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柿沼 宏明, 中村 美樹
2011 年36 巻2 号 p.
268
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
フリー
目的
入所中の難治性てんかんの成人患者で、トピラマート(TPM)、ラモトリギン(LTG)およびレベチラセタム(LEV)の有用性と安全性を評価する。
方法
対象は9例(男3、女6)、平均年齢は33.6歳、全例、大島分類1である。基礎疾患は無脳回症、Dandy-Walker症候群、周産期障害によるWest症候群と局在関連てんかん、生後1カ月以内発症の早期てんかん性脳症2例、発熱誘発性けいれんで発症し、けいれん重積反復例、非定型Rett症候群、未診断の神経変性疾患である。TPMは2例、LTGは3例に処方した。LTGを中止した2例を含め、合計6例にLEVを処方した。各例で部分起始の強直、喉頭喘鳴発作、起始不明の強直または強直間代、ミオクロニー、欠神への効果を評価した。投与前後12週間の発作頻度が50%以上減少した例を有効とした。
成績
発作が消失した例はなかった。TMPは、てんかん性脳症から局在関連に変容した2例の部分起始強直発作に有効であった。LTGは、TMPに先行投与した1例は薬疹のため中止した。無脳回症の1例、早期てんかん性脳症で喉頭の喘鳴発作を示す1例に追加投与した。喉頭発作には有効だった。LEVは、LTG無効中止後の無脳回症、発熱誘発性家族性てんかん、非定型Rett症候群、神経変性疾患、Dandy-Waker症候群で46歳に部分起始の強直間代を再発した6例の内、後ろの2例で有効であった。
結論
3剤ともに、ある程度重症心身障害者の難治性発作に有効であった。TPMの2例は、原因は異なるが臨床経過と発作型が類似していた。このような例ではTPMの有効性は保証できるかもしれない。LTGの薬疹1例以外に有害事象はなかった。LEVは、薬剤相互作用を気にせず使用できるメリットがある。有効例の臨床像と発作型が明らかにできれば、新規抗てんかん薬の選択肢は増えると期待される。
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奥野 章, 影山 さち子
2011 年36 巻2 号 p.
268
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
フリー
はじめに
新規抗てんかん薬レベチラセタム(LEV)の重症児者に対する使用効果につき検討したので報告する。
対象/方法
対象は、当院および国立宇都宮病院入院中の難治性てんかん患者で、多剤併用を余儀なくされている20例(男12名 女8名)、基礎疾患は周産期低酸素脳症、未熟児、髄膜炎後遺症、硬膜下血腫、染色体異常症その他原因不明等であった。病型は症候性局在関連てんかん、症候性全般てんかんで、発作型は複雑部分発作、二次性全般化部分発作であった。LEV投与時期と前年同時期を比較検討し、LEVの効果を発作発現頻度減少率から検討し、75%以上減少を著効、75%未満50%以上減少を有効、50%未満25%以上減少を改善25%未満減少を不変、発作増加したものを悪化と評価した。
結果
著効19%、有効29〜33%、改善19〜24%であった。現時点での有効率は48〜52%で、効果ある例では、投与開始早期より発作回数の減少傾向が認められた。傾眠、頭痛、衝動性等が比較的頻度の高い副作用として知られているが、全例血液検査も含め異常は認めなかった。
まとめ
LEVの難治性てんかんに対する有効性を認めた。LEVは、肝代謝を受けず、腎より排泄されるため薬剤相互性が少ない点で併用しやすく、半減期が短いため効果発現に早い症例では、翌日より発作減少が認められた。今後観察期間を延長し、発表前に再判定する予定である。
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大谷 早苗, 服部 英治, 田中 勝治, 松下 彰宏, 蘆野 二郎
2011 年36 巻2 号 p.
269
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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目的
ラモトリギン(以下、LTG)は治療継続率が高く、また重症心身障害児者においても認容性良好であるとされている。今回、当施設入所中の難治性てんかん患者にLTGを使用し、30代以上の症例についてその効果と副作用を検討したので報告する。
対象・方法
2010年4月〜2011年4月の期間中にLTGを使用した、月10回以上の発作頻度を持つ年齢30代以上の難治性てんかん患者16名(男性7、女性9)を対象とした。年齢は33〜51歳(平均41.5歳)、基礎疾患はてんかん性脳症5、低酸素性虚血性脳症4、中枢神経感染症2、皮質形成異常2、遺伝性疾患3であった。てんかん診断としては症候性全般てんかんが1例、症候性部分てんかんが15例であり、後者のうち6例は群発傾向を持っていた。併用抗てんかん薬数は5剤以上が4例、4剤が4例、3剤が5例、2剤が2例、1剤が1例であった。投与期間中、スタッフが把握できる範囲での発作頻度・副作用を確認した。投与方法は添付文書に従ったが、副作用出現時には主治医の判断で調整した。
結果
継続8例・中止8例であった。継続例では発作90%以上減少が4例、50%以上減少が2例であった。無効は1例で、覚醒度が改善したため継続投与されていた。中止例では、無効1例、副作用7例。副作用の内訳は薬疹4例、不眠・興奮3例、眠気・摂食不良が1例であった。継続例においても、眠気の他、徐脈や血圧低下、消化管蠕動運動の低下をきたした症例もあったが、増量速度の調整にて中止には至らずに済んだ。
結論
年齢を30代以上に区切ったところ、発作への効果は高かったが副作用の出現率も高く、中止例の割合は既存の重症心身障害児者についての報告に比べ多かった(約2倍)。重症心身障害者においては加齢による生理機能の低下も早いと考えられ、年齢に合わせ慎重に投与する必要があると考えられた。
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後藤 一也, 今井 一秀, 植村 篤実, 平松 美佐子
2011 年36 巻2 号 p.
269
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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目的
重症心身障害児(以下、重症児)におけるてんかん発作の捕捉は様々な要因により困難なことが多い。われわれは重症児病棟における発作捕捉の一助とするため、24時間ビデオ脈拍数(PR)測定の有用性を検討してきた。今回、てんかん発作が頻発する症例を対象に、看護スタッフによる観察と24時間ビデオ脈拍数(PR)測定による発作捕捉を比較したので報告する。
方法
対象は3例(16歳、32歳、43歳)で、いずれも大島分類1、1例は人工呼吸器装着中。3例とも難治性局在関連性てんかんで、いずれも1日のうちに頻回もしくは複数回の運動症状を伴うてんかん発作が観察されている。病棟ベッドサイドにて暗視カメラによる24時間ビデオ記録とともに、酸素飽和度モニターによるPR記録を行い2秒間隔でPRを記録保存した。PRを解析し、頻脈(>平均PR+2SD)と較差20以上をPR増加として、PR増加区間を抽出し、その区間のイベントをビデオ判定した。イベントは、発作、発作疑い、不明、その他(食事、処置、咳など)に分類した。一方で、看護師による観察により、発作記録も行い、ビデオPR記録と比較した。
成績
観察により確認された発作は、症例1は11回であったが、症例2と3では発作は観察されなかった。PR増加回数は、症例1:104回、症例2:37回、症例3:37回であった。PR増加で確認された発作/発作疑いの回数は、症例1:61/8回、症例2:7/8回、症例3:3/31回であった。発声や四肢・躯幹の粗大運動は発作の判定が容易であったが、眼・口部の運動、動作停止などが判定困難であった。発作と判定されたPR増加は、較差のみの場合もあり、必ずしも頻脈を伴っていなかった。
結論
重症児者の発作捕捉は、粗大な運動発作においても困難な症例もある。症例ごとに発作症状を分析した上で、PR測定を併用したビデオ観察を行うことは、発作の捕捉、概要把握に有用である。
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−前方視的検討−
須貝 研司, 齋藤 貴志, 斎藤 義朗, 小牧 宏文, 中川 栄二, 佐々木 征行
2011 年36 巻2 号 p.
270
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
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後方視的検討により潜因性・症候性部分てんかん(NIPE)の具体的な発作症状に対する有効薬は異なることを示したが(2009年、国際てんかん会議)、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の部分発作に対しても、それによる薬剤選択が有効かを前方視的に検討した。
対象と方法
1)後方視的検討:1剤以上の抗てんかん薬に難治で紹介され、1年以上治療した慢性NIPE200例(前頭葉てんかん162例、側頭葉てんかん28、後頭葉てんかん10)で、発作症状をA:強直、B::二次性全般化強直間代、C:間代、D:脱力・陰性ミオクロニー、E:hypermotor seizure、F:意識減損・動作停止、G:感覚・その他、に分け、その抗てんかん薬を置換・追加時の効果を50%以上有効率(RR:発作が半分以下に減少した症例の割合)で検討し、各発作症状に10例以上試みた薬剤では、RR≧75%は、A:KBr、ZNS、B:ZNS、CZP、C:CBZ、D:PB、ZNS、E:PHT、F:CLB、CBZ、G:なし、RR=74-50%は、A:PB、CLZ、PHT、B:CBZ、PB、PHT、C:なし、D:CBZ、E:なし、F:CZP、G:CBZであった。2)重症児(者)に対する前方視的検討:入院・外来の大島分類1〜4の重症児(者)30例(前頭葉てんかん27、後頭葉てんかん3)に対し、各症状に対して後方視的検討でRR≧75%または74-50%の薬剤を試み、1年以上治療した結果を、発作が消失:FR、75%以上減少:ME、50%以上減少:EF、<50%の減少:IEで評価した。
結果
発作Aは23例に見られ、FR8、ME11、EF4、Bは9例でFR4、ME4、EF1、Cは3例でFR1、ME2、Dは3例でME1、EF2、Eは2例でME2、Fは3例でFR1、ME1、EF1であった。発作Gは無く、いずれの発作でもIEすなわち無効はなかった。
結語
慢性NIPEの具体的な発作症状に対してRR≧75%またはRR=74-50%の薬剤を用いることにより、重症児(者)の部分発作ではいずれの発作症状も半分以下に減少させることができ、具体的な発作症状に基づく薬剤選択は有効であった。
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−体位保持用具を使用した体位調整−
小菅 舞子, 川 瑞恵, 黒田 純香, 森川 祐子, 森田 佳子, 村田 博昭, 伊藤 博紹
2011 年36 巻2 号 p.
270
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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はじめに
当院の重症心身障害児(者)病棟では、四肢の変形や麻痺の状態により、呼吸状態が悪化しやすい寝たきりの患者が多い。そのケアとして、体位調整が重要となるが、加齢とともに体格・体形の変形・関節拘縮がすすみ、体位の保持が困難となり、換気障害を繰り返す。そこで、体位調整と痰喀出促進で換気障害の緩和に向けて取り組んだので報告する。
対象
脳性麻痺、精神遅滞、てんかん、孔脳症、左小眼球症の35歳男性。両肩関節に拘縮を認め、体位の保持や痰喀出困難があり、肺炎を繰り返している。
方法
24時間体位保持用具(ウレタン素材のポジショニング枕と、低反発クッションのネックサポート枕)を使用し、頸部が安定するように当てる。1時間おきに体位変換を実施。それに加えて前傾側臥位とファーラー位をそれぞれ1日2回実施した。24時間モニターし、SpO2値を測定、体温、肺換気音、副雑音の有無、痰の量・性状について観察した。
結果
右側臥位のときに、SpO2値が90%を下回ることがみられたが、左側臥位や前傾側臥位、ファーラー位のときは、SpO2値が90%以上であった。痰の喀出量は増加し、前傾側臥位時に下肺野の換気音も聴取が可能となった。
考察
弛緩型四肢麻痺のため肺容量を狭少させる前傾姿勢ではなく、上気道閉塞の改善や、胸郭を広げる体位を保持することが換気障害の緩和につながったと考える。
結論
弛緩型四肢麻痺の患者は、抗重力姿勢を保持(気道確保と胸郭容量の増加)することが呼吸状態の改善には重要である。
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徳永 修, 鈴木 由美, 松岡 舟, 成宮 洋子, 丸箸 圭子, 内山 伸一, 菅 秀, 河原 信彦, 武市 知己, 松田 俊二, 宮野前 ...
2011 年36 巻2 号 p.
271
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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緒言
重症児(者)では嚥下障害、胃食道逆流現象、胸郭可動域制限、気道狭窄、長期人工呼吸管理等の諸要因を背景として、緑膿菌やMRSAなど薬剤耐性も懸念される細菌を起因菌とする呼吸器感染症をしばしば反復する。成人領域では医療的ケア関連肺炎などの診療ガイドラインが提唱されているが、中枢神経系の障害をベースに呼吸器系や消化器系等の障害も合併する重症児(者)に反復する下気道感染症を対象とした診療指針は存在しない。今回、われわれは重症児(者)を対象とした下気道感染症診療指針の作成に向けて、重症児(者)に発生する下気道感染症に関する観察研究を行ったので報告する。
対象および方法
NHO共同臨床研究「エビデンスに基づいた重症児(者)呼吸器感染症診療ガイドライン作成に関する研究」に参加した施設の重症児(者)病棟で2010年11月〜11年2月の間に診療を行った下気道感染症例112例(88人)について、その背景、診断時検査所見、治療内容・転帰について情報を収集した。
結果
経管栄養例(71人)、気管切開・喉頭気管分離例(38人)、人工呼吸管理例(26人)など嚥下機能、気道クリアランス、換気等の障害を合併する重症児(者)に多く発生しており、17人は複数回のエピソードを反復した。喀痰培養検査ではMRSA、緑膿菌、A.baumanniなどが高頻度で検出された。治療開始時に抗菌剤としてCAZ、PIPC、TAZ/PIPC等の注射剤、Cephem系やML系などの経口剤が多く選択されていた。33例では当初選択した薬剤の効果が乏しく抗菌剤が変更された。
考察
強力な抗菌剤治療を開始したにもかかわらず早期に重症化に至った例がある一方で、検出菌に対して抗菌スペクトラムを有しない経口剤投与によりすみやかに症状が改善した例も見られた。抗菌剤治療適応に関する判断基準、至適薬剤選択とその投与期間等を明らかにするため、さらなる症例の集積が必要と考える。
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熊田 知浩
2011 年36 巻2 号 p.
271
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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目的
現在当院に通院中の4名の18トリソミー(標準型)の幼児(3歳6カ月〜5歳1カ月)の身体的合併症および運動発達について調べた。
結果
(1)循環器:先天性心疾患根治術後(動脈管結紮、心室中隔欠損閉鎖)が2名、姑息術後(肺動脈絞扼)または手術せず肺高血圧症、心不全を認め利尿剤投与および在宅酸素療法施行中が2名。(2)呼吸器:3名が誤嚥性肺炎を含む呼吸器感染症を反復し、慢性的に無気肺を認めていた。呼吸器感染症のため年間4〜8回入退院を繰り返していた。特にパリビズマブ予防投与の適応年齢を超えてから3名がRSウイルス罹患を経験し、全例呼吸不全のため人工呼吸管理を必要とした。うち1名はRSウイルス罹患後より日常的に睡眠時に非侵襲的人工呼吸管理を要するようになった。(3)消化器:嚥下障害のため全例経管栄養を要していた。胃食道逆流症のため1名はEDチューブ栄養、1名は噴門形成、胃瘻造設術を施行されていた。(4)中枢神経:頭部MRIで小脳低形成を全例に、軽度脳室拡大を1名、低酸素性虚血性脳症(HIE)合併による大脳萎縮を1名に認めた。てんかんは3名で認め、2名がinfantile spasms(IS)(1名はTPMで発作抑制、1名はHIE合併例で難治で日単位の発作持続)、1名が複雑部分発作(ZNSで発作軽減し月単位で持続)であった。呼吸中枢性の無呼吸発作が乳児期以降も1名持続していたがテオフィリン内服で抑制されていた。(5)骨関節:全例で側彎を認めた。1名(HIE)で股関節・膝関節脱臼を認めた。(6)運動発達:腹臥位回転まで可1名、寝返りまで可1名、移動不能2名。後者2名は肺高血圧、心不全、IS合併例であった。全例体幹低緊張強く坐位不能であった。
考察
18トリソミーで、乳児期を超えて生存できた児では、誤嚥性肺炎を含む呼吸器感染症の管理が重要である。特にRSウイルス罹患は要注意である。心疾患、てんかん発作の程度によっては、幼児期には床移動可能なレベルの運動発達が期待できる。
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田中 貴之, 中野 顕作, 岩本 優子
2011 年36 巻2 号 p.
272
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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研究目的
肺内パーカッションベンチレーター(以下、IPV)を使用している重症心身障害児(者)(以下、重症児者)に、姿勢変化を加えることで、全身状態にどのような影響を及ぼすかを検討した。
対象・方法
対象は、改訂大島の分類横地案でA1、慢性呼吸器障害の重症児者2名(A氏:女児5歳人工呼吸器管理中、B氏:男性25歳経鼻酸素投与中)。方法は、Ⅰ群IPV導入前、Ⅱ群IPV導入後(臥位にて実施)、Ⅲ群IPVに姿勢変化(A氏は実施後に腹臥位とし、B氏は座位にてIPVを実施)を加えたⅢ群に分け、各3カ月介入した。各群の終わりに5分間隔のSpO2とHRの値を測定し、HRの上昇回数とSpO2の低下回数を比較した。
倫理的配慮
倫理委員会の承認を受け、対象の重症児者の家族に口頭、書面で説明し承諾を得た。
結果
SpO2の低下回数は、2名ともⅡ群で減少し、Ⅲ群ではA氏は変化がなくB氏は減少した。HR の上昇回数は、2名ともⅠ群とⅡ群では変化がなかったが、Ⅲ群で減少した。
考察
2名のSpO2低下回数がⅡ群で減少したのは、IPVにより排痰が促され、肺胞換気量が増加したためであると考える。また、A氏はⅡ群とⅢ群でSpO2値の低下回数に変化はないが、Ⅲ群でHR の上昇回数が減少した。これは、Ⅱ群ではSpO2値を維持するためには、HRの回数がⅠ群と同じだけ必要であったが、Ⅲ群で腹臥位にすることで排痰が困難といわれている亜区域気管支からの排痰が促されることにより、呼吸機能が改善し心負荷が減少したのではないかと推測される。B氏のHR の上昇回数がⅢ群で減少したのは、座位でのIPV実施により筋緊張が軽減し胸郭が拡がりやすくなり肺胞換気量が増大し心負荷が減少したのではないか考える。本研究は2事例のみで姿勢条件に違いがあったが、今後は症例数を増やし、重症児者の有効な呼吸管理の方法を検討していきたい。
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杉浦 眞紀
2011 年36 巻2 号 p.
272
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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はじめに
呼吸に問題のある重症心身障害児(者)の換気改善について日常生活の中で簡単にできる手技が求められている。3分間連続シェイキングの効果を報告する。
対象
症例1)16歳女性、溺水時無酸素性脳症後遺症、喉頭気管分離術後、脊柱変形高度
症例2)23歳男性、周産期仮死後遺症、気管切開なし、誤嚥高度、脊柱胸郭変形高度
方法
浅い側臥位での3分間連続シェイキングの前後で呼吸数、心拍数、SpO2の計測、聴診、呼吸音周波数解析を行った。周波数解析は、呼吸音をリットマンTMエレクトロニックステソスコープ4100®で録音し、リットマン聴診用サウンド解析ソフトを用いて行った。
結果
シェイキング施行前後の変化を示す。
症例1)呼吸数は26回から22回へ、心拍数は76から68へと減少し、SpO2は97から98へ上昇した。吸気音は,施行前500Hzまで高密度に分布し、高く荒く大きく聞こえたが、後で250Hzと低めで若干柔らかく小さくなった。呼気音は施行前高めではっきり聞こえたが、後で非常に小さくなった。
症例2)呼吸数は18回から15回へ減少した。始め呼気音が吸気音よりも高く大きく聞こえ、それに対応して周波数密度も呼気音のほうが高く示された。後では吸気音・呼気音ともに低めになり、特に呼気音はとても小さくなった。両例ともに副雑音を認めなかった。
考察
シェイキング実施後、2例とも呼吸数が減少したことからリラクセーション効果があったと推測される。重度な呼吸障害があると、肺実質密度の増加や虚脱肺胞の存在により気管支音の伝導性が高まったり、気道狭窄により気流抵抗が増大するために、肺胞呼吸音はより気管支呼吸音化していることが多い。シェイキング施行前、高めに聞こえた気管支肺胞呼吸音は、施行後低くなり、呼気音の密度も小さくなり、より肺胞呼吸音に近くなった。気管支呼吸音伝導減衰は、シェイキングの肺胞含気改善効果によるものと考えられる。
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−安全で安心な入浴をめざして−
佐藤 美奈, 宮本 慶克
2011 年36 巻2 号 p.
273
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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重症心身障害児(者)の病態は、年々多様化し、気管切開、人工呼吸器などの濃厚な医療を必要とするいわゆる超重症児(者)が増加している。当病棟では気管切開患者が5名おり、うち3名は人工呼吸器を装着している。そのような超重症児(者)は唾液分泌過多がみられ、筋緊張に伴う発汗も多く身体の清潔についてのニーズがより高い。当病棟では、週2回入浴を行っているが、気管切開患者に対しては気管切開孔のケアなどの点からシャワー浴を実施していた。入浴中は気管切開孔への湯の浸入の危険があるため、気管カニューレ挿入部と頸部周囲をタオルで保護していた。しかし保護するタオルは水分を含み気管切開孔から湯が侵入する危険性が高かった。気管切開患者の入浴時の保護具については様々な先行研究がある。しかし当病棟で使用している気管カニューレは、移動式フランジから接続部のチューブ本体を、適切な位置で固定するために長く、先行研究で開発された保護具は使用することが難しい。今回このような気管切開患者3名に対し、入浴時に使用する防水保護用具を考案・作製した。その結果シャワー浴から浴槽に入ることのできるエレベートバスが使用でき、安全で安心な入浴を提供することが出来た。
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福田 悦子
2011 年36 巻2 号 p.
273
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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はじめに
入浴は、皮膚が清潔になるほかに、循環が促進され筋肉の緊張や痛みが和らぐなどの効果がある。しかし、気管切開をしている重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の入浴は、気切孔から流水が入る危険がある。そこで、重症児(者)に安全でより快適な入浴を行うため、入浴用保護具を作製したので報告する。
対象・方法
1.対象 病棟で気管カニューレを装着している重症児(者)2名
2.研究期間 2010年9月〜2010年12月
3.入浴保護具の作製 作製の条件・換気の保持ができる・流水から気切孔を守る・安価・装着が簡単・繰り返し使用できる
4.上記の条件をもとに5種類の保護具を作製。人形を使用してプレテスト後に使用保護具を決定した。
5.入浴時に保護具を対象者に使用し、使用時の酸素飽和度変化、保護具の吸水量、バイタルサインの変化を観察した。
6.入浴に関わったスタッフに、保護具使用に対するアンケート調査を行なった。
結果
ポリビニールアルコール製タオルを重ねた保護具とポリビニールアルコール製タオルにスポンジを挟んだ保護具が、作製条件を満したため使用保護具とした。使用しての入浴前後の酸素飽和度は急激な低下は認めなかった。保護具の吸水量は2種類組み合わせた保護具が優れていた。また、アンケート調査を実施した結果、気切孔が観察しやすい、流水が入りにくい、しっかり洗えるなどの有効な結果が得られた。
考察
過去の研究では、考案された保護具の安全性が確保できなかったり、コスト面の問題が残されていた。今回、身近な素材を利用して検討した結果、安全性の確保が確認できた。ただし、2名のみの対象であったのでより実用化に向け、さらなる安全性の確認と衛生面での検証を行う必要がある。
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−気管支ファイバーによる効果の確認−
田中 総一郎
2011 年36 巻2 号 p.
274
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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はじめに
昨年の本学会で、中谷らはスピーチバルブを利用した単純気管切開児に対する誤嚥防止の試みを報告した。当センターでも3例で同様の治療を行い奏功した。その効果を気管支ファイバーで確認したので報告する。
症例1
12歳女児、1歳時の溺水後遺症のため気管切開管理を受けている。3歳からスピーチバルブの装着を始めている。気管支ファイバーで、気管カニューレ脇から唾液の流入が観察されたが、スピーチバルブを着けると唾液の流入は見られなくなりカニューレと気管壁の間を唾液が口側へ戻る様子が確認された。
症例2
9歳男児、気管と左主気管支に先天性の気管軟化症を認め、気管切開管理を受けている。しだいに唾液誤嚥から誤嚥性肺炎が増えたため、2歳4カ月からスピーチバルブの装着を開始したところ、唾液の流入が減り肺炎罹患の機会も減少した。また、声が出るようになり、本人もご家族も喜んでいた。気管支ファイバーでは、気管軟化症の所見は残るものの改善を認めている。
症例3
3歳男児、超低出生時体重児のため集中治療を受けた。声門下狭窄のため気管切開管理をしていたが、唾液の流入が多く気管内吸引が頻回であった。スピーチバルブ装着で吸引回数は減少し、声も出せるようになり、知的にも発達を認めている。
結論
単純気管切開児のスピーチカニューレ装着では、唾液誤嚥防止に効果が認められただけでなく、本来の目的であるコミュニケーション支援や気管軟化症への治療にも効果が認められた。難治性唾液誤嚥の患者では試みる価値のある治療方法であると考えられた。
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水野 勇司, 眞鍋 英夫, 松崎 義和, 宮崎 信義
2011 年36 巻2 号 p.
274
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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はじめに
重症心身障害児者(以下、重症児者)は様々な消化器症状を呈するが、X線検査や超音波検査、CT検査での消化管病変の検出には限界がある。近年、細径経鼻内視鏡は経口内視鏡に比べ侵襲が少なく、一般成人患者において広く用いられつつある。今回、重症児者に適用しその有用性と上部消化管病変について検討を行った。
対象と方法
対象は2010年5月から2011年4月までに細径経鼻内視鏡検査を実施した在宅および入所中の重症児者39例(延べ50件)で、保護者後見人から検査の説明と同意を得た。内視鏡はOlympus社製GIF-XP260N®(先端部外径5.0mm)を用い、血圧、心拍、SpO2をモニターし、血管確保したうえでヒドロキシジンまたはフルニトラゼパムを静脈投与し行った。鼻腔の拡張および局所麻酔処置を行い挿入した。
結果
年齢は9歳から67歳(平均31.6歳)で、大島分類は1が32例、その他が7例であった。19例が経口摂取、16例は経管栄養、4例が経口と経管栄養の併用例であった。挿入経路として経鼻からできた例は37例で、9歳と11歳の2例(いずれも体重20kg以下)では経鼻挿入が困難なため経口挿入に変更した。ヒドロキシジンの7例中1例しか入眠せず、フルニトラゼパムの35例中24例は入眠した状態で実施できた。合併症としてSpO2 90%以下の低酸素血症が16例あったが酸素投与を行いながら実施できた。鼻出血は6例あったが、嘔吐や感染症その他の合併症はなかった。咽頭喉頭部病変は26例、食道病変は16例に認め、食道裂孔ヘルニア9例、逆流性食道炎12例であった。胃病変は22例に認め、表層性または出血性胃炎が16例、萎縮性胃炎が5例、胃ポリープが2例、その他が2例であった。
考察
重症児者における細径経鼻内視鏡は鎮静法や低酸素血症と鼻出血に注意すれば、小児から成人までを対象に、咽喉頭部から上部消化管までを評価できる点で有用性が高い。重症児者の上部消化管病変は約半数例に認め決して少なくない。
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草間 龍一, 吉野 浩之
2011 年36 巻2 号 p.
275
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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背景
近年、半固形化栄養法が胃食道逆流症(GERD)患者への栄養投与法の一つとして認識されてきているが、小児領域での実践報告はわずかしか見られない。半固形化栄養法は優れた栄養法であるが、重症のGERDに対して必ずしも万能とは言えない。われわれは筋緊張が極度に強い場合、けいれんのコントロールが困難で腹圧が高い場合、脊柱側湾症などで身体の変形が大きい場合や、小児期の噴門形成術(特に腹腔鏡手術後)後のGERD再発例など、半固形化栄養法を用いても逆流を来す重度のGERD症例を経験した。
これら半固形化栄養不応例に対する栄養投与法として、腸瘻や経胃瘻的十二指腸チューブ(ジェジュナルカテーテル;PEG-J)が存在する。腸瘻は確実な投与経路であるが、内視鏡的造設(ダイレクトPEJ)の手技が難しく、開腹手術が必要となる場合も多い。これに対してPEG-Jはすでに造設された胃瘻孔を使用できるが、カテーテル挿入が難しいことがある。また、PEG-JカテーテルはPEGカテーテルを外筒として使用するものと、一体型のものが存在する。前者では内筒の内空が狭く閉塞が起こりやすい。後者では閉塞は起こりにくいがすべてバルーンタイプであり、バルーン破損による事故抜去の危険性がある。さらに、両者ともチューブタイプであり、患者のQOLは決して高くはない。
今回、患者のQOLを第一に考え、さらに挿入・交換を容易に可能とするべく、富士システムズ社に協力を要請し、発売予定のボタンタイプPEG-Jカテーテルの提供を受け、実際の患者への使用を通して検討を行ったので報告する。
方法
富士システムズ社製GBジェジュナルボタンカテーテルを使用し、その効果を検討した。
まとめ
ボタンタイプPEG-Jカテーテルは患者のQOLを高めるために非常に有用であった。今回、東日本大震災の影響で発売が遅れてしまっているが、早期の発売を期待する。
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−各種カテーテルの検討と検査のコツ−
吉野 浩之, 草間 龍一
2011 年36 巻2 号 p.
275
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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はじめに
PEGカテーテル交換では、様々な交換後確認法が提案されているが、その確実性、侵襲性、コストなど、幅広い視野で検討する必要がある。PEG交換後に直接内部バンパーが確認でき、低侵襲で、簡便さを兼ね備えている検査法として、経胃瘻カテーテル内視鏡「PEGスコープ」に注目し、昨年も当学会で発表させて頂いた。すでにシースを併用した方法により様々なカテーテルで確認が可能であることを報告してきたが、PEGカテーテルは種類が多く、PEGスコープの使用が困難なものや、使用は可能だが工夫を必要とするものがある。そのため、カテーテルごとにPEGスコープの使用の可否、使用において工夫が必要なものはその技術について検討した。
方法
HOYA-PENTAX社製のPEGスコープを使用した。臨床でのPEG交換後の確認およびPEG挿入モデルを用いて検討した。検討項目は、PEGスコープが挿入できるサイズ、カテーテルから胃内に入ることができるか、反転し内部バンパーが確認することができるか、また、そのために特別な工夫が必要か否かとした。
結果
先端開口型のバルーン・ボタン型では18F以上のサイズですべて使用可能であった。バルーン・チューブ型では18F以上のすべて使用可能であったが、バンパー・チューブ型では、一部にコネクターの接続部が極端に狭いため通過できないものがあり注意が必要である。バンパー・ボタン型では20F以上のすべてのカテーテル種で使用が可能であった。しかし、逆流防止弁の位置関係、形状などから、必ずしも使用が容易でない種類のカテーテルもあったが、検討したすべての種類でスコープの曲げ角や、操作の工夫で使用することができた。
結語
PEGスコープは、在宅を含めたPEGカテーテル交換の場に関わらず使用できる直接確認法であり、幅広いカテーテル種に対応できることから、より安全なPEG交換の確認法として有用である。
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−持続血糖測定装置と持続サチュレーションモニターを使用して−
渡邉 誠司
2011 年36 巻2 号 p.
276
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
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重症心身障害児は、嚥下障害、呼吸障害など様々な問題から経管栄養になることが多い。私たちは、胃瘻造設後に、一過性にあるいは、持続的にダンピング症候群を示す例が多いことを報告してきた。2010年4月に、組織間質液の電流値を血糖との補正により擬似的に血糖値を表示する持続血糖測定器CGMS-Gold®(日本メドトロニクス社製)が保険収載されたため、これにより食後の血糖の動きを連続的に追うことを考えた。
目的
ダンピング症候群とその対処状況を、持続血糖と心拍モニターで追う。
方法
CGMSにより、また、ワイヤレスサチュレーションモニター(コヴィディエン・ジャパン)により、6名の胃瘻造設患者の食前後の血糖・心拍をモニターした。食事は、とろみ付き薬品経管栄養剤、糖尿病用経管栄養剤、ミキサー食をカロリーを合わせて投与した。各々、直前にαグルコシダーゼ阻害剤も投与しその効果を確かめた。
結果
血糖の上昇の程度は,個人のバックグラウンドにより様々であった。しかしながら、ミキサー食の投与により血糖の変動は少なく、αグルコシダーゼ阻害剤の投与は、滴下速度の減少と比較しても血糖上昇の軽減には効果があった。
結論と考察
今まで間欠的に見てきた血糖・心拍を上記デバイスを使用することにより、72時間という長時間連続的に追うことができた。血液採取という苦痛を与える回数を軽減してモニターできることは有意義であった。心拍数測定についても血糖に表れない早期ダンピング症候群のモニターに有意義と思われた。
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−五感による重症心身障がい者に対する脳相刺激の試み−
谷輪 咲, 村山 伸江
2011 年36 巻2 号 p.
276
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
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目的
食事の援助では食事の意識付けや環境調整が推奨されているが、根拠となるデータや先行研究は少ない。また、経管栄養ではその援助が不十分な傾向にある。そこで今回、経管栄養を要する重症心身障がい者を対象に、五感刺激を用いた食事環境の調整を行い、患者の反応と消化機能データを比較検討し、看護援助の効果を検証した。
研究方法
1.研究デザイン:症例研究
2.期間:2010年7月〜同年10月
3. 対象:37歳男性、病名:レノックス症候群、状態:気管切開(夜間呼吸器装着)、経管栄養、刺激への反応:稀に表情の変化あり
4.方法:《経管栄養前の五感刺激》触覚:顔の清拭、視覚:注入物を見せる、聴覚:モーツァルト音楽、言葉掛け、臭覚:レモン臭、味覚:レモン果汁《データ項目》1分間の胃蠕動回数(五感刺激前、後5 / 10 / 20 / 30分)、胃内残渣量とpH(注入前、後30 /120分)、脈拍・表情・流涎量・舌と口の動き・筋緊張(注入前〜終了後120分まで)
結果
五感刺激により胃蠕動回数が上昇 (刺激あり4.9±2.0回、刺激なし1.9±1.1回)。栄養終了後30分の胃液pHが酸性傾向 (刺激あり4.0±0.4、刺激なし4.6±0.8)。流涎量は栄養開始30分後より増加(刺激あり1.6±2.4g、刺激なし0.1±03g)。胃内残渣量、脈拍、表情、舌・口の動き、筋緊張の有意差はなかった。
考察
五感刺激を用いた食事環境の調整を行ったことで、胃蠕動回数が有意に増加し、早期に流涎量の増加や空腹時の胃酸pHに近づいた。これは、五感刺激が脳相を刺激し食事を迎える準備につながったと考える。また、刺激への反応が捉えにくい重症心身障がい者においては、食事環境調整は重要である可能性が示唆された。しかし、今回の対象は1症例であり、今後症例の蓄積により、五感刺激の効果や背景因子との関連等の検討が必要と考える。
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高橋 勇弥, 影山 隆司, 吉川 秀人, 小西 徹
2011 年36 巻2 号 p.
277
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
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目的
重症心身障害児(者)(以下、重症児者)では経管栄養を余儀なくされることが多い。その中で、注入中または後に喘鳴が悪化するケースをしばしば経験する。今回、注入時に上部消化管造影および嚥下造影を行い、喘鳴の原因として胃食道逆流・誤嚥の関与について検討した。
対象・方法
当園に入所中の重症児者で経管栄養に関連して喘鳴が出現・悪化する8名(男5、女3)を対象とした。いずれも大島分類1で長期に渡って経管栄養を実施している。調査時年齢は20〜47歳(平均37歳)であった。上部消化管造影は、普段と同量の栄養剤にガストログラフィンを10倍に希釈して注入し、胃食道逆流の有無や上部消化管の形態を評価した。まだ、同時に10倍希釈ガストログラフィンを唾液にみたて少量口腔内に含ませ嚥下造影を実施した。姿勢は普段注入時と同程度に上体を挙上して行った。
結果
1)上部消化管造影:胃食道逆流を確認できたのは2例であった。1例では注入後半になり栄養剤で胃が拡張すると容易に逆流が出現し、下部食道括約部の機能低下のため胃内容が増えることで噴門部が緩み、腹圧がかかることで逆流するものと思われた。上体挙上や右側臥位などの姿勢変換を試みたが逆流の程度は変わらなかった。他の1例では注入終了までは逆流はなかったが、姿勢を水平にした際に逆流を認めた。なお、食道裂孔ヘルニアなどの形態異常はなかった。
2)嚥下造影:7例で気管内への誤嚥を認めた。胃食道逆流を認めなかった例では全例で誤嚥が確認できた。いずれも注入後半に喘鳴が強くなることから経管栄養により口腔内分泌物が増加し、それを誤嚥しているものと考えられた。
結語
経管栄養に関連した喘鳴増悪の原因として唾液などの誤嚥が多いことが示唆された。しかし、胃食道逆流も少なからず関与しており、定期的な評価が必要と思われる。
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花岡 繁, 水野 葉子, 木村 芙美惠
2011 年36 巻2 号 p.
277
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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はじめに
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の唾液分泌過多にはしばしば生活上支障をきたすまでに過剰な例がある。これまで、スコポラミンパッチなどの報告例があるが、われわれは硫酸アトロピンを使用し、症状の改善をみた例を経験したので報告する。
対象・方法
症例1は28歳まで外来で経過観察を行ったRett症候群女性。唾液分泌過多による異常口臭に長年同居家族が悩まされていたため17歳時より0.5mg/回(0.027mg/回)x3回/日での服用を開始した。呑気による腹満、便秘、てんかん発作など合併症がり、それらの症状の増悪や、自立神経症状の変化に注意しながら観察を続けた。症例2は、2歳11カ月の脳性麻痺男児。てんかん発作の合併あり。唾液分泌量は1300ml〜1800ml/日で、終日持続吸引を行っているが、肺の喘鳴が改善しないため、硫酸アトロピンを0.1mg/回(0.008mg/kg/回)を登園日の朝一回のみの服用とし、1時間毎の分泌量、心拍、SpO2モニターチェックを行いながら使用を開始した。
結果
症例1:使用開始翌月より口臭が消失し、合併症の増悪等無く、1年3カ月使用を続けた。その後0.67mg/回に増量し、2〜3回/日服用を5年間続けたが、27歳時に便秘により使用を中止した。症例2:作用時間はほぼ6時間で、肺の喘鳴は消失し、心拍、呼吸も安定し、けいれん発作の増悪や便秘症状の増悪もみられていない。一日の唾液分泌量は約2/3に減少した。
結論
硫酸アトロピンは、心拍の変動、便秘、けいれん閾値の変化などの重症児(者)に合併しやすい症状に対する副作用があり、安易に用いるべきではない。しかし、使用による生活改善が期待される場合は、試みる価値があると思われる。その際、その服用のタイミング、使用量、使用法、使用期間に関しては十分な注意を払う必要がある。
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−唾液アミラーゼモニター測定により−
中野 彰子, 田部 美智子, 大塚 美奈子
2011 年36 巻2 号 p.
278
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
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はじめに
A氏は、固定化した異常姿勢や過筋張という問題点があり、変形・拘縮の進行予防、将来的に呼吸障害予防を図るため、クッションチェアーによるポジショニングを開始した。また、良肢位をとることで、ストレスの軽減につながると予測した。しかし、クッションチェアーに乗る前と直後の呼吸回数やSpO2を測定したが、数値的には大きな変化はみられなかった。水野らは、唾液アミラーゼがストレス評価のための有効なマーカー物質であることが確認され、個人の変化パターンに着目した評価法が有効であると述べている。そこで、クッションチェアーによる座位姿勢が臥床時よりもストレス軽減となることを、唾液マーカー測定により検証したので報告する。
研究目的
A氏にとってクッションチェアーによるポジショニングが、臥床時よりもストレスが軽減され、安楽な体位になっているのかを検証する。
研究対象
30代、脳性麻痺、右凸側彎症、左股関節脱臼、左右非対称な筋緊張、四肢の拘縮
結果
バイタルサイン測定では数値的には大きな変化が見られなく、唾液マーカー測定では、フリー時よりも座位時の方が低い数値のことが多かった。入眠時はフリー時や座位時のときより低い数値が目立った。
考察
今まで自由に動けることが、A氏にとって安楽だと考えていたが、唾液マーカー測定結果から座位姿勢の方がストレス軽減されていることがわかった。高橋らは、脳性まひの場合、寝たままの姿勢よりも座位の方が、呼吸が改善されスムーズになると述べており、座位姿勢を取り入れることはA氏にとって有効だと考えられた。
結論
唾液マーカーのデーターでは、クッションチェアーによるポジショニングが、臥床時よりもストレスが少ないことがわかった。
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小笠原 徹, 堀場 寿実, 岡川 敏郎
2011 年36 巻2 号 p.
278
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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はじめに
超音波療法(Ultrasound Therapy 以下、US)には温熱と音圧作用があり、疼痛の軽減や筋スパズムの減弱に効果があるとされている。当センターではUSにより過緊張が軽減し保持椅子に座れるようになった例を経験した。今回、頸部と肩周囲が過緊張状態の重症心身障害児に対し気管切開術時の術野を確保する目的でUSを試行したので報告する。
対象
当センターに通院する神経変性疾患の10歳女児。頸左回旋、W肢位、左Windswept変形、S字状側弯を呈する。触刺激に過敏があり両肩をすぼめて緊張する。誤嚥性肺炎で入退院を繰り返しているが平常時の経皮的酸素飽和度はおおむね95%である。また今回の試みに関して母親に説明し了解を得ている。
方法
超音波治療器(伊藤超短波製US-730 ®)を使用し、1.9W/cm2の強度、50%間歇で筋線維方向に沿って照射した。部位は両側の僧帽筋上部線維と胸鎖乳突筋、舌骨上筋群とし各5分ずつ行った。評価は両側の鎖骨頭と一側の肩峰からなる傾斜角、両肩峰間の距離、呼吸数と一回換気量(IMI製ハロースケール®)としUS前後に1回ずつ行った。またvisual analog scale(以下、VAS)を10cmの直線で最大の緊張状態を10として、母親にUS前後の緊張状態を評価してもらった。
結果
US後、姿勢は両肩が下がり頸右回旋となった。傾斜角は右121度が141度、左は140度が145度と下制した。両肩峰間の距離はUS前を1としてUS後は1.08となった。呼吸数は22回から20回になり、一回換気量は202mlから168mlと減少した。VASはUS前が0から4.2cm、US後は2.1cmと半減した。
考察
肩が除重力位で下制したことと頸部の右回旋が得られたこと、緊張が和らいだと母親が感じていることから、US前の頸部周囲の過緊張が抑制され筋が弛緩したと考える。呼吸はUSで安楽になったとはいえなかった。今回、USの試みで姿勢の変化から過緊張の抑制効果がみられ、手術に臨むことができた。今後の課題は抑制効果の持続性検証と考える。
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植松 潤治
2011 年36 巻2 号 p.
279
発行日: 2011年
公開日: 2023/11/23
ジャーナル
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目的
強い身体の緊張があると、疼痛・変形などが増強し、二次障害を呈することが知られている。緊張緩和には様々な方法が用いられるが、今回バクロフェン持続髄注とボツリヌス療法を併用し、効果を認めた一例を経験したので報告する。
症例
24歳、女性。周産期詳細不明であるが、生後一カ月まで光線療法を受ける。生後8カ月から下肢の痙性麻痺が出現し、現在アテトーゼ型の不随意運動を伴う脳性麻痺が中心。強度緊張が亢進し、2007年バクロフェン持続髄注療法を開始。しかし、基本的な筋緊張は低下するものの、精神的・体調的に不随意運動は増強し、繰り返す嘔吐や疼痛による不眠がさらに緊張を増加させることとなった。そこで、緊張を局部的に軽減することを目的とし、ボツリヌス療法を併用した。
経過
2010年6月痙性斜頸軽減目的にて、頸部に9か所施注(90単位)。8月同部に追加施注(100単位)。このころより突然の緊張による嘔吐・両上肢不随意運動が軽減。12月再び不随意運動が増強したためバクロフェン髄注量の増量を検討するが、様子観察となる。2011年2月全身の緊張も増強してきたため、頸部および両下肢にボトックスを施注(17か所、170単位)。6月現在も疼痛軽減、繰り返す嘔吐消失。不眠状況も改善されている。
結論
強度緊張軽減目的で、筋弛緩剤・安定剤内服、バクロフェン持続髄注を施行されていたが、局部の緊張までは軽減されず、不随意運動の増強を伴った。ボツリヌス療法を併用することで、局部の緊張軽減が得られ、疼痛・繰り返す嘔吐が軽減されQOL改善がえられた。
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