日本重症心身障害学会誌
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巻頭言
重症心身障害を含む発達期の障害への対応について
岡田 喜篤
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2011 年 36 巻 3 号 p. 381-382

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抄録

いま、重症心身障害児(者)(以下、重症児)をめぐって、深刻な事態が生じている。それは、障害者自立支援法(以下、支援法)の制度に由来する問題である。すなわち、ソーシャルワークの欠損、障害種別の一元化、年齢区分の例外撤廃、自立概念の誤用、サービスの分断化、重症児を含む知的障害児(者)総数の誤りなどから、さまざまな事態が生じているのである。 「ソーシャルワークの欠損」とは、福祉サービスに不可欠なソーシャルワークがまったく姿を消していることである。クライエントを理解し、代弁し、権利を擁護し、ニーズを明らかにし、サービスを結びつけ、それを見守り、必要に応じて見直すという一連の役割を行う人がいないのである。 「障害種別の一元化」とは、本来何を意味するのか不明だが、現実には、障害種別の無視化である。例えば、重症児概念と福祉体系が否定され、施設種別も消失し、その専門性も否定される。 「年齢区分の例外撤廃」とは、発達期に発現する障害の場合、児童福祉法適用の年齢と、支援法適用の年齢とは区別され、その福祉体系も別体系となったことをさす。重症児は、当初から児者一貫となっていたが、それが否定され、当面、運用面でのみ特別な配慮がなされることとなった。 「自立概念の誤用」とは、1970年代の米国における障害者自立生活運動によって確立され、国際的にも承認されている自立の概念を、支援法は誤って使用していることをさす。支援法は、「自立とは就労のこと」としており、事実、平成18年秋、厚生労働大臣も国会でそのように答弁している。自立とは、「何かができること」ではなく、できる・できないにかかわらず、援助や介助の有無にかかわらず、「主体的に生きること」である。支援法は、暗黙のうちに、障害の重い人や支援を濃密に必要とする人びとを軽視する風潮を醸成している。そして重症児には、やや感情的とも思われる施設否定論や地域移行論が突きつけられている。 「サービスの分断化」とは、支援法第5条に列記される14のサービスのことである。14のサービスをそれぞれ単独の「事業」とし、それを提供する主体を単独の「事業所」とし、そこに単独の「サービス管理責任者」が配置される。これは、人間が14のパーツからなる粗雑な器械であるというに等しい。人は人格をもつ心身統一体であり、サービスは全人的なものでなければならない。 「知的障害児(者)統計の誤り」とは、わが国の知的障害児(者)総数を46万人とし、その13万人が入所していると指摘して、施設否定論を展開している点である。 民主党政権は、支援法の廃止を決定している。しかし、現在でも、支援法による新制度への移行は強力に推進されている。民主党のいう新法(通称 障害者総合福祉法、以下、総合福祉法)の制定は、平成25年8月である。それまでは支援法が適用されるところだが、余りにも問題が多いため、支援法ほか関係法を一部改正し、これを平成24年4月から施行することとなった。いわゆる「つなぎ法」である。 ところで、民主党による総合福祉法は、さきの支援法の問題点を解消できるだろうか。答は悲観的である。民主党の障害問題に関する力量云々は別としても、世界経済の低迷に加え、東日本大震災以後のわが国には、重要案件が山積している。現政権が総合福祉法に全力投球できるか否か疑わしいからである。 事態の推移を冷静に考えると、わが国の障害者福祉は、明らかに暗黒時代を迎えようとしている。これを解決することは容易ではない。しかし、このまま事態が進めば、重い障害をもつ人たちの存在と生命は、かつてのように無視され、抹殺される怖れが大きい。特に重症児については、世界中の人たちが、日本の仕組みを高く評価しているにもかかわらず、その存在と営みを失ないかねない。 筆者は、重症児のみならず、発達期に生ずるすべての障害に、児者一貫体制を適用すべきだと主張している。これは、筆者独自の見解ではなく、欧米各国で採用している 「発達障害」 の概念と制度を採用することを意味している。ちなみに、この場合の 「発達障害」 は、今日、わが国で広く使われている 「発達障害」 とは、全く異なるものである。発達期の障害は、その障害だけが問題なのではなく、全体の発達に十分な配慮が必要であり、しばしば生涯にわたって連続・一貫の支援が必要である。欧米では、1970年代から、このような認識から「発達障害」が法定化されている。決して中途障害と同一視すべきではないのである。 このような問題意識に基づいて、本学会が「重症児制度問題検討会」のごとき組織を設置することはできないだろうか。

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