常的な、ささやかな幸せな時間を装いは与えてくれる。障害があっても、なくても、普通に豊かに暮らす。その中の一つの試みが装いであると思われる。 さて、今年のモデルたちはどんな変身ができるでしょうか。
  • 多屋 淑子
    2011 年36 巻2 号 p. 267
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    人は衣服と行動を共にしていることから、着心地の悪い衣服を長時間着用していると、衣服が心身の疲労の原因となることがある。自分の意思で身体を動かすことができない場合の衣服選びは、特に慎重に行う必要がある。衣服に求める機能は、素材が皮膚を刺激せず安全であり、皮膚に触れた時に安らぎ感を持つこと、衣服が身体を圧迫しないこと、無理なく着脱ができること、体温調節を補助し温熱的快適性を維持できること、ならびに、着用者の品格を保ち、着用者に似合う美しい衣服であること、心身の健康を維持できること、さらに、洗濯等の取り扱いやすさなどを挙げることができる。 重症心身障害児(者)のファッションショーは今年度で6回目となる。このファッションショーでは、モデルの日常生活状況や身体的な特徴を把握し、適合する衣服素材を厳選し、着脱時の工夫を行ない、着用者には、「心身共にほっとする」「楽しさやワクワク感がある」着心地の良い衣服を提供し、介護者には、家族としての思いを衣服に託すことができ、介護の際の諸問題を解決できるような衣服の提案を目的としている。 2011年度のファッションショーは、徳島赤十字ひのみね総合療育センターの協力により、家族の了解を得た7歳、18歳、30歳の女性2名と男性1名の計3名をモデルとし、彼らの日常生活のQOL向上を目指した衣服の提案を行う。男性用の衣服素材には、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士の極限環境の生活用に開発した清潔さを長期間維持し、高い消臭・抗菌性能を持つ新しい綿素材を使用した。女性用の衣服は、モデルの希望を取り入れ、ピアノを演奏する時に着るドレスを作製した。これらの衣服は、耐洗濯性にも優れ、日常の取り扱いも容易であることから、着用者と介護者の日常生活のQOL向上にも役立ち、清潔さを維持し、快適で楽しい毎日を過ごす衣服として活用いただけることを願っている。 略歴 開発した宇宙船内服は、2008年~2010年のスペースシャトルミッションにおいて、宇宙飛行士の生活を快適にした。その成果を地上の介護・福祉分野に展開し、宇宙と福祉の研究活動を行なっている。1977年お茶の水女子大学大学院家政学研究科修了。博士(生活工学)。日本大学、田中千代学園短期大学を経て、1996年より日本女子大学教授。日本繊維機械学会学会賞受賞。宇宙開発委員会推進部会特別委員、日本重症心身障害学会評議員など。
一般演題
  • 柿沼 宏明, 中村 美樹
    2011 年36 巻2 号 p. 268
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 入所中の難治性てんかんの成人患者で、トピラマート(TPM)、ラモトリギン(LTG)およびレベチラセタム(LEV)の有用性と安全性を評価する。 方法 対象は9例(男3、女6)、平均年齢は33.6歳、全例、大島分類1である。基礎疾患は無脳回症、Dandy-Walker症候群、周産期障害によるWest症候群と局在関連てんかん、生後1カ月以内発症の早期てんかん性脳症2例、発熱誘発性けいれんで発症し、けいれん重積反復例、非定型Rett症候群、未診断の神経変性疾患である。TPMは2例、LTGは3例に処方した。LTGを中止した2例を含め、合計6例にLEVを処方した。各例で部分起始の強直、喉頭喘鳴発作、起始不明の強直または強直間代、ミオクロニー、欠神への効果を評価した。投与前後12週間の発作頻度が50%以上減少した例を有効とした。 成績 発作が消失した例はなかった。TMPは、てんかん性脳症から局在関連に変容した2例の部分起始強直発作に有効であった。LTGは、TMPに先行投与した1例は薬疹のため中止した。無脳回症の1例、早期てんかん性脳症で喉頭の喘鳴発作を示す1例に追加投与した。喉頭発作には有効だった。LEVは、LTG無効中止後の無脳回症、発熱誘発性家族性てんかん、非定型Rett症候群、神経変性疾患、Dandy-Waker症候群で46歳に部分起始の強直間代を再発した6例の内、後ろの2例で有効であった。 結論 3剤ともに、ある程度重症心身障害者の難治性発作に有効であった。TPMの2例は、原因は異なるが臨床経過と発作型が類似していた。このような例ではTPMの有効性は保証できるかもしれない。LTGの薬疹1例以外に有害事象はなかった。LEVは、薬剤相互作用を気にせず使用できるメリットがある。有効例の臨床像と発作型が明らかにできれば、新規抗てんかん薬の選択肢は増えると期待される。
  • 奥野 章, 影山 さち子
    2011 年36 巻2 号 p. 268
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 新規抗てんかん薬レベチラセタム(LEV)の重症児者に対する使用効果につき検討したので報告する。 対象/方法 対象は、当院および国立宇都宮病院入院中の難治性てんかん患者で、多剤併用を余儀なくされている20例(男12名 女8名)、基礎疾患は周産期低酸素脳症、未熟児、髄膜炎後遺症、硬膜下血腫、染色体異常症その他原因不明等であった。病型は症候性局在関連てんかん、症候性全般てんかんで、発作型は複雑部分発作、二次性全般化部分発作であった。LEV投与時期と前年同時期を比較検討し、LEVの効果を発作発現頻度減少率から検討し、75%以上減少を著効、75%未満50%以上減少を有効、50%未満25%以上減少を改善25%未満減少を不変、発作増加したものを悪化と評価した。 結果 著効19%、有効29〜33%、改善19〜24%であった。現時点での有効率は48〜52%で、効果ある例では、投与開始早期より発作回数の減少傾向が認められた。傾眠、頭痛、衝動性等が比較的頻度の高い副作用として知られているが、全例血液検査も含め異常は認めなかった。 まとめ LEVの難治性てんかんに対する有効性を認めた。LEVは、肝代謝を受けず、腎より排泄されるため薬剤相互性が少ない点で併用しやすく、半減期が短いため効果発現に早い症例では、翌日より発作減少が認められた。今後観察期間を延長し、発表前に再判定する予定である。
  • 大谷 早苗, 服部 英治, 田中 勝治, 松下 彰宏, 蘆野 二郎
    2011 年36 巻2 号 p. 269
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 ラモトリギン(以下、LTG)は治療継続率が高く、また重症心身障害児者においても認容性良好であるとされている。今回、当施設入所中の難治性てんかん患者にLTGを使用し、30代以上の症例についてその効果と副作用を検討したので報告する。 対象・方法 2010年4月〜2011年4月の期間中にLTGを使用した、月10回以上の発作頻度を持つ年齢30代以上の難治性てんかん患者16名(男性7、女性9)を対象とした。年齢は33〜51歳(平均41.5歳)、基礎疾患はてんかん性脳症5、低酸素性虚血性脳症4、中枢神経感染症2、皮質形成異常2、遺伝性疾患3であった。てんかん診断としては症候性全般てんかんが1例、症候性部分てんかんが15例であり、後者のうち6例は群発傾向を持っていた。併用抗てんかん薬数は5剤以上が4例、4剤が4例、3剤が5例、2剤が2例、1剤が1例であった。投与期間中、スタッフが把握できる範囲での発作頻度・副作用を確認した。投与方法は添付文書に従ったが、副作用出現時には主治医の判断で調整した。 結果 継続8例・中止8例であった。継続例では発作90%以上減少が4例、50%以上減少が2例であった。無効は1例で、覚醒度が改善したため継続投与されていた。中止例では、無効1例、副作用7例。副作用の内訳は薬疹4例、不眠・興奮3例、眠気・摂食不良が1例であった。継続例においても、眠気の他、徐脈や血圧低下、消化管蠕動運動の低下をきたした症例もあったが、増量速度の調整にて中止には至らずに済んだ。 結論 年齢を30代以上に区切ったところ、発作への効果は高かったが副作用の出現率も高く、中止例の割合は既存の重症心身障害児者についての報告に比べ多かった(約2倍)。重症心身障害者においては加齢による生理機能の低下も早いと考えられ、年齢に合わせ慎重に投与する必要があると考えられた。
  • 後藤 一也, 今井 一秀, 植村 篤実, 平松 美佐子
    2011 年36 巻2 号 p. 269
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児(以下、重症児)におけるてんかん発作の捕捉は様々な要因により困難なことが多い。われわれは重症児病棟における発作捕捉の一助とするため、24時間ビデオ脈拍数(PR)測定の有用性を検討してきた。今回、てんかん発作が頻発する症例を対象に、看護スタッフによる観察と24時間ビデオ脈拍数(PR)測定による発作捕捉を比較したので報告する。 方法 対象は3例(16歳、32歳、43歳)で、いずれも大島分類1、1例は人工呼吸器装着中。3例とも難治性局在関連性てんかんで、いずれも1日のうちに頻回もしくは複数回の運動症状を伴うてんかん発作が観察されている。病棟ベッドサイドにて暗視カメラによる24時間ビデオ記録とともに、酸素飽和度モニターによるPR記録を行い2秒間隔でPRを記録保存した。PRを解析し、頻脈(>平均PR+2SD)と較差20以上をPR増加として、PR増加区間を抽出し、その区間のイベントをビデオ判定した。イベントは、発作、発作疑い、不明、その他(食事、処置、咳など)に分類した。一方で、看護師による観察により、発作記録も行い、ビデオPR記録と比較した。 成績 観察により確認された発作は、症例1は11回であったが、症例2と3では発作は観察されなかった。PR増加回数は、症例1:104回、症例2:37回、症例3:37回であった。PR増加で確認された発作/発作疑いの回数は、症例1:61/8回、症例2:7/8回、症例3:3/31回であった。発声や四肢・躯幹の粗大運動は発作の判定が容易であったが、眼・口部の運動、動作停止などが判定困難であった。発作と判定されたPR増加は、較差のみの場合もあり、必ずしも頻脈を伴っていなかった。 結論 重症児者の発作捕捉は、粗大な運動発作においても困難な症例もある。症例ごとに発作症状を分析した上で、PR測定を併用したビデオ観察を行うことは、発作の捕捉、概要把握に有用である。
  • −前方視的検討−
    須貝 研司, 齋藤 貴志, 斎藤 義朗, 小牧 宏文, 中川 栄二, 佐々木 征行
    2011 年36 巻2 号 p. 270
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    後方視的検討により潜因性・症候性部分てんかん(NIPE)の具体的な発作症状に対する有効薬は異なることを示したが(2009年、国際てんかん会議)、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の部分発作に対しても、それによる薬剤選択が有効かを前方視的に検討した。 対象と方法 1)後方視的検討:1剤以上の抗てんかん薬に難治で紹介され、1年以上治療した慢性NIPE200例(前頭葉てんかん162例、側頭葉てんかん28、後頭葉てんかん10)で、発作症状をA:強直、B::二次性全般化強直間代、C:間代、D:脱力・陰性ミオクロニー、E:hypermotor seizure、F:意識減損・動作停止、G:感覚・その他、に分け、その抗てんかん薬を置換・追加時の効果を50%以上有効率(RR:発作が半分以下に減少した症例の割合)で検討し、各発作症状に10例以上試みた薬剤では、RR≧75%は、A:KBr、ZNS、B:ZNS、CZP、C:CBZ、D:PB、ZNS、E:PHT、F:CLB、CBZ、G:なし、RR=74-50%は、A:PB、CLZ、PHT、B:CBZ、PB、PHT、C:なし、D:CBZ、E:なし、F:CZP、G:CBZであった。2)重症児(者)に対する前方視的検討:入院・外来の大島分類1〜4の重症児(者)30例(前頭葉てんかん27、後頭葉てんかん3)に対し、各症状に対して後方視的検討でRR≧75%または74-50%の薬剤を試み、1年以上治療した結果を、発作が消失:FR、75%以上減少:ME、50%以上減少:EF、<50%の減少:IEで評価した。 結果 発作Aは23例に見られ、FR8、ME11、EF4、Bは9例でFR4、ME4、EF1、Cは3例でFR1、ME2、Dは3例でME1、EF2、Eは2例でME2、Fは3例でFR1、ME1、EF1であった。発作Gは無く、いずれの発作でもIEすなわち無効はなかった。 結語 慢性NIPEの具体的な発作症状に対してRR≧75%またはRR=74-50%の薬剤を用いることにより、重症児(者)の部分発作ではいずれの発作症状も半分以下に減少させることができ、具体的な発作症状に基づく薬剤選択は有効であった。
  • −体位保持用具を使用した体位調整−
    小菅 舞子, 川 瑞恵, 黒田 純香, 森川 祐子, 森田 佳子, 村田 博昭, 伊藤 博紹
    2011 年36 巻2 号 p. 270
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 当院の重症心身障害児(者)病棟では、四肢の変形や麻痺の状態により、呼吸状態が悪化しやすい寝たきりの患者が多い。そのケアとして、体位調整が重要となるが、加齢とともに体格・体形の変形・関節拘縮がすすみ、体位の保持が困難となり、換気障害を繰り返す。そこで、体位調整と痰喀出促進で換気障害の緩和に向けて取り組んだので報告する。 対象 脳性麻痺、精神遅滞、てんかん、孔脳症、左小眼球症の35歳男性。両肩関節に拘縮を認め、体位の保持や痰喀出困難があり、肺炎を繰り返している。 方法 24時間体位保持用具(ウレタン素材のポジショニング枕と、低反発クッションのネックサポート枕)を使用し、頸部が安定するように当てる。1時間おきに体位変換を実施。それに加えて前傾側臥位とファーラー位をそれぞれ1日2回実施した。24時間モニターし、SpO2値を測定、体温、肺換気音、副雑音の有無、痰の量・性状について観察した。 結果 右側臥位のときに、SpO2値が90%を下回ることがみられたが、左側臥位や前傾側臥位、ファーラー位のときは、SpO2値が90%以上であった。痰の喀出量は増加し、前傾側臥位時に下肺野の換気音も聴取が可能となった。 考察 弛緩型四肢麻痺のため肺容量を狭少させる前傾姿勢ではなく、上気道閉塞の改善や、胸郭を広げる体位を保持することが換気障害の緩和につながったと考える。 結論 弛緩型四肢麻痺の患者は、抗重力姿勢を保持(気道確保と胸郭容量の増加)することが呼吸状態の改善には重要である。
  • 徳永 修, 鈴木 由美, 松岡 舟, 成宮 洋子, 丸箸 圭子, 内山 伸一, 菅 秀, 河原 信彦, 武市 知己, 松田 俊二, 宮野前 ...
    2011 年36 巻2 号 p. 271
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    緒言 重症児(者)では嚥下障害、胃食道逆流現象、胸郭可動域制限、気道狭窄、長期人工呼吸管理等の諸要因を背景として、緑膿菌やMRSAなど薬剤耐性も懸念される細菌を起因菌とする呼吸器感染症をしばしば反復する。成人領域では医療的ケア関連肺炎などの診療ガイドラインが提唱されているが、中枢神経系の障害をベースに呼吸器系や消化器系等の障害も合併する重症児(者)に反復する下気道感染症を対象とした診療指針は存在しない。今回、われわれは重症児(者)を対象とした下気道感染症診療指針の作成に向けて、重症児(者)に発生する下気道感染症に関する観察研究を行ったので報告する。 対象および方法 NHO共同臨床研究「エビデンスに基づいた重症児(者)呼吸器感染症診療ガイドライン作成に関する研究」に参加した施設の重症児(者)病棟で2010年11月〜11年2月の間に診療を行った下気道感染症例112例(88人)について、その背景、診断時検査所見、治療内容・転帰について情報を収集した。 結果 経管栄養例(71人)、気管切開・喉頭気管分離例(38人)、人工呼吸管理例(26人)など嚥下機能、気道クリアランス、換気等の障害を合併する重症児(者)に多く発生しており、17人は複数回のエピソードを反復した。喀痰培養検査ではMRSA、緑膿菌、A.baumanniなどが高頻度で検出された。治療開始時に抗菌剤としてCAZ、PIPC、TAZ/PIPC等の注射剤、Cephem系やML系などの経口剤が多く選択されていた。33例では当初選択した薬剤の効果が乏しく抗菌剤が変更された。 考察 強力な抗菌剤治療を開始したにもかかわらず早期に重症化に至った例がある一方で、検出菌に対して抗菌スペクトラムを有しない経口剤投与によりすみやかに症状が改善した例も見られた。抗菌剤治療適応に関する判断基準、至適薬剤選択とその投与期間等を明らかにするため、さらなる症例の集積が必要と考える。
  • 熊田 知浩
    2011 年36 巻2 号 p. 271
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 現在当院に通院中の4名の18トリソミー(標準型)の幼児(3歳6カ月〜5歳1カ月)の身体的合併症および運動発達について調べた。 結果 (1)循環器:先天性心疾患根治術後(動脈管結紮、心室中隔欠損閉鎖)が2名、姑息術後(肺動脈絞扼)または手術せず肺高血圧症、心不全を認め利尿剤投与および在宅酸素療法施行中が2名。(2)呼吸器:3名が誤嚥性肺炎を含む呼吸器感染症を反復し、慢性的に無気肺を認めていた。呼吸器感染症のため年間4〜8回入退院を繰り返していた。特にパリビズマブ予防投与の適応年齢を超えてから3名がRSウイルス罹患を経験し、全例呼吸不全のため人工呼吸管理を必要とした。うち1名はRSウイルス罹患後より日常的に睡眠時に非侵襲的人工呼吸管理を要するようになった。(3)消化器:嚥下障害のため全例経管栄養を要していた。胃食道逆流症のため1名はEDチューブ栄養、1名は噴門形成、胃瘻造設術を施行されていた。(4)中枢神経:頭部MRIで小脳低形成を全例に、軽度脳室拡大を1名、低酸素性虚血性脳症(HIE)合併による大脳萎縮を1名に認めた。てんかんは3名で認め、2名がinfantile spasms(IS)(1名はTPMで発作抑制、1名はHIE合併例で難治で日単位の発作持続)、1名が複雑部分発作(ZNSで発作軽減し月単位で持続)であった。呼吸中枢性の無呼吸発作が乳児期以降も1名持続していたがテオフィリン内服で抑制されていた。(5)骨関節:全例で側彎を認めた。1名(HIE)で股関節・膝関節脱臼を認めた。(6)運動発達:腹臥位回転まで可1名、寝返りまで可1名、移動不能2名。後者2名は肺高血圧、心不全、IS合併例であった。全例体幹低緊張強く坐位不能であった。 考察 18トリソミーで、乳児期を超えて生存できた児では、誤嚥性肺炎を含む呼吸器感染症の管理が重要である。特にRSウイルス罹患は要注意である。心疾患、てんかん発作の程度によっては、幼児期には床移動可能なレベルの運動発達が期待できる。
  • 田中 貴之, 中野 顕作, 岩本 優子
    2011 年36 巻2 号 p. 272
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    研究目的 肺内パーカッションベンチレーター(以下、IPV)を使用している重症心身障害児(者)(以下、重症児者)に、姿勢変化を加えることで、全身状態にどのような影響を及ぼすかを検討した。 対象・方法 対象は、改訂大島の分類横地案でA1、慢性呼吸器障害の重症児者2名(A氏:女児5歳人工呼吸器管理中、B氏:男性25歳経鼻酸素投与中)。方法は、Ⅰ群IPV導入前、Ⅱ群IPV導入後(臥位にて実施)、Ⅲ群IPVに姿勢変化(A氏は実施後に腹臥位とし、B氏は座位にてIPVを実施)を加えたⅢ群に分け、各3カ月介入した。各群の終わりに5分間隔のSpO2とHRの値を測定し、HRの上昇回数とSpO2の低下回数を比較した。 倫理的配慮 倫理委員会の承認を受け、対象の重症児者の家族に口頭、書面で説明し承諾を得た。 結果 SpO2の低下回数は、2名ともⅡ群で減少し、Ⅲ群ではA氏は変化がなくB氏は減少した。HR の上昇回数は、2名ともⅠ群とⅡ群では変化がなかったが、Ⅲ群で減少した。 考察 2名のSpO2低下回数がⅡ群で減少したのは、IPVにより排痰が促され、肺胞換気量が増加したためであると考える。また、A氏はⅡ群とⅢ群でSpO2値の低下回数に変化はないが、Ⅲ群でHR の上昇回数が減少した。これは、Ⅱ群ではSpO2値を維持するためには、HRの回数がⅠ群と同じだけ必要であったが、Ⅲ群で腹臥位にすることで排痰が困難といわれている亜区域気管支からの排痰が促されることにより、呼吸機能が改善し心負荷が減少したのではないかと推測される。B氏のHR の上昇回数がⅢ群で減少したのは、座位でのIPV実施により筋緊張が軽減し胸郭が拡がりやすくなり肺胞換気量が増大し心負荷が減少したのではないか考える。本研究は2事例のみで姿勢条件に違いがあったが、今後は症例数を増やし、重症児者の有効な呼吸管理の方法を検討していきたい。
  • 杉浦 眞紀
    2011 年36 巻2 号 p. 272
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 呼吸に問題のある重症心身障害児(者)の換気改善について日常生活の中で簡単にできる手技が求められている。3分間連続シェイキングの効果を報告する。 対象 症例1)16歳女性、溺水時無酸素性脳症後遺症、喉頭気管分離術後、脊柱変形高度 症例2)23歳男性、周産期仮死後遺症、気管切開なし、誤嚥高度、脊柱胸郭変形高度  方法 浅い側臥位での3分間連続シェイキングの前後で呼吸数、心拍数、SpO2の計測、聴診、呼吸音周波数解析を行った。周波数解析は、呼吸音をリットマンTMエレクトロニックステソスコープ4100®で録音し、リットマン聴診用サウンド解析ソフトを用いて行った。 結果 シェイキング施行前後の変化を示す。 症例1)呼吸数は26回から22回へ、心拍数は76から68へと減少し、SpO2は97から98へ上昇した。吸気音は,施行前500Hzまで高密度に分布し、高く荒く大きく聞こえたが、後で250Hzと低めで若干柔らかく小さくなった。呼気音は施行前高めではっきり聞こえたが、後で非常に小さくなった。 症例2)呼吸数は18回から15回へ減少した。始め呼気音が吸気音よりも高く大きく聞こえ、それに対応して周波数密度も呼気音のほうが高く示された。後では吸気音・呼気音ともに低めになり、特に呼気音はとても小さくなった。両例ともに副雑音を認めなかった。 考察 シェイキング実施後、2例とも呼吸数が減少したことからリラクセーション効果があったと推測される。重度な呼吸障害があると、肺実質密度の増加や虚脱肺胞の存在により気管支音の伝導性が高まったり、気道狭窄により気流抵抗が増大するために、肺胞呼吸音はより気管支呼吸音化していることが多い。シェイキング施行前、高めに聞こえた気管支肺胞呼吸音は、施行後低くなり、呼気音の密度も小さくなり、より肺胞呼吸音に近くなった。気管支呼吸音伝導減衰は、シェイキングの肺胞含気改善効果によるものと考えられる。
  • −安全で安心な入浴をめざして−
    佐藤 美奈, 宮本 慶克
    2011 年36 巻2 号 p. 273
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)の病態は、年々多様化し、気管切開、人工呼吸器などの濃厚な医療を必要とするいわゆる超重症児(者)が増加している。当病棟では気管切開患者が5名おり、うち3名は人工呼吸器を装着している。そのような超重症児(者)は唾液分泌過多がみられ、筋緊張に伴う発汗も多く身体の清潔についてのニーズがより高い。当病棟では、週2回入浴を行っているが、気管切開患者に対しては気管切開孔のケアなどの点からシャワー浴を実施していた。入浴中は気管切開孔への湯の浸入の危険があるため、気管カニューレ挿入部と頸部周囲をタオルで保護していた。しかし保護するタオルは水分を含み気管切開孔から湯が侵入する危険性が高かった。気管切開患者の入浴時の保護具については様々な先行研究がある。しかし当病棟で使用している気管カニューレは、移動式フランジから接続部のチューブ本体を、適切な位置で固定するために長く、先行研究で開発された保護具は使用することが難しい。今回このような気管切開患者3名に対し、入浴時に使用する防水保護用具を考案・作製した。その結果シャワー浴から浴槽に入ることのできるエレベートバスが使用でき、安全で安心な入浴を提供することが出来た。
  • 福田 悦子
    2011 年36 巻2 号 p. 273
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 入浴は、皮膚が清潔になるほかに、循環が促進され筋肉の緊張や痛みが和らぐなどの効果がある。しかし、気管切開をしている重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の入浴は、気切孔から流水が入る危険がある。そこで、重症児(者)に安全でより快適な入浴を行うため、入浴用保護具を作製したので報告する。 対象・方法 1.対象 病棟で気管カニューレを装着している重症児(者)2名  2.研究期間 2010年9月〜2010年12月  3.入浴保護具の作製 作製の条件・換気の保持ができる・流水から気切孔を守る・安価・装着が簡単・繰り返し使用できる  4.上記の条件をもとに5種類の保護具を作製。人形を使用してプレテスト後に使用保護具を決定した。 5.入浴時に保護具を対象者に使用し、使用時の酸素飽和度変化、保護具の吸水量、バイタルサインの変化を観察した。 6.入浴に関わったスタッフに、保護具使用に対するアンケート調査を行なった。 結果 ポリビニールアルコール製タオルを重ねた保護具とポリビニールアルコール製タオルにスポンジを挟んだ保護具が、作製条件を満したため使用保護具とした。使用しての入浴前後の酸素飽和度は急激な低下は認めなかった。保護具の吸水量は2種類組み合わせた保護具が優れていた。また、アンケート調査を実施した結果、気切孔が観察しやすい、流水が入りにくい、しっかり洗えるなどの有効な結果が得られた。 考察 過去の研究では、考案された保護具の安全性が確保できなかったり、コスト面の問題が残されていた。今回、身近な素材を利用して検討した結果、安全性の確保が確認できた。ただし、2名のみの対象であったのでより実用化に向け、さらなる安全性の確認と衛生面での検証を行う必要がある。
  • −気管支ファイバーによる効果の確認−
    田中 総一郎
    2011 年36 巻2 号 p. 274
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 昨年の本学会で、中谷らはスピーチバルブを利用した単純気管切開児に対する誤嚥防止の試みを報告した。当センターでも3例で同様の治療を行い奏功した。その効果を気管支ファイバーで確認したので報告する。 症例1 12歳女児、1歳時の溺水後遺症のため気管切開管理を受けている。3歳からスピーチバルブの装着を始めている。気管支ファイバーで、気管カニューレ脇から唾液の流入が観察されたが、スピーチバルブを着けると唾液の流入は見られなくなりカニューレと気管壁の間を唾液が口側へ戻る様子が確認された。 症例2 9歳男児、気管と左主気管支に先天性の気管軟化症を認め、気管切開管理を受けている。しだいに唾液誤嚥から誤嚥性肺炎が増えたため、2歳4カ月からスピーチバルブの装着を開始したところ、唾液の流入が減り肺炎罹患の機会も減少した。また、声が出るようになり、本人もご家族も喜んでいた。気管支ファイバーでは、気管軟化症の所見は残るものの改善を認めている。 症例3 3歳男児、超低出生時体重児のため集中治療を受けた。声門下狭窄のため気管切開管理をしていたが、唾液の流入が多く気管内吸引が頻回であった。スピーチバルブ装着で吸引回数は減少し、声も出せるようになり、知的にも発達を認めている。 結論 単純気管切開児のスピーチカニューレ装着では、唾液誤嚥防止に効果が認められただけでなく、本来の目的であるコミュニケーション支援や気管軟化症への治療にも効果が認められた。難治性唾液誤嚥の患者では試みる価値のある治療方法であると考えられた。
  • 水野 勇司, 眞鍋 英夫, 松崎 義和, 宮崎 信義
    2011 年36 巻2 号 p. 274
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児者(以下、重症児者)は様々な消化器症状を呈するが、X線検査や超音波検査、CT検査での消化管病変の検出には限界がある。近年、細径経鼻内視鏡は経口内視鏡に比べ侵襲が少なく、一般成人患者において広く用いられつつある。今回、重症児者に適用しその有用性と上部消化管病変について検討を行った。 対象と方法 対象は2010年5月から2011年4月までに細径経鼻内視鏡検査を実施した在宅および入所中の重症児者39例(延べ50件)で、保護者後見人から検査の説明と同意を得た。内視鏡はOlympus社製GIF-XP260N®(先端部外径5.0mm)を用い、血圧、心拍、SpO2をモニターし、血管確保したうえでヒドロキシジンまたはフルニトラゼパムを静脈投与し行った。鼻腔の拡張および局所麻酔処置を行い挿入した。 結果 年齢は9歳から67歳(平均31.6歳)で、大島分類は1が32例、その他が7例であった。19例が経口摂取、16例は経管栄養、4例が経口と経管栄養の併用例であった。挿入経路として経鼻からできた例は37例で、9歳と11歳の2例(いずれも体重20kg以下)では経鼻挿入が困難なため経口挿入に変更した。ヒドロキシジンの7例中1例しか入眠せず、フルニトラゼパムの35例中24例は入眠した状態で実施できた。合併症としてSpO2 90%以下の低酸素血症が16例あったが酸素投与を行いながら実施できた。鼻出血は6例あったが、嘔吐や感染症その他の合併症はなかった。咽頭喉頭部病変は26例、食道病変は16例に認め、食道裂孔ヘルニア9例、逆流性食道炎12例であった。胃病変は22例に認め、表層性または出血性胃炎が16例、萎縮性胃炎が5例、胃ポリープが2例、その他が2例であった。 考察 重症児者における細径経鼻内視鏡は鎮静法や低酸素血症と鼻出血に注意すれば、小児から成人までを対象に、咽喉頭部から上部消化管までを評価できる点で有用性が高い。重症児者の上部消化管病変は約半数例に認め決して少なくない。
  • 草間 龍一, 吉野 浩之
    2011 年36 巻2 号 p. 275
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    背景 近年、半固形化栄養法が胃食道逆流症(GERD)患者への栄養投与法の一つとして認識されてきているが、小児領域での実践報告はわずかしか見られない。半固形化栄養法は優れた栄養法であるが、重症のGERDに対して必ずしも万能とは言えない。われわれは筋緊張が極度に強い場合、けいれんのコントロールが困難で腹圧が高い場合、脊柱側湾症などで身体の変形が大きい場合や、小児期の噴門形成術(特に腹腔鏡手術後)後のGERD再発例など、半固形化栄養法を用いても逆流を来す重度のGERD症例を経験した。 これら半固形化栄養不応例に対する栄養投与法として、腸瘻や経胃瘻的十二指腸チューブ(ジェジュナルカテーテル;PEG-J)が存在する。腸瘻は確実な投与経路であるが、内視鏡的造設(ダイレクトPEJ)の手技が難しく、開腹手術が必要となる場合も多い。これに対してPEG-Jはすでに造設された胃瘻孔を使用できるが、カテーテル挿入が難しいことがある。また、PEG-JカテーテルはPEGカテーテルを外筒として使用するものと、一体型のものが存在する。前者では内筒の内空が狭く閉塞が起こりやすい。後者では閉塞は起こりにくいがすべてバルーンタイプであり、バルーン破損による事故抜去の危険性がある。さらに、両者ともチューブタイプであり、患者のQOLは決して高くはない。 今回、患者のQOLを第一に考え、さらに挿入・交換を容易に可能とするべく、富士システムズ社に協力を要請し、発売予定のボタンタイプPEG-Jカテーテルの提供を受け、実際の患者への使用を通して検討を行ったので報告する。 方法 富士システムズ社製GBジェジュナルボタンカテーテルを使用し、その効果を検討した。 まとめ ボタンタイプPEG-Jカテーテルは患者のQOLを高めるために非常に有用であった。今回、東日本大震災の影響で発売が遅れてしまっているが、早期の発売を期待する。
  • −各種カテーテルの検討と検査のコツ−
    吉野 浩之, 草間 龍一
    2011 年36 巻2 号 p. 275
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに PEGカテーテル交換では、様々な交換後確認法が提案されているが、その確実性、侵襲性、コストなど、幅広い視野で検討する必要がある。PEG交換後に直接内部バンパーが確認でき、低侵襲で、簡便さを兼ね備えている検査法として、経胃瘻カテーテル内視鏡「PEGスコープ」に注目し、昨年も当学会で発表させて頂いた。すでにシースを併用した方法により様々なカテーテルで確認が可能であることを報告してきたが、PEGカテーテルは種類が多く、PEGスコープの使用が困難なものや、使用は可能だが工夫を必要とするものがある。そのため、カテーテルごとにPEGスコープの使用の可否、使用において工夫が必要なものはその技術について検討した。 方法 HOYA-PENTAX社製のPEGスコープを使用した。臨床でのPEG交換後の確認およびPEG挿入モデルを用いて検討した。検討項目は、PEGスコープが挿入できるサイズ、カテーテルから胃内に入ることができるか、反転し内部バンパーが確認することができるか、また、そのために特別な工夫が必要か否かとした。 結果 先端開口型のバルーン・ボタン型では18F以上のサイズですべて使用可能であった。バルーン・チューブ型では18F以上のすべて使用可能であったが、バンパー・チューブ型では、一部にコネクターの接続部が極端に狭いため通過できないものがあり注意が必要である。バンパー・ボタン型では20F以上のすべてのカテーテル種で使用が可能であった。しかし、逆流防止弁の位置関係、形状などから、必ずしも使用が容易でない種類のカテーテルもあったが、検討したすべての種類でスコープの曲げ角や、操作の工夫で使用することができた。 結語 PEGスコープは、在宅を含めたPEGカテーテル交換の場に関わらず使用できる直接確認法であり、幅広いカテーテル種に対応できることから、より安全なPEG交換の確認法として有用である。
  • −持続血糖測定装置と持続サチュレーションモニターを使用して−
    渡邉 誠司
    2011 年36 巻2 号 p. 276
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児は、嚥下障害、呼吸障害など様々な問題から経管栄養になることが多い。私たちは、胃瘻造設後に、一過性にあるいは、持続的にダンピング症候群を示す例が多いことを報告してきた。2010年4月に、組織間質液の電流値を血糖との補正により擬似的に血糖値を表示する持続血糖測定器CGMS-Gold®(日本メドトロニクス社製)が保険収載されたため、これにより食後の血糖の動きを連続的に追うことを考えた。 目的 ダンピング症候群とその対処状況を、持続血糖と心拍モニターで追う。 方法 CGMSにより、また、ワイヤレスサチュレーションモニター(コヴィディエン・ジャパン)により、6名の胃瘻造設患者の食前後の血糖・心拍をモニターした。食事は、とろみ付き薬品経管栄養剤、糖尿病用経管栄養剤、ミキサー食をカロリーを合わせて投与した。各々、直前にαグルコシダーゼ阻害剤も投与しその効果を確かめた。 結果 血糖の上昇の程度は,個人のバックグラウンドにより様々であった。しかしながら、ミキサー食の投与により血糖の変動は少なく、αグルコシダーゼ阻害剤の投与は、滴下速度の減少と比較しても血糖上昇の軽減には効果があった。 結論と考察 今まで間欠的に見てきた血糖・心拍を上記デバイスを使用することにより、72時間という長時間連続的に追うことができた。血液採取という苦痛を与える回数を軽減してモニターできることは有意義であった。心拍数測定についても血糖に表れない早期ダンピング症候群のモニターに有意義と思われた。
  • −五感による重症心身障がい者に対する脳相刺激の試み−
    谷輪 咲, 村山 伸江
    2011 年36 巻2 号 p. 276
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 食事の援助では食事の意識付けや環境調整が推奨されているが、根拠となるデータや先行研究は少ない。また、経管栄養ではその援助が不十分な傾向にある。そこで今回、経管栄養を要する重症心身障がい者を対象に、五感刺激を用いた食事環境の調整を行い、患者の反応と消化機能データを比較検討し、看護援助の効果を検証した。 研究方法 1.研究デザイン:症例研究 2.期間:2010年7月〜同年10月 3. 対象:37歳男性、病名:レノックス症候群、状態:気管切開(夜間呼吸器装着)、経管栄養、刺激への反応:稀に表情の変化あり 4.方法:《経管栄養前の五感刺激》触覚:顔の清拭、視覚:注入物を見せる、聴覚:モーツァルト音楽、言葉掛け、臭覚:レモン臭、味覚:レモン果汁《データ項目》1分間の胃蠕動回数(五感刺激前、後5 / 10 / 20 / 30分)、胃内残渣量とpH(注入前、後30 /120分)、脈拍・表情・流涎量・舌と口の動き・筋緊張(注入前〜終了後120分まで) 結果 五感刺激により胃蠕動回数が上昇 (刺激あり4.9±2.0回、刺激なし1.9±1.1回)。栄養終了後30分の胃液pHが酸性傾向 (刺激あり4.0±0.4、刺激なし4.6±0.8)。流涎量は栄養開始30分後より増加(刺激あり1.6±2.4g、刺激なし0.1±03g)。胃内残渣量、脈拍、表情、舌・口の動き、筋緊張の有意差はなかった。 考察 五感刺激を用いた食事環境の調整を行ったことで、胃蠕動回数が有意に増加し、早期に流涎量の増加や空腹時の胃酸pHに近づいた。これは、五感刺激が脳相を刺激し食事を迎える準備につながったと考える。また、刺激への反応が捉えにくい重症心身障がい者においては、食事環境調整は重要である可能性が示唆された。しかし、今回の対象は1症例であり、今後症例の蓄積により、五感刺激の効果や背景因子との関連等の検討が必要と考える。
  • 高橋 勇弥, 影山 隆司, 吉川 秀人, 小西 徹
    2011 年36 巻2 号 p. 277
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児(者)(以下、重症児者)では経管栄養を余儀なくされることが多い。その中で、注入中または後に喘鳴が悪化するケースをしばしば経験する。今回、注入時に上部消化管造影および嚥下造影を行い、喘鳴の原因として胃食道逆流・誤嚥の関与について検討した。 対象・方法 当園に入所中の重症児者で経管栄養に関連して喘鳴が出現・悪化する8名(男5、女3)を対象とした。いずれも大島分類1で長期に渡って経管栄養を実施している。調査時年齢は20〜47歳(平均37歳)であった。上部消化管造影は、普段と同量の栄養剤にガストログラフィンを10倍に希釈して注入し、胃食道逆流の有無や上部消化管の形態を評価した。まだ、同時に10倍希釈ガストログラフィンを唾液にみたて少量口腔内に含ませ嚥下造影を実施した。姿勢は普段注入時と同程度に上体を挙上して行った。 結果 1)上部消化管造影:胃食道逆流を確認できたのは2例であった。1例では注入後半になり栄養剤で胃が拡張すると容易に逆流が出現し、下部食道括約部の機能低下のため胃内容が増えることで噴門部が緩み、腹圧がかかることで逆流するものと思われた。上体挙上や右側臥位などの姿勢変換を試みたが逆流の程度は変わらなかった。他の1例では注入終了までは逆流はなかったが、姿勢を水平にした際に逆流を認めた。なお、食道裂孔ヘルニアなどの形態異常はなかった。 2)嚥下造影:7例で気管内への誤嚥を認めた。胃食道逆流を認めなかった例では全例で誤嚥が確認できた。いずれも注入後半に喘鳴が強くなることから経管栄養により口腔内分泌物が増加し、それを誤嚥しているものと考えられた。 結語 経管栄養に関連した喘鳴増悪の原因として唾液などの誤嚥が多いことが示唆された。しかし、胃食道逆流も少なからず関与しており、定期的な評価が必要と思われる。
  • 花岡 繁, 水野 葉子, 木村 芙美惠
    2011 年36 巻2 号 p. 277
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の唾液分泌過多にはしばしば生活上支障をきたすまでに過剰な例がある。これまで、スコポラミンパッチなどの報告例があるが、われわれは硫酸アトロピンを使用し、症状の改善をみた例を経験したので報告する。 対象・方法 症例1は28歳まで外来で経過観察を行ったRett症候群女性。唾液分泌過多による異常口臭に長年同居家族が悩まされていたため17歳時より0.5mg/回(0.027mg/回)x3回/日での服用を開始した。呑気による腹満、便秘、てんかん発作など合併症がり、それらの症状の増悪や、自立神経症状の変化に注意しながら観察を続けた。症例2は、2歳11カ月の脳性麻痺男児。てんかん発作の合併あり。唾液分泌量は1300ml〜1800ml/日で、終日持続吸引を行っているが、肺の喘鳴が改善しないため、硫酸アトロピンを0.1mg/回(0.008mg/kg/回)を登園日の朝一回のみの服用とし、1時間毎の分泌量、心拍、SpO2モニターチェックを行いながら使用を開始した。 結果 症例1:使用開始翌月より口臭が消失し、合併症の増悪等無く、1年3カ月使用を続けた。その後0.67mg/回に増量し、2〜3回/日服用を5年間続けたが、27歳時に便秘により使用を中止した。症例2:作用時間はほぼ6時間で、肺の喘鳴は消失し、心拍、呼吸も安定し、けいれん発作の増悪や便秘症状の増悪もみられていない。一日の唾液分泌量は約2/3に減少した。 結論 硫酸アトロピンは、心拍の変動、便秘、けいれん閾値の変化などの重症児(者)に合併しやすい症状に対する副作用があり、安易に用いるべきではない。しかし、使用による生活改善が期待される場合は、試みる価値があると思われる。その際、その服用のタイミング、使用量、使用法、使用期間に関しては十分な注意を払う必要がある。
  • −唾液アミラーゼモニター測定により−
    中野 彰子, 田部 美智子, 大塚 美奈子
    2011 年36 巻2 号 p. 278
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに A氏は、固定化した異常姿勢や過筋張という問題点があり、変形・拘縮の進行予防、将来的に呼吸障害予防を図るため、クッションチェアーによるポジショニングを開始した。また、良肢位をとることで、ストレスの軽減につながると予測した。しかし、クッションチェアーに乗る前と直後の呼吸回数やSpO2を測定したが、数値的には大きな変化はみられなかった。水野らは、唾液アミラーゼがストレス評価のための有効なマーカー物質であることが確認され、個人の変化パターンに着目した評価法が有効であると述べている。そこで、クッションチェアーによる座位姿勢が臥床時よりもストレス軽減となることを、唾液マーカー測定により検証したので報告する。 研究目的 A氏にとってクッションチェアーによるポジショニングが、臥床時よりもストレスが軽減され、安楽な体位になっているのかを検証する。 研究対象 30代、脳性麻痺、右凸側彎症、左股関節脱臼、左右非対称な筋緊張、四肢の拘縮  結果 バイタルサイン測定では数値的には大きな変化が見られなく、唾液マーカー測定では、フリー時よりも座位時の方が低い数値のことが多かった。入眠時はフリー時や座位時のときより低い数値が目立った。 考察 今まで自由に動けることが、A氏にとって安楽だと考えていたが、唾液マーカー測定結果から座位姿勢の方がストレス軽減されていることがわかった。高橋らは、脳性まひの場合、寝たままの姿勢よりも座位の方が、呼吸が改善されスムーズになると述べており、座位姿勢を取り入れることはA氏にとって有効だと考えられた。 結論 唾液マーカーのデーターでは、クッションチェアーによるポジショニングが、臥床時よりもストレスが少ないことがわかった。
  • 小笠原 徹, 堀場 寿実, 岡川 敏郎
    2011 年36 巻2 号 p. 278
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    はじめに 超音波療法(Ultrasound Therapy 以下、US)には温熱と音圧作用があり、疼痛の軽減や筋スパズムの減弱に効果があるとされている。当センターではUSにより過緊張が軽減し保持椅子に座れるようになった例を経験した。今回、頸部と肩周囲が過緊張状態の重症心身障害児に対し気管切開術時の術野を確保する目的でUSを試行したので報告する。 対象 当センターに通院する神経変性疾患の10歳女児。頸左回旋、W肢位、左Windswept変形、S字状側弯を呈する。触刺激に過敏があり両肩をすぼめて緊張する。誤嚥性肺炎で入退院を繰り返しているが平常時の経皮的酸素飽和度はおおむね95%である。また今回の試みに関して母親に説明し了解を得ている。 方法 超音波治療器(伊藤超短波製US-730 ®)を使用し、1.9W/cm2の強度、50%間歇で筋線維方向に沿って照射した。部位は両側の僧帽筋上部線維と胸鎖乳突筋、舌骨上筋群とし各5分ずつ行った。評価は両側の鎖骨頭と一側の肩峰からなる傾斜角、両肩峰間の距離、呼吸数と一回換気量(IMI製ハロースケール®)としUS前後に1回ずつ行った。またvisual analog scale(以下、VAS)を10cmの直線で最大の緊張状態を10として、母親にUS前後の緊張状態を評価してもらった。 結果 US後、姿勢は両肩が下がり頸右回旋となった。傾斜角は右121度が141度、左は140度が145度と下制した。両肩峰間の距離はUS前を1としてUS後は1.08となった。呼吸数は22回から20回になり、一回換気量は202mlから168mlと減少した。VASはUS前が0から4.2cm、US後は2.1cmと半減した。 考察 肩が除重力位で下制したことと頸部の右回旋が得られたこと、緊張が和らいだと母親が感じていることから、US前の頸部周囲の過緊張が抑制され筋が弛緩したと考える。呼吸はUSで安楽になったとはいえなかった。今回、USの試みで姿勢の変化から過緊張の抑制効果がみられ、手術に臨むことができた。今後の課題は抑制効果の持続性検証と考える。
  • 植松 潤治
    2011 年36 巻2 号 p. 279
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー
    目的 強い身体の緊張があると、疼痛・変形などが増強し、二次障害を呈することが知られている。緊張緩和には様々な方法が用いられるが、今回バクロフェン持続髄注とボツリヌス療法を併用し、効果を認めた一例を経験したので報告する。 症例 24歳、女性。周産期詳細不明であるが、生後一カ月まで光線療法を受ける。生後8カ月から下肢の痙性麻痺が出現し、現在アテトーゼ型の不随意運動を伴う脳性麻痺が中心。強度緊張が亢進し、2007年バクロフェン持続髄注療法を開始。しかし、基本的な筋緊張は低下するものの、精神的・体調的に不随意運動は増強し、繰り返す嘔吐や疼痛による不眠がさらに緊張を増加させることとなった。そこで、緊張を局部的に軽減することを目的とし、ボツリヌス療法を併用した。 経過 2010年6月痙性斜頸軽減目的にて、頸部に9か所施注(90単位)。8月同部に追加施注(100単位)。このころより突然の緊張による嘔吐・両上肢不随意運動が軽減。12月再び不随意運動が増強したためバクロフェン髄注量の増量を検討するが、様子観察となる。2011年2月全身の緊張も増強してきたため、頸部および両下肢にボトックスを施注(17か所、170単位)。6月現在も疼痛軽減、繰り返す嘔吐消失。不眠状況も改善されている。 結論 強度緊張軽減目的で、筋弛緩剤・安定剤内服、バクロフェン持続髄注を施行されていたが、局部の緊張までは軽減されず、不随意運動の増強を伴った。ボツリヌス療法を併用することで、局部の緊張軽減が得られ、疼痛・繰り返す嘔吐が軽減されQOL改善がえられた。
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