抄録
目的
重度の運動障害の方においても、QOLの改善が期待できる新しいバリアフリー電子楽器サイミスCymis を開発し、2008年よりフィールド実験研究を実施している。障害者支援施設(定員53名、脳性麻痺33名・障害程度区分6)では、現在38名が1週間に約1回20〜60分の演奏を楽しみ、演奏会などが開催されている。1名では、ほとんど動かなかった中指が約10カ月後には約10mm以上動くという結果を発見した。本研究では演奏の形態によって運動機能の変化を定量的に評価できる方法を提案し、評価実験によりサイミスの有用性を明らかにする。
評価法
サイミスは、タッチパネル、スイッチ、コンピュータで構成され、楽譜内蔵に特徴がある。障害程度に合わせて様々な演奏手段を選択できる。
上肢運動機能の評価スケールとして、0(ほぼ健常人と同様)〜4(ほとんど動かない)の5レベルに分け、演奏の形態(入力デバイス・演奏法)との対応づけを行った。2009年1月〜2011年3月の27カ月について集計した。
結論
利用者は44名(平均年齢 54.6歳)で、演奏期間は平均15.6カ月であった。 (1)「レベルが変化なし」が24名(55%)、(2)レベルが1減少した(機能向上)が19名(43%)、(3)レベルが1増加した(機能低下)が1名であった。また、ケアプランにサイミスを指定した人が増え、2010年度は27名であった。サイミスが生活の一部となり、QOLの向上に大きく貢献しているものと考える。現在、愛徳園(和歌山市)、姫路市立ルネサス花北において、重度心身障害児に利用していただいており、発表では演奏の実際と効果、課題などについて報告する。なお、評価法としてはFace Scaleなどの主観的な方法を検討中である。